ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
第123話〝テゾーロ財団解体〟
グラン・テゾーロが建国されてから一年が経過した。
テゾーロの尽力でグラン・テゾーロに人が続々と集まり、日に日に賑やかになっていく。世界中から人々が移住していることに加え、フェスタの喧伝によって住民が自ら汗を流し開拓していったことで街が造られ繁盛していった。
そんな発展途上のある日のこと。テゾーロ財団の構成員が全員集められるという異例の事態が発生し、バーデンフォードにそびえ立つ「
そこでテゾーロが口にしたのは、衝撃の一言だった。
「財団を解散する」
『ハァーーーーー!?』
何とテゾーロ財団を解散すると言ってのけたのだ。
これを聞いた全員はステラとフェスタを除いて絶句し、幹部達が詰め寄った。
「おい、どういうこった理事長!」
「何か問題でも?」
「大アリじゃ!! おれ達をリストラする気か!?」
「おい、おれァ一言も「お前らクビ」っつった憶えはねェぞ?」
「似たようなもんだろうが!!」
反発する幹部達に涼しげなテゾーロ。
世界中に貢献してきたテゾーロ財団の伝説を、設立者自らが終わらせる。それは並々ならぬ覚悟で実行に移すのだろうが、それでも部下達の処遇を考えてるのか不安なのだ。
そんな殺伐な状況を一瞬で覆す声が響いた。
「私はテゾーロに賛成よ」
「ステラさん!?」
副理事長――ある意味で財団一の権力者――のステラが、テゾーロのやり方に賛同。一同は「組織というものを理解していないから言える」と思っていたのだが、彼女の次の言葉に驚くこととなる。
「国家運営となればテゾーロは間違いなく国家元首で私はその夫人。ファーストレディ、だったかしら? どちらにせよ、あなた達は団体ではなく「国」を任される立場になると思うわ」
『うっ……』
ステラの一声に一同はぐうの音も出なくなる。
彼女は普段こそおっとりとしてたり時々天然が入ったりするが、〝新世界の怪物〟ギルド・テゾーロという人間を一番理解している人物であり、一番長く苦楽を共にしている人物でもある。一応は組織の運営に関わってるので、テゾーロの思惑もわかる。
テゾーロが言いたいのは、テゾーロ財団としての活動を全てグラン・テゾーロの政策・外交に委託するべきということだ。テゾーロ財団の活動は民間団体の枠を超え、世界に大きな影響を及ぼす程となった。だが所詮は民間団体で、信頼こそ厚くてもやれる範囲に限界がある。特に国家ぐるみだと、いかにテゾーロにコネがあっても無駄にプライドが高かったり融通が利かないクライエントが相手だと思うような対応を取れないこともあり得る。
ならばあえて財団を解散し、その活動をグラン・テゾーロという国家としての活動に変えれば、活動範囲だけでなく世界政府加盟国が動くという名目上できることも増えるのではないか――テゾーロはそう考えたのだ。
「だったら財団を解散させてグラン・テゾーロという国に務める公務員にさせた方がいいんじゃないかってこった」
「な、成程……」
「それに財団と政府の活動一々分けてたら大変だし手続きも面倒だし」
「そっちが本音だろ」
「そりゃそうさ、効率性を重視するのも組織の長として当然の思考回路だ。ということだ……」
テゾーロは一息ついてから、再び口を開く。
「テゾーロ財団は、今日をもって解体。諸君らは世界政府加盟国「グラン・テゾーロ」の国家公務員として従事してもらう。ちなみに給料と福利厚生はそのままだから心配するな」
『お……おおおおおおおお!!!』
「――てめェら、ちょろすぎるだろ」
待遇の現状維持に歓喜する一同に、メロヌスは頭を抱えるのだった。
*
テゾーロ財団解体というビッグニュースが全世界に発信され、表も裏も関係無しに大物達を動揺させてから、半年が経過した。
海軍のある研究施設の巨大ドックで、テゾーロはバレットと共にあるモノを眺めていた。
「カハハハ……そうだ、これだ。これが欲しかったんだ」
満足気に笑うバレットは、誰もが恐れた碧眼で「それ」を見上げる。
鋼鉄で覆われた鯨の形をした潜水艦の前面には、自分の過去と深い縁がある「9」の番号があしらわれている。大きさは海軍の軍艦を超え、大砲の弾すらビクともしない頑丈な造りであるのが見るだけでわかる代物だ。
二人がそれを眺めていると、研究用白衣を身に纏った男が腕を組んで現れた。世界最大の頭脳を持つと謳われている天才科学者の
「ダグラス・バレット、とりあえず貴殿の要求通りに仕上げたのだが……これでいいのか? この
「それでいい、いや、
自らの野望――世界最強を目指しているが、バレットはあくまでも一人だ。
彼はガルツフォースに所属していた幼少期から必要最低限の物資で戦場を生き抜いてきた。血生臭い過酷で劣悪な環境は慣れきっており、物資は相手から奪えばどうにでもなる。あの大監獄が与える無限の退屈すらも己を鍛え続ける形で乗り越えたのだから、大海での苦難などで〝鬼の跡目〟を苦しめることはない。
もしあるとすれば……拳の行き場を、己の強さを轟かせる場所を失うことぐらいだろう。
「この船があればおれのガシャガシャの能力を最大限に発揮できる……こいつと共におれは世界最強へと駆け上がる!」
「……ちなみに
