ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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二週間ぶりの更新ですね、お待たせしました。


第135話〝テゾーロとシャンクス〟

 赤髪海賊団がグラン・テゾーロに来た。

 新世界の海では知らぬ者はいない超大物の来訪で大混乱になるかと思われたが、大頭のシャンクスの意向と世界政府の頂点である五老星の手回しで海軍も介入する一大事を避け、店の貸し切りでどうにか落ち着いた。

 そしてグラン・テゾーロの全ての中核をなす「 THE() REORO(レオーロ)」の天空劇場で、前代未聞の密談が行われていた。

「キムチ炒飯、食べるかい?」

「おお、頼む! 大好物なんだ!」

 元ロジャー海賊団である世界最高峰の大海賊、四皇〝赤髪のシャンクス〟。

 巨万の富と天竜人に匹敵する権力を有するグラン・テゾーロ国王、〝新世界の怪物〟ギルド・テゾーロ。

 世界情勢に影響を与える二人が、酒を飲み合いながら非公式の会談を行っていた。

「それで、わざわざおれに会いに来た理由は?」

「! ……わかってたか、さすがに」

「わざわざヤバそうな時期に観光目的に来るわけないでしょう。あり得そうな話だけどな」

 白ワインを口に流す。

 シャンクスは世界中を自分の目で見て回るために海賊活動を続けており、世界政府中枢から動向こそ警戒されているが、何らかの目的の為に大きく動く場合を除いては自ら事件を起こすことはほとんどしない。ゆえに器の大きさと仲間や友達を大切にする性格も相まって、敵対者からも一定の信頼を寄せている珍しい男でもある。

 そんな彼が世界会議(レヴェリー)終了直後のグラン・テゾーロに赴いたということは、もしかしたら本当に観光もあったのかもしれないが、テゾーロとの接触を試みていた。そう考えるのが妥当だ。

「……あんたに頼みがあってきた」

「頼み?」

 シャンクスの依頼。

 キムチ炒飯を頬張っていた彼の発言に、テゾーロは目を細めた。

「……一応聞きましょう。どういった頼みで?」

「白ひげの船のティーチという男に、あんたの権力で懸賞金を懸けてほしい」

 テゾーロは一瞬目を大きく見開いた。何と依頼内容はティーチ――後の〝黒ひげ〟に関わる重要な案件だった。

「いや、まあ出来ないって訳じゃないが……何で?」

 テゾーロは問う。

 世界政府及び海軍の指針上、懸賞金は「戦闘能力の高さ」「世界政府への敵対行為」「民間人への甚大な被害」の三つを合わせた「世界政府に対する危険度」で決められる。賞金首になるかどうかは海軍の会議で決められるが、長きに渡り軍資金を提供し続けるテゾーロは海軍のスポンサーと化しているため、口利きなど造作も無いことだ。

 しかし、だ。ティーチが属する白ひげ海賊団の船長である〝白ひげ〟エドワード・ニューゲートは、ロジャーの最大のライバルであったと同時に相応の信頼関係もあった。それは当時の船員達も同様で、殺し合いの中で奇妙な友情を育んできた。そのよしみで「ティーチは危険だ、気をつけろ」と伝えればいいはずだ。

「ああ、そうするのが筋なんだが…………」

「……ああ……成程、言いたいことわかった」

 どこか遠い目をしたシャンクスに、テゾーロは察した。

 本来ならシャンクスが直々に書状と使いを送るなりすればいい話だが、些細なことでも四皇同士の接触は五老星が動き海軍本部に厳戒態勢が敷かれてしまう。場合によっては艦隊を差し向けられたり海軍大将が出張りかねなかったりするので、直接接触は筋が通ったとしても色々と厄介なのだ。

 しかしテゾーロの権力は、世界政府中枢にも影響を及ぼす。うまく使えば海軍が厳戒態勢を敷くことなく目的を遂行できる。

 シャンクスはそう考えたのだろう。

(黒ひげが白ひげの船に居続けているのは、全ての悪魔の実の中でも最凶と謳われる〝ヤミヤミの実〟を得るためだ。見方を変えれば、ヤミヤミの実で釣ることは不可能ではないということでもある)

 自分に運が無く手に入らなければ諦めるつもりでいたとはいえ、20年以上も白ひげ海賊団に所属していたのは「〝ヤミヤミの実〟が手に入る公算が最も高いと踏んでいた」からである。だから4番隊隊長のサッチが手に入った際は――本人曰く「ハズミ」で――彼を殺して船を下りた。

