ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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アニメがワノ国編になって、絵のタッチが気合入ってる気がします。


第114話〝最も恐るべき力〟

 ホールケーキアイランド。かの〝白ひげ〟と肩を並べる四皇の一角〝ビッグ・マム〟ことシャーロット・リンリンが支配する周辺海域(トットランド)の中核である島。

 その中心に山のようにそびえ立つ巨城「ホールケーキ(シャトー)」にて、オーブン達によって連行されたテゾーロは玉座に座る怪物と対峙していた。

「お前がテゾーロだね? おれの招待を蹴るたァ見上げた根性だよ」

 玉座に座った状態ですら身長が300cm近いテゾーロが見上げる程の巨体を持つ女海賊が、シュークリームを頬張りながら睨みつける。彼女こそ四皇唯一の女海賊シャーロット・リンリンだ。

「ママママ……!! こんな若造がまさかねェ」

 お茶会の招待を蹴られて激昂しているかと思えば、表面上はそうでもなさそうだ。

 お茶会参加者が送りつけられる召集令状という名の招待状を蹴る理由は、身内の葬式などの止むを得ない事情が多い。しかしテゾーロは「今やってる仕事が大事だから無理」という絶対ビッグ・マムが納得しない理由で蹴ったのだ。

 お茶会の参加を断られたのは許し難くとも、久しぶりに面白い若輩と出会えたことに満足気味であるのだ。

 そんな中、後ろの方で二人の猛者がテゾーロについて話し合っていた。

「兄さん、何であの程度の男の為に?」

「……念の為だ」

 テゾーロ一人に一味の最高戦力を待機させた理由を質すスムージーと、それについて静かに答えるカタクリ。

 いくら何でも警戒し過ぎではと思っていたスムージーだが、大海賊時代以前からビッグ・マム海賊団の戦力として一味及びシャーロット家を支えてきた彼の洞察力が非常に優れているのは周知の事実。万が一にも島から逃げるためにビッグ・マム海賊団に手を上げるというあり得ない行動を取ることもゼロと言い切れない。テゾーロの活躍ぶりを考慮すれば、そのような大胆な行動も選択肢として頭の中にあるはず――カタクリはそう判断したのである。

 そのように考えているカタクリに対し、当の本人はというと――

(いやいやいやいや、これ何の悪夢!? そこはおれとマムの一対一(サシ)で面会だろ、何で将星が二人も護衛的なノリで居るんだよ!! お茶会の準備どうした!?)

 将星最強(カタクリ)女将星(スムージー)に睨まれた中でビッグ・マムに弁解するという、あまりにも精神的にひどい仕打ち。こればかりは想定外だったのか、ダラダラと冷や汗を滝のように流し焦りまくるテゾーロ。

 将星が全員その場に揃っていない分まだマシと考えるべきか、それとも一人でもいる時点で変な行動を起こしたら即デッドエンドと捉えるべきか。どちらにせよ、泣きそうになるというよりも泣きたいくらいのプレッシャーに襲われているのは変わらない。

「さて、そろそろ本題に入ろうか。――何で蹴った?」

「それは私の新規事業の最中だからですよ。実業家としてお茶会と天秤にかけて新規事業を選んだ……それだけですよ」

 彼女の問いにあっさりと返答。テゾーロは「地獄の鬼も顔を出す」と言わしめるビッグ・マムの要求より自分の仕事を選んだことをストレートに伝えたのだ。

 テゾーロは立ち続けるのが疲れてきたのか、ゴルゴルの実の能力で指輪を融かしイスに変えて座った。

「正直な奴だねェ。その新規事業とやらはそんなに大事かい?」

「ええ、私の壮大な物語(じんせい)の集大成の一つですからね。何せ国家樹立ですし」

「あ?」

 テゾーロは間髪入れずに、自らが指揮する新規事業――グラン・テゾーロ計画をビッグ・マムに伝えた。

「グラン・テゾーロは世界でも類を見ない革新的な国家――種族間の差別も何もない、全ての者が平等であるというおれの野望の一部を具現化した国だ。その実現を妨害されるわけにはいかないんですよ」

