ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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お待たせしました。
7月最初の投稿です。


プチスタンピード編
第137話〝熱狂開催〟


 テゾーロは新聞を読んでいた。

 新聞の記事に書かれてるのは、最近新世界に進出した超新星・キャベンディッシュという海賊。世界屈指の強度を誇る斬突両用の両刃剣「デュランダル」を駆使する剣術の天才であり、その首に懸けられた額は2億を越えている。

「もうそんな時期か……随分と長く生きたなァ」

 ボソリと、どこかたそがれたように呟く。

 この世界に転生し、四半世紀が経とうとしている。前世の知識を活用して海を生きた結果、天竜人に匹敵する権力と世界屈指の財力を持つ国家元首にまで上り詰めた。気づけば主人公(ルフィ)が海賊として大海原へ乗り出し「麦わらの一味」を旗揚げするまであと一年となった。

 ルフィと出会っているのは身内ではシードだけで、彼自身も世の中の動きには疎いため再会してもピンと来ないだろう。だがテゾーロは未来の海賊王との出会いを心待ちにしている。会うのは、新世界に乗り出してからか。それとも何かの偶然でもっと早く出会えるのか。

 いずれにしろ、運命の邂逅は近いだろう。

「……いつか戦ってみたいな」

 その時、ドアを豪快に開けて元大海賊が陽気に現れた。

「よう同志! このブエナ・フェスタに何か用か?」

「ああ、来てくれましたか」

 稀代の祭り屋はご機嫌な様子だ。

 というのも、テゾーロはある時一つの悪魔の実を手に入れ、それで試したいことがあるとフェスタに提案していたのだ。

「フェスタさん、これはおれからの依頼です」

 そう言ってフェスタに、小さな宝箱に収められていた実を差し出す。

「これは自然(ロギア)系悪魔の実〝ヤミヤミの実〟。悪魔の実の歴史上最も凶悪な力を秘めている実です」

「ヤミヤミの実、か……」

 図鑑によれば、光をも逃さない引力を操る能力だという。引き寄せた物体を闇の中で押し潰して放出することができ、生物を引きずり込めば戦闘不能な重傷を負う程に強力。しかもこの闇の引力は「悪魔の実の力をも引き込む」という特性で、能力者の実体を正確に引き寄せ、触れている相手の能力を封じ込め使用不可能にするというジョーカーじみた能力を持っている。全てを引き寄せてしまうために相手の攻撃すら引き寄せてしまい、それどころかダメージを必要以上に負ってしまうという弱点を持つが、いずれにしろ能力者にとっては天敵とも言える力なのだ。

 この実の存在は、悪魔の実の能力を欲しがる人間にとっては喉から手が出る程欲しい代物だ。強力な覇気使いがこの実の能力者となれば、長所だけ見ればほぼ無敵の能力者になるのだ。

「これである人間を釣ろうと思ってます。うまく行けば、この世界の未来を変えられるかもしれない。フェスタさん、今一度起こしてくれますか? 熱狂を」

「歴史上最も凶悪な悪魔の実……あの二つには遠く及ばねェが、新世界の大物海賊共を釣るいい餌だぜ!」

 ロジャーが闇に葬った、海賊王への直線航路。

 島一つを跡形も無く消し飛ばす、「神」の名を冠する古代兵器の設計図。

 この時代の覇権を握る宝には及ばないが、喧伝すれば久しぶりの大掛かりなケンカ祭りが期待できる。

「やってやるぜェ……このブエナ・フェスタ、戦争級の熱狂を起こしてやる!! 題して――」

 

 ――〝テゾーロフェスティバル〟だァ……!!

 

 

           *

 

 

 一週間後。

 新世界に君臨する世界最強の一味「白ひげ海賊団」の日常に、ちょっとした出来事が起こった。

 

 ――親愛なる勇敢な船乗りご一同。

   敵船、同盟、入り乱れ酒を酌み交わすのもまた一興。

   来る者拒まず去る者追わず。

   この世界一の(たい)(えん)〝テゾーロフェスティバル〟に是非参加されたし。

   なお、今回は余興として自然(ロギア)系悪魔の実〝ヤミヤミの実〟をご用意しております。

                   テゾーロフェスティバル主催者 ブエナ・フェスタ

 

「……世界一の大宴ねェ」

 四番隊隊長・サッチは招待状を読み上げると、顎に手を当てた。

 ブエナ・フェスタは大海賊時代以前、いわゆるロジャー世代の大物海賊で、熱狂をこよなく愛する興行師だ。一時は死亡説も流れたが、こうしてシャバに再び現れたと思えば海賊稼業を引退して興行師一筋で人生を全うするという報道を知ったのはまだ耳に新しい。

