ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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「JUMP DRIFTERS」の執筆もあって、更新が遅れて申し訳ありません。
やっとあの海賊が出てこれそうです。ここまで長かった。(笑)


第136話〝脱落者〟

 新世界。

 大海賊時代の頂点である最強の海賊〝白ひげ〟を筆頭とした四皇が支配するが、それをよしとしない勢力も蠢く海でもある。新世界でも進撃を続けるルーキー達は、最終的には二つに一つの選択肢を選ぶこととなる。四皇の傘下に入るか否かだ。

 四皇の庇護は絶大な後ろ盾だ。その背景がビジネスだろうが仁義だろうが、海賊界の皇帝に護られるのはこの上なく頼りになることだ。その反面、挑み続けられるのは彼らに匹敵するような猛者でない限りは困難を極め、切り崩して領海(ナワバリ)を奪ったり倒すなりするなどほぼ不可能だ。もっとも、四皇同士仲良しということもなく、むしろ工作して相手の寝首を掻く気でもあるので隙を突くことはできないわけではないのだが。

 そんな新世界の海だが、実は一部界隈からは四皇以上の脅威と見なされている男がいる。

 ダグラス・バレットである。

「カハハハ……!! そうだ、立ってみろ!! この海は戦場だ!!」

 引き締まった下半身に、極端なまでにパンプアップした上半身。(のり)の利いた黒い軍服。強さの証である数々の勲章徽章。顔にまで届く左肩の大きな火傷の痕。

 その鋭い眼光と巨体に、新世界の荒波を行く海賊達は震え上がっていた。二十年もの時が流れても、海は〝鬼の跡目〟を憶えていた。

「ば、化け物だ……!!」

(つえ)ェなんてモンじゃねェ……!!」

 満身創痍で悪態を吐くのは、新世界でも有名なディカルバン兄弟。不運なことに世界最強へと駆け上がるべく海で手当たり次第戦っていたバレットと遭遇し、全滅寸前に追い込まれていたのだ。

 ちなみにバレットはディカルバン兄弟と遭遇する前に〝遊騎士ドーマ〟や「(アー)(オー)海賊団」といった強者達とも戦っているが、当然の如く無傷で壊滅させている。

「新世界の海賊達は、一人残らず殺す!! それが誰も成し得なかった、世界最強の証……ロジャーを超える唯一の道……!!」

 血で染まった白いグローブを通した拳を、ギチギチと握り締める。

 バレットは今や、四皇に匹敵する力と存在感を示していた。

 今は白ひげが支配する時代だが、伝説の怪物も老いには勝てず全盛期よりも大きく衰えている。一部界隈では白ひげ亡き後の世界最強は〝百獣のカイドウ〟か〝鬼の跡目〟のどちらかだろうと言われている。

 海賊王を継ぐ強さ。それはいずれ海賊王を超える。その可能性を秘めているのが、元海賊(・・・)ダグラス・バレットなのだ。

「カハハハ……どうした? さっきの威勢は」

 ディカルバン兄弟を挑発する。

 が、バレットの絶望的なまでの強さと不屈の闘争本能に恐れ、後退り始めたのだ。すると……。

 

 ――プルプルプル

 

 突如響き渡ったのは、電伝虫の受信音。

 その音源は、バレットだ。

「何だァ……?」

 バレットは不満気に電伝虫を取り出し、受話器を受け取った。

「何の用だ、テゾーロ」

《Mr.バレット。実は折り入って頼みがある》

 電話の主は、自分の雇用主である〝新世界の怪物(ギルド・テゾーロ)〟だった。

「頼み……?」

《新世界にダンスパウダー製造所があるという情報を得た。四皇のナワバリじゃない無人島にあるから、島を更地にしてでもそこを潰してほしい》

「製造所があるなら無人じゃねェだろう。……誰の絡みだ」

《クロコダイルさ》

 その名前に、バレットの鋭い眼が一瞬見開く。

 かつて自分と戦って生き残った数少ない敵のうちの一人であるクロコダイル。互いに納得のいかない決着ではあったが、彼は〝鬼の跡目〟と真っ向から戦って生き残った数少ない実力者だ。

 大海賊時代以前の海の匂い――ロジャーがいた海の匂いを残す海賊は、そう多くない。バレット自身も、ロジャーを超えることを最優先としつつもクロコダイルとの決着もいつかつけたいとも考えていた。

 クロコダイルを改めて倒せる機会が訪れた。これを逃すわけにはいかない。

「……いいだろう」

《じゃあ、カタパルト号の電伝虫に地図と情報を送っておくので、破壊しちゃってください》

 テゾーロはそう告げて通話を切った。

 ――もうこいつらに用はねェ。

 バレットは腕を掲げ、無造作に甲板を殴りつけた。その瞬間、衝撃が船を通り越して海面にまで走り、轟音と共に船体が真っ二つに割れた。

 海賊達は海へ投げ出され、船内の火薬が何らかの形で誘爆し、炎が燃え広がる。

 本来ならば白ひげの傘下として活躍するはずだった海賊「ディカルバン兄弟」は、ダグラス・バレットという〝強さ〟の化身によって海に沈んだ。仲間と夢と未来と共に。

 

