ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
オトヒメ王妃暗殺未遂事件から一週間が経過した。
今回の騒動はオトヒメの命懸けの活動が水泡に帰す可能性もあり得る非常事態であったこともあり、ホーディの処罰は魚人街に設けられた特別牢での無期懲役となった。牢はテゾーロが海軍から譲られた特殊なもので、ホーディ自身には海楼石の錠と鎖で拘束することになった。またメロヌスの進言により昼夜交代で見張りをつけるように手配し、できる限りの刑罰に処した。ちなみに彼に雇われた海賊は海軍に引き渡したのは言うまでもない。
一方のテゾーロ達はオトヒメを救った英雄として称えられ、竜宮城での会食に参加することとなった。
「テゾーロ、あなた達には何と礼を言うべきか……」
「いや、別に大したことじゃないですよ王妃。今後の世界の変革に必要な人を長生きさせようとしただけの話です」
「しかしお主らは我が妻を凶弾から救ってくれた。お主らはリュウグウ王国――いや、魚人島の英雄じゃもん。わしからも礼を言わせてくれ」
「英雄なんてとんでもない、おれは世間から〝怪物〟と呼ばれている男ですよ?」
礼を述べるオトヒメとネプチューンに、テゾーロは謙遜する。島では英雄と称えられ、世間からは〝怪物〟と呼ばれ畏れられているという矛盾めいた評価に困惑しているのだ。
すると、フカボシもネプチューンに続いて礼を述べた。
「父上や母上だけでなく、兄弟達を代表して私からも礼を言わせてほしい……母上を救ってくれてどうもありがとう」
「アハハ、だから別に大したことじゃないって……」
「そうかしら? 私はとても勇気ある行動だと思うわ」
「そうか?」
ステラに諭され、テゾーロは「じゃあ……どういたしまして」と告げる。
「でもテゾーロって本当にすごいわ、まるでこの世の全てを知っているようだわ。それこそ、未来に何が起こるかも知ってそう」
「……ハハハ、全て知っているわけじゃないさ。時代のうねり・世界情勢の変化・散らばる情報を基に先読みしているだけに過ぎず、それ以上でもそれ以下でもない。未来予知は〝見聞色〟の覇気を極限に極めていくとできるそうだが、それも秒単位の話だろうし」
ステラの言葉を笑い飛ばすテゾーロだが――
(危ねェ、バレるところだった!! 女の勘は恐ろしいな……)
やはり内心では肝を冷やしていた。ここへ来てテゾーロが前世持ちかつ原作知識を有していることを勘づかれるところだった。
どこかの伝説の副船長が言っていた通り、女の勘とは恐ろしい限りである。ある種の覇気なのかもしれない。
「ネプチューン王」
「ぬ?」
「……これはあくまで提案ですが、一度魚人街のガサ入れをした方がよろしいかと。叩くなら根っこまで叩かないと、また近い内に芽が出ますよ」
「ムゥ……」
魚人街は魚人島本島の近くに所在するスラム街だ。元々は孤児院などを中心としたリュウグウ王国の巨大な福祉施設だったが次第に荒廃していき、今では魚人島のはみ出し者達の巣窟と化した無法地帯である。かつてはタイガーが仕切っていたのだが、彼亡き後は治安がもっと悪化しており、結果今回の事件の引き金となってしまったのだ。
「魚人街を一度行政介入でガサ入れしてスッキリした方がいいってか? 理事長」
「ザックリ言えばね」
「……確かに、魚人街の封鎖も考えざるを得ぬかもしれないのじゃもん」
ネプチューンは腕を組んで考え込む。
彼は今回のホーディの件はリュウグウ王国にも原因があると考えている。というのも、魚人街はリュウグウ王国の持つ「負」の側面を全て押し込んだような存在であり、徹底した管理下の元であれば人間への不信感やリュウグウ王国への不満は払拭しきれなくとも過激派による反人間的思想が広まることはなかったはずなのだ。
今回の一件をただのテロ行為で留めず、リュウグウ王国の政権側の意識改革に持っていくべき――ネプチューンはそう思っているのだ。
「父上、ただ押さえつけるのではなく適切な救済措置も必要では?」
「うむ……ホーディがあのような行為に出てしまったのは、我々にも原因があるはず。だがそこさえ変われば、同じ悲劇は起きないはずじゃもん」
ネプチューンとフカボシの事件との向き合い方に、テゾーロは感心した。
この世界の政治家は保身や利益を重視するため、「汚点」を浄化するためにゴア王国のようなゴミ捨て場を住人ごと焼き尽くすという非人道的な所業を躊躇なくしでかす国も多い。そんな中で国の汚点とも言える魚人街に、ただ押さえつけるのではなく救済措置を図るネプチューンとフカボシの姿勢は称賛に値するだろう。
(……せっかくだし、政治学もここで学ぼうかな)
リュウグウ王国で国家運営のイロハを学ぶのも悪くないだろう。
そう考えたテゾーロは、会食を楽しみつつも次の計画を頭の中で練り始めたのだった。
*
一方、聖地マリージョア。
財団の者達がグラン・テゾーロ計画を熱心に取り組む中、サイはマリージョアの資料室で最新の報告書に目を通していた。
(どうも引っかかる……)
サイが調べているのは、新世界のドレスローザで起きた大事件だった。
