ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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第141話〝終わりの陰で〟

 白ひげとの会談を終えたテゾーロは、どんよりとした空気を纏ってメインタワーに戻った。

「今戻ったぞ……」

「テゾーロ、大丈夫?」

 疲弊しきった顔で帰宅したテゾーロを、ステラは慰めた。

 その二人の様子を、バレットと同じ軍服を着こなしたシードが呆れたように口を開いた。

「老いても最強は最強なんですよ」

「……で、何か動きは?」

「争奪戦は終盤。それ以外に目立った動きはありません」

「……さすがに警戒は怠らないか」

 テゾーロは眉間にしわを寄せる。ヤミヤミの実の争奪戦に、ティーチは少なからず関与すると読んでいたが、まさか我関せずとは思わなかったのだ。

 というのも、この争奪戦はバレットを倒してヤミヤミの実を取るのではなく、隙を突いて奪うだけでいいのだ。だからルール上バレットを倒す必要はない。そもそも真っ向から倒せるような相手ではないのだ、面子があっても奪えばそれで十分。よって、参加者は実力や経験、有名無名は関係ない。

 だからこそ、ティーチの得体の知れなさにテゾーロは恐怖すら似たモノを覚えたのだ。

「奴は絶対何かを企んでいるはずだ……何も行動を起こさないわけがない」

 ギリギリと歯ぎしりするテゾーロ。

 このヤミヤミの実は、今後の未来に関わる。

 白ひげ海賊団で起きた大事件、バナロ島の決闘、インペルダウンでの「惨劇」、そしてマリンフォード頂上戦争……これらを一度に食い止めるには、ティーチをこの場で対処する他ない。

 テゾーロとしては、やはりルフィと出会ってみたい本心がある分、彼のことが気掛かりではある。しかし彼はその点は心配ないと結論付けた。そもそも黒ひげは〝突き上げる海流(ノックアップストリーム)〟で一度逃げられ、バナロ島で出港準備をしていた際はウォーターセブン付近にガープの軍艦が来ていたため、仮に追跡しても阻まれた可能性が十分あるのだ。

「しかしここで行動を起こさないとなると……」

「テゾーロさん、そろそろ争奪戦終わりますよ」

「!」

 テゾーロは「ボチボチ頃合いか」と呟きながら、スピーカーに繋がるマイクのスイッチを入れた。

 

 

           *

 

 

 一敗地に塗れる。

 壮絶な激戦の後、この大海賊時代に名を轟かす猛者達は、すぐには回復できぬ程のダメージを負い、ほとんどが倒されてしまった。

 その場でどうにか動けるのは、マルコとサッチ、モリア、キングのみ。それ以外の面々は皆血を吐き泡を吹いて気絶している。そして唯一仁王立ちして構えているのは、この争奪戦の……ケンカ祭りの主役だった。

《七武海! 四皇! そして名だたる偉大なる航路(グランドライン)の実力者達を返り討ちにしたのは……〝鬼の跡目〟ダグラス・バレット!! これがロジャーの強さを継ぎ、超える男の強さだ~~~~~~~っ!!》

「くそっ……楽しんでやがる……!」

 頭から血を流し、バレットを睨むモリア。

 結果的に敗北はしたが、彼はカイドウと渡り合った程の実力者だ。そんな彼ですら、ダグラス・バレットには歯が立たなかった。元ロジャー海賊団の壁が、いかに巨大なのかを物語ってもいた。

「カハハハ……これが、ロジャーを超える男の強さだ」

 バレットは告げる。それこそが〝世界最強〟だからだ。

 

 ――ジリリリリリリリリィィン!!

