ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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12月最初の投稿です。


第143話〝規範〟

 テゾーロフェスティバルを終えたテゾーロは、一国の主としての仕事に取り掛かっていた。

 それは夜中になっても継続。だがこれくらいのことを容易くこなせなければ、経営者としてやってけないのも事実。

「収入が興行だけなのはよくねェなァ……特産品か何かつくれりゃいいんだが。シードがせっかく酪農学んだんだし、開墾と開拓が終わってねェ地域をとっとと開発するか」

 休憩を取りつつ、独り言をブツブツと言いながら国の方針を固める。

 するとそこへ、サイが扉を開けて乗り込んだ。

「テゾーロさん、今時間空いてますか?」

「ん?」

()()()()が来ましたよ」

 サイの言葉に、テゾーロは目を見開いた。

 自分と同じ時代を生き、時に競い合い時にタッグを組んだ唯一無二の盟友と言えば、彼しかいない。

「――スライスが?」

 

 

 「THE() REORO(レオーロ)」の屋上に設置された天空劇場で、二人の男は邂逅した。

「ようテゾーロ、相変わらず目がチカチカする服だな」

「嫌味言いに来たの」

「そんな訳ないだろ」

 ニッと笑う、コートを羽織った男。

 スタンダード・スライス……テゾーロの盟友である石油王だ。

「まあ、久しぶりに顔合わせたんだ。会食を楽しもう」

「おう」

 即席の黄金のイスに座り、テーブルに並んだ食事を口に運ぶ。

「何かすべらない話とかは無いの?」

「一つだけあるさ。あまり表じゃ言えない内容だが……今日はウチにとって大事な日なんだ」

「記念日か何かか?」

 テゾーロの問いに、スライスは頷いて「おれの祖父の話だ」と返した。

「……ウチが、スタンダード家が石油を掘りあてて財を成し始めた頃、歴史の本文(ポーネグリフ)を偶然見つけたんだ」

歴史の本文(ポーネグリフ)を?」

「まあ、何が書いてあるかは今も知らねェけどな」

 スタンダード家の意外な過去に驚くテゾーロ。

 だが、驚くべきなのはそこから先だった。

「祖父が生きていた頃は、まだオハラがあった。だから伝手を頼って解読しようとしたんだ。だけど世界政府が察するのが早く、軍艦を3隻引っ張って圧力を掛けてきた」

 テゾーロは目を細める。

 話の内容にして、今から40年は昔の話だろう。ロジャーやガープと言った伝説級の猛者達の全盛期であり、一方で世界政府の禁忌に触れる者がまだ生きている時代。

 一般人とて歴史の本文(ポーネグリフ)に関連する案件は厳罰に処される程のこと。しかしスライスが生きているということは、彼の祖父はその場を切り抜けることができたということである。

「どうやって切り抜けたんだ?」

「偶然通りかかった、在りし日のロックス海賊団さ」

 テゾーロは驚愕のあまり汗を一筋流した。

 ロックス海賊団は、かつて世界最強と謳われた伝説の一味だ。船長のロックス・D・ジーベックは「世界の王」という壮大な野望を掲げていくつもの世界のタブーに触れ、海賊の頂点ではなくこの世の頂点を目指して暴れていたという。