 

           *

 

 

「……いやあ、大活躍ですね。軍人やってた人は仕事の早さが違う」

「軍の面子を何だと思うとるんだ、テゾーロ!」

 テゾーロは嬉々とした表情で黄金の湯呑みに急須のお茶を注ぐ。

 ここはマリンフォード。世界のほぼ中心に位置する、全世界と海の平和を守り続ける正義の要塞。その一室で、テゾーロは現元帥・センゴクと面会していた。

「ディカルバン兄弟、〝遊騎士ドーマ〟、「(アー)(オー)海賊団」……新世界で名を馳せる屈強な海賊も、ロジャーの強さを継ぐ男には無力ですな」

「海賊に同情はせんが……哀れなものだ」

 海兵である以上、海賊に情けをかけるのは筋違いだ。しかしこの現状に関しては、一人の人間として哀れんだ。

 かつて世界中の海で恐れられた〝鬼の跡目〟の伝説。その強さは19歳の時点で当時のシルバーズ・レイリーに匹敵していた。それから年月が経ち、今となっては四皇に引けを取らぬ力で暴れ回っている。孤高の強さを極めんとする無頼漢は、もはや一海賊団や軍隊で止められるような相手ではなくなった。

 そんなバレットを持ちつ持たれつでコントロールしているのが、ギルド・テゾーロ。仲間ではなくあくまでも契約という枠で組み、怪物同士うまくやっている。だからこそ、おいそれと力を削ぐことはできない。

 これが彼の思惑通りならば、脅威である。しかし海軍や政府の繋がりは大事にしてるので、裏切るというマネはしないと思われる。

 海の平和維持に貢献し、長きにわたって多くの人間を見てきたセンゴクの目をもってしても、テゾーロの力量と真意を完全には読み取れなかった。

「……でもセンゴクさん、正直安心してるんじゃないんですか?」

「何?」

「私のような人間がバックについたおかげで、息が楽そうに見えますよ」

「……そうだな」

 センゴクは珍しく笑みを浮かべる。

 テゾーロが海軍と接触し、正式なスポンサーになって20年が経とうとしている。経済的手腕や知識、莫大なカネで海軍を支えたことで進歩を遂げ、銃火器や軍艦の内装も大海賊時代以前とは比べ物にならない程の高性能となった。彼の脇を固める人間も曲者揃いだが有能であり、彼らの知恵もまた軍に大きな益をもたらした。

 今では天竜人に匹敵する権力をも得た、出世の神様。テゾーロの働きがなければ、海賊達に出し抜かれていたことだろう。

「……ところで、ドレスローザの一件はどうするんですか」

「……」

 テゾーロの言葉に、センゴクは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 ドレスローザは、王下七武海の一人であるドンキホーテ・ドフラミンゴが支配する国だ。元はといえば世界屈指の名君であるリク・ドルド3世が治めていたが、ある大事件で失脚しドフラミンゴが新王(・・)として君臨したという事情がある。ハンコックとはまた別の海賊の君主である。

 そんなドレスローザだが、実は王家の血を引くスカーレットとその娘のレベッカが、センゴクの部下であるロシナンテに保護されている。しかし救援に動きたいセンゴクは世界政府の命令で「海軍が加盟国の内政干渉をしてはならない」という名目の下、制限されてしまったのだ。

「私は情けないことに、部下を救いにもいけん」

「世界政府の弱みをチラつかせてでもいるんじゃないんですかね。ドフラミンゴは狡猾な男だ」

 海軍元帥とは、海軍の指揮を執る海軍総大将にして全海兵の頂点だ。一方で五老星からは「世界政府の表の顔」扱いを受けており、天竜人や五老星に振り回される上に不祥事の隠蔽を始めとする理不尽な命令も受けねばならない中間管理職の一面もある。

 世界政府から下される不祥事の隠蔽は、その全てが「世界政府に対する信頼を損なう案件」であるが、中には外部からの脅しが背景にあるケースもある。ドフラミンゴがそれである。

 というのも、元々天竜人という経歴ゆえに政府中枢とのコネがある上、聖地マリージョアの秘密も知っている。ドフラミンゴは世界を揺るがす衝撃の事実を知る者であり、それゆえに政府に消されそうになれば「お前らの秘密をバラすぞ」と逆に脅すこともできるのだ。

 センゴクはそれが何なのかはわからない。せいぜい知っているのは、五老星の上に立つ人物の存在くらいだ。だが知らねばならないが知ったら無事では済まない「何か」であるというのは察しているのだ。

