ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
七月最初の投稿です。
ビッグ・マムの招待を蹴ってから暫く経ったある日。
テゾーロはメロヌスに軍事に関する相談を受けていた。
「妙案があると言ってたが?」
「ああ――こんな代物をベガパンクに作ってもらえば、結構楽じゃねェのかなってよ」
メロヌスがそう言って渡したのは、奇妙な物体の図だった。その図には複数の突起物が特徴的な球体が描かれており、説明文には「突起に触れると球体が爆発する」と記されている。
それは水中に設置されたら全ての艦船を恐怖に陥れる、恐るべき水中兵器だった。
(機雷か……この世界では未だに発明されてない新型兵器になるな)
機雷とは、船が接触あるいは接近すると爆発する兵器。味方の港湾・航路の防衛と敵水域の封鎖の為に設置される兵器だが、水という資源をフル活用する人類にとっては凄まじい脅威となる。テゾーロ自身、前世では報道で機雷除去の情報を耳にすることもあったので一応覚えている。
とりわけ
(自衛の手段としてなら一番適してるな。制空権という概念が無い世界だ、島の周囲にバラ撒けば迂闊に攻めることもできないだろう)
機雷を用いて海上封鎖を行えば、国防という面では大きな効果を発揮するだろう。ましてや海が全てと言って過言ではない世界において、水中に設置する兵器は艦隊すら足止めできることも十分に可能だ。
潜水艦や魚雷も開発できる技術がある世界なのだから、ベガパンクに頼めば量産も可能だろう。
「……そうだな、この件はおれが直々にベガパンクへ掛け合ってみよう。あとは――」
その時、切り裂くような
「これは……!」
「奴らだろうとは思うが、想像以上に早いな……急ぐぞ!!」
二人の予想は的中していた。ビッグ・マム海賊団が先日のテゾーロの返事に応じ、大軍を引き連れて乗り込んできたのだ。
港には財団の幹部とビッグ・マム海賊団の幹部が対峙しており、一触即発の状態だ。
「これは面倒な事態になったなァ」
「んなこと言ってる場合かよ!」
『!!!』
そこへ駆けつけるテゾーロとメロヌス。
財団の幹部達は安堵の表情を浮かべ、二人に近寄る。
「テゾーロさん、メロヌスさん!」
「ビッグ・マム海賊団が……!!」
「わかってる。おれに代われ、やれることはやろう」
テゾーロが堂々とした佇まいで前に出ると、ビッグ・マム海賊団側からも代表の者が前に出た。上半身裸で地肌に直接マントを羽織った、スペードマークのような髪型の大男だ。
(……相手はオーブンか)
シャーロット・オーブン。
体から猛烈な熱を発する「ネツネツの実」の能力者であり、一味の中でも化け物と称される猛者。三男のダイフク程の粗暴さは無いが敵に対しては無慈悲で性格は直情的だが、冷静な判断も下せる指揮官としての素質も併せ持ち、身内に優しいこともあってシャーロット家としても周囲からの信頼の厚い人物男だ。
どうやら彼に今回の件の全権を任されているようだ。
「……わざわざ来ていただいて大儀でしたね。一体何の御用で」
「とぼけるな。お前も薄々わかっているだろう」
オーブンは呆れ半分に告げるが、テゾーロは意にも介さず言葉を続ける。
「将星がいないということは――将星が出張る幕ですらないとナメられているのか、それともこのテゾーロを潰す気が無いのか……どっちかですな」
ニヤニヤと笑みを浮かべるテゾーロの挑発的な物言いに、ビッグ・マム海賊団の面々は苛立ちを露わにする。
ビッグ・マムは傍若無人な人物ではあるが「常に先手を打つ女」と家族から呼ばれる程の狡猾さを持ち合わせている。原作においてルフィが侵入した際は「カビ菌共」と罵倒しつつも一味の最高戦力の一角である〝千手のクラッカー〟を向かわせており、格下相手でも一切侮らずに指揮を執っている。そんな彼女が、いくら実業家風情とはいえ政府側の重要人物であるテゾーロを潰すのに将星を一人も向かわせないのはおかしな話なのだ。
「格下でも油断しないあなた方らしくない。別の目的で来ているのでしょう?」
「……ならば話は早い」
オーブンはテゾーロに衝撃的な一言を告げた。
「ギルド・テゾーロ!! お前をホールケーキアイランドへと連行する!!」
『!?』
テゾーロを「四皇」ビッグ・マムの根城へと連行する。
その言葉に財団の面々は絶句し、テゾーロ本人も動揺を隠せないでいた。一方のビッグ・マム海賊団の面々は不敵な笑みを浮かべている。
「今回の一件についての〝落とし前〟として、貴様の言い分をママに直接話してもらう!! もし断れば、その時こそ貴様らの終わりだ」
