ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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第125話〝大金庫「テゾーロプレゼンス」〟

 テゾーロがバカラを仲間に加えてから、情勢は大きく変わった。ラキラキの能力(チカラ)の影響か、運気の流れが劇的に変わり、あらゆることが思い通りに運ぶようになったのだ。

 グラン・テゾーロでは国の政策として様々な事業を展開しているが、その中でも興行、いわゆる娯楽事業がテゾーロ本人も引く程の収益を上げたのだ。プロの興行主である祭り屋(フェスタ)の経営手腕も相乗し、娯楽はグラン・テゾーロの経営基盤を盤石のものにし、その収益が財政を支える大黒柱となったのは言うまでもない。

 日に日に金を生み、それに呼応するように発展するグラン・テゾーロ。テゾーロは〝新世界の怪物〟以外にも〝黄金帝〟という二つ名で呼ばれるようになり、ギルド・テゾーロは世界中の人々が一度は聞いたことがある大富豪として君臨することとなった。

 

 

「ぎゃあっ!」

「うぐっ!?」

 白昼のバーデンフォードで、男達の苦痛に歪んだ声が響く。

 彼らを捕らえたのは、テゾーロの優秀な部下である元海軍本部准将のシードだ。今の彼は黒い軍服を着ており、その左腕には青い文字で「GF」と書かれた腕章を嵌めている。海軍とは違った軍服には、いくつかの勲章が付けられている。

 財団解体後、彼は別の役職に従事するようになったらしい。海軍の精鋭として活躍した実力は健在で、ものの数秒で男達をのしてしまっている。

「まさか「ガルツフォース」がこんな形で復活するとは……バレットの思い入れがここまで強かったなんて」

 グラン・テゾーロ国防軍「ガルツフォース」――

 グラン・テゾーロ及びその周辺海域の防衛と治安維持を目的とし、テゾーロに加えて元軍人のシードとバレットが創設した警察機構を兼ねた軍隊である。かつての財団構成員と移民で構成されており、二千の兵力に加えてテゾーロのコネで手に入れた海軍の豊富な武装によって強力な軍隊に仕上がっている。

 ガルツフォースは元々バレットが属していた軍事国家ガルツバーグの軍隊であり、言わば〝鬼の跡目〟の強さの原点である。そのシステムもオリジナルのガルツフォースと同様で、最も活躍した者に略綬(メダル)を与える褒章制度である。シードは海兵時代と財団時代の活躍からバレットに引けを取らぬ数の勲章を付けており、ハヤトも〝海の掃除屋〟としての海賊撲滅活動を高く評価して略綬(メダル)を付けている。

 ちなみにシードは将軍、ハヤトは将軍補佐の地位に就いており、バレットはテゾーロとの契約通り客将として一種の軍事顧問を務めている。

「それにしても、最近やけに泥棒が増えたなァ」

 シードは溜め息を吐く。

 ダグラス・バレットが再び海に解き放たれてから、海賊達の数は減少傾向にあった。鯨型潜水艦「カタパルト号」で大海を突き進むバレットは、行く手を阻むあらゆる強者達をたった一人で薙ぎ倒していった。その中には新世界で名を馳せる大海賊や四皇の傘下勢力もおり、世界の勢力図を荒らしに荒らし回っているのが現状だ。

 その反動によってか海賊以外の犯罪者による事件が相次いでおり、バーデンフォードでは大富豪のテゾーロの御膝元ゆえに強盗事件が多く発生している。その原因はテゾーロが保有する大金庫「テゾーロプレゼンス」にある。

 テゾーロプレゼンスにはギルド・テゾーロという男の半生の全てが保存されているといっても過言ではなく、財団時代の重要書類と莫大な金融資産が入っている。泥棒達が目を付けているのは後者の金融資産の方で、業界では「テゾーロマネー」と呼ばれ世界中の泥棒が狙っている。その額は一千億ベリーを超えるという噂であり、それを盗み出せた者は泥棒としての最高の栄誉を手に入れられると勝手に位置づけられている。

 そしてテゾーロプレゼンスには、あのラフテルの永久指針(エターナルポース)が眠っている。存在自体が世界中をひっくり返す代物ゆえに裏社会でも噂は流れておらず、この海賊王(ロジャー)の遺産を知る者はごく少数だ。ぶっちゃけた話、ラフテルの永久指針(エターナルポース)を盗まれた方がヤバイので金はいくらでも盗んでも気にしないのがテゾーロの本音である。

 とはいえ、犯罪者を野放しにするのは法治国家としてよろしくないので、テゾーロはシード達に警察権も委託しているのである。

(夢やロマンを追い求める昔気質の海賊は少なくなった。〝白ひげ〟や〝赤髪〟のような質の海賊は絶滅危惧種だと、この海の未来は暗そうだなァ)

