ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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4月最初の投稿です。


第132話〝世界会議(レヴェリー)の裏で〟

 世界会議(レヴェリー)開催から三日が経過した。

 議論は例年以上に白熱し、国家間のイザコザも無く平和路線に乗っている。テゾーロの目的である銀の産出の制限には多くの国王からの反発はあったが、銀の輸出制限に関しては肯定的な王が多かったため、方針は大方テゾーロの計画通りと言えるだろう。

 しかしそれ以上に話題になっているのが、反政府組織「革命軍」の台頭だ。革命軍への警戒は前回の世界会議(レヴェリー)でも議題として挙がっていたが、ついに民衆によるクーデターや革命によって国家転覆が次々と引き起こされる事態となった。

 革命軍にどう対処するか――各国の国王達は一部を除いて積極的に意見を交わすが、結論は出ず持ち越しとなった。

 そんな中で、グラン・テゾーロ内部に潜入する若者達がいた。

 

 

「テゾーロの自室に、何かヒントがあるはずだ」

「あんまり突っ走らないでよ、サボ君……」

 グラン・テゾーロ内部を駆ける二人の革命家。

 一人はゴーグル付きのシルクハットを被って青い上着に袖を通した、左目付近の火傷が特徴の金髪の青年。もう一人はニーソックスやフリルがついた服装で身を包み、サングラスをつけた赤いキャスケットを被っているオレンジ色のショートヘアーの女性。

 革命軍の参謀総長であるサボと、魚人空手の師範代である女性兵士のコアラだ。

「ドラゴンさんから色々と話を聞いてはいたが……」

「うん、だからこそ危険を冒してこのタイミングでここへ来てるんでしょ?」

 二人の任務は、テゾーロの目論見を明らかにすることだ。

 大富豪にして一国の主である彼は「革命」を謳い、世界を変えることに尽力している。その手段は武力ではなく政治とカネで変える方針であり、血を流さずに新しい時代への扉を開こうとしている。ゆえに革命軍も政府側の人間であるテゾーロに一目置いていた。

 そんな中で、ある出来事をきっかけにテゾーロに懐疑的な声が続々と上がった。ダグラス・バレットとブエナ・フェスタが関わるようになったのだ。海賊王の直系の猛者と黒い噂が絶えない要注意人物と関係を持ったテゾーロを不審に思い、そこでスパイを送りこんで真意を暴こうという作戦を練ったのだ。

 ちなみにサボが潜入することになった理由は、グラン・テゾーロの戦力にある。一度はギャンブラーとしてレイズ・マックスを送りこもうという話があったが、財団時代からの付き合いである彼の重臣達の武力に加え、あの〝鬼の跡目〟バレットとの万が一の遭遇を危惧し、戦闘力の高いサボが適任とドラゴンは考えたのである。

「〝剣星〟アオハル、〝海の掃除屋〟、〝ボルトアクション・ハンター〟………テゾーロの下に付いてる奴らと今戦うのは厳しいな。せめて一人で済ませたい」

「誰とも戦わないのが一番でしょ! もうっ!」

 そんな会話を交わしている、その時――

「……ここで何してんだ? お前ら」

「「!」」

「このタイミングで潜り込むってことは……さては巷を騒がす革命軍だな? しかもその覇気、幹部格と見受けるが」

 袴を履いた和装の男が、怪訝な表情で二人を見つめていた。

「サボ君、あの人は……!」

「テゾーロの重臣の一人……剣豪ジンか」

 サボとコアラは一筋の汗を流す。

 ジンはかの百獣海賊団で厄介になっていた剣客であり、革命軍の軍隊長ですら「戦闘を避けるべき相手」と名指ししている程の男だ。そんな相手に見つかったとなれば、これ以上の詮索は困難を極めるだろう。

 コアラが必死に打開策を考える中、サボは平然とジンに声を掛けた。

「……おれ達は喧嘩を売りに来たわけじゃない。調べ事があるだけだ、どいてくれないか?」

「どこうがどくまいが、過激派組織に道を譲っちゃ今はヤベェだろ」

 もっともな切り返しに、サボは顔を引きつらせた。

 ここは世界政府が初めてマリージョア以外での世界会議(レヴェリー)開催を認めた国だ。いつどこにサイファーポールの工作員が潜んでいるかわかったものではない。開催国が革命軍に屈したなどと報じられればグラン・テゾーロの信頼はガタ落ちだ。〝新世界の怪物〟と表立って争う方針でない以上、互いに下手なマネはできないのだ。

