ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
二日後。
四皇ビッグ・マムをどうにか交渉で丸め込むことに成功したテゾーロは、どこか疲れた様子で盟友スライスと会談をしていた。
「ダッハハハ!! マジ最高だぜ!! あのババアから譲歩引き出すなんざ人間じゃねェよ、まさに〝怪物〟だぜ」
「ハァ……相変わらず気楽だなスライス、こっちは寿命が縮むかと思ったんだぞ」
「いやホントに寿命削れるんだけどねあのババア」
「何うまいこと言ってやったって顔してんだ、むしろ腹立つがな」
ドヤ顔のスライスに〝覇王色〟を浴びせるテゾーロ。対するスライスは「真に受けなくてもいいだろうに」と言ってあっさり受け流す。
「……で、わざわざご足労ですが何の用で」
「こいつをちょっとな。お前の力を借りたい」
スライスは傍に置いていたアタッシュケースから封筒を取り出すと、それをテゾーロに渡す。その中身を確認した途端、テゾーロは目を見開いた。
「これって、ドレスローザの?」
「ああ、どうも引っかかる」
彼が渡したのは、ドレスローザで起きた政権交代だ。
貧しくも戦争の無い平和な国であったドレスローザは、ある日リク王が国民全員に頭を下げて財産を貸してほしいと懇願しておきながら臣下達と国中に火をつけ国民を斬りつけはじめ、偶然その場にいた王下七武海のドフラミンゴとその部下達が彼を鎮圧して政権交代を成しえたという事件だ。
「リク王はおれの亡き祖父の旧友でな、おれ自身もあの人と面識がある。――あの人はこんなマネはしねェ、間違いなくドフラミンゴが裏で暗躍してる」
そう、この事件には不可解な点がある。リク王がなぜ国民全員に頭を下げてまで財産を貸してほしいと突然懇願したのか、リク王家王女のヴィオラはどこへ消えたのか、事件があった日に侍女のモネは何をしていたのか、とにかく全容解明されていない。
リク王家と付き合いのあるスライスは事件そのものを不審に思い、テゾーロのようにコネと権力で政府中枢に厳密な調査をするよう何度も働きかけたのだが、一向に進まないどころかすぐに調査を中止したという。
「……ドフラミンゴは元天竜人。とはいえど、国盗りを仕掛けた奴への義理は天竜人にも政府中枢にも無い」
「……お前、何でそこまで!?」
「筋金入りの情報屋とサイファーポールの諜報員が部下にいるからな。――で、おれにどうしろって?」
テゾーロは本題を切りだす。
話の流れだと、スライスは自身よりも政府中枢との繋がりの深いテゾーロを動かし、ドレスローザの政権交代についての再調査を依頼しようとすると考えるのがだろう。たった一人で世界に名を轟かす一大組織を築き成り上がった怪物の力で、政府が隠そうとする不都合な事実を暴こうとする――それがスライスの望みなのだろう。
「……リク王家の「復権」に協力してくれ!」
「!?」
スライスの望みは、テゾーロの想像以上だった。
海賊の謀略の被害者とはいえ、一度引きずり降ろされた王家を再び返り咲かせるのは容易ではない。ましてや相手は海賊界屈指の狡猾さと残忍さを誇る〝天夜叉〟だ、一筋縄ではいかないだろう。
だがドフラミンゴを野放しにすれば、巨大な犯罪シンジケートを展開し近隣諸国で戦争を煽り、闇取引で世界を混乱させるだろう。ドフラミンゴは海賊であると同時に内心では「世界の破滅」を望む危険人物であり、絶対に放置してはならないのは紛れも無い事実だ。
「……わかった。おれもちょいと掛け合ってみる。今の事業が成就すれば、話は大きく進むはずだ」
「今の事業ってのは、そんなに大層なモンなのか」
「ああ、何せ国家樹立だからな」
テゾーロはスライスに今の事業――グラン・テゾーロ計画を事細かに説明する。種族間の差別も何もない、全ての者が平等である国を作り上げる。それはある意味で世界に対する挑戦であり、世界政府の秩序を破壊するような考えだ。世界に喧嘩を売るようなテゾーロの思想は、政府を信じる者ならば信じられないことだ。
しかし世界を統一し秩序の維持に務めているのがあの世界政府だ、善い面よりも悪い面の方が目立つ組織が世の中の法を担っている。世界政府を一瞬でも不審に思えば、テゾーロの思想は正しいのだ。
「いいねェ、それ。未来の投資にゃうってつけの話じゃねェか」
「スライス……」
「盟友よ、おれァお前のやり方を信じるぜ。そのやり方で〝連中〟を引きずりおろしちまっても罰は当たらねェだろ」
そう言って笑い飛ばすスライスに、テゾーロもまた含み笑いを浮かべた。
同時刻、聖地マリージョア。
荘厳な「権力の間」にて、世界政府の最高権力者である五老星がテゾーロと彼の事業について話し合っていた。
「テゾーロの計画が近い内に成就するそうだ」
「奴は一介の賞金稼ぎから巨大な富と権力を得た成金。王侯貴族ではない平民の男が加盟国を樹立させるなど前例が無い」
「だが我々にとっては大きな利益だ、損は少なかろう」
