ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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第134話〝赤髪上陸〟

 この日、シードはある人物と手合わせをしていた。

 その相手は、全ての海兵を育てた名教官にして伝説の海兵の一人である元海軍本部大将〝黒腕のゼファー〟だった。

「おおおおおおっ!!」

「ぬぅうあああああっ!!」

 

 ドゴォン!

 

 4時間を超える苛烈な戦闘で上半身裸となった両者。互いの黒腕が激突し、空気が割れ衝撃が地面を抉った。

 事実上の全盛期であるシードと、斜陽のゼファー。体力や身体能力は明らかにシードが有利のはずだが、勝負は拮抗していた。

 それはゼファーの半世紀も海賊と戦い若い海兵(ヒーロー)達を育てたがゆえの、圧倒的な経験値。かつてのシードもゼファーの教え子の一人……生徒の動きの癖までゼファーはよく覚えているのだ。

「行きますよ!」

 シードは〝ホネホネの実〟の能力で巨大な骨の腕を生み出す。

 能力で生成された巨大なそれは、一気に黒化していく。

「空中に浮かび上がらせた骨にすら覇気を纏わせたか……!」

「〝()()(ぼね)〟!!」

 宙に浮いた巨大な骨の腕で、強烈なパンチを見舞った。

 ゼファーはそれを腕を十字に組んで真っ向から防いだ。〝武装色〟でコーティングされている分、硬度も破壊力も格段にパワーアップしているので、重みは体に直に伝わる。全身の骨が軋みそうになる感覚が走るが、ゼファーは踏ん張り耐え切った。

「この程度か、シード……!」

「っ……!」

 老兵は、肉体を超越した気力の塊だった。

 〝武打骨〟はシードの技の中でも強力な部類で、かつてのバレットにもダメージを負わせた程の威力を誇る。前線を退いたとはいえ、老いさらばえたとはいえ、ロジャー時代を生き抜いた元海軍大将の壁は高い。

 だが――

「うっ……ゴホ、ゲホ!」

「先生っ!?」

 ゼファーは、ふいに膝を突いた。

 恩師の急変に慌てたシードは〝(ソル)〟で駆けつける。

 しかしゼファーは片手を上げ、ズボンのポケットから医療用の吸入器を取り出し口にあてがった。

 吸入器のボタンを押し、中に入った薬剤を吸い込む。次第に薬が効いてきたのか、先程まで荒かった呼吸が落ち着いてきた。

「大丈夫ですか?」

「ああ……問題無い……」

 ゼファーは脂汗を一筋流して笑う。

 在りし日のロジャーが暴れ回った時代を知る海の豪傑達も、老いにだけは勝てなかった。多くの文献に名を残す伝説の副船長シルバーズ・レイリーも、ロジャーと海の覇権を競った白ひげや金獅子も、海軍古参の英雄であるガープやセンゴクも、老齢による体力や身体能力の低下を止めることはできなかった。当然、ロジャーや白ひげを追い回したゼファーも例外ではない。

 齢七十を迎えた老境である彼は心臓と肺、すなわち心肺機能の低下を抱えた。今でも海軍大将である教え子達と互角に立ち回れる技量を持ってはいるが、訓練であれ実戦であれ、戦闘中は吸入器を使った薬物投与を行わないと戦いが継続できなくなっている。軍の教官として次代を担う海兵(ヒーロー)の育成に情熱を注ぐ伝説の男も、思うように体が動かなくなっているようだ。

「おれも(とし)だな……ロジャーがいた頃と違って、身体が思うように動かん」

「ゼファー先生……」

「フンッ、お前はそういう奴だったな。戦場だったら真っ先に死ぬタイプだってのに、こうして生きている」

 ゼファーは、海軍時代のシードを思い返していた。

 高い戦闘能力と芯の強さを持っていたシードは、未来の海軍大将と見なされていた。海軍の硬派は腕っ節の強さを認めつつも情に絆されやすい性格から腰抜けだと呼ばれてたが、海兵の鑑と言える彼の気質を信頼する者は多かった。

 ゼファーもまた、シードの情の絆されやすさを危惧していた。順風満帆な人生を歩んでいた矢先に、自らが情に絆されて見逃した海賊の手で妻子を殺されたからだ。だからこそ、ゼファーは後進の中でも一際厳しく接していた。シードはそれを承知の上で、しかし自らの欠点を直さずに不殺の海兵として戦場を駆ける道を選んだのだ。

(わけ)ェ頃のおれみてェだった。だからこそお前をクソ海賊に殺されねェように厳しくしたってのにな」

「……あなたの指導は、無駄ではありません。あなたの指導があったからこそ、こうして戦場であるこの海で生きていられるんです」

 シードはそう言いながら、シェリー酒を取り出して渡した。

 ゼファーは笑みを溢した。

 シードはその心優しい性格ゆえに、他人への気配りが上手な男だった。未来の海軍大将候補と見なされていながら、受け入れきれない現実に耐え切れなかった生徒。無差別殲滅攻撃(バスターコール)や優等生だった一期生(サカズキ)の正義を目の当たりにし、心を痛めて世界の正義を背負うのを諦めてしまった。実に惜しい逸材だった。

 海軍にいた頃は周囲に頼りにされていたが、同時に辛い時期だったろう。それでも、かつての恩師の好きな酒の銘柄を憶えていた。クザンと同じいい生徒だ。

「フッ……」

 親指でシェリー酒のコルクを飛ばし、グイッと呷る。

 彼はまだ、ヒーローになれる。背負う正義と行き場所は違えど、正義の味方としてこの世界で戦い、殴り続けることができる。

 終わりが近づく老兵にできるのは、次代に未来を託せる力を育むこと。ならば、筋骨隆々なれど衰えた老体に鞭を打ってやろうではないか。

「……シード。おれのかつての教え子よ」

「はい」

「もう一度だけ稽古をつけてやる。覚悟はできてるか」

「もう()は癒えました。ぜひよろしくお願いします」

 老人の意図を察したのか、シードは満面の笑みで頷いた。

 