「……だからおれとしちゃあ、そっちが何事もなくとっとと帰ってくれた方がいい。そっちの方が旦那も納得してくれる」

「だろうな。だがこっちにも都合があるから引くわけにもいかねェんだ」

「仕事は手を抜かない主義だぞ、おれは……」

 シャン、と音を立てて抜刀する。

 ジン自身、異文化や海外との情報のやり取りを拒絶する鎖国国家である祖国を出奔したため、革命軍がどういう思想を掲げて活動する組織なのかは知っている。理不尽極まりない今の社会情勢を変えようと、政府によって捕らわれた市民・囚人や奴隷労働を強いられている人達の解放を行い、民衆を導き世界政府と真っ向から争う姿勢を見せる強い信念のある組織と彼は認識している。

 しかしジンの本職は用心棒(ボディーガード)――要人(テゾーロ)の身辺の安全を確保し、誘拐、暗殺などの脅威から守ることだ。たとえ悪政・圧政を敷く国々にクーデターや革命を引き起こし、世界政府によって苦しめられる人々を救っていても、相手が自分が護る対象であるのならば排除せねばならない。それが用心棒だからだ。

「おれはあんたらの思想信条に口を出す気はねェ。だが世間じゃテロリストとして認識されてる以上、素性を理解したとしても放っておくわけにもいかねェ」

「……()る気なのか?」

「言っただろ? おれは用心棒だ、たとえ旦那がどんな悪漢でも護らなきゃならねェのさ」

 用心棒としての矜持を語り、譲る気がないことを伝える。

 その意を汲み取ったサボは、シルクハットを被り直す。

「……やるしかねェか」

「サボ君! 戦闘は避けるべきって――」

「大丈夫だ、気絶させるだけさ!」

 猛烈な速さでサボはジンに肉迫。対するジンは一切動じず、刀身に覇気を纏わせた。

「「竜爪拳」……」

「「阿修羅一刀流」……」

 サボは人差し指と中指、薬指と小指を合わせ、竜の爪を思わせる形に構え覇気を纏わせる。それに呼応するかのようにジンも覇気を纏わせた刀身に、轟轟と燃える炎を帯びさせる。

「〝竜の鉤爪〟!」

「〝()(しゃ)(こう)()〟!!」

 

 ドォン!

 

 拳と剣が覇気を纏って激突し、周囲に稲妻のような衝撃波と爆炎が迸る。

 しかし――

「ぐわっ!?」

「サボ君っ!?」

 サボは弾かれ、大きく吹き飛ばされる。

 覇気の練度も、身体能力も、ジンが上回っていたのだ。

「いい筋だが……まだまだだな」

 ジンは刀身に炎を帯びさせた状態で特攻し、燃える剣による凄まじい斬撃を放つ。

 サボは背中に背負った鉄パイプを手に取って覇気を纏わせ防御するが、斬撃は防げても熱は伝わり、受ける度に鉄パイプが熱くなり始めているのに気がつく。

 このままでは熱伝導で鉄パイプが持てなくなる。しかし刀剣をベニヤ板のようにへし折ることができる〝竜の鉤爪〟で反撃しようにも、自分を超える練度の覇気を纏った刃を潰すのは困難を極める。普通に考えれば圧倒的に不利な状況下であることを察し、サボは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

「もう一度言う。退け……子供を斬ると寝覚めが悪くなる上に酒も飲めなくなる」

「っ……!」

 このままではマズイ――コアラがそう思ってサボを助けようと拳を握り締めた、その時だった。

 

 ボバッ!

 

「「「!?」」」

 

 不意に、三人の足元に黄金の筋が走った。

 筋は三人の足に絡みつき、ツタのように巻き付く。超硬度の黄金の拘束に、さすがのジンとサボも身動きが取れなくなる。

「これはまた珍しい客が来たな……」

 男の声が響き渡る。

 声がした方向へと顔を向けると、そこに彼はいた。

「初めまして、革命軍のサボ参謀総長。私がグラン・テゾーロの主であるギルド・テゾーロと申します」

 営業スマイルでテゾーロは口角を上げるが、一同はその容姿に絶句した。

 オールバックの緑髪はボサボサになり、能力で造ったであろう黄金の松葉杖を突いている。顔には殴られた痕がはっきりと見え、何かの事故か喧嘩沙汰に巻き込まれたように見える。――というか、そうにしか見えない。

「あんた……何があった?」

「海賊王の後継者にちょっと付き合わされた結果さ」

 困ったように笑うテゾーロに、一同は察した。

 

 ――バレットの無茶ぶりに振り回されたんだな、あの人。

 

 

           *

 

 

 国王直々の仲裁によってその場はとりあえず和解し、サボとコアラはテゾーロに最上階の天空劇場へと案内された。

「さて、君らの目的は何なのか聞こう」

「……率直に言う。何を企んでる?」

「何を、とは?」

「〝最悪の戦争仕掛け人〟ブエナ・フェスタと手を組んだんだ、何の考えも無しにやるとは思えない」

 サボはストレートに問い質す。

 裏社会では情報屋や武器商人とも黒いつながりのあるフェスタ。一時は資金難で祭り一つ開催できない程に落ちぶれたが、それでも裏社会の帝王達との人脈はあった。その為、裏の顔を持つあらゆる企業家と密接な関係を持っている。

