ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
原作最新話、ついにジンベエも参戦してカイドウの飛び六胞が集結。今後が楽しみですね。
コロナに負けないよう、頑張ります。
「フンフフンフフンフフン♪ フンフフンフフンフフン♪」
ついに全ての議題を終えたテゾーロは、「ビンクスの酒」を鼻歌で歌いながら上機嫌に自室へと向かっていた。彼がここまでご機嫌なのは、一週間に及ぶ大会議で成果が上がったからだ。
まず決まったのは、銀の輸出の制限の実行。アラバスタでのダンスパウダーの一件で
次に、「人種的差別撤廃条約」の検討が確定した。これはテゾーロのオトヒメとの間で交わした約束をもとに、苛烈な迫害を受けていた魚人族との種族間の和解の実現としてテゾーロ自身が持ち出した議案だ。人種間の差別・偏見が横行している原因をテゾーロは「自らの無知」と唱え、共存の道を歩まねば人種差別を口実とした戦争になると力説。それに同意したバン・ドデシネ女王をはじめとした加盟国の女王達からの支持を受け、次回から本格的に議論することに決定。これをリュウグウ王国に伝えたところ、あまりの嬉しさでオトヒメが失神したらしい。
そして、台頭する革命軍への対応も決まった。数年前からドラゴンの思想を危険視していたが、その対応策として「反政府組織による破壊活動防止に関する条約」――略して「
(加盟国のトップはお花畑の脳かと思ってたけど、これなら革命もうまく行きそうだ♪)
嬉しくて仕方ないテゾーロは、ニヤニヤと笑いながら気分転換に屋上へ出た。
――が、目の前にいた人物を見て、一気に機嫌が悪くなった。
「お前は……!」
テゾーロは覇気を放って威嚇した。
短く刈り込んだ金髪とサングラス、フラミンゴの羽を思わせるようなコート……間違いなくあの海賊だ。
「フフフフフ! そう殺気立つな。お勤めご苦労様だな〝黄金帝〟……いや、〝新世界の怪物〟とも言うべきか?」
ドンキホーテ・ドフラミンゴ。
世界政府によって選ばれた、略奪を許可された海賊「王下七武海」の一角であり、〝天夜叉〟の異名として知られる王下七武海で最も危険な男だ。どうやら〝イトイトの実〟の能力で空中の雲に糸を引っかけ、空を飛ぶように移動して来たようだ。
「……今回の
「フッフッフ! なァに、巷でチヤホヤされる成金野郎の面を拝みたくなっただけだ」
白を切っているのか、それとも本心なのか……それすら悟らせないような不敵な笑みを浮かべているドフラミンゴ。
「残念だが、密会なら事前にアポを取ってもらわないと相手にしない主義だ」
「フフフフフ!! 今日はドレスローザの国王っつうより、一人の男として話を持ち掛けに来たんだ」
ドフラミンゴは右手の人差し指をテゾーロに向けた。
「なァ、テゾーロ……おれと手を組まねェか?」
「はい?」
――こいつ、今何つった?
呆然とするテゾーロに、ドフラミンゴは満面の笑みで言葉を並べた。
「おれは天竜人の牛耳るこの世界をブチ壊してェ。お前は天竜人の牛耳る世界を変えてェ。手段と目的は違えど、方向性は同じじゃねェか」
「……」
「手を組めば、おれはお前の資金を得られる。それも一度にとんでもねェ金額のな。そうすりゃあ闇取引で危険な賭けをせずに莫大なカネを収められるし、不要なシノギも削って無駄を省くことができる」
ドフラミンゴは海賊だが、その活動は海賊というよりも裏社会の
しかしテゾーロの能力は、これといった危険を冒さず莫大な利益を得られる。ゴルゴルの能力は、自らが黄金を生成してそれを換金するだけで人間一人が一生遊んで暮らせる可能性を持っている。その能力をあらゆる分野で活用すれば、リスクを回避したまま富と力を得られる。ドフラミンゴ自身も、それを成し遂げる力量を兼ね備えている。
「お前はおれのコネクションを利用できる。てめェの部下の情報屋〝剣星アオハル〟だけじゃなくスライスの野郎から裏の情報網を借りてるようだが、おれの情報網はそれ以上……新世界、いや全ての海に通じる! 非加盟国とのパイプもたくさんある、お前の経済活動にも良い影響を与えてくれるだろう」
テゾーロ自身、〝新世界の怪物〟の異名に恥じぬ影響力はある。天竜人のクリューソス聖や盟友兼好敵手のスライス、世経のモルガンズにブエナ・フェスタなど、表にも裏にも顔が利く面子と親交があるためコネだけでなく権力の行使でも相当なものだ。
しかしドフラミンゴは、はっきり言ってそれ以上だ。取引相手は海賊に限らず、マフィアのような犯罪組織や非加盟国を中心とした国家、果ては三大勢力の一角である海の皇帝達「四皇」である。特に四皇は事実上の海賊界の頂点であるため全てにおいて破格だ、下手なマネをすれば自身を破滅しかねないが、逆に言えば