「全ての者が平等……!?」

 色々と吹っ切れたテゾーロの言葉に、ビッグ・マムは目を大きく見開いた。

 遠い昔、ビッグ・マムが海賊として名を馳せるどころか海賊になる前――彼女は孤児院を開いていたマザー・カルメルというシスターの元で暮らしていた。カルメルは規格外の彼女の為に力を尽くしており、半世紀以上前に行方不明となった(・・・・・・・・)今も「初めての理解者」として、四皇ビッグ・マムの恩人として本人から強く慕われている。

 そんなカルメルは「皆同じ目線で暮らせる国」という言葉を謳ってビッグ・マムや彼女に関わった子供達と日常を過ごしていた。カルメルが謳った言葉が後の四皇の夢となるのは思いもしないだろう。もっともビッグ・マム自身も、彼女の笑顔が作り笑いで「聖母の顔」も仮面だったとは夢にも思ってないのだが。

「――ハ~ハハママママ……!! 奇遇だねェ……おれも同じような夢の国を完成させてェんだ、それも叶うまで〝あと一歩〟ってところさ。だがそれとおれに恥をかかせた件は別だ、その程度の言い訳で(・・・・・・・・・)丸く収められると思ってねェよなァ?」

 愉快そうに笑いつつも、持ち前の〝覇王色〟を放ちテゾーロを凄むビッグ・マム。彼女の怒りを表すように、彼女の傍で浮いているプロメテウスとゼウスが無言のまま互いに炎と雷を纏い始める。

 しかしテゾーロも〝覇王色〟で応じ、ビッグ・マムに気圧されつつも恥を晒さないよう睨みつける。

「おめェの事情とおれの事情が成り立たねェなら、引いた方が負けだ……だからおめェが〝落とし前〟として何かを失えよ」

「――勝ち負けの話じゃないでしょう、これは」

 ビッグ・マムの言葉を完全に切り返すテゾーロ。先程とは纏っていた雰囲気が一変し、彼女だけでなくその場に居合わせていた将星二人も目を見開く。

「……思い通りにならない人間が、そんなに嫌いですかミセス・リンリン」

「……何が言いたいんだい?」

「マザーの望みは全ての存在があなたに屈服することではないでしょうということです」

 テゾーロがそう言い放った途端、全身を叩き潰すかのような凄まじい圧迫感が襲い掛かった。この万国(トットランド)――いや、この世で最も恐れられている人物の一人であるビッグ・マムが怒ったのだ。

 その怒りにカタクリとスムージーは気圧されてしまい、スムージーに至ってはあまりの迫力に体が動けなくなってしまう。

「……おめェ、ちょっと知りすぎてねェか?」

 プルプルと体を震わせ、テゾーロを脅すビッグ・マム。

 ビッグ・マムとマザー・カルメルの関係は、身内である彼女の子供達ですら全貌を把握しきれておらず、裏の世界でも世界屈指の情報通であるモルガンズですら知らない部分が多すぎる話題だ。それをどこの馬の骨ともわからない一実業家が知っているとなれば、大問題中の大問題である。

 それについてテゾーロは、臆さず返答する。

「何を言うかと思えば……私の前にいるのは「四皇」が一人〝ビッグ・マム〟。何の準備も無く突っ走ってどうにかなる相手ではないですよ。だからこそあなたの縁をおれの人脈で調べさせてもらっただけです」

 テゾーロはビッグ・マムを煽るように食い下がると、アタッシュケースから電伝虫を取り出した。そして貝殻のダイヤルを回し、受話器を傍においてサイへ繋げた。

「サイ、おれだ」

《テゾーロさんですか。ってことは、すでにビッグ・マムと?》

「現在進行形だよ。証拠は揃ったか?」

《ええ、半世紀以上前の資料を全部漁って確認できたものだけですが》

 テゾーロは睨みつけてくるビッグ・マムの前で、電伝虫越しでサイと確認の会話をする。

 それを遠くから聞き取っていたカタクリは、物音を立てずに得物である三又槍「土竜」を手に携え小声でスムージーに声を掛けた。

「スムージー……万が一に備えろ」

「兄さん……まさか未来を……!?」

「いや……だが今ここでママを暴れさせたらマズイ」

 カタクリは未来予知の域に達している程の〝見聞色〟の覇気の使い手だ。戦闘では常に先手を打ち、通常時は相手の気配からその先の言動・行動を予知して先読みした行動を取れる。彼はテゾーロとビッグ・マムとの間に走った緊張を機に、未来を予知しようとした。