 そんな伝説の海賊団と、スライスの祖父は接点があったのだ。

「ロックス海賊団はあっという間に海軍を沈め、船長のジーベックは祖父に歴史の本文(ポーネグリフ)を寄越す代わりにお前の望みを叶えてやると言った」

「……お前の祖父は何て言ったんだ?」

「さァ? でもおれがこうして生きてるんだから、取引が成立したんじゃない?」

 スライスの祖父とロックスとの間に何があったかを知る術はない。

 だが、史上最も凶暴な海賊と言えるだろうロックスと交渉できたのは紛うことなき事実だ。もしかすれば、ロックスに気に入られたのかもしれない。

「そして祖父とロックス海賊団と会ったのが今日なんだ。世間の評判はクソでも、祖父は恩人だって親父に言ってた」

「そんなことがあったのか」

「まァ、今となっちゃ酒の肴さ」

 ロックスの名を知る者が少ない今、スライスは祖父の逸話をそう言ってのけた。

「……で、本当は何しに来たんだ」

「……」

 テゾーロの双眸がスライスを見抜く。タダ飯を食いに来たわけじゃないことはわかっていたようだ。

 スライスは口角を上げ、笑みを絶やさず本題を語り出した。

「おれとお前、もう二十年近くの付き合いだろ?」

「そうだなァ……まだ財団やってた頃からだもんな」

 テゾーロは酒を呷りながら天を見上げる。

 随分と長い時間を過ごした。この世界で良い事も悪い事もあり、時には非情な現実を目の当たりにした。転生し、成り代わり、そして今日まで生きたのは奇跡なのかもしれないとテゾーロは思った。

「お前は〝新世界の怪物〟、おれは〝新世界の黒幕〟と呼ばれ、世界的な資産家・実業家としてこの世に君臨している。だからさ……」

「……だから?」

 

――そろそろさ、殴り込みにいかねェか?

 

「……!!」

 まるでどこかを襲撃するような言い方。

 テゾーロは眉間にしわを寄せたが、相手は競い合うと共にタッグを組んで悪漢を倒した盟友。ただのビジネスパートナーではない。彼の言っていることの意味がテロや破壊活動ではないことは瞬時に理解できた。

 そして、何に対する殴り込みかも理解できた。

「お前からその話を持ち込むとは思わなかったよ、正直」

「かもな。だがお前達だけじゃ心もとないだろ」

 スライスはグラスに注がれたシャンパンを煽った。

「……新聞屋は中々扱わねェが、革命軍と世界政府の衝突が年々苛烈になっていることぐらいは知ってるよな?」

「ああ。現に世界中で革命軍によるクーデターが相次いでいる。打倒世界政府を掲げる革命家、モンキー・D・ドラゴンの思想信条が少しずつ浸透しているのは明白だな」

「そうさ。じゃあテゾーロ、仮に革命軍が世界政府と本気で戦争し、革命軍が勝って覇を握ったとする。民衆の意志の集合体である革命軍が武力で勝利を収めたとしたら、世界はどう認識すると思う?」

 スライスはテゾーロに問う。

 世界政府は不都合な事実は情報操作や武力行使を以って徹底的に隠蔽し、市民の身の安全など二の次で保身に走る。そんな腐敗した体制と傲慢な主義・思想の塊と言える世界政府を倒すために立ち上がったのが、ドラゴンが率いる革命軍だ。

 では、この両勢力が全面衝突し、革命軍が勝利して世界政府を打倒したら、世界はどう解釈して受け入れるのか。

「これはあくまでも個人的な意見だが……「テロ組織による支配が始まるんだな」という認識だと思ってる。ドラゴンはすでに〝世界最悪の犯罪者〟として認識されちまってるからだ」

 スライスはそう断言する。

 平和に暮らしている大多数の一般市民は、海軍等を擁する世界政府が正義と考えている。言い方を変えれば、革命軍のドラゴンがいかに正義感あふれる男であっても、大義名分は世界政府側にある。凶悪な犯罪者、それも世界最悪というレッテルが貼られた以上、その名を一般市民は恐れるのだ。

 この世界は世界政府の掲げる正義が、この世の正義であるというシステムだと言いたいのだ。

「自分達に従う者は勝者、逆らう者は敗者だ。この世界は負け犬に正義は語れねェ……その論理で行くと、従う者が正義で逆らう者は悪ってなる。世界政府は意図的に〝規範〟を作ったのさ。その真意が自分達の都合のいい統治ができるようにするためだと察しても、その規範を世界中がよしとしたからこそ数百年も続いている」

「だが規範は変わっていいモンじゃないのか? 時代が変われば、世界の在り方も変わっていくモンだろう。規範も変わらざるを得ないはずだ」

「ああ、そうだ。だが世界政府は変化を拒んでいるように見えるんだよ、おれには。もちろん、お前の思想も政府中枢は拒んでいる。お前の場合は上っ面だけ受け止めてるのかもしれないが」

