ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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第140話〝白い怪物と黄金の怪物〟

 ダグラス・バレットの登場に、会場は大混乱に陥った。

 彼が暴れてた頃を知る海賊達は、その巨躯と碧眼に震え上がるばかりだ。

「ダグラス・バレット……まさか貴様が絡んでたとはな」

 百獣海賊団大看板であるキングは、バレットに警戒する。

 海賊ダグラス・バレット――〝鬼の跡目〟が活躍したのは総督(カイドウ)がまだ若い頃。白ひげやビッグ・マムに並ぶ四皇の一角となる、それこそかの光月おでんと赤鞘九人男との死闘の前だ。

「……ヤバそうなのが出てきやがった」

 マッド・トレジャーは冷や汗を掻く。

 彼は参加者の持つお宝を奪うつもりで祭りに来たのであり、悪魔の実はさほど興味は無い。それでも争奪戦に参加したのは、自らの能力(チカラ)で名乗りを上げるためだ。そこへ来ての伝説級の凄腕の参戦に、トレジャーは未だかつてない程に緊張していた。

「隙がねェ……!」

 モリアは攻撃のチャンスを掴めずにいた。

 カゲカゲの能力で叩き潰し、その影を奪い取って最強のゾンビ兵を生み出したいのはやまやまだったが。

「カハハハ……どっかで見た連中ばかりだな」

 バレットは笑う。

 見ない顔はチラホラいるが、多くの海賊達がバレットが捕まる前から海賊稼業をしていた実力者ばかりだ。特にロジャー海賊団と度々衝突した白ひげ海賊団の面々は、ロジャーの部下だった頃の戦いの記憶を呼び覚ました。

 それを除いても、王下七武海(ゲッコー・モリア)や百獣海賊団の最高幹部(キング)もおり、そこらの半端な海賊達を叩き潰すよりも骨がある。義理人情を煩わしく思うが、テゾーロとフェスタには心の中で礼を述べておいた。

「こいつが欲しけりゃ、全員まとめてかかって来い」

 バレットは挑発する。

 一世一代の悪名を轟かせる猛者達を、その辺で粋がるザコ海賊と同じ扱いをする。これにはカチンと来たのか、その場にいるほとんどの者が臨戦態勢に入った。唯一挑発に乗らなかったのは、マルコとサッチだけだ。

「まさか奴とまた戦うとはな……」

「向こうは倒せとは言ってねェよい。奪って逃げればおれ達の勝ちだい」

 マルコは争奪戦のルールを思い出す。

 テゾーロは確か、日没までに番人から奪うことができたら、奪った者が実の所有権を獲得すると言っていた。言い変えれば、奪って逃げに徹すればいいだけでバレットを倒す必要はないということである。

 ならやるとすれば、挑発に乗った連中とバレットが交戦している隙に奪い、その場から逃走すること。幸いにも彼は「フィールドの外に出てはいけない」とは言っていない。バレットの追撃の前では無力と考えているのかもしれないが、ここは大いにルールに(・・・・)則って(・・・)やろうではないか。

「来いよ、てめェらが仕掛けてみろ」

 バレットは表情の無い目で告げる。

『……!!』

「来ねェなら行くぞ」

 

 ドンッ! ゴゥ!

 

 バレットは地面を蹴り、マルコとサッチ目掛け拳を振るった。

 突進と共に繰り出される〝武装色〟のパンチを、跳んで回避する。拳は地面に減り込み、亀裂が生じて土煙が舞い上がった。

 周囲の海賊達は手をかざして瓦礫から身を守るが、その途端に腹や顎を撃ち抜かれて倒れ伏していった。筋金入りの戦場育ちであるバレットは、迅速(はや)さも強さだと理解しているのだ。

(はえ)ェ……!!」

 トレジャーは舌打ちし、両手の掌から鎖を出してバレットの全身に巻き付けた。

 体中から鎖を自在に出すことができる〝ジャラジャラの実〟の能力だ。腕に何重も鎖を巻いて強化したり、体に鎖を巻いて防御するなど、攻防共に優れた能力である。当然敵を拘束するのにも有効だが……。

 

 ブチィッ!

 

 バレットの鬼の如き豪腕の前では、無力だった。

「引き千切りやがった……!? ぐわあっ!!」

 標的をトレジャーに定めたバレットは、一瞬で距離を詰めて跳び膝蹴りを見舞った。

 直撃を食らったトレジャーは、地面を跳ねながら岩に激突した。

 

 キィィィ……!

 

 背後から何かが猛烈なスピードで接近し始めた。

 バレットは振り返る。その視線の先には……驚くなかれ〝翼竜〟だ。

 キングは動物(ゾオン)系古代種「リュウリュウの実」の能力者。モデル〝プテラノドン〟――太古の遺伝子を体に目覚めさせ、巨大な古代生物に変形した。

 炎を纏う巨大な漆黒は地面スレスレを飛び、長大な嘴で特攻するが、バレットは真っ向から受け止めて一本背負いを決めた。豪腕から繰り出すそれに、キングは地面に思いっ切り叩きつけられ、胃の中のモノをぶちまけそうになった。

 

 バササササ!!