 

「あァ……?」

 目覚まし時計のようなタイマー音が木霊する。

 バレットが訝し気になった方向に振り向いた途端、スピーカー越しにメインタワーの屋上から声が上がった。

《諸君! こちらグラン・テゾーロ国王のギルド・テゾーロだ!》

『!!』

《諸君らの戦いぶり、実に見事だった! だがルールに則って、双方ここまでだ! 争奪戦はこれで終了とする! よって、今回の争奪戦の勝者は番人役を務めた〝鬼の跡目〟ダグラス・バレットとする!》

 その言葉に、一同は落胆した。

 いくら元ロジャー海賊団と言えど、相手はたった一人。なのに総掛かりでも倒すどころか隙を突いて奪い取ることもできなかった。これでは面子が潰れたままではないか。

 コケにされた以上、是が非でも落とし前をつけなければ海賊として気が済まないが、バレットのバックにはあの〝新世界の怪物〟がいる。一代で国を樹立させ、莫大な富と権力で世界に名を轟かすギルド・テゾーロを怒らせれば、タダでは済まない。

「おい、テゾーロ」

 ふと、バレットがメインタワーに顔を向けて、中にいるテゾーロを意識して指を差した。

「てめェも降りて来い」

《丁重にお断りする》

「ほざけ。てめェの強さは未だに推し量れちゃいねェ。おれと戦え、ギルド・テゾーロ!」

《もう昔のようにヤンチャしないようにして――》

 

 ゴゥッ!

 

《うおぉ!?》

 メインタワー目掛けて、大岩が飛んできた。

 テゾーロは能力を行使してすかさず受け止める。

《何してんだ!? 殺す気か!!》

「降りて来ねェと次は船投げるぞ」

(鬼かあんた!!)

 とどまることのないバレットの戦闘欲に、争奪戦の参加者は顔を引きつらせた。

 そこに、とどめの一撃が炸裂した。

《よォし! ケンカ祭りは続行だ! エキシビションマッチで〝新世界の怪物〟と〝鬼の跡目〟のガチンコバトルだァ!!》

《フェスタ!! あんた人の心があんのか!?》

 

 

「何とか終わったな」

「そうじゃな……」

 沖合で待機していた伝説二人は、テゾーロフェスティバルの終幕が近いことを悟り溜め息を吐いた。

 バレットの暴れっぷりは健在だったが、深くも浅くもない絶妙な関係を築いているテゾーロのおかげで、最悪の事態は免れたようだ。

「四皇も七武海も集まった時ゃ、どうなるかと思ったがな」

「これでテゾーロと正面からぶつかる奴はそうはいないってことが証明されたな」

 ゼファーの言葉に、ガープは頷く。

 海賊の中で、世界政府と真っ向から衝突してくる者はほとんどいない。四皇の面々も世界政府が持つ軍事力に匹敵するレベルの兵力・武力は持つが、それで世界政府を滅ぼそうとする者はいない。過去にはロックス海賊団を率いたロックス・D・ジーベックがいたが、今の世では未だに消息不明である金獅子のシキぐらいだ。

「しかし……」

「どうした」

「さっきから妙な胸騒ぎが止まらん……」

 ガープは正直、心ここにあらずだった。

 テゾーロの部下である元海兵のシードとは、今でも連絡を取る間柄だ。その中で、最近テゾーロが白ひげの船の名も無き海賊・ティーチに執心しているということを伝えられている。ティーチは随分な古株らしいが、20年以上も一兵卒であり続けることに、テゾーロだけでなくシードも得体の知れなさを感じていたという。

 そのティーチが、この祭りに来ているのだ。

「何も起きなきゃあいいが……」

 長い海兵人生で培った勘の警鐘に、ガープは警戒を強めた。

 

 

            *

 

 

 その日の夜。

 テゾーロはメインタワーの最上階で、テゾーロフェスティバルの成功を祝い、盛大な打ち上げパーティを催していた。

「あなたの器量には感謝しきれません。フェスタさん」

「謙遜するねェ、同志! デカイ祭りはお互い好きだろうに」

 キンッとグラスを軽く合わせ、黄金色のシャンパンを飲み干す。

 主催者と経営者は、二人酒を楽しむ。

「いいのかい、こんなおっさんと飲んでよ? 奥さんいんだろ」

「ガールズトークに水を差すとあとがおっかない」

 テゾーロが視線を逸らすと、その先には愛妻(ステラ)がバカラやカリーナと一緒に女子会を楽しんでいた。

 テゾーロはステラを愛している。ゆえに、彼女自身の時間を過ごさせることも大事だと考えている。前の世界のように女子が一堂に集まって楽しい時間を過ごすなど、こんな立場でなければ決してできないことだ。元々奴隷として売り飛ばされそうになった身で、解放されたがテゾーロの野望をずっと支えてきてくれたのだ。これぐらいの労いは必要だろう。