 予知した未来ではビッグ・マムが多少動揺した程度だったが、四皇は四皇――何が起こるかわからない。ちょっとしたきっかけで機嫌を損ね暴れられたらお茶会どころの騒ぎではない。彼女が暴れだしたらビッグ・マム海賊団総出で止めなければ島が滅びかねないのだ。

 そんな懸念を抱く中、ビッグ・マムとテゾーロの会合は佳境を迎える。

「……誰だい?」

《サイ・メッツァーノ……テゾーロ財団幹部でサイファーポールの諜報員を兼ねています。以後よろしく》

「政府の手先かい……で、何でおめェがおれのマザーのことを知ってんだい」

 話の流れから、テゾーロとサイの上下関係と情報網を察したビッグ・マムは電伝虫越しに質す。

《マザー・カルメルは世界政府とのパイプがあった。彼女の慈善事業と献身的な姿勢は、あなたと出会うずっと前から政府に目をつけられてましたからね》

「マザーが政府のクソ共とグルだって言うのかい」

《それは何とも言えませんね、見方の問題です。まァ彼女によって救われた人物がいるのは事実ですし、どう捉えるかはその人次第だ。――いずれにしろ彼女に関する資料は世界政府が保管しており、テゾーロさんは唯一の合法的な(・・・・)窓口です。彼を始末すれば、あなたの形ある思い出をあるべき場所(・・・・・・)に戻せる唯一の手段(ルート)を自らの手で潰すことになりますよ? それを彼女はどう思うんでしょうね……》

「っ……!!」

(え、えげつねェなサイの奴……)

 淡々とビッグ・マムに嫌な追い詰め方をするサイに、テゾーロは心の底から震え上がった。

 サイは現役の諜報員を兼ねているだけあり、幹部の中では断トツの冷徹さだ。普段はノリのいい面を見せたり外見に見合った爽やかさを振る舞いつつも、性根が冷酷ではないとはいえ諜報員としての任務に対するストイックさや非情さは凄まじいの一言に尽きる。

 任務ならば相手が四皇だろうと何だろうとお構いなし。それがサイの強みであり、彼の最も恐ろしい部分なのだ。

《……とはいえ、我々はビッグ・マム海賊団(あなたたち)と揉めるつもりは無い。今はやるべきことをやるのが互いの為ではないですか?》

「……言ってくれるじゃないか、犬っコロが」

 ビッグ・マムは口角を上げるが、怒りの表情を崩さない。己の過去を調べ上げられた挙句に恩人の知られざる一面を知らされたのだから、複雑な想いを抱いても怒りの強さはさほど変わらないだろう。

 しかしサイの言う通り、テゾーロはマザー・カルメルに関する情報を何のリスクも無しに手に入れられる貴重な入手手段(ルート)。冷静に考えれば、今回の件に関しては目を瞑ってもいいかもしれない。その上テゾーロは「招待状を送っても二度と出ない」とまでは言っておらず、何より今は目先のお茶会が大事だ。

「ママママ……! 久しぶりに活きのいい小僧を知れた上に、おれの思い出が何の苦労もせず帰ってくることもできるとはな。いいだろう、今回だけは(・・・・・)それで手を打とう」

『!!』

「だが! 次は無いよ……これは本来許されることじゃねェ。おれの茶会に出席するのを拒否したんだからな!? おめェの(よめ)や部下共を見せしめに処刑してやっても、おめェにゃ文句を言う権利すらねェ!!」

 ビッグ・マムはテゾーロに詰め寄る。業界一の情報網を持つだけあり、やはりテゾーロに関する情報(ネタ)はほとんど把握されているようだ。

 しかし彼女は「だが……」と言葉を続ける。

「おれァ筋さえ通ってりゃあ話のわかる女だ。逃げずにおれの城へ来て目の前で訳を言った以上はそれについちゃ(・・・・・・・)相応の対応をしなきゃな。海賊の世界にも仁義はある」

 ビッグ・マムは良くも悪くも昔ながらの海賊の首領であるからか、問題だらけの性格の持ち主でも一応はそれ相応の対処はする気のようだ。原作でもペドロが自分の左目を差し出すことで彼女を譲歩させることに成功している。もっとも、その対処の内容についてはテゾーロ自身あまり期待していないが。

