ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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第124話〝No More Bet〟

 新世界、とある島のカジノ。

 テゾーロとフェスタは、男同士の大人の休日を楽しんでいた。

「〝狸寝入り〟ラクーン一味、ダグラス・バレットによって島ごと壊滅……か。第二の人生を楽しんで……ああ、ガルツバーグの件があるから第三の人生か? まァいいや、生き生きしていて結構だ」

 ピンクの大判ストールを羽織り黒いスーツ姿のテゾーロが、世経の一面に目を通して呟く。新聞の記事は、バレットが新世界で活動する海賊達を次々に襲っているという旨だ。

 あの鯨の潜水艦が完成してから、バレットは潜水艦を「カタパルト号」と名付けて大海へ向かった。海賊王に迫る程の実力を持っている男の航海の目的は、インペルダウンでの鍛錬の続き……海という戦場に再び身を置いて「かつての感覚」を取り戻すことだった。

 その巻き添えを食らった海賊達は数知れず。〝鉄筋のスムージ〟や〝瓢箪フェン・ボック〟、そして〝縄引きのチャッペ〟といった新世界に進出したルーキーに加え、上述のラクーンのような新世界を拠点にする海賊も次々に一味丸ごと滅ぼされていった。

「どんなに名を馳せる若い力でも、ダグラス・バレットの前では赤子同然だ! 全くスゲェ展開だ!! そう思うだろ同志?」

 フェスタは上機嫌に葉巻を燻らせ、テゾーロの肩を組む。

 求め続けた〝時代〟に裏切られ、同じ時代を生きた海賊王(おとこ)に先を越された男。そんな失意の彼に神が与えた最後の天恵(チャンス)が、今の時代で最も名を馳せている大富豪〝新世界の怪物〟とゴールド・ロジャーの後継者と呼ばれた豪傑〝鬼の跡目〟、そして存在するだけで世界をひっくり返す程の代物である〝ラフテルへの永久指針(エターナルポース)〟という豪華三本立てだった。

 これ程の手札が揃えば、世界を牛耳ることも不可能ではないだろう。だがフェスタは違う。彼の望みは世界征服でもなければ時代の覇権を握ることでもない……むしろその逆だ。

「これで役者は揃い! 最高のお膳立ても始まった! おれ達の(・・・・)計画を実行に移すのが楽しみだぜ! Yeah!!」

 

 ――〝最強の熱狂(スタンピード)

 

 それは、〝祭り屋〟ブエナ・フェスタが世界へ仕掛ける生涯最高の「祭り」。その真相は計画に関わっているテゾーロとフェスタにしか知られていないが、時代を変えたいという根本的思想を共有する二人が関わっているのだから世界規模の壮大な計画であるのは変わらない。

 その計画は、ラフテルへの永久指針(エターナルポース)ですら材料の一部にすぎないのだから。

「あの計画はまだ誰にも知られちゃいけない。そうだろう? Mr.フェスタ」

「ああ、まだ準備期間中だからな。――それにしても、ヤケに勝ちまくってるな……」

 話は変わり、テゾーロが今やっているルーレットが話題になる。

 腐ってしまうくらいの金を得たテゾーロの最近の娯楽は、ギャンブルにつぎ込むこと。しかしただのギャンブルではなく、イカサマがよく行われる悪名高い、ある種の曰く付きの賭場でのギャンブルだ。ギャンブルで負けてもすぐ黄金を生み出せるテゾーロにとって、刺激の少ないギャンブルは嫌いではないが退屈してしまう。だからこそ、あえてイカサマが常日頃行われる悪徳な賭場を選ぶのだ。

 現にテゾーロの手元にはチップが山のように積まれており、ディーラーどころか他の参加者ですら驚愕を隠せないくらいに儲けていた。周囲には屈強な男達が控えているが、何せ相手が出世の神様とも呼ばれる程の敏腕実業家とロジャー時代の元大物海賊となれば迂闊に手は出せない。フェスタはギャンブルに参加はしていないが、テゾーロが主役の小さくも痛快な〝熱狂〟を楽しんでいた。

 ……とはいえ、いくら何でもボロ儲けが過ぎる。フェスタは逆にテゾーロがイカサマをしてるのではと疑い、小声で話しかけた。

「お前、スゴイ強運だな……何かコツでもあるのか?」

「〝見聞色〟で先読みしまくってますから」

「マジか!?」

 何と覇気を使ってギャンブルに勤しんでいた。これにはさすがのフェスタも驚いた。

「あんた、金をバラ撒くんじゃないのか!?」

「最近ステラがケチ臭くなってきたからな、勝たないと何が起こるかわからん。それに博打なんぞ勝ってナンボ……向こうは騙す気満々なんだからこっちもそれなりの手は打たないと」