 表があれば裏もあるのが渡世だが、その中でも際立った影響力を誇ったのが〝新世界の怪物〟ギルド・テゾーロ。しかしテゾーロは政界進出を果たしてはいるが、その根本は革命軍の思想によっているため、戦争を仕掛けて熱狂を起こすことを生き甲斐とするフェスタとは本来馬が合わないはずなのだ。

 それなのに、なぜ――それが聞きたかったのだ。

「……ぶっちゃけて言えば、ウチの興行に知恵を拝借させていただきたいだけだ」

「それだけじゃないだろう」

「それだけかもしれないぞ? 現に彼のおかげで我がグラン・テゾーロの興行は全て安定した売り上げを上げている」

 腹の探り合いとなり、一触即発になる。

 が――

「……まあいい、特別に真の理由の一つ(・・・・・・・)を教えよう」

「何?」

「武力以外のチカラでも変えられるモノは変えられる………それを証明するためだ」

 テゾーロはサボとコアラを双眸で見据えた。

 格差社会、人種差別、奴隷問題……世界政府の統治の「裏」は混沌と腐敗に満ちており、それを変えるために民衆は国家と争い、多くの血を流している。そんな惨状に対し、世界政府中枢は内政干渉は原則禁止として一切手を差し伸べない。

 そんな破綻した世界を、テゾーロは生まれ変わらせたいというのだ。

「テゾーロ……」

「お前らの主義主張はわかる――この世界に対する憤りと不満はもっともだし、それぐらいおれも持ってる。だがお前らのやり方は、おれ達の(・・・・)長年の努力を無駄にしかねない。おれが一からここまで来るのに、どれだけ必死になってどれ程の時間がかかったことか」

 この世界で転生し、多くの仲間・敵に会って、底辺から成り上がってきたテゾーロ。

 その道中には救える命もあれば失った命もある。

「おれはおれのやり方で世界政府を変え、天竜人を〝本来の姿〟に戻そうと思っている。そんなおれを、お前ら革命軍はどう思ってんだ?」

 テゾーロの言葉に、サボとコアラは黙り込む。

 天竜人の極悪さは、長年のうちに伝承・根拠が歪んで権力が暴走した結果だとテゾーロは考えている。現に聖地マリージョアのパンゲア城の中心に誰も王位につかないことを意味する「虚の玉座」を設けて遺し自戒するなど、設立当時は「高貴なる者に伴う義務(ノブレス・オブリージュ)」を重要視していた可能性も否定できない。

 それを理解してるからこそ、テゾーロは世界政府を内側から変えることであるべき姿を取り戻そうと考えているのだ。だがいらぬ者を淘汰する世界を変えようという根本的思想には似ている革命軍は、武力で世界政府――厳密に言えば世界政府そのものではなく天竜人――を打倒しようとしている。武力行使ではなく交渉やカネで物事を進めたがるテゾーロにとって、革命軍のやり方はあまり好ましくないのだ。

「――おれは、未来を作ってるんだ。次の世代の世界が、もっとよくなると信じてな。それでも世界を相手に戦争吹っ掛けるってんなら、おれはお前らを持ちうる力を全て使って止める。それがこの世界に変革をもたらそうとした者同士のケジメだ」

「「……」」

 テゾーロは革命家ではない。しかしその秘めたる想いは、未来を変えるべく奔走する革命家そのものといえた。

「……話は以上だ、指名手配犯達。早く逃げた方がいい……〝鬼の跡目〟に攻撃されても責任は取れないぞ」

「……これ以上は口を利く気はないようね」

「それはそうさ、情報漏洩は予測不能の危機を呼ぶからな」

 

 

 グラン・テゾーロ上空。

 テゾーロと別れた二人は、革命軍〝北軍〟軍隊長のカラスの能力で烏の群れに乗っていた。

《……奴はどうだった?》

 拡声器越しにカラスは尋ねる。

「悪い人間じゃないのはわかったわ。でも……」

《でも?》

「いつか衝突するかもしれない。〝同じ核〟でも、あいつとは相容れない」

 二人の言葉に、カラスは複雑な表情を浮かべた。

 テゾーロは根本的には革命軍と似た思想の持ち主で、貧富の差が激しい格差社会と弱者を淘汰する世界への不平不満を胸中に秘めているようだ。しかしそれを変えるやり方に違いがあり、テゾーロは革命軍のやり方に懐疑的なようだ。

《気の合う相手だと思っていたが……そうはいかなかったか》

「……ひとまずバルディゴに戻ろう。ドラゴンさんに報告だ」

 革命家達は、白土の砂漠にある総本部へと帰還する。

 一方の実業家も、明日の会議に向けて準備を整えつつ呟いた。

「…………争いたくはないんだよ、君達とは」


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