ドレスローザは900年前まではドンキホーテ一族が統治し、世界政府樹立後はリク王家が統治するようになった世界政府加盟国。国民の生活は貧しかったが800年間戦争が一度も起きてない平和国家として有名で、特にリク・ドルド3世による善政は政府中枢からも高く評価されている程だ。
そんな国で先日、政権交代が起こったのだ。それもただの政権交代ではなく、先代王朝の末裔を名乗る海賊によってたった一夜で成し遂げられたという。
「リク王は突如として狂乱して部下達と共に国民を襲い、その場に偶然居合わせていた王下七武海ドフラミンゴ率いるドンキホーテファミリーによって事態は鎮圧・リク王政権は崩壊してドフラミンゴが新国王に就任した………いくら何でもうまく出来すぎてる」
報告書に書かれた内容に疑念を抱くサイ。
リク王は戦いは好まない性格であるものの、国民を戦争に巻き込まないように全力を尽くす人格者――それがいきなり狂乱して部下達と一斉に凶行に走るのは不自然だ。仮にリク王が狂乱したとしても、リク王軍軍隊長のタンク・レパントやその部下達が必死に止めたはずだ。
それにその場に偶然居合わせていたというドフラミンゴは、標的に対し糸を針のように刺すことでマリオネットのように強制的に操ることができる。リク王達を操って国民に牙を剥いたとなれば辻褄は合う。
(もし本当にドフラミンゴによる国盗りならば、王下七武海制度の見直しが必要だ。実力と知名度だけで決めるのは危険すぎる)
王下七武海のメンバーの選定は、他の海賊への抑止力となりうる実力と知名度が重要視される。テゾーロが手を回して加盟させた大剣豪〝鷹の目のミホーク〟や戦闘民族「九蛇」の皇帝ボア・ハンコック、タイガーの死後に加盟した魚人海賊〝海俠のジンベエ〟、アラバスタ王国で活動する古株・クロコダイルなど、そうそうたる顔ぶれだ。
しかし政府に与する立場とはいえ、所詮は海賊。政府と協力関係にあるものの実際にはガープ並みの自由奔放さであり、力を合わせること自体が考えられない始末だ。ハンコックはテゾーロを介入させれば案外コントロールしやすかったり、ミホークは七武海一気まぐれな性格でありながら割と律儀であり、ジンベエは異名通りの義理堅さだが、クロコダイルは昔から頭の切れる海賊として知られる分油断できない男である。
そして今回のドフラミンゴ。彼は何と天竜人への貢ぎ金・天上金の輸送船を襲い政府を脅して七武海入りを果たしたという。ドフラミンゴの詳細な情報はアオハルの調べによって把握しているが、彼を野放しにすれば後の憂いになるのは必定だ。
「……よし」
ドフラミンゴの王下七武海加盟を取り消すべきだと決心した、その時――
「サイ・メッツァーノ、それ以上の追及は許さぬ」
「!?」
突如響く、背後からの声。
すかさず立ち上がって距離を置くと、そこには仮面を被った白スーツの男三人と一人の金髪の女性がいた。
(〝CP-0〟……! いつの間に……)
サイの元に現れたのは、世界貴族直属の組織「サイファーポール〝イージス〟ゼロ」だった。世界最強の諜報機関として知られる彼らが介入するということは、ドレスローザの案件は相当厄介なのだろう。
「貴様が出る幕ではない。サイ・メッツァーノ」
「――なぜです? 真実を明らかにすることは罪だとでも?」
「この案件は
男達の主張に、サイは顔をしかめる。
サイは世界政府のスポンサーとも言えるテゾーロとのパイプ役を担うので、組織のどの部署にも属さないが各部署の長官に匹敵する立場として特別扱いされている。しかしサイファーポールの最上級機関の諜報員とは立場も権力も大きな差があるので、大きく打って出ることはできないのだ。
テゾーロと関わってからは世界政府が全てではないことを理解したサイは、余計に歯がゆく思えるのだ。
「そうイライラしないの」
「ステューシーさん……」
苛立ちを露わにするサイを諭すように声を掛けるのは、
「あなたは昔からお利口さん。組織の枠から外れてもそこは変わらないでしょう? あなたが首を深く突っ込む必要はないの」
「――海賊の国盗りを黙認するとしても?」
「私達の任務は天竜人の繁栄……その為ならばどんな汚れ仕事も請け負う覚悟よ。国の一つや二つ奪われたって関係ないわ」
「……私が一番嫌うものですね、その言い分は」
「フゥン……あなたの好き嫌いも、私にとってはどうでもいいけどね」
クスクスと妖艶に笑うステューシー。しかし会話から垣間見える冷酷さが伝わり、サイは冷や汗を流す。
五老星や海軍を軽視した越権行為を平然と行う彼らは、同じサイファーポール内でも恐れられているのだ。
「――叩き上げの成金に大分染まっちゃってるようだけど、世界政府に逆らうようなおバカさんにはならないでね。私こう見えてあなたのこと気に入ってるのよ♡」
ステューシーは手を振りながら男達と共にその場を去った。
(テゾーロさん、これはマズイことになりましたよ……)
世界政府の大きな〝闇〟を感じ取ったサイは、四人の背中を鋭い眼差しで見つめ続けるのだった。
ベルメールさんの方はどうしようかな……。