ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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第142話〝9600万ベリー〟

 伝説の一味の古参船員と、凄腕の元賞金稼ぎ。

 先手を取ったメロヌスは、ティーチを脅した。

「先に言っておくが、ウチは四皇と戦争するつもりはない。だが俺達の〝国〟を荒らしてでもそいつを手に入れたいってんなら、容赦はしない」

 メロヌスはいつでも撃てるよう、引き金に指を掛ける。

 四皇は些細なことでも五老星を筆頭とした世界政府上層部から動向を警戒されているが、認識として穏健派と武闘派に分けられている。

 たとえば「鉄壁の海賊団」と称されている赤髪海賊団を率いるシャンクスは、暴れられれば手に負えないと評される一方、自ら動いて事件を起こしたりするようなことはほとんどなく、海賊ながら良識ある人物であるため穏健派と見られている。その逆に愚連隊のような一味を纏め上げる百獣のカイドウは、他の四皇の首を取らんと動く時もあるため武闘派と呼ばれている。

 そして大海賊時代の頂点に君臨する白ひげは、相手を壊滅させることは容易いが必要が無ければ戦闘を避ける主義。この時代で間違いなく最強の存在だが、穏健派か武闘派かと言われると穏健派に分けられるだろう。

(それにしても、まさかウチと事を構えようと仕掛けるバカが、白ひげん一味(トコ)とは思わなかったな……)

 おそらく、これは白ひげも知らない事態なのだろう。

 海軍の情報網にも引っかからなかった、白ひげの船の名も無き海賊。しかし直接会って、その危険性や内に秘めた野心は相当なモノであるのはわかった。

(ここで殺しとくべきか? いや、それはそれで白ひげと揉めることになる。だが野放しにするわけにも……)

 主導権はメロヌスにあるが、その先を考えると引き金を引くことができない。

 さて、どうしたものか……悩んだメロヌスは、ひとまずティーチを拘束すべく銃口を下ろした。

 その直後だった。

 

 ゴッ!!

 

「ぐっ!?」

「ちぃっ!」

 ティーチの拳が、メロヌスの顔面を穿った。

 幸いにも緊張の糸を切らさなかったメロヌスは、反射的に顔面に覇気を集中させたことでダメージは最小限に抑えられた。

()る気か!」

 ジャキッと愛銃を構え、心臓を狙う。

 しかし、ティーチは引き金を引かれる前に首に鉄槌打ちを見舞った。これも覇気を集中させて耐えたが、覇気を纏わせた上での攻撃だったため、衝撃の無効化はできずモロに受けてしまう。

 あまりの威力に、メロヌスは白目を剥いてしまい意識が飛びかけた。が、どうにか気を強く保って引き金を引いた。

 

 ――ズドォン!

 

「うっ、ぬわああああああ!!」

 心臓は外れたが、至近距離の一発はティーチの左肩に命中。

 巨体は大きくよろめき、鮮血と共に床に倒れて被弾した箇所を必死に押さえた。

「おあァァァっ!! (いて)ェ、(ちく)(しょ)ォ……!!」

「……クソ……首の骨がイカレちまう……!!」

 こいつは危険だ――そう判断したメロヌスは、ティーチを始末せんと銃口を向けた。

 その時、ティーチは例の悪魔の実を一口かじっていた。

「ゼハハハ……ゼハハハハハ!! 勝負あったな!!」

「くっ!!」

 メロヌスは本性を見せたティーチと黒いナニかを見たのを最後に、意識を失った。

 

 

           *

 

 