「……中々えげつないマネをするじゃないですか、感心しますよ」
テゾーロは引きつった笑みを浮かべながらオーブンを睨む。
ビッグ・マムは話のわかる人物とは言い難い人柄で、財団幹部のジンのように一部からは「カイドウの方が話がわかる」と言われる始末。彼女の「来る者は拒まず、去る者は殺す」の方針の下ではいかなる者も逆らえず、中には毛嫌いしている者もいる。
その無慈悲な刃が、ついにテゾーロにも向けられたのだ。
「さァ、来てもらおうか」
「ふざけるな!」
メロヌスが叫び、オーブンの眉間に照準を合わせた。
それと共にオーブン以外のビッグ・マム海賊団の面々が一斉に殺気立ち、緊張が走った。
「……理事長、行く義理はねェ。あのババアはあんたを
「その通り。ギル兄がビッグ・マムとランデブーする必要なんか無いよ」
「おれ達だって負ける気はねェさ」
アオハルやジンも得物を構え、いつ戦闘になってもおかしくない状況になる。
そんな状況に異を唱えたのは、テゾーロだった。
「お前らはグラン・テゾーロ計画の成就を優先しろ。行くのはおれ一人で結構だ」
「なっ!? 何言ってんだ、相手はビッグ・マムだぞ!?」
「メロヌス、お前こそ何を言っているんだ。おれは話をしに行くだけだぞ? それに今のビッグ・マムはお茶会の準備で忙しいはずだ、最優先事項を考えると戦闘にまではならんはずさ」
テゾーロの言い分に幹部達は何とも言えない表情を浮かべ、一連の流れを見ていたオーブンは「賢明な判断だ」と呟く。
「決まりだな。よし、出港――」
「その前に一つ、連絡をいいですかな?」
「?」
テゾーロは電伝虫を指差し、連絡したい相手がいることを伝えた。オーブンは海軍ではないかと怪しんだが、上陸させられといて今更連絡するわけないと判断して許可した。
連絡したい相手の正体は――
「サイか? 今から
*
聖地マリージョア、パンゲア城にて。
「……マザー・カルメル? 聞いたことはありますけど」
《ああ、すぐにでも調べてほしい。きっちりかっちりとな》
サイは怪訝そうな表情を浮かべる。
マザー・カルメルはかつて世界政府と繋がりを持っていた〝山姥〟の異名を取る人身売買のブローカーだ。人身売買で利益を得てはいたが、その利益を慈善事業の資金としたり海軍における巨人族部隊誕生のきっかけを作った功績もあり、当時の政府関係者から要求される金額の高ささえ除けば信頼のおける人物だった。
しかし彼女は半世紀も前に行方不明となっており、今更足取りを掴めと言われても資料そのものが少ないため難しい要求でもある。
「何でそんな要求を?」
《ビッグ・マムと話すことになった》
「!!」
サイは目を見開くと同時に、納得した表情を浮かべた。
何を隠そう、ビッグ・マムは幼少期にカルメルに保護されていたのだ。一部界隈からは「怪物ビッグ・マムの恩人」としても知られており、お茶会では必ず彼女の写真が用意されていることも有名な話だ。
「……成程、事情はわかりました。ですが今からだと資料そのものを届けることは不可能ですが?」
《心配すんな、お前も道連れだ》
「……」
テゾーロの無慈悲な宣告に、思わず受話器を落としそうになるサイ。
しかしそこはテゾーロ財団幹部。すぐに冷静さを取り戻す。
「ハァ……わかりました。一応集められるだけの情報は今日中に集めときます」
《
「礼はいりません、仕事です」
サイはテゾーロとの通話を終えると、図書室へと移動を始めた。
(マザー・カルメルが売った子供達は政府関係者や諜報部員、海兵として就職している。売られた子供達が遺した情報から集めるか……)
サイが目をつけたのは、カルメルが売った子供達の情報だ。
カルメルが売った子供達のほとんどは海軍か世界政府で働いており、そのままのたれ死んだり海賊や犯罪者になるよりは遥かにマシな生き方をしている。しかも子供達は一癖も二癖もある者ばかりで、彼女の教育を施さなければ悪党として生きる可能性も十分にあり得た。その点で言えばカルメルは人身売買というよりかは就職斡旋をしていたとも解釈でき、世間一般で言うと悪事ではあるが無いなら無いで別の問題も発生していたことだろう。
そんな子供達が遺した資料や財産を調べ上げれば、中には幼少期のビッグ・マムの情報も付随してくる可能性もゼロではない。情報そのものは少ないだろうが、調べる価値はある。
(ビッグ・マムが納得するような情報……これは骨が折れそうだ)
サイは内心焦りつつも、己に課された任務を全うすべく動き出した。