ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
新年最初の投稿です。
聖地マリージョア。
テゾーロは護衛と共にパンゲア城を訪れ、ある人物を待ってたのだが……。
「なぜおれを護衛に呼んだ」
護衛……というよりも同行者がまさかのダグラス・バレット。
かつて世界を震撼させた〝鬼の跡目〟が聖地マリージョアに足を踏み入れたことで、マリージョアに勤務している海兵達や騎士達はその威圧感と覇気に震え上がっていた。
「仕方ないでしょう……仕事とはいえ天竜人に会うのを嫌がってるんですから。それに一人で行くと周りが心配するんですよ。何この二重基準」
「サイファーポールの男がいるだろう」
「サイにはサイの仕事があるんですよ。ああ見えてあいつはおれの次に忙しい立場なんで」
ウチは育ち盛りですから、と呑気に呟きつつも頭を抱える。
するとそこへ、鎧で全身を包み槍を手にした騎士を連れて壮年の男性が姿を現した。高位の人間ならではの威厳ある佇まいは、覇王色の覚醒者とは違った意味での王の風格を感じ取れる。
「おお、久しぶりじゃないかテゾーロ君」
「……さすがに老けましたね、クリューソス聖」
「そうだな……君は初めて会った時と比べると王のような風格が見えるようになったな」
壮年の男性と対等に話すテゾーロだが、周囲の役人や近衛兵はざわついており、中にはビクビクと緊張したり冷や汗を流している者もいる。
テゾーロの話し相手は、世界貴族クリューソス聖。傍若無人の限りを尽くす天竜人の中では際立って思慮深く常識的な思考を持っている人格者で、テゾーロとは財団時代からの旧知の仲である。
「まさか国家樹立を成し遂げるとは……君という人間にはいつも驚かされる」
「出世の神様とは言い得て妙でしょう?」
「ああ、全くだ」
久しぶりの再会に互いに笑みを浮かべ楽しそうに会話をする。
しかし会話の内容では不敬とも解釈されかねない内容であり、他の天竜人だったら激昂して手を上げてしまうレベルだ。天竜人の中でも珍しい人格者であるクリューソス聖と付き合いがあるゆえの光景といえよう。
「……そちらの御仁は、まさか……」
「〝鬼の跡目〟ダグラス・バレット。ウチの国の軍隊の客将で、立場上は顧問みたいなもんです。私が知る限り、次の時代で世界最強となる男ですね」
かつてはロジャーの後継者と恐れられた男がいることに、クリューソス聖も度肝を抜いた。
他者をほとんど信頼しない文字通りの孤高主義である男が、テゾーロとなぜ一緒にいるのかは想像するしかないが、仲間という密接な関係よりも利害や目的が一致したビジネス的な関係があるのだろう。
「……おい、テゾーロ」
刹那、バレットが口を開いた。
その顔には思わず後退ってしまう程の威圧的な笑みを浮かべ、クリューソス聖を指差した。
「こいつを殺せばバスターコールなんだよな?」
野太い一言で、その場が一瞬で凍りついた。
天竜人が横暴な振る舞いをしていても被害者から報復されないのは、危害を加えられたら海軍本部大将率いる軍艦10隻を派遣できるその絶対的権力にある。しかしバレットはかつてバスターコールに敗れた身――厳密に言えばそれに加えて今まで倒してきた海賊達からの急襲もあったのだが――であり、実際のところ世界政府の武力の象徴にリベンジを果たしたい気持ちがくすぶっている。
世情に興味が無い上、己の野望の実現にひたむきなバレットにとって、天竜人がどうなろうが関係ない。むしろその立場・権力を行使して強者を呼び寄せてくれるなら大歓迎で、世界最強になれるなら権力による理不尽に苦痛など微塵も感じないのだ。
「やめろよ、そういうシャレにならない言葉は! マジで言わないでください、違法ではないけど不適切ですから!」
冗談なのか本気なのかわからない爆弾発言を放ったバレットを諫めるテゾーロ。
ぶっちゃけた話、テゾーロにとっても天竜人は富もうが滅ぼうがどうでもいい存在でしかない。善い人間がいれば悪い人間がいるように、天竜人にも傍若無人な者がいれば良識ある者もいるのは百も承知ではある――が、凄惨を極めた数々の所業への「償い」を果たしていないのも事実。
民衆からの憎悪を一斉に受けようと、どんなに惨い最期を遂げようと、因果応報と割り切ればそれまでのこと。クリューソス聖のような一部の天竜人には心から向き合っているが、大抵の天竜人には表面的な付き合いしかせず、いつでも切り捨てる姿勢なのだ。
それに財団時代からテゾーロを支えてきた歴戦の猛者達も、皆揃って天竜人との謁見を拒みやすい。特に天竜人の暇潰し同然の存在だった地下闘技場という生き地獄を経験したタタラにとっては敵も同然で、憎悪こそ抱いてはいないが