「――うっ……」

「メロヌスさん!! 気がついたのね!!」

 メロヌスは全身に走る痛みに眉を潜め、目を覚ました。

 目の前には、それはそれは心配そうな顔を浮かべたテゾーロの愛妻、ギルド・ステラが。顔を横に向けると、財団時代から苦楽を共にした同僚達もいた。

「……ここは……」

「レオーロよ。三日間寝ていたから心配だったのよ……?」

 ステラ曰く、異変に気づいたテゾーロの即断とシードら同僚達の応急処置により、後遺症にまでは至らずに済んだという。

 上司と同僚の懸命な対応に、メロヌスは感謝した。これ程人間に恵まれるなど人生に早々無いだろう。

「気がついたか」

「テゾーロ……っ! そうだ、あのブタ――」

「傷に障るから止せ」

 テゾーロに声を掛けられた途端、ティーチとヤミヤミの実のことを思い出し、勢いよく起き上がった。

 が、上司はそれを諫め、「全て知っている」と諭した。

「……ティーチは逃げたよ」

「……あの後、どうなったんだ」

 テゾーロはメロヌスに全てを語った。

 あの後、ティーチの起こした事件は会場中に知れ渡り、白ひげ海賊団も対応に追われた。フェスティバル終了後にテゾーロは単身モビー・ディック号に殴り込んで会談に臨み、二人で今後の対応を話し合ったという。

 この時代の頂点に立つ生ける伝説と話し合いを申し出たテゾーロの器量に、メロヌスは「あんたホント何なんだよ」とボヤいた。

「今回の一件は白ひげ自身も重く受け止めているらしく、追跡命令を下した。おれはおれで五老星と電伝虫会談で奴に懸賞金を懸けるよう頼んで、ちょうど手配書が来たところだ」

 そう言ってテゾーロは、ティーチの初手配書を見せつけた。

 手配書には「MARSHALL・D・TEACH 96,000,000」と記されていた。

「初頭の手配で9600万ベリー……異例中の異例だ」

「経歴が経歴だしな……前におれがシャンクスと会ったの、憶えてるか?」

「ああ、赤髪が……」

「シャンクスの顔に傷をつけたのは……ティーチだ」

 その発言に、一同は瞠目しテゾーロに視線を集中させた。

 情報屋でもあるアオハルですら「全然知らなかった……」と動揺している。

「おい、何かの冗談だろ……?」

「本人が言ってるんだ、紛うこと無き事実だよ。油断していなかったのにもかかわらず、傷を負ったそうだ。そもそもおれに接触してきたのは、おれの政府内での権限でティーチに懸賞金を懸けてほしいからだった」

「それ程の実力者が、今まで一切名を上げずに一介の船員として潜んでたってことなのか……」

 ハヤトはティーチの得体の知れなさを、不気味に思った。

 海賊界では、懸けられた懸賞金の額が高いことは、己の強さを周囲にアピールしたり名を上げるきっかけになる。賞金首の中には偽装手配書で他の海賊から襲われないようにする者がいるようだが、海賊のほとんどは懸賞金に肯定的だ。

 だからこそ、それに当てはまらないティーチが不気味で仕方なかった。

「それで……どうするんだ。あんた、面目丸潰れじゃねェのか?」

「一度潰れただけで困るような面は持っちゃいないさ。それよりもティーチの動向を把握しないといけない。サイ! 今のところ、どうなってるんだ?」

 テゾーロの呼びかけに、サイは書類を片手に情報を提供した。

 白ひげの船を降りたティーチは、目撃情報を照らし合わせたところ、偉大なる航路(グランドライン)を逆走しているという。サイは仲間集めをしていると睨んでいるが、己の野心を白ひげ含め誰にも悟らせなかったため、〝金獅子のシキ〟のように狡猾な策士である可能性も高く、実際のところは不明だという。

「仲間集めだけなのか、それとも別の目的があるのか……そこは判断しがたいです」

「ミホークやバレットのように大局的な思想を持たない海賊じゃないからな。色々考えているんだろう……ともかく、今回の一件で白ひげ海賊団が少し()()()()だろう。今まで大人しかった大所帯が動くからな」

 テゾーロは呆れるように溜め息を吐いた。

 

 