「そ、そりゃそうだな……」

 ギャンブルとしての正論を返され、思わず納得してしまう。

 その時だった。

「隣、空いてます?」

 後ろから響く女性の声。

 ゆっくりと振り返ると、褐色肌の妖艶な赤髪美女が微笑んでいた。その姿を見た周囲はフェスタ含めてざわつき、一斉に釘付けとなった。唯一違ったのは、テゾーロだった。

(まさかこんな形で出会うとは……!! そういえばまだ仲間じゃなかったな、バカラ)

 前世の記憶が呼び覚まされる。

 彼女はバカラ――他人の運気を吸い取り自分のものにできる〝ラキラキの実〟の能力者。常に笑顔で気品のある喋り方だが、希望と絶望が隣り合わせの世界で生き抜く狡猾さも兼ね備えた曲者だ。

(ここで仲間にする、としたいが……)

 テゾーロは内心焦っていた。

 というのも、彼の記憶の限りではバカラが仲間になることは知っていたがどういう経緯で(・・・・・・・)仲間になるのかというところは知らない。どうやって出会ったのかも、どういうやり取りで仲間に加わることになったのかも、全てわからないのだ。

 彼女を迎え入れるには、ここはエンターテイナーらしく賭け事で決める。テゾーロは意を決し、朗らかな笑みを浮かべた。

「私で良ければ構わないが?」

「…………じゃあ失礼するわ」

 テゾーロの隣に座り微笑むバカラだが、内心では動揺していた。

 男の心を揺さぶる容姿を前に少しも靡くことのないテゾーロ。表の世界でも裏の世界でも広く名が知れ渡っている大物の「勝者の風格」に、とんでもない相手に喧嘩を売るのではないかと本能が察知してしまったのだ。

 この男を出し抜くことができるのか――今まで関わってきた男達の全てを奪い蹴落としてきた彼女の不安を煽るには十分すぎた。だからこそテゾーロが負ける姿を、〝新世界の怪物〟が敗者となった瞬間を見てみたいと思った。

 バカラは持っていた札束を全額チップに交換し、その全てを適当な数字の上に積んだ。

「随分自信があるようだな……その自信はどこから湧いてくるんだ?」

 フェスタはサングラスを指で押し上げ、バカラを見据える。

 その目には色欲など一切孕んでいない。目の前の勝負師の器量を推し量ろうとするプロの目つき……ロジャー時代から培ってきた相手を見極める目だ。

 うさんくさい老人の意外な目つきに感心しつつ、あくまでも狙いは〝新世界の怪物〟であると示すようにテゾーロに体を寄せた。

「私、負けたことがないの」

「「!」」

 二人の意識が自らの色っぽい囁きに引き寄せられている間に、バカラは膝の上にあった手をゆっくりテゾーロへと伸ばす。

 ラキラキの能力は、素手で相手の体のどこかに触れれば自動的に運気を吸い取れる。さり気なく相手の体に触れ、運気を吸い取る――それだけで運気を吸い取られた相手は命の危機に瀕するような目に遭うこともある。当然吸い取った運気を他人に与えることも可能であるが、あくまでも他人ではなく自分の為に能力を使うので滅多に行わない。

 いずれにしろ、テゾーロの運気を吸い取れれば勝負は決まる。

(あともう少し……)

 バカラが笑みを深めた、その時だった。

 

 ガッ――

 

「賭け事でそういうの(・・・・・)は野暮じゃないか? お嬢さん」

「!?」

 指先が触れる直前、テゾーロはバカラの腕を握った。彼の腕は黒く硬化しており、優しく握ってはいたが如何なる悪魔の実の能力も受け付ける気は無いと語っているかのようだ。

 ――まさか、勘づかれた……!?

 相手が世界に名を轟かすギルド・テゾーロとはいえ、バカラとは初対面だ。自分が何をしようとしていたかなんて気づくはずはないし、そもそも能力者であることすら知らないはずなのだ。なのに、まるで自分の全てを見透かしているかのようだ。

 ちなみに当の本人はというと……。

(あっっっっっっぶね!! メチャクチャ不幸になるところだった!!)