 強盗を捕縛したシードは、複雑な表情で遠くに見える海を見据えた。

 昨今の海はロジャーが生きていた頃とは大きく様変わりしている。腕っ節と信念が物を言った過去(むかし)の海とは違い、次世代の海賊達は仁義よりも謀略・取引に重きを置いている。すなわち謀略・取引を主体とした立ち回りが、世界で力を持とうとしているのだ。

 その証拠に、最近は反政府組織――俗に言うテロ組織が増加して政府加盟国で暴れているという。それも革命軍とは違って政府打倒を称して凶悪犯罪を重ねる勢力の方が増えており、政府は「エセ革命軍」と見なし撲滅するよう加盟国に呼び掛けている。そのバックには闇の世界の帝王達や大海賊、さらには政府非加盟国が絡んでおり、巨額の闇資金(ブラックマネー)が動いているという。

「ロジャーの仕掛けた祭りは、これで限界だなァ」

「ブエナ・フェスタ……」

 黄昏れるシードの元に、〝祭り屋〟ブエナ・フェスタが現れる。

 彼はテゾーロのプロデューサーとして活動し、グラン・テゾーロの興行を主催する敏腕興行主として手腕を振るっている。海賊稼業を兼ねていた若き日よりも莫大な富を得られるようになったことで、かつての羽振りのよさを取り戻せて万々歳な彼はシードに告げる。

「祭りとは、〝熱狂〟だ……人を動かし、人に伝わり、人に受け継がれる! だが世間というモンは熱しやすく冷めやすい。近頃じゃあ〝ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)〟の存在を信じず、幻想に喧嘩売る度胸もねェ三下が増えてきてるらしいじゃねェか」

 ロジャーが全世界の人々を海へと駆り立てた〝大海賊時代〟は、フェスタから見れば「海賊王からの挑戦状」みたいなものである。海を制覇した伝説の海賊王が、一度は手に入れた〝ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)〟を巡って世界中の人々に喧嘩を売った……世界を揺るがし、時代を変える程の〝熱狂〟を生み出したのだ。

 しかしその〝熱狂〟は、ついに終わりを迎えつつある。〝ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)〟を、夢やロマンを追い求める海賊達が少なくなったのだ。現実主義な海賊が幅を利かせれば、夢の宝より足元の利益を追求するようになるのは明白だ。

「ロジャーの時代は終わりを告げる……世界中を熱狂させた大海賊時代は、もう過去のもの。容易じゃないねェ」

「テゾーロさん……」

 そこへテゾーロが現れる。彼の手には古びた小さな金庫がある。

「おう相棒! 長旅だったじゃねェか」

「まァね。ウォーターセブンまですっ飛んでいったから」

 テゾーロは金庫から中身を取り出す。入っていたものは、冊子だった。

 それは何かの設計図のようで、遥か昔の代物だからか、紙は傷んでおり少し乱暴に扱えばすぐに破れてしまいそうだ。そして冊子の一番上……表紙には冊子の中身の名が記されていた。

 

 ――〝PLUTON〟

 

 〝神〟の名を持つ、世界を滅ぼしうる三つの古代兵器の一つ・プルトン。

 かつてウォーターセブンで作られた造船史上最悪の戦艦(バケモノ)で、一発放てば島一つを消せる威力を持つため、伝説の船大工トムをもって「存在させれば世界が滅ぶ」と称する程の代物だ。

 つまり、この設計図があれば世界を滅ぼす武力を復活できるという……!

「古代兵器プルトンの、設計図……!? そんなモンが……!!」

「トムさんが「あんな危ないモノいらねェ」って言ってたからな。だからっつって万が一復活したら対抗しようがねェから、最終的におれに譲渡することになった。まァ権力あるし武力もあるし、譲渡先ならもってこいだわな」

「テゾーロさん、あなたは何を成そうと……?」

 この世の全てとされる〝ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)〟への道標であるラフテルの永久指針(エターナルポース)だけでなく、島一つを跡形も無く消し飛ばす恐ろしい戦艦の設計図を手中に収めたテゾーロ。その気になれば世界を意のままに操れる程の、強大過ぎる影響力を秘めた(せん)の時代の遺物を集め、何を企んでいるのか。

 シードはテゾーロの野望が常人では実行できないような恐ろしさを秘めているのではと想像し、一気に全身に鳥肌が走り汗を流し始めた。そんなシードに対し、フェスタは真逆の反応をしていた。 

「ラフテルの永久指針(エターナルポース)に加え、神の名を持つ古代兵器(プルトン)設計図(ブループリント)……!! よくこんな代物を手に入れたな……おれの目に狂いは無かったんだ!! やっぱりおめェは最高だぜ!!!」