 しかも彼のバックには、〝新世界の怪物〟ギルド・テゾーロという巨大すぎる金主(スポンサー)がいる。黒い噂は聞かないが天竜人に匹敵する権力者が絡んでるのならば、相当な規模の祭りなのは明白だ。

「ご丁寧に会場までの永久指針(エターナルポース)を同封しちゃって。しかも余興が自然(ロギア)の悪魔の実……」

「ヤミヤミの実か……」

 一味の古株であるビスタは、眉間にしわを寄せた。

 悪魔の実は闇市場で取引されるが、その額は最低でも一億ベリーを超える。数が少ない自然(ロギア)系や希少かつ強力な能力であれば数十億の額になり、場合によっては世界政府や海軍が介入してくる。現にオペオペの実は50億で取引された。

「グラララ……だが得体のしれねェ能力なんざ食うだけ損だ」

 船長の白ひげは断言する。

 この世界には悪魔の実に関する図鑑が存在するが、その数は少なく図説まで載っている実も少ないため、実際に食べるまで実の名前や能力を知るのは難しい。

 半世紀にも渡る長い海賊生活で数多の経験を重ねた白ひげから見れば、聞いたことの無い実を食べるのはかえって悪魔の実特有のデメリットである一生カナヅチになるだけで、あえて食べず売り捌くという選択肢もあるのだ。

 しかし、このヤミヤミの実に食いつく男がいた。ティーチである。

(ま、まさかこういう形で見つけるとはな……!)

 ティーチは動揺した。

 彼が白ひげ海賊団に所属していたのは、ヤミヤミの実が手に入る公算が最も高いと踏んでいたためである。20年近く所属してなお手に入らなかったため、半ば諦めている自分もいたが、ここへ来てようやく運が回ってきたのだ。

 この機を逃すわけにはいかない。さてどうするか。

 ティーチは慎重に考える。すると――

「ようティーチ!」

「うおっ!? サッチか!?」

 サッチが悪戯っぽい笑みを向ける。

 ティーチはサッチとは親友に近い関係を築いている。白ひげ海賊団の隊長達の立場は同列であり、上下関係は存在しない。それでも一隊員のティーチと隊長格のサッチでは無礼ではないかと思われるが、当のサッチがフランクな人柄なので意にも介さない。

「お前さ、気になるのか?」

「あ? ああ、聞いたことのねェ実だからな。だがそりゃあ他の皆もそうだろう?」

「まァな。だけどお前の食いつきは一番目立ってたぜ。おれだって何十年とオヤジの船に乗ってんだ、その辺の変化ぐれェはわかるさ!」

「ゼハハハハ! そうか! 腹芸は苦手でな!」

 ティーチは頭を掻いて舌を出してみせた。

 すると、サッチはティーチを労うように言葉を続けた。

「男の夢である〝スケスケの実〟じゃねェのは残念だが、手に入れれば食うなり売るなり好きにできるぜ? 何十年も頑張ってんだ、オヤジにちったァ我が儘言ってもバチ当たんねェよ!!」

「そ、そうか?」

「大丈夫だっての! なァ、オヤジ?」

「……そうだな。どの道おれもその島に用ができた。会ってみてェ奴もいるしな」

 白ひげの言葉に、船員達はドッと歓声を上げた。

 久しぶりに巨大な宴、それも海軍を気にする必要の無いお祭りへの参加を喜び、それを眺めた白ひげも優しく微笑んだが……。

「……」

 白ひげは見逃さなかった。ティーチの目が、今までに見たことがない程の獰猛さを孕んでいたことに。

 

 

 招待状が届いたのは、白ひげ海賊団だけではなかった。

「ブエナ・フェスタだァ……?」

 訝し気に呟くのは、四皇〝百獣のカイドウ〟。

 最強生物と呼ばれる彼の手元にも、件の祭典の招待状が届いたのだ。

「ウオロロロロ……久しぶりに聞く名だ。とっくにくたばってたはずの男」

 どこか懐かしそうな表情で酒を呷る。

 大海賊時代以前から数多の海賊達を熱狂させてきた大興行師が、数十年の時を経て新しい祭りの開催を決定した。しかも名前が「テゾーロフェスティバル」というのだから、今回の祭りには〝新世界の怪物〟と呼ばれる大富豪ギルド・テゾーロが絡んでいるのは明白だ。