 勝者の風格や王の威圧とは無縁なテンパりぶりだった。

 彼女の能力の恐ろしさを知っていなければ、今頃どんな災いに見舞われたことか。災い転じて福となすとよく言うが、こればかりは不幸(アンラッキー)一筋になるので絶対に避けなければならなかったのだ。

「放してくださる? 私は何もしてないわ」

今は(・・)、だろう? これからする気であるのは変わらないはずだ。たとえば……運気を吸い取るとか」

「っ!?」

 心を読んだように呟いたテゾーロに、バカラは目に見える程に動揺した。

 テゾーロはそれを見て自分が場の主導権を握ったことを確信すると、手元のチップ全部をバカラのチップが積まれた隣の数字に積み上げた。そして腕に纏った覇気を解くとバカラの手に優しく触れた。

「な、何を……?」

「こういうゲームをしよう。このギルド・テゾーロの強運と君の能力、どちらが上か」

(うお、えげつねェマネしやがる)

 フェスタはテゾーロの思惑を察し、顔を引きつらせてバカラに同情の視線を向ける。

 傍から見れば、テゾーロの賭けは自分の強運が悪魔の実の能力を上回るかどうか。しかしバカラから見れば、その賭けは敗北確定の無慈悲な公開処刑だ。

 ここへ来てから何人もの運気を吸い取った彼女は、テゾーロの運気すらも吸い取った。それはテゾーロが確実に負けることを意味し、それと共に自分の秘密であるラキラキの能力がバレることでもある。勝つことが逆に彼女を追い詰めるのだ。

 バカラにとっては絶望そのものだ。テゾーロは世間からの評判がいいが、彼も人間だ。悪魔の実のイカサマで出し抜かれたことを知ったらどんな目に遭わされるのか想像できない。世間の認識と実際の素性は異なることもある。凶暴で無慈悲な一面を持ち併せていたら恐ろしい見せしめに遭うかもしれない。今頃マイナスの考えが頭の中を巡って自分の能力を恨んでいることだろう……テゾーロがそんな野蛮な考えなどしていないのにもかかわらず。

「ではディーラー君、頼む」

 テゾーロがそう告げた途端、「No more Bet!」と受付の終了を告げるディーラーの声が響く。それと共にディーラーの指に弾かれたボールがホイールの上を勢いよく回り始め、カラカラと音を立てる。

 口角を吊り上げてニヤリと不敵に笑うテゾーロ。いつの間にか持ってきたグラスの中のワインを飲み干し勝負を見守るフェスタ。ワールドクラスの大物である〝新世界の怪物〟に喧嘩を売ったことを後悔するバカラ。各々が別々の反応をしつつルーレットを転がるボールを見つめる。

 そして、ボールはカランと軽快な音を立てて止まった。止まったのはバカラの賭けた番号――〝ラキラキの実〟の能力が本物であると証明された瞬間だった。

「おれの勝利(まけ)だな。君の能力はどうやら本物のようだ」

「あ、ああ……」

 己の負けで相手を屈させるという離れ業を成し遂げたテゾーロに、バカラは顔を青褪める。

 恐ろしい制裁を受けるのかもしれない――そんな未来を想像して恐怖で動けなくなっていた彼女に、テゾーロは「話がある」と言い放ちフェスタと共に店の外へと連れ出した。

「……お願い、殺さないで……!」

「……何言ってんの? 殺すわけないじゃん」

 命乞いをするバカラに、きょとんとした表情でテゾーロは口を開く。

 まるで別人のような態度に、バカラは呆然とした。先程は勝者の風格を持つ敏腕実業家であったのに、ここでは堅苦しさの無いフランクな伊達男だ。ハッキリとした二面性に、彼女は今のテゾーロの態度が素の性格であると察した。

「何はともあれ……君の名前は?」

「……バカラです」

「そうか。じゃあバカラ、おれのところに来い」

「え……?」

 テゾーロはバカラを勧誘した。

 その目には期待に満ちており、自分を欲していることに気づいたバカラは困惑した。

「おれの「国」には君が必要なのさ。ただ生きるためだけに使うのではなく、もっとデカイことで使ってみようじゃないか」

 テゾーロは金の指輪を一つ外すと指先で弾いた。それはキレイな弧を描いてバカラへと向かい、火花を散らして三日月型のイヤリングへと変化した。

 黄金を操る能力者――それがテゾーロの正体と知ったバカラは目を大きく見開き「何て素晴らしい……」と感嘆の声を漏らした。

「さァ、行こうバカラ。黄金の輝きと祭囃子が君を待ってるぞ?」

「……はい! テゾーロ様!!」

 テゾーロの勧誘に、素直にバカラは応じた。

 それを見ていたフェスタは、満足気に笑みを浮かべた。

(やっぱり……おれァ組む相手を間違っちゃいなかった!! 自分を騙した女すらも味方に変える〝王の素質(カリスマ)〟……こいつがいれば必ずやれる!!)

 

 ――〝新世界の怪物〟の力で、おれァ今度こそロジャーの野郎を超えられる!!

 

 フェスタが自らの選択が正しかったことを確信する中、新たな仲間を手中に収めたテゾーロだった。




最後の仲間はカリーナ。
頑張って年末までに原作開始まで行けるようにします。

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