 フェスタは久しぶりに狂喜した。

 ギルド・テゾーロという強力な後ろ盾を得た彼は、まさに水を得た魚のごとく。己が最も欲する熱狂(マツリ)を実現できることを確信し、心が燃えるような感覚に武者震いした。

 ロジャーが遺した全てを叩き潰し、大海賊時代を超える熱狂を起こす。比するモノのない存在ゆえに死してなお人々を酔わせる伝説を自らの手で倒すのは、〝祭り屋〟としての長年の夢であった。

 一度は出し抜かれたが、今度こそは――

(見たかロジャー……お前が仕掛けた大海賊時代(マツリ)は、おれが終わらせる!! 裏社会の帝王達も、天竜人も、全てをブチ壊す力が今のおれにある!! 次の時代は、新時代は〝最強の熱狂(スタンピード)〟で決まりだ!!)

 

 

           *

 

 

 時同じくして、グラン・テゾーロにそびえ立つ「THE() REORO(レオーロ)」の内部に設置された「外務省」では、政府とのパイプ役を兼ねるサイがある人物と電伝虫で会話をしていた。

《おれも老いたもんだ、ちょっと運動しただけで疲れるようになっちまった。年は取りたくねェ》

「60代後半で筋骨隆々な人が何を言うんですか、ゼファー元大将。運動と言っても、どうせ現役の大将の誰かの稽古でもしたんでしょう?」

 サイの電話相手は、伝説の元海軍本部大将〝黒腕のゼファー〟。軍の教官として後進の育成に情熱を注ぐ生ける伝説であり、数多くの勇敢かつ屈強な海兵達を輩出する日々を送っているロジャー時代の生き証人だ。

 現在は心肺機能が低下してきているため長時間の運動を続けるには吸入器を使った薬物投与が必要だが、武装色の達人として恐れられた非常に練度の高い覇気は健在であり、全盛期には及ばずとも現役の大将と真っ向勝負で渡り合える実力を持っている。

「それで、私に何か用ですか?」

《お前に調べてほしいことがある。できればテゾーロの奴にも伝えてほしい。アラバスタでの話だ》

 ゼファーはサイに事の経緯を語る。

 名教官であると共に鬼教官としても知られるゼファーは、元大将という立場を利用してアラバスタ王国に演習の許可を求めた。表向きにはいかなる戦場でも教え子達が生き残れるよう過酷な環境下で戦闘訓練をするという訳だが、実際は王下七武海の一角であるクロコダイル対策であり、政府と海軍を裏切っても対処できるようにするためだ。

 その中で、彼はある海賊達と交戦した。〝偉大なる航路(グランドライン)〟前半は覇気使いの無法者は非常に少ないため、ゼファーはものの数秒でのしたのだが、尋問の末に男達はある組織の名を口にしたという。

《〝バロックワークス〟……聞いたことあるか?》

「バロックワークス……? 初耳ですよ。話の流れだと犯罪組織のようですが……」

 テゾーロと関わったことでサイファーポールの中でも高官に位置するようになったサイでも、その名は初めて聞くモノだった。

 世界政府の諜報機関の、それも上層部でも認識していない闇の勢力。話の流れだと海賊というよりもマフィアのような徹底した秘密主義の組織であるようなので、構成員達は親玉(ボス)の正体はおろか仲間の素性も一切知らされてないのだろう。

《サイファーポールでもダメか……》

「海軍本部の上層部も、もしかしたら政府中枢も把握できてないかもしれませんね。テゾーロさんのコネでも果たして……」

 テゾーロの人脈は広く、同じ大富豪兼実業家から天竜人まで幅広い。それでも引っかかる可能性は低いであろうと予測されてしまう程の情報の少なさは、組織の威力威名以上に厄介である。

 世界政府ですら把握できてないのに、各分野の有力者に心当たりがあるのか――その考えは口に出していないだけで、サイもゼファーも同じように思っているだろう。

「……わかりました。こちらもヒットすれば情報を寄越します。秘密結社は野放しにすると質が悪い」

《頼むぞ。軍の上層部とはいえ、教官であるおれでは〝限界〟があるからな》

 ガチャリと電伝虫越しの通話を終え、サイは考えを巡らせた。

(政府中枢ですら認識されない徹底した秘密主義……おそらくバロックワークスのボスは相当の切れ者だ。それに構成員を捕らえた場所がアラバスタ……まさかとは思うけど……)

 確固たる証拠はない。だが、確信はある。

 テゾーロならば自らの頼みを快く受け入れ、動いてくれるだろう。問題はせいぜい〝バック〟がいるかどうかだ。

「………一度飛び込んでみるかな」

 

 ――王下七武海の一人、〝砂漠の王〟クロコダイルの懐を。




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