いずれにしろ、グラン・テゾーロの関係者は天竜人に近くても好意は遥か彼方に消え去っているのである。
「今それやったら「こっちの
バレットを制止しつつも、あくどい笑みで意味深な言葉を告げるテゾーロ。
国際問題確定の会話に気が気でない政府の人間達なのだが、当のクリューソス聖は朗らかに笑っていた。
「ハハハ、まァ〝鬼の跡目〟と手を結んでいるのだから過激な発言が来るとは思っていたが」
「……では、早速本題に」
「そうだな。では付いてくるといい」
クリューソス聖に案内され、テゾーロとバレットは巨大な玉座がそびえる大広間へと足を踏み入れた。
聖地マリージョアの中心に位置するそれは、玉座の手前に19本、そこまで伸びる階段に無数の剣が突き刺さっている。背板には4つの海と〝
「さすがに本物は違うな…………!」
「
「アレは誰も座ってはいけない玉座だよ」
「あァ?」
クリューソス聖は「
「
もっとも、決して覆すことのできない絶対君主の天竜人が君臨している時点でその意味はかなり薄れてきているのかもしれないが。
「何人も唯一頂点の存在となることを求めず、互いに対等に和をなす……そういうことか?」
「その通りでございます」
「……くだらねェ」
バレットは呆れたように鼻で笑う。
この海は戦場であり、この世界は力が全てだ。生き残るのも全てを手に入れられるのも強い者だけであり、弱ければ全てを失う。強さこそが生きるということで、弱ければ負け、負ければ死ぬ。――それがバレットの信念であり、戦場の英雄から
それは何も海賊や軍人の話ではなく、国家も同様だ。巨大な力に抗いきれる軍事力を持たないから他国に滅ぼされるのだ。平和だとほざいて軍事力の向上を重視しないから、有事の際に何もできず悲劇に遭うのだ。何かを護るのなら、それに見合った力が無ければ無意味なのである。
「テゾーロ、〝誓い〟をしてくれ。剣を突き刺し――」
「剣はいらないよ」
テゾーロはクリューソス聖が渡した剣を放り投げて能力を発動させ、あっという間に黄金の長剣を造り出す。そして一言も発さず階段を上がり、不敵な笑みを浮かべながら黄金の長剣を強く突き刺した。
――ドンッ!
空気が震える。ビリビリと衝撃にも似たそれは大広間全体に伝わり、バレットを除いた全ての者が地震のような錯覚を一瞬だけ覚えた。
「……これが怪物の〝誓い〟だ。おれはおれのやり方で世界を壊し生まれ変わらせてやる」
表も裏も、全ての世界を敵に回してもやり遂げる。支配構造を打破し、新しい世界へと導くために。
後戻りはもうできない。〝新世界の怪物〟は止まらない。とどめようのない〝
誓いを終えたテゾーロは階段を降り、クリューソス聖と別れの挨拶を交わした。
「もし何かあれば、いつでも私が
「勿体無いお言葉……感謝します」
テゾーロはクリューソス聖に一礼し、バレットと共に聖地マリージョアから出てシャボン玉で飛ぶリフト「ボンドラ」の港へと向かう。
その最中、テゾーロはふと呟いた。
「あの文字を読んだら、どんな反応するんだろうな……」
「何のことだ」
「いや、ちょっとした名言を彫っといたのさ」
テゾーロ曰く、自分が造り出した黄金の長剣の刃に文字を彫っておいたという。
その文字は「Peace is the supreme ideal of the human race.」――ドイツの詩人・ゲーテが遺した言葉で、「平和は人類最高の理想である」という意味だ。テゾーロが前世の授業で学び知った言葉であり、今世の野望である革命の意志を示すものでもある。
「――五老星の〝もっと上〟へのメッセージさ。栄枯盛衰は世の習い……〝
「……」
「つまりはまあ、世界に喧嘩を吹っ掛けるのは今じゃないってことです。殴り込みの時が来るまで
*
後日、パンゲア城。
表向きには存在そのものが秘匿されている、世界最高権力とされる五老星をも従わせる事実上の〝世界の王〟イムは、五老星との謁見を終えて
「……?」
ふと、イムは気づく。
視線の先には、先日テゾーロが突き立てた件の黄金の長剣。刃には「Peace is the supreme ideal of the human race.」と彫られているのだが、実は反対側には別の言葉が彫られている。
それは、玉座からではないと見えない文字。言い方を変えれば「
「……」
刃に刻まれた文字を、イムは玉座に座ったまま目を凝らして確かめる。
――Pride goes before a fall.
「……!」
その意味を理解したイムは、五老星にすら悟られない程の静かな怒りで拳を握り締めた。
言葉の意味は――