 

           *

 

 

 同時刻。

 グラン・テゾーロの玄関口である港で、テゾーロは頭を抱えてある海賊と話していた。

「いや、まあ別におれの国荒らすわけじゃないからいいけどさ……」

「ダッハハハ! まァ気にすんな、悪いようにはしないさ」

 バシバシと背中を叩くのは、黒いマントを羽織った赤い髪が特徴の隻腕の海賊。

 

 赤髪のシャンクス。

 海軍から「鉄壁の海賊団」と呼ばれる赤髪海賊団の大頭であり、バレットやレイリーと同じロジャー海賊団の出身。懸賞金は40億4890万ベリーという桁外れの賞金首でもあり、新世界に君臨する海の皇帝達「四皇」の一人。

 

 そんな超大物の彼が一味を率いて、グラン・テゾーロの港に突如として現れた。世界会議(レヴェリー)後ということもあって緊張が走ったが、暴れられれば手に負えないとはいえ海賊界きっての穏健派ということもあり、念の為に国王(テゾーロ)が直々に出向いてきたという訳である。

「全く……もう少しこっちの事情を考えてくれ。時期が時期なんだ、もうちょっと遅くても何も問題ないだろうに」

「いやァすまんな。前々から行ってみたかったんだが、何となく今日にすることにしたんだ」

「……」

 呆れて何も言えなくなる。

 しかし、シャンクスとはそういう男だ。海賊ながら良識がある反面、素が能天気なので大海賊なのに飲み過ぎて二日酔いに苦しんだりするような人物なのだ。自由なのだ、海賊だから。

「……で、どうすんだ国王」

「追い出すなら()るけど」

「ダメダメダメダメ。()ったらもっとヤバイの(・・・・・・・)が笑顔で突貫してくるのが目に見えるから」

 得物を取り出すメロヌスとアオハルを、テゾーロは諫める。

 いくら穏健派とはいえ相手は四皇――海賊王に次ぐ世界最高峰の海賊だ。彼らと真っ向から戦争になるのはテゾーロにとっても不本意だし、何より騒ぎを聞きつけた〝鬼の跡目〟の乱入が一番怖い。

 ロジャーの直系が二人も暴れたらテゾーロはあっという間に心身共に限界を迎えてしまう。それに世界政府が事態収束に動いたとしても、ちょっと動いただけで厳戒態勢を取られる海の皇帝と国家戦力級の力を持つロジャーの後継者を同時に相手取るなど、いかなる状況下でも絶対にしたがらないだろう。

「そういう訳ですのでね、いつバレットが戻るかわからない状況なんです。あんまり騒がないでください」

「そうなのか? おれとしちゃあ宴で盛り上がった方がいい気がするが……」

「あんた自分の立場わかってます? 自覚してください、四皇なんですよ」

 シャンクスとしては観光気分で寄っただけだろうが、テゾーロとしてはいきなり災厄がやってきたようなもの。

 政治家である以上、対応を誤れば国の存亡にかかわる。こんなことで倒れるわけにはいかないのだ。ここは一国の主として、キツく言っておく必要がある。

 テゾーロはビシッとシャンクスに指を差し、抑え気味にだが〝覇王色〟の覇気を放つ。雰囲気が変わったことに幹部達も目を見開いた。

「いいか〝赤髪〟! ぶっちゃけた話、おれはあなた達に妥協してもいいが世間体ってモノがある! いくら四皇とはいえ、ここで色んな意味で史上初の政府加盟国が海賊相手に引き下がったっていう実績作ると色々と面倒なんだ! おれの野望にも響くし、政府内での権限にも影響出るし、何より戦争は避けたい!! おれとしては赤髪海賊団(あなたたち)がこの国の法に従ってくれるのが一番都合がいいんだ!!」

「……そうだな。権力保持するならそうするのが一番だよなァ」

「拾って欲しいのそこじゃない!!!」

 納得するように頷くシャンクスに対し、テゾーロは両手を突いて崩れ落ちる。

 そう、シャンクスは良識ある人物だが、それはあくまでも海賊の中での話。世間一般の常識人とは別なのだ。

「妙に期待したおれがバカだった……レイリーさん、ギャバンさん、助けて……」

「ダッハッハッハ!」

「ギル兄、しっかりして」

 項垂れて暗い影を落とすその姿は、まさしく崖っぷちに立たされた人間。

 この場にはいない伝説の船員(クルー)に縋る彼の肩を、励ますようにアオハルがポンと手を乗せた。

「あーもう……わかった。店一つ貸し切りにさせるから、それで勘弁して」

「っしゃあ! 宴だ野郎共ォ!!」

 シャンクスの掛け声に、赤髪海賊団の面々は地鳴りのような歓声を上げる。

 ただ一人を除いては。

「……すまんな〝黄金帝〟。おれは反対だったんだ」

「ベン・ベックマン……」

 青いマントを羽織り、腰に片手用ライフルを差し、顔の十字傷が特徴の白髪の男が申し訳なさそうに声を掛けた。

 赤髪海賊団の副船長、ベン・ベックマン。冷静沈着な切れ者で、鉄壁の一味を率いるシャンクスを的確にサポートする海賊界きってのブレーントラストだ。

「だがお頭はあんたの国を荒らすようなバカはしないさ。おれが見ておこう」

「ありがたい……恩に着ます」

 赤髪海賊団、グラン・テゾーロに上陸。


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