 

 ふいに、羽ばたく音と共に小さな黒い大群が現れた。

 コウモリを模した小さな塊は、バレットの体に次々と噛みついた。牙は軍服を突き破るが、バレット自身の鋼の肉体は多少血がにじむ程度で、大したダメージを負っていない。

「死ね!」

 背後から、モリアが巨大なハサミを分割して攻撃を仕掛けた。

 その直後、ズンッという鈍い音が響いた。モリアの鳩尾にバレットの拳が食い込んでいた。

「オォ……!」

 立っていられない程の嘔吐感が込み上げ、白目を剥いてモリアは膝を屈した。

「撃てーー!!」

「蜂の巣にしろ~~!」

 運よくバレットの攻撃から逃れた海賊達は、一斉に銃口を向けた。

 拳銃(ピストル)小銃(ライフル)擲弾砲(バズーカ)……あらゆる銃火器の弾丸が、バレットを集中攻撃すると思われた。

 

 ヴォッ!!

 

 バレットの碧眼が海賊達を捉えた途端、睨みつけると共に強烈な〝圧〟が海賊達を襲った。

 〝覇王色〟だ。

 仮にも新世界の海を生きる海賊達を、手を掛けるまでもないと言わんばかりに威圧で一掃する。

「〝(ほう)(おう)(いん)〟!!」

「あァ……?」

 バレットは真横から青白い光が向かってくるのが見えた瞬間、青い炎を纏って両腕を鳥の翼と化したマルコに脇腹を思いっきり蹴られ、そのまま吹き飛ばされて岩盤に激突した。

 マルコは自然(ロギア)系悪魔の実よりも希少な動物(ゾオン)幻獣種の能力者。トリトリの実モデル〝不死鳥(フェニックス)〟――自分の体を急速に再生することが出来る「再生の炎」を纏う飛行能力で、限界こそあるがいかなる攻撃を受けても炎と共に再生する強力な能力だ。飛行能力に加えてマルコ自身の基礎戦闘力と覇気の練度の高さもあり、四皇最高幹部に恥じぬ力量は〝鬼の跡目〟にも通じるのである。

「……どうだ?」

 サッチは呟く。

 すると、土煙の中からバレットが現れ、軍服を破り捨てた。

「――足りねェ。何もかも足りねェ! その程度じゃあ戦場であるこの海で生きていけねェ!」

 少年兵時代からロジャー海賊団在籍時代、そしてセンゴクとガープによるバスターコール……勝利も敗北も知った、あらゆる戦場をくぐり抜けてきた肉体を見せつけるバレット。

「いい緊張感だ……簡単に死ぬなよ」

 無双の男が、ついに本気を解放する。

 

 

           *

 

 

 一方、停泊中のモビー・ディック号では二人の怪物が酒を飲んでいた。

「世界中の海から仕入れた酒の中でも、私達が民主的に(・・・・)決めた逸品です。いかがでしょう?」

「あァ……悪くねェ」

 白い怪物と黄金の怪物。

 一人は海賊王と覇を競い、時代の頂点に君臨する大海賊エドワード・ニューゲート。もう一人は実業家としての手腕と人脈で成り上がり、天竜人に匹敵する富と権力を得た大富豪ギルド・テゾーロ。

 二人共、誰もが一度は名を聞く超大物と化している。

「グラララ……おめェのような野郎が、センゴクやガープを顎で使えるとなりゃあ痛快だな」

「ご冗談を……確かに海軍や世界政府には色々と親切に(・・・)対応しましたけど、権力は万国共通でもそういう使い方はあまりしないんですよ」

 愉快そうに笑う白ひげに、テゾーロは両手を挙げる。

「ロジャーんトコの合体小僧も丸め込んで、おれの首でも狙うか?」

「こちらがその気じゃなくとも、本人がやりそうで怖いのは事実ですね」

「グラララララ!! 威勢だけは一丁前のハナタレボーズかと思えば、正直な野郎だな」

 上機嫌に酒を呷る白ひげ。全身に管をつけたその姿は健康とは言い難いが、風格と威厳は全く衰えていない。

 テゾーロは〝中身〟が転生者であり、覇王色も扱える原作以上の実力者であるため、「お前のような金持ちがいるか」状態だ。しかしそんな彼でも、白ひげとの一対一(サシ)の面会は緊張せざるを得ない。