 ――するるるるる~~~~。

 ふと、タナカさんが能力で床下からテゾーロの前に現れた。

「テゾーロ様……今回の収益を全てグラン・テゾーロの金庫に入れておきました」

「そうか……今いくらだ?」

「ざっと四千億はあるかと」

「なら、次のエンターテインメンツはそれにしよう」

 テゾーロはニヤリと笑みを深めた。

 次の祭りは、テゾーロとの知恵比べをメインにした、テゾーロマネー争奪戦に決めていた。

 テゾーロマネーを狙う全ての泥棒達とギルド・テゾーロが繰り広げる、自分の金融資産を賭けた頭脳戦。これは賭け事として盛り上がる。

 こういった催しで表と裏の大物と繋がり、武力ではなく経済(カネ)と権力で世界を変える。他人にとっては気宇壮大が過ぎてバカバカしく感じるだろうが、それを実行する器量と力をテゾーロは有している。

「そう言えばメロヌスはどこに行った?」

「ヤミヤミの実の箱を保管する部屋で一人酒とのことですよ」

「全く、どこまでも仕事人気質な奴……」

 部下の仕事熱心ぶりに呆れつつ、テゾーロはシャンパンをもう一度煽った。

 

 

 その頃、ヤミヤミの実の保管室では。

「ゼハハハ……! ついに見つけたぞ……!」

 厳重な警備を掻い潜り、ヤミヤミの実を目前にあくどい笑みを浮かべる不審者。

 今回の争奪戦に不参加だったティーチだ。

「こいつがあれば、おれはオヤジを超えて海賊王になれる……!!」

 カギを掛けられた箱を力任せに開け、ヤミヤミの実に手を伸ばす。

 白ひげ海賊団はこの大海賊時代の頂点であり、仲間を「家族」と想う船長・白ひげの心意気によって鉄の団結力を誇る。それゆえに仲間殺しを一味最大唯一の〝鉄の掟(タブー)〟とし、これを犯した者はたとえ苦楽を共にしたとしても許されることはない。

 ティーチにとって、ヤミヤミの実はそれを破る程の価値がある代物だ。しかし禁忌を犯してまで得て追手を出されるより、最小限のリスクで強奪し縁を切った方がいい。よって、ティーチは今この瞬間を最大の好機(チャンス)として奪いに来たのだ。

 そして目的の物は、ついに手中に収まろうとしていた。

「ゼハハハハ……色々とズレは生じたが、これで結果オーライだ!」

 隙っ歯が目立つ口を大きく開け、ヤミヤミの実にかじりつこうとした、その時だった。

 

 ――ジャキッ!

 

「そこまでだ、マーシャル・D・ティーチ」

「っ!?」

 後頭部に突きつけられる銃口。それと共に、煙草の臭いが漂う。

 ティーチはゆっくりと振り返る。

 視線の先には、スーツ姿で手動装填(ボルトアクション)式の小銃(ライフル)を構える男が立っていた。

「おめェは……〝ボルトアクション・ハンター〟か!?」

()()()()()()()で呼ばれるのは久しぶりだな」

 紫煙を燻らせ、鋭い眼差しでティーチを睨むメロヌス。

 ヤミヤミの実にしか眼中になくて油断していたのもあったが、足音一つ立てることなく背後を取られたことに、ティーチは冷や汗が止まらなかった。

「てめェ、いつの間に……」

「こう見えて狩猟が盛んな島の出身でね。おれは人間よりも五感の鋭い猛獣共を仕留めてきたんだ。足音立てずに背後を取れねェと、狩りは成り立たねェってわけさ」

「お、おめェ……こんなことしてタダで済むと思ってんのか!?」

「白ひげは一国と全面戦争する程バカじゃねェさ。ウチの上司との戦争も御免だろうしな」

 メロヌスはボルトを前方に押して弾薬を装填する。

 現役の海賊と元賞金稼ぎの、壮絶な腹の探り合いが勃発した。


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