 一週間後。

 海軍本部では、白ひげに関する会議が行われていた。

「こんなどこの馬の骨とも知れぬ一海賊が、そこまでの危険性を孕んでいたとはな」

 海軍の総大将、元帥センゴクはティーチの手配書に目を通す。

 今回の祭りは、あくまでもバレットの行動を考えてガープとゼファーに一任したのだが、まさか白ひげの一味といえど一介の古株船員が大事件を起こしたのはセンゴクも予想外だった。 白ひげの盃を返し、新世界の怪物に喧嘩を売った海賊ティーチは、ただの命知らずではない――大海の秩序維持に長年貢献してきた伝説の海兵の勘は、そう警鐘を鳴らしていた。

「シード。お前の上司は今どうしてる?」

「テゾーロさんは今、メロヌスさんから事情聴取しているかと。サイさんも別で動いているんですが……」

「そうか……無名ゆえに足取りが易々と掴めんのか」

 こうなることも予測されてたのかと、センゴクは眉間にしわを寄せた。

 世の中には「大男総身に知恵が回りかね」という言葉があるが、ティーチはどうも違うようだ。

「おつるさん、どう思う?」

「あたしら海軍はともかく、世界政府(うえ)が何と言うかだねェ」

 海軍きっての頭脳派、〝大参謀〟つるは腕を組む。

 各勢力の動きを警戒し、それに合わせて軍を動かせるのは元帥だ。だが海軍の指揮を執るも、世界貴族に振り回されることも少なくない中間管理職であるのも事実。もし政府側がティーチの実力を高く買ってしまえば、王下七武海への加盟という事態もあり得る。

 今のところ、七武海は一人として欠けていないが、欠けてからが正念場だろう。

「でもよォ、能力を考えたら野放しにはできなくないですか? センゴクさん」

「クザン」

「わしも同じく」

 会議に参加している大将達……クザンとサカズキの珍しく合った意見に、センゴクは唸る。

 ヤミヤミの実の能力についての情報を提供された際、確かに度肝を抜いた。ヤミヤミの能力である〝引力〟は、悪魔の力をも引き込むという特性、すなわち覇気とは異なる「悪魔の実の能力の()()()()()()」が可能である。能力の発動自体を封じることができるということは、この世の全ての能力者達に対して防御不能の攻撃力を得たということでもなる。完璧に使うことができたら、相当の脅威だ。

 全てにおいて未知数の海賊、マーシャル・D・ティーチ。計り知れない実力と野心に、センゴクは楽観視できなかった。

「……わかった。偉大なる航路(グランドライン)の全支部に話を通しておこう」

「しかし、白ひげの一味も奴を追跡してるとなると、色々面倒だねェ。赤髪の因縁もあるとなれば尚のことさね」

 つるは懸念を示す。

 厄介なことに、ティーチは白ひげと赤髪に目を付けられている。二人共自分から事件を起こすような性格ではないのだが、事が事であるため、下手に揉めるわけにもいかない。最悪、何かの拍子で海軍と四皇の衝突となれば……それだけは避けねばならない。

 どうしたものかと頭を悩ませていると、ガープがさり気なくこんなことを言った。

「おい、センゴク。それこそテゾーロに口利きさせておきゃあ、ハズミで殺し合いにならずに済むじゃろ?」

「……っ! そうだな」

 センゴクは何か閃いたのか、目を大きく見開くと、シードにこう命じた。

 

 ――〝白ひげ〟あるいは〝赤髪〟とティーチの件で衝突した場合は、両者と面識あるテゾーロが介入して「危機」を避けろ。

 

「シード、できるな?」

「ちょうど似たようなこと考えてました。おそらくテゾーロさんも、最悪の事態は想定しているでしょうし」

「うむ……ならばよし。シード、奴に伝えるんだぞ」

「感謝します、センゴク元帥」

 シードは一礼し、元帥室を後にした。

 その場に残されたセンゴク達は、一人、また一人と元帥室から出ていく。最終的に残ったのは、センゴクとガープだけとなった。

「まさかお前からしっかりした意見が出るとはな……」

「何じゃとォ!?」

 憤るガープを他所に、センゴクはズズ……と茶を啜るのだった。




【朗報】
あともう少しでルフィ達が登場できるかも。

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