 つまり、テゾーロが先に入手して情報をバラ撒けば、サッチが死ぬことなくティーチの動きをコントロールできるという意味でもある。もっとも、一日一日を運任せに生きる豪快な性格とはいえ、彼の恐ろしさは非常に確率の低い賭けに数十年を費やす周到さと狡猾さにあるのだが。

「……わかった。そのティーチとやらの件は、おれが預かる。こっちから仕掛けてみよう」

「すまん。――テゾーロ、油断するな」

 シャンクスは自分の左目元の三本傷を指で触れながら告げる。

 決して油断していなかったおれですらティーチにやられたんだ――そう訴えているように思えた。

「あと、これは個人的なことなんだが……」

 シャンクスは一枚の手配書をテゾーロに見せた。

「エースって海賊、知ってるか」

「……!」

 手配書に載っているのは、波打った髪とソバカス、オレンジ色のテンガロンハットが特徴の青年。

 巷で名を馳せている食い逃げの常習犯……ではなくスペード海賊団の船長〝火拳のエース〟ことポートガス・D・エース。後の白ひげ海賊団2番隊隊長だ。この時期はまだ白ひげ海賊団加入前らしいが、シャンクスとはすでに接触していたようだ。

「最近聞くようになった。それが何か」

「世界政府から王下七武海に推薦されたんだが、こいつは蹴ったんだ。そうしたら5億5000万ベリーの賞金首……おかしな話だ」

「その事情を知っているかどうか、と?」

 テゾーロの言葉に、シャンクスは無言で見つめる。どうやらそういうことのようだ。

(エースはロジャーの息子。それはおれも知ってるが……成程、シャンクスはまだ(・・)知らないんだな)

 テゾーロは前世の知識を持っているため、エースとロジャーの関係は把握しているが、シャンクスはテゾーロより早く接触しているが真相は頂上戦争の際に知っている様子だった。この時点では何らかの事情が絡んでいるのではと勘繰っている程度のようだ。

「……知ってはいる」

「!」

「だがまだ推測の域だ、今後――」

「今後が、何だ?」

 突如、野太い声が響いた。

 この声は知っている。世界最強を目指す〝彼〟の声だ。

「おお! バレット! 久しぶりだなァ!」

(き、()()()()ーーーーーーーーっ!?)

 最悪のタイミングで同窓会が決行された。

 元ロジャー海賊団のバレットが、いつの間にか訪れていたのだ。

「い、いつからそこに……?」

「こいつが飯を食っていたところからだ」

 ――割と最初じゃねェか!!

 テゾーロは愕然とした。

 二人っきりだしお互い強いからと周囲への警戒を解いていたのは事実だが、キムチ炒飯を振る舞っていた辺りからバレットが天空劇場に来ていたとは。ただでさえ戦闘狂のバレットが世界最高峰の海賊となった同僚と鉢合わせすれば、高確率で戦闘になる。テゾーロは最悪の事態を想像し、震えあがった。

 一方のバレットはというと……。

「ちっ……相変わらず鬱陶しい野郎だ」

 嫌そうな顔をして吐き捨てていた。

 〝鬼の跡目〟と恐れられたバレットは孤高主義者であり、彼がロジャーの船に乗ったのは「ロジャーの強さ」の理由を知るためだ。ロジャーの仲間愛に感化された時があったとはいえ、他の船員とは違い敬愛する船長というより「倒すべき〝目標〟」と見ていた。

 それでもロジャー海賊団時代は、迷いこそあれど無駄な時間を過ごした黒歴史だとは一度も思っていないようで、信頼関係はともかく顔見知り程度の関係は築いていたようだ。その中でもシャンクスを鬱陶しく感じているということは、やはりロジャー海賊団の頃から()()()()()()だったのだろう。

「おいおいおい、いきなりそれはねェだろう! せっかく会えたんだ、ロジャー船長との思い出話に花を咲かせようぜ!」

「断る。おれより(よえ)ェ奴の頼みに興味ねェ」

「ああ!? 何だとゥ!? あの頃より断然(つえ)ェぞ!! 何なら――」

「待てェェェェ!! ちょっと待て大頭ァァァァ!!」

 テゾーロは今日一番の大声でシャンクスを窘めた。

「あんたバカなの? バカだろ! ここおれの国!! おれの島!! おれの居場所!!」

 シャンクスの胸倉を掴んでブンブンと振るテゾーロ。

 ただでさえ当時の同僚からも化け物扱いされたバレットが、今では白ひげと肩を並べる程の大物となったシャンクスと抗争になれば島一つが跡形も無く消し飛びかねない。セルフバスターコールなど溜まったものではない。