 それでも欲しいものを妥協することがほとんどないあのビッグ・マムに大目に見てやってもらうことを成し遂げたテゾーロは、彼女の家族から見ても常識外れだ。気に掛かることは多いが、ひとまず彼女が怒り狂った影響でお茶会が潰れたり被害が周囲に拡大するという最悪の事態は回避できたので何も言わないでおくことにした。

「……じゃあとっとと帰りな! 茶会に出ねェ不届き者を長居させる程おれは甘くねェ」

「……だとさ」

《よく生きてられましたね、さすが〝怪物〟。ではお気をつけて》

「え? それだけ?」

 

 

           *

 

 

 テゾーロがビッグ・マムの元にいる同時刻。

 名家・スタンダード家の現当主であるスライスが、部下のコルトと二人きりで会話をしていた。

「なァコルト、本当の覇王って何だと思う?」

「……いきなり何ですか」

 突然始まった問答に困惑するも、コルトは静かに答える。

「本当の覇王は、やはり頂点に立ち全てを従える者では?」

「それが一般論だよなァ」

 コルトの返事に納得しつつも、スライスは「だが、そうでもなさそうだ」と言葉を続けた。

海賊王(ロジャー)は同じ〝覇王色〟の持ち主である〝冥王〟レイリーや〝赤髪のシャンクス〟、ダグラス・バレットを従えていた。大所帯を持つ白ひげや金獅子のシキ、リンリンと違ってこれといった傘下を持たず、たった一つの組織で全ての〝覇王色〟の持ち主達を出し抜いて海の頂に立てた。……なぜだと思う?」

 ロジャー海賊団は傘下の海賊を一つも持たずに海を制覇した。今の海と昔の海とでは情勢が違うとはいえ、現時点で「海の王者」として名を馳せる白ひげや彼と肩を並べる四皇達と比べると、大きく異なるのは事実だ。

 たった一つの一味だけで、若き日の生ける伝説を出し抜いて王の座に君臨することができたロジャー。目の前の敵達が仲間を追わないために「敵を逃さずに戦う」という無茶で無謀極まりない行動を平然とやる彼が王になれた理由に、スライスは持論を展開した。

「答えは一つ。この世界で〝最も恐るべき力〟を持っていたからだ」

「最も、恐るべき力……?」

「ああ、この世界で〝最も恐るべき力〟を持つ人間の性質(タチ)は二つだ。一つは他の覇王達を従える人間で、もう一つはその場にいる者達を次々と自分の味方につける人間。ロジャーは両方持っていたのさ」

 スライスの持論は「世界には二つの〝最も恐るべき力〟が存在し、それを持つ者こそ本当の覇王」だというものだ。

 他の覇王達を従える人間とは、数百万人に一人という確率で現れる〝覇王色〟の使い手達を退かせたり従えたりする人間を意味する。ある者は腕っ節であったり、またある者はカリスマ性で率いたり、とにかく人の上に立つ素質がある輩だ。そしてもう一つ――その場にいる者達を次々と自分の味方につける人間とは、かつての敵であろうと利害が一致してもしなくても共に戦わせる「求心力」の持ち主である人間を意味する。求心力は〝覇王色〟とは別で、ある意味その者自身の性格・人柄が影響している。

 その二つを持ち合わせる者は全てにおいて桁違いの能力を発揮し、王と自負するに相応しい力で全てを手中に収める――それがスライスの考えだ。

「ならばテゾーロはどちらに当てはまるのですか」

「知ーらね。――だが、おれはあいつが世界の勢力図を塗り替えると確信している」

 手をヒラヒラと振ってお手上げだとアピールする。

 確かにテゾーロは他の覇王(アオハル)を筆頭とした屈強な実力者を幹部として従えており、関わった人間の多くは味方として協力してくれるが、海賊王となったロジャーと比べてしまうとやはりテゾーロが劣って見える。

 それでも、スライスは盟友(テゾーロ)を高く評価する。

「四大勢力……って程にはならないだろうけど、あと10年経てば奴の手によって時代は間違いなく変わる。それこそ海賊王ロジャーの死に際のように」

「スライス様、あなたですらそう決めつけるのですか……」

「考えてもみろよ、五老星よりも〝もっと上〟の奴が興味示す奴だぜ? おれのじいちゃんですら気に掛けられなかったってのにな」

 スライスは含み笑いを浮かべながら酒を呷った。




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