前人未到の国家樹立を成し遂げようとするテゾーロについて論議する。
思想や価値観など色々と相違はあれど、今まで政府関係者にとって都合の悪い出来事を代わって解決してきたテゾーロの働きを五老星は高く評価しており、
彼の公益性と大胆さを兼ね備えた数々の事業は政府の信頼を強固なものにしていっており、今では政府関係者の中でも際立って優れていることから腐敗が目立つ上流階級の役人よりも信頼されている。
「問題は奴を排除しようとする者達の動きだな」
出る杭は打たれる。
異色な経歴ゆえに政府中枢には未だにテゾーロを疎む者は多く、中には彼の活躍に嫉妬し筋違いの恨みを持つ者もいる。五老星や一部の天竜人がテゾーロを信頼しているために直接手は出していないが、彼を政府から排除しようと動くのは時間の問題だ。
これはさすがにマズイのではと五老星は意見を交わし、サイファーポールを動かして司直の手を入れようとするも、サイファーポール内部にすらテゾーロ排除派がいる可能性があるとして中々踏み込めないでいる。テゾーロの部下であるサイのもう一人の上司であるラスキーによる新体制がスタートして大分経過したが、ラスキーのやり方に反発する者もいるため、ラスキーのやり方が気に入らない連中とテゾーロ排除派が結託すると面倒なのだ。
そもそもテゾーロを排除しようとする動き自体、確固たる証拠も見つかっていない。憶測で逮捕者を出すと世間から冷たい目で見られる。面子と信頼が第一の世界政府にとって、案外頭を悩ませる程の事なのだ。
「本格的に動くとすれば、奴が樹立した国が正式に加盟国に加わった時だな」
「この案件はCP‐0に任せるべきではないか? いくらサイファーポール内でも、クリューソスと親密な関係のテゾーロを排除すれば、奴らの在り方に関わるだろう」
CP‐0は世界貴族直属の組織。
テゾーロは天竜人のクリューソス聖と親交が深いため、天竜人の関係者でもある。彼の身に何かがあれば、必ずやクリューソス聖も動くだろう。五老星や海軍ですら把握できない越権行為を行うような連中でも、天竜人に直接言われてはたまらないはずである。
「うむ、それが一番だ」
「異論は無い」
「奴を失えば我々にはデメリットしか残らんしな」
*
一方、ここはワノ国・鬼ヶ島。
白ひげやビッグ・マム、赤髪と肩を並べる四皇の一人〝百獣のカイドウ〟の拠点だ。
「ヒック! ウィ~……」
相変わらず一人で酒盛りをするカイドウ。酒癖は非常に悪いが大の酒豪である彼はワノ国の人々から国を守る「明王」との扱いを受けており、よく酒を献上される。当然海賊稼業をやっているのでワノ国の外から入手する酒も飲むが、最終的にはワノ国の酒を好き好んで飲んでいる。
中でも最も気に入っているのは、一時期住み込みをしていた若い剣豪・ジンが用意した酒だ。ワノ国中を歩いてカイドウの口に合った酒をわざわざ用意し、大幹部達でさえどういう訳か躊躇する自分の酒盛りの相手として真っ向から付き合ってもくれた。腕っ節は勿論だが、人柄という面でもカイドウはジンを信用しているのだ。もっとも、未だに部下にしたいと考えてるのは変わってないが。
『カイドウ様ーーーー!!』
ふと、部下達が慌てた様子で酒盛り中のカイドウへ駆け寄った。
「何だ!? おれの酒盛りの邪魔をするのか?」
物思いに
「い、いえ! 滅相もありません!! 実は――」
「いや~、酷い目に遭った……」
響き渡る、一人の男の声。声が聞こえた方向へ顔を向けると、見覚えのある着物姿の男が乗り込んできた。しかし言葉通りに何らかの災難に遭ったのか、着物とマントに返り血がついている。
部下達がその姿に恐れ戦く中、カイドウはニヤリと笑みを浮かべる。
「ウオロロロロ……ジン、やっぱりてめェか」
「久しぶりだな、カイドウさん」
カイドウの前に現れたのは、テゾーロ財団幹部のジン。
久しぶりの見知った顔に機嫌がよくなったのか、カイドウは笑い上戸だ。
「一人で来たってことは……おれの部下になりに来たのか?」
「まだ諦めてないのかよ……」
やれやれといった表情で溜め息を吐くジン。
カイドウは自身に歯向かう者・意を違うことをした者には容赦しないが、荒々しく獰猛な性格であると同時に実力主義者であり、自分の部下になるのならば全てを水に流す度量を持ち合わせている。大幹部ですら「メチャクチャな人」と言われる男だが、四皇の一角に見合った器の持ち主でもあるのだ。
とはいえ、実力主義であるゆえか勧誘は割としつこい。特に酒に酔っている状態だと居酒屋で絡んでくる酔っ払いオヤジ並みにしつこく、とにかく手に負えない。一度は区切りをつけても身勝手の頂点と言える四皇には、さすがのジンも呆れる始末だ。
「生憎おれのボスはテゾーロと決めたんだ、諦めも肝心だよ総督さん」
「じゃあ、おれと酒でも飲みに来たか?」
「それもあるけど…………おれはあんたに大切な話があるんだ。時間空いてるよな、カイドウさん」
真剣な表情で告げるジンに、カイドウは怪訝そうな表情を浮かべた。