 お互いに全面衝突は避けねばならないとわかってはいるものの、万が一の場合もあり得る。実際テゾーロ側で白ひげと一騎打ちで勝てるのは、雇用者と被雇用者の関係であるバレットしかいないし、勝っても負けても利よりも損が大きすぎる。テゾーロは白ひげを怒らせるのだけは、何としてでも回避しなければならないのだ。

「それで……おれにわざわざ会いに来たってこたァ、何か理由があるんだろうな」

「――さすがにバレますか」

 テゾーロは微笑むと、真剣な眼差しで白ひげを見据えた。

「マーシャル・D・ティーチについてです」

「……?」

「我々は海軍やサイファーポールを通じてあらゆる勢力の情報収集に勤しんでますが……今危険視しているのが四名います」

「その内の一人が、ウチの船員だってのか」

「……この際ハッキリ言わせてもらいます。ティーチと縁を切っていただきたい」

 白ひげは怪訝そうに見つめる。

 テゾーロは、自分が知り得る情報を提供した。

「おれは色んな業界にコネがある。だから知りたい人間の情報はいくらでも集まる。だがあなたの一味のティーチだけは、ほとんど情報が出回っていない。現役の四皇の船員、ましてやあんなに目立つ出で立ちで情報源が少ないなんておかしい」

「……」

「それだけじゃない。前にシャンクスから、無名のティーチに懸賞金を懸けてほしいと頼まれた」

「!?」

 シャンクスとのやり取りを出され、白ひげは目を大きく見開いた。

 ロジャーとの殺し合いで成り立つ顔馴染みの間柄だが、白ひげも一目置くシャンクスがティーチに対してそこまでするとは思わなかったからだ。

「あなたも薄々感じてるはずだ。この先の暴走を。ティーチの不気味さを! どうか身内の問題と片づけないでほしい! これは世界規模の話に繋がる! それを変えられるのはあなただけだ!!」

 テゾーロの鬼気迫る説得に、白ひげは考える。

 初対面の相手に、ここまでの覇気で説得してくる奴は滅多にいない。権力や勢力図への影響力を考えると、シャンクスの件は本当のことだろう。わざわざ一人で船に乗り込んできホラを吹くとは到底思えないため、それなりの根拠があるのは言うまでもない。

 だが――

「フフ……グラララララ!! 成金野郎が他人様の〝家族問題〟に首突っ込むたァな」

「……!」

「いいか小僧。おれの船に乗せたからにはどんなバカでもおれの息子だ。仁義を欠いたらおれがもう一度叩き込む、やっちゃいけねェことをしたらケジメをつける、それが親ってモンだ。――たかだか四十そこらのが小僧が、おれの責任を語るんじゃねェよ……!!」

 白ひげは〝覇王色〟を放ちながら、テゾーロを一喝する。

 テゾーロは一瞬気を持ってかれそうになるが、堪えて覇王色を放つ。

「……わかったかアホンダラ。おれに指図するなんざ百年(はえ)ェ」

 白ひげは酒壺の中の酒を飲み干し、テゾーロへぶん投げる。

 投げられた酒壺をテゾーロは受け取り、傍に置いた。

(態度はああだが……届いてはいる。堅気に言われるまでもない、ということか)

 原作で白ひげは、サッチを殺したティーチとケジメをつけようとしたエースを諫めた。その上で直々に顔を出したシャンクスの説得を一蹴したのは、エースの面子を重んじてだ。

 白ひげは聞く耳を持たないのではなく、家族の面子を考えているのだ。だからこそ、今の内にとテゾーロは手を打ったのだ。それでも白ひげは、テゾーロを一蹴した。堅気に心配されては立つ瀬がないと言いたいのだろう。

「……わかりました。あなたがそう言うのなら、これ以上は野暮ですね」

 伝えたいことは伝えた。自分も色々手を打つが、あとは白ひげ次第だ。

 テゾーロは空になった酒壺を回収し、一礼して引き上げようとしたが――

「グラララ……おい小僧、せっかく来たんなら一発(・・)ぐらい付き合え」

 白ひげはおもむろに立ち上がり、愛用の薙刀〝むら(くも)(ぎり)〟を手にした。

 〝新世界の怪物〟の本気を見せてみろ――要はそう言いたいのだろう。

 テゾーロは困った笑顔を浮かべ、能力で黄金の長剣を生み出して刀身を覇気で黒く染めた。

(何か一撃で島の対岸まで吹っ飛ばされそうだな……)

 ある種の諦念と共に、白ひげとテゾーロは互いの得物を振るって激突させた。

 

 結論から言うと、テゾーロは押し負けた。

 そもそものポテンシャルと経験値が違い過ぎたため、激突した瞬間こそ張り合ったがすぐに吹き飛ばされてしまい、勢い余って船の壁に頭から減り込んだのだ。

 その様子を白ひげは「まだまだ(わけ)ェな」と笑ったが、その様子を影で見守っていた彼の家族はテゾーロに合掌していたとか。


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