 この二人が暴れたら、今までの自分の努力が水泡と化す。それだけは、それこそ命懸けで回避せねばならないのだ。

「ダッハハハ! すまんすまん」

「すまんすまん、じゃない! 他人(ヒト)の国をテキトーに荒らして帰るな!」

 どうりで鬱陶しがられるわけだ、とテゾーロは内心納得した。こんな奴と長く付き合ってきたバギーが偉大に感じてくる。

 そんな中、バレットはテーブルの上のエースの手配書を手に取った。

「……」

 ポートガス・D・エース。奇しくもロジャーと同じ〝D〟の名がつく男だ。

 新世界の海において、5億から上の賞金首は大海賊と謳われるクラスの実力者ばかりだ。海軍大将とも張り合える猛者も存在し、組織においては最高幹部が名を連ねているランクでもある。バレット自身は懸賞金など微塵も気にしなかったが、一船員でありながらロジャーを継ぐ男と目されただけあって、世界でもトップクラスの猛者達が自らに挑んできた。

 しかしこのエースという男、どうも弱そうに見えてならない。ロジャーが生きていた頃の海と比べると正真正銘の猛者は少なくなってはいるものの、名を馳せている者達は多いと言えば多い。

 だからこそ、バレットは落胆していた。こんなヒヨっ子に5億の懸賞金を懸けるのかと。世界政府も海軍元帥の目も腐ったかと。

 バレットの目標はロジャーを超えること。すなわち世界最強だ。その為に、インペルダウンでの修行や仮釈放後の鍛錬で、王下七武海も四皇も含めた世界中で名を馳せる海賊達を一人残らず叩き潰すべく強さを極めんとしていた。二人の会話からルーキーでありながら5億越えの懸賞金がついたと聞いた時は、骨がありそうだと期待していたが、とんだ見込み違いだった。

「……フンッ」

 手配書をビリビリと千切ってから、バレットは踵を返した。

「どこへ?」

「……少し()()()()()()()()だけだ」

 そう一言告げて、バレットは下へ降りた。

 その姿を見つめていたシャンクスは、溜め息を吐く。

「……相変わらずだったなァ」

「こちらとしては「お互い様」にしか見えませんでしたけどね」

 能天気にボヤくシャンクスに、テゾーロは呆れた笑みを溢す。

(……しかし、これは僥倖だ。海賊界でも良識あるシャンクスとの結びつきを持てれば、今後の立ち回りに十分な効果が期待できる。バランサー役と繋がっていれば海賊界の流れも大体は掴めそうだ)

 テゾーロの行く手を阻むのは、必ずしも性根の腐った政府中枢や天竜人だけではない。世界政府は天竜人直属の「CP-0」を通じて裏の勢力と積極的に顔を合わせ、多くの海賊・無法者と繋がりを持っている。世界各地で起こる戦争には彼らが絡んでいるケースもあるのだが、それに巨大な利権が関わっているのか、政府が率先して解決に動くことは無い。

 テゾーロ自身も裏の顔を持つ人間と深い関係があるが、彼らはテゾーロの思想に同調したり関心を寄せている者が多く、これといった悪行で利権を掌握し私腹を肥やしているわけではない。だが裏の顔を持つ人間にも、かつてのアルベルト・フォードのような人間がいるのも事実である。

(エースの手配書を考えると、原作開始まで2年を切っている。そこから先は予測不能だ、()()()()()()()()()からな)

 この世界に来て、テゾーロは20年以上に渡って多くの「運命」を変えてきた。

 おそらくその結果が出るのが、2年後以降。テゾーロの望む結果となるかどうかはわからない。しかし無駄ではないと確信はしていた。

(嵐、熱狂、うねり……はてさて、どんな形で実を結ぶんだろうな)

 世界はどうなるのか。

 海賊達はどう動くのか。

 ギルド・テゾーロは何を思い、何を成すのか。

 それは彼自身もわからない。だが、言えることはただ一つ。

 世界を変えられるかどうかは、テゾーロの力量次第だ。




あともう少しなんだ……ルフィ達と関わるのは……!
どういう形で関わるかは、まだ思案中です。

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