いかに強大なテゾーロも、四皇と真っ向から対立すれば勝ち目は無い。しかし四皇側にとってもテゾーロの能力を利用したい考えはあるだろうし、何より〝鬼の跡目〟ダグラス・バレットとの「戦争」を避けている。一人軍隊のバレットを武力という面で見れば戦力として迎え入れたくても、彼を動かせるのは今は亡きロジャーのみ。むしろ四皇すら皆殺しにしそうな勢いの男を、いかに絶対的な強さを誇る四皇も仲間にしたがらないだろう。
そういう意味では、四皇とは一定の距離を置いているテゾーロにとって、四皇の力すら借りれるルートを持つ者と手を組むのは、利害の面で見れば悪い話ではない……ドフラミンゴはそう考えたのだ。
「……
「生憎、こっちも立て込んでる身なんだ。丁重にお断りする」
テゾーロはやんわりと断る。
――国家の信用に関わるんだよ、お前の場合は。
そんな副音声が聞こえそうである。
「おうおうおう、てめェあの合体野郎にはオープンなのにか? フッフッフ!」
「やめてくれないか、そういう表現。それにバレットとはあくまで雇用契約上の関係だ」
「おれを袖にするのに変わりねェってことじゃねェか」
「まあね」
バレットとドフラミンゴの違いは、思想の有無だ。
ロジャーの後継者と目されたバレットは、ロジャーを超えることが生き甲斐であり、ただひたすら自らのためだけに「強さ」を求める男だ。自らの生い立ちを割り切り、支配や権力というものに何ら興味を示さないストイックな気質の持ち主だからこそ、ある意味で信用に足る人物なのだ。
対してドフラミンゴはその真逆に位置する。天竜人という出自によって植え付けられた選民思想とそれを根源とした世界への憎しみを持ち続ける、権力に対する執着心が強く残忍で狡猾な男だ。しかも世界の破滅と混沌の新時代の到来をひたすら望む歪んだ一面もあり、テゾーロとは馬が合わないタイプの人物である。
世界最強の為に生きる元ロジャー海賊団と、世界の破滅の為に生きる元天竜人……同じ海賊でもどっちが厄介なのかは一目瞭然だ。しかし、ドフラミンゴは易々と諦める潔い輩ではない。
「お前はバカじゃねェ、オツムの出来は良いはずだ」
「……それでも断る、と言ったら?」
「その時はその時だ」
笑みを深めたドフラミンゴは、指をクイッと動かした。
次の瞬間!
ギィン!
三日月上の斬撃が、ドフラミンゴに襲い掛かった。
ドフラミンゴは〝見聞色〟で察知していたのか、どこか余裕そうにコートに覇気を纏わせ防いだ。
「フフ……フッフッフ! 何者だ? 中々強力じゃねェか」
ドフラミンゴの呼びかけに応えるように現れたのは、殺気立ったハヤト。
海賊達の急襲によって父と母を殺された過去を抱えた彼は、慕っている上司に手を出そうとする海賊に怒り心頭なのか瞳孔が開いている。
「ほう、〝海の掃除屋〟か。海賊狩りのスペシャリストが、いきなり
「失せろ、海のクズが……! お前のようなゴミのせいで、おれの愛する〝海〟が汚れるんだっ!!」
「フッフッフ! えれェ言われようだ…………粋がってくれるじゃねェか、おい」
ゴゥ!
ハヤトの言葉に苛立ったのか、お返しと言わんばかりに〝覇王色〟で威圧するドフラミンゴ。ハヤトは臆さず、愛刀の刀身に覇気を纏わせるが――
「ハヤト、やめろ」
「!? だが――」
「
テゾーロの睨みに、ハヤトは覇気を解いて渋々刀を納める。
しかしその闘気は失せておらず、鋭い眼差しでドフラミンゴを射殺さんばかりに見据えている。
「フフフフ……躾は行き届いてるようだな」
「……あんまり他人の神経逆撫でするような言葉並べるんなら、黙らせようか? 〝ジョーカー〟」
「っ……!」
指先から火花を散らすテゾーロに、ドフラミンゴは初めて表情を歪めた。
〝ジョーカー〟とは、ドフラミンゴの闇の
しかし――ドフラミンゴはすぐさま不敵な笑みを取り戻す。テゾーロにはそれができないと確信しているかのように。
「フフ……フフフフフ! まァいいさ、豪傑共の〝新時代〟はもう目の前だ。お前らがその波に乗れるか、楽しみにしてるぞ。フッフッフ!」
ドフラミンゴはそう言い残し、イトイトの能力で飛び去っていった。
「……討ち取れなかった」
「やめろ、ドフラミンゴに限っては色々厄介なんだぞ。そんな物騒なマネは止せ……少なくとも
テゾーロはハヤトを諫める。
今は時期ではない。彼と敵対し、抗争に発展し、勝敗が決しても、世界政府が圧力をかける可能性がある。海軍がテゾーロに同調し動いても、結局は世界政府の「表の顔」に過ぎず、裏で厄介な連中がテゾーロに色々と押し付けてくるだろう。
ならば、ドフラミンゴを潰すには世界政府が失態を隠すことを懸念し、世界秩序を守る者としての責任感は非常に強い味方が必要だ。
「……いつか出番は来る。それまでに、ドフラミンゴの力を少しずつ削がなきゃならない」
「……できるのか?」
「できるのか、じゃないよ。やるんだよ」
テゾーロは次の標的を定めた。
政治が正義を歪めるのなら、その政治で悪を捻じ伏せればよいのだから。