「お前も他人のことは言えないだろう」

「さて、何のことやら」

「あからさまな腹芸はよせ、もうわかっているんだぞ」

 テゾーロの持つ秘密もまた、公表したら世界中が大混乱に陥るレベルの案件だ。

 その正体は公どころか裏社会にも知られてない。知っているのはごく一部の身内と盟友スライス、そしてセンゴクを筆頭とした政府側でも信頼の置ける面子のみ。

 存在するだけで世界をひっくり返す二つの宝。世界の勢力図を変えることも、その気になればできる。それ程の影響力があるのだ。

「……まあ、例の宝はあまり他人に知らせるわけにもいかないですし、悪いようにはしませんよ」

「当たり前だ! あんなモノがバレたら世界中が混沌と化すわ!」

 センゴクは思わず声を荒げた。

 どうにか落ち着きを取り戻した海で、海賊王への直線航路が存在するという情報が出回れば大変なことになるのは明白だ。

「くう……あんなモノ、四皇にでも奪われたら溜まったモンじゃないぞ」

「その為の〝鬼の跡目〟でもあるんです。ゴールド・ロジャーを継ぐと恐れられた豪傑と真っ向からぶつかれば、いくら四皇でも無事では済まないでしょう」

 ロジャー亡き後、拳の行き場所を失ったバレットは歩く災厄となり、ありとあらゆるものを破壊し始めた。海賊であれ海軍であれ国家であれ、無差別に暴れ回る歩く災厄となったのだ。命と生涯を懸けた〝強さ〟が無意味になることを恐れた怪物の暴走は、センゴクとガープが率いる大艦隊によるバスターコールによってどうにか止められた。

 今の四皇は〝鬼の跡目〟が暴れていた時の海を知る者や実際に戦った者、そして仲間であった者で構成されている。ダグラス・バレットという伝説の怪物(バケモノ)の力を理解している彼らは、迂闊に手を出して兵力を削ぐようなバカなマネはしない。

「……まあ、バレットの力は国家戦力級なので、今のところ世界を壊すようなマネはしないでしょう」

「三大勢力の均衡は破壊しそうだがな」

「ハハハ……それで、本題の方はどうなんですか」

 テゾーロは問う。

 実は先日、シャンクスとの秘密の会談の内容であるティーチの件をセンゴクに頼んでいたのだ。わざわざマリンフォードに来たのは、その答えを聞くためだ。

「……結果から言おう。保留だそうだ」

「中途半端な対応を……理由は?」

 センゴクはおかきを食べながら、テゾーロに説明した。

 テゾーロとシャンクスが密談をしたことについては別に咎めない。シャンクスは政府内部でも一目置く者も多く、暴れさせればこそ手に負えずとも信頼はしている。センゴク自身、シャンクスを認めてはいるので特に気にしない。

 ただ、今回の件はセンゴクとしても信じがたい内容だった。いくら四皇として新世界に君臨する前だったとしても、若い頃は世界最強の剣士〝鷹の目〟と渡り合った程の男が、白ひげの船とはいえ名も知れぬ一介の海賊に一生消えぬ傷を負わされるとは思えなかったのだ。それは報告を聞いた五老星も同じで、それ程の実力者が陰に潜む意味を理解できなかった。

「海賊共にとって、懸賞金の額の高さは己の強さを周囲にアピールしたり名を上げるきっかけになる。懸賞金が上がって狙われやすくなると考えて鳴りを潜める輩がいないわけではないだろうが……」

当事者(シャンクス)の証言では難しいということですか」

 だろうな……と溜め息を吐く。

 原作では後に白ひげの後釜に座るティーチだが、彼の恐ろしさは実力ではない。狡猾さと周到さという金獅子と引けを取らぬ策士ぶりだ。その覚悟も尋常ではなく、〝ヤミヤミの実〟が手に入らなかったら一生を日陰者として生きることを受け入れる程だ。

 マリンフォード頂上戦争が彼の思惑通りとなり、全ての勢力がマーシャル・D・ティーチの掌の上で転がっていたことも考えると、厄介なことこの上ない。前世持ちのテゾーロはそれを十分に理解していた。しかし今のティーチは文字通り闇に隠れている状態。世界政府がどこの馬の骨ともわからない一海賊を警戒するわけもなかった。

「……わかりました。ですが早く懸賞金はつけて下さいね。あの〝赤髪〟が警戒するんですから」

「わかった。じゃあ今度は私からだ」

「へ?」

 きょとんとした表情で、テゾーロはセンゴクを見つめた。

「この海賊の情報をできる限りでいい。集めて提供してくれないか」

 センゴクはそう言って一枚の手配書を見せた。

 その手配書に写る人物は――ポートガス・D・エースという海賊だった。


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