「そうだな……手始めにロジャーと同じ時代を生きた連中を血祭りに上げるか。いや、最近じゃあ革命軍ってのも腕が立つらしいじゃねーか。クロコダイルと
誰から潰そうか考えるバレットに、テゾーロは思わず苦笑い。
完全復活したバレットの進撃を止められるものは、今の世界では四皇ぐらいだ。若い頃はロジャーというバレットにとっての絶対的存在があったが、ロジャーはすでにこの世にいない。彼に太刀打ちできる者は、世界に何人いるだろうか。
だが――テゾーロはバレットの力を必要としていた。己の野望を阻む存在を叩き潰すのは、自分だけでは限度があるから。
(まァ、バレット一人でどうにかなる大物もいるしな~……)
若き日のバレットが挑み続けた海賊王ロジャー。そのロジャーと同じ時代を生きた伝説達は今も大海に君臨し続けたり引退後も名を轟かせている。
ロジャー最大のライバルと言える〝白ひげ〟以外にも、かつて大海賊時代以前の海の覇権を握っていたロックス海賊団の元メンバーである四皇〝ビッグ・マム〟や〝百獣のカイドウ〟、〝金獅子のシキ〟などが海賊稼業を継続しており、隠居の身である〝冥王〟レイリーや〝錐のチンジャオ〟も生きている。万が一にも生ける伝説達を相手取ることになっても、海賊王の伝説の一角たる〝鬼の跡目〟が手札としてあるので対策は十分に打てる。
唯一の問題とすれば、バレットが自分から世界の均衡をぶち壊していく可能性が高いことだ。テゾーロとしては原作本編の藤虎のように王下七武海制度を撤廃するといった変革には賛成だが、何事にも「行う時期」がある。タイミングを読み間違えるわけにはいかない。
「大変だな、テゾーロ」
「厄介者を抱えるのは得意だけどね……改めてご協力感謝する、ベガパンク殿」
「礼には及ばないさ……ただ……」
「ただ?」
「……世界を巻き込む巨大な戦争だけは阻止してほしい」
それは一人の科学者としての切なる願いだった。
いつの世も、どの世界でも、発明は戦争に利用される。ノーベル賞の創始者として有名なアルフレッド・ノーベルはダイナマイトの製作者として知られるが、彼は弟の命を奪ったニトログリセリンを安定させることで戦争を終わらせる発明をしたいがためにダイナマイトを作り、どこぞの祭り屋のような感覚で生み出したわけではない。しかしダイナマイトの兵器としての可能性に気がつかれ、戦争をより悲惨にしただけとなった。
だからこそ、テゾーロに語ったのだろう。軍の科学者である以上自分は兵器を造ることとなるが、テゾーロは彼なりの抑止力の思想を持っていると。武力以外で世界を変えることを目指す男だからこそ、己の心情を吐露したのだ。
「……おれはおれのやり方で世界を変え、新時代を巻き起こす。わざわざ無駄な血を流す必要がねェやり方でな」
テゾーロの答えに、ベガパンクは穏やかに微笑んだ。
同時刻、〝
「〝鬼の跡目〟がテゾーロボーイと一緒なんて、ホントに信じられないっチャブルよヴァターシ!! テゾーロボーイは何を考えてるの!?」
そう叫ぶのは、革命軍幹部のエンポリオ・イワンコフ。その隣にいるエビスダイの魚人である格闘家のハックや〝チョキチョキの実〟の能力者・イナズマも顔を縦に振って同意する。
ダグラス・バレットの復活で衝撃を受けたのは海賊や海軍、世間だけではない。世界政府打倒を目論む革命軍もだ。革命軍は世界政府を武力で倒す理念であるため、どの組織よりも世界政府という一大勢力を理解している。だからこそ、あれ程ロジャーの痕跡を完全抹消しようと躍起になっていた世界政府の対応が未だに信じられないのだ。
それだけではない。革命軍のブラックリストに載っているあのブエナ・フェスタが海難事故から生還しており、しかも海賊稼業を完全に辞めた上で興行師としてテゾーロと手を組んでいるという情報が流れたのだ。革命軍としてはバレットよりもフェスタを危険視する者が多い。よりにもよって本人すら把握できない程の資産を持つテゾーロと結託したとなれば、話は世界規模の問題となる。
〝新世界の怪物〟の暗躍と表舞台に戻った〝鬼の跡目〟と〝祭り屋〟。この三人が手を組んだことがどれだけ異常なのかは司令官のドラゴンが最も理解している。
(ダグラス・バレット、ブエナ・フェスタ……この組み合わせ自体がおかしい)
武力という面で
もし三人が手を組めるとすれば――
(ロジャー関係の話しか思えない。だが周知の通り、ロジャーの痕跡は政府が躍起になってもみ消したはずだ)
ロジャーの痕跡とすれば、思い浮かぶのは〝
だが、もしそれ以外のロジャーの遺産があるとすれば、それがどんな代物であれ世界は大きく荒れるのもまた道理だ。そのロジャーの遺産の在り処や正体を、あの三人が知っているとすれば?
(あり得る話ではある、か……)
ロジャー海賊団の元
二人のこだわりを上手く丸め込めば、表面上の関係とはいえ味方につけられる可能性はゼロではないだろう。
(ならば……)
「テゾーロボーイは腹の底が読めなっキャブル!! ――そう思うわよね? ドラゴン」
「……イワ、バルディゴで集会を開く。テゾーロの国にスパイを送ることにした」
「え………ええええええ!? まさか今決めたの!?」
革命家ドラゴンは、覚悟を決めた目でそう語った。
今年中には原作開始時に突入できるよう努力します。
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