 フェスタの祭りは、世界中から船・食べ物・情報など様々なものが集まる。当然カイドウの大好物である酒も流通しており、本来ならカイドウも行きたいところだ。

 しかし運がいいのか悪いのか、数日後にはワノ国で年に一度行われる盛大な「火祭り」が控えてある。カイドウとしては久しぶりのフェスタの祭りも悪くないのだが、火祭りの夜をしっかり楽しみたい。

 柄にもなく迷っていると、全身黒づくめで背中から巨大な翼が生えた海賊がカイドウの元へ歩み寄った。

「カイドウさん、火祭りの日程についてなんだが……」

「おう、キングか。ウオロロロ、ちょうどいいトコに来たな」

 カイドウへ火祭りの案件を持ち出したのは、〝火災のキング〟。カイドウの懐刀である〝災害〟と称される百獣海賊団大看板の一人だ。

「ちょうどいいトコ……?」

「こいつに目ェ通せ」

 カイドウに招待状を渡され、キングは目を通す。

「……カイドウさん、要するにこの実を奪って来いと?」

「察しがいいな。お前なら造作もねェだろ? 火祭りは来年もやるが、フェスタの祭りは次いつやるかわからねェ……それに今回の目玉商品は面白そうだ」

 カイドウはヤミヤミの実への興味を示す。

 ただでさえ希少価値の高い自然(ロギア)系悪魔の実。それもカイドウ自身も未知の能力ときた。全員が能力者の最強の海賊団を目指す彼にとって、未知というリスクがあるとはいえ手に入れてはおきたくなる一品だ。

 そしてそれを持ち帰って来る確率が最も高い部下――キングに個人的に依頼しているのだ。

「この一件、お前一人でも構わねェよな?」

「ええ」

 カイドウの不敵な笑みに、キングは迷いなく応えた。

 

 

 動き出したのは、四皇だけではない。

 遥か昔から毎年100隻以上の船が消息不明となる〝魔の三角地帯(フロリアン・トライアングル)〟を航行する世界最大の海賊船・スリラーバークでは、ある海賊が愉快そうに招待状を読んでいた。

「キシシシシシシ……海難事故でくたばったはずの〝祭り屋〟か」

 悪魔のような容姿をした、異様な体型の大男は呟く。

 男の名は、ゲッコー・モリア。王下七武海の一人で、かつてはカイドウと激闘を繰り広げた程の海賊だ。彼もまた大海賊時代以前より海賊として活動しており、世代的にはバレットやクロコダイル辺りの大物だ。

 そんなモリアも、フェスタからの招待状には胸を躍らせていた。

「奴の祭りには世界中から海賊共が集う! 優れた部下を一度に多く集められる絶好のチャンスだ!!」

 過去の体験からモリアは〝カゲカゲの実〟の能力で生み出したゾンビを部下にすることに執着し、特に大きく名を馳せる実力者を欲しがっている。王下七武海として海賊達の抑制という名目でゾンビ兵団増強を行なっていたが、モリアを満足させる力の持ち主はほとんどいなかった。

 しかし、フェスタは違う。本人の強さは大したことないが、裏社会の人脈が広いため大物達を呼び寄せることができる。特に今回は〝テゾーロフェスティバル〟という名前の通り、あの大富豪ギルド・テゾーロが絡んでいる。彼の莫大な財力も相まって、想像以上の規模の祭りとなるだろう。

 何より、今回のイベントで出される悪魔の実は、どうもかなり強力な能力らしい。未知の能力だが、それゆえに惹かれる者達もいるだろう。

 強者の死体と、未知の悪魔の実。望むモノを一度に手に入れられるまたとない機会を逃してたまるものか。

「キシシシ……面倒だが行こうじゃねェか、懐かしい〝新世界〟へよォ!!」

 一度は牙を折られたモリアもまた、かつての野心に満ちた笑みを取り戻した。

 

 

           *

 

 

 時同じくして、テゾーロフェスティバルのメイン会場である無人島。

 島の地下にある天然洞窟を利用した秘密基地に、フェスタは足を運んだ。

「さあ、準備は順調だ」

 ドカッとソファに腰を下ろし、酒を煽る。

 その場には彼以外にも関係者が二人。派手なマゼンタのダブルスーツを着た男と、黒い軍服を着た大男……ギルド・テゾーロとダグラス・バレットだ。

「この祭りは、おれ達が仕掛ける最高にして最強の熱狂〝スタンピード〟のデモンストレーションだ……! 全世界に見せてやろうぜ……!」

 

 

 そして二週間後、テゾーロフェスティバルが開催した。


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