 グラスに再びシャンパンを注ぎ、グイッと呷るスライス。

 テゾーロは暴力や武力で支配する時代を終えさせ、世界的な革命を起こすことを野望としている。その考えに最初に賛同したのは、他でもない盟友スライス。同じ業界を生き、同じ時代をやってきたからこそ、テゾーロの思想に興味を持ち同意できたのだ。

「テゾーロ。おれ達が殴り込みをかけるべきなのは、世界政府じゃない。世界政府が定め、170以上の加盟国が支持する〝規範〟だ」

「!」

 テゾーロは目を大きく見開かせた。

 170以上の国々が世界政府に加盟しているということは、先程スライスが語った〝規範〟を支持している人々が多数派であるということだ。従う者が正義で逆らう者は悪という世界中の見方を変えない限り、真の革命は成就しないのだ。

「革命軍のやり方じゃあ世界は変えられない。だがおれ達には財力と権力がある。財力と権力は人間の強欲と対等に渡り合える数少ない手段だ」

 財力と権力は、人間の強欲と渡り合う〝ツール〟だとスライスは主張する。

 もちろん才能や血統といった「カネや権力で得られないモノ」も存在する。だがカネがあれば避けられる不幸は存在し、権力があれば捻じ曲げられそうになる自分の運命を変えることもできる。

 カネや権力が全てではないことぐらい、百も承知だ。だが使い方と価値を理解できている者は、たとえ最下層の人間でも最上層にまで駆け上がることができ、一度蹴落とされても這い上がることができる。

「財力と権力で規範をぶっ壊し、新しい時代と新しい世界を築く。それこそが革命軍が見落としている、お前の理想的なやり口なんだろ? なァに、血さえ流れなきゃ平和さ。おれ達には血を流さずに大事(おおごと)を変えられる〝影響力(プレゼンス)〟がある」

「代弁どうも。ただ一つ、訂正するべき点がある」

 テゾーロは人差し指を立てた。

「殴り込みを仕掛けるタイミングはすでに決めてある」

「っ! 本当か?」

 テゾーロの言うタイミングは、世界会議(レヴェリー)が行われる年だという。

 しかし今回の世界会議(レヴェリー)は終了しており、次に行われるのはまた4年後だ。

「お前がどこまで嗅ぎつけてるかは知らねェが、クロコダイルがどうもアラバスタで色々企んでるらしい」

「! ……あいつなら確かにやりそうだな」

「それとドフラミンゴが支配するドレスローザ……アマゾン・リリーとは違った海賊の国家。ドフラミンゴとクロコダイルが崩れ去った時こそ、絶好のチャンスと考えてる。そしてそれが現実となるのが、次の世界会議(レヴェリー)までの4年間と見ている」

 これははっきり言って、避けられない事態と言える。

 ドレスローザとアラバスタの案件は、テゾーロはあまり深く関与していない。ただ情報収集をしているだけであって、大まかな流れは原作とほとんど変わっていないだろう。そしてその二つの案件に関わり、打破してくれる存在がいるのも。

 だからこそ、テゾーロは確信を持って言えるのだ。

「……それまでに準備を整えるんだな」

「時が来たら、一緒に来てくれるか」

「何だよ今更。――盟友(ダチ)の頼みだ、喜んで」

 スライスとテゾーロは、互いに朗らかな笑みを浮かべて固く握手を交わした。

 

 

 そして年月が流れ、大海賊時代開幕から22年後。

 世界は、大きくうねり始めることになる。

 それは、〝新世界の怪物〟がある小さな村から船出した海賊とその一味の出会いから始まる。




大変お待たせしました!
ついに次話から原作に入ってルフィ達と出会えます!(確定)
麦わらの一味と共闘したり、ルフィ達に力の差を見せつけたり……まあ色々と。
今月は多分ここまでかな? 頑張れば年末行けるかな?
という訳で、ようやく原作突入です。

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