ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
タイトルがどういう意味なのかは、読んでみればわかるかと。
海軍本部の元帥室にて。
「ワハハハハハハハ!!」
「ハァ……何がおかしいスライス」
せんべいを食べながら爆笑するスライスと、それに呆れるコング。
二人の話題は、テゾーロが王下七武海を二人加盟させたことについてだった。彼によって戦闘民族「九蛇」の国の皇帝であるボア・ハンコックに加え、四皇〝赤髪〟と決闘を繰り広げた最強の剣士〝鷹の目のミホーク〟が世界政府の戦力として迎えられたのは大きな変革だ。
「コング元帥さん。そんなに借りを作っちまっていいのか?」
「どういうことだ?」
「そのまんまの意味だぜ。いつまでも便利屋扱いしてっとマジ切れされた時のしっぺ返しは
「……すでに食らっている気もするがな」
コングは頭を抱える。
ミホークとハンコックが加盟したのは戦力的に考えると素晴らしいものだが、二人は超が付く程の自由気ままぶりであり、政府中枢の中には「ガープは一人で十分だ」と嘆いたりしているくらいに好き勝手やっているのが現状。政府への忠誠心は皆無であるのはある意味で想定内ではあったが、コントロールは今の政府では至難の業だ。おそらく海軍元帥が直接圧力をかけても動じないだろうし、五老星が物申しても嫌々動くかどうかが関の山だろう。
とんでもなく強いが、その分ガープ並みにやりたい放題に動く強か者。今までテゾーロを利用してきた政府と海軍への仕返しだと、コングはそう思えてならなかった。
「おれもあいつに
スライスにとって、テゾーロは唯一の盟友にして最大のライバルである。生まれながらの富豪である自身と違い叩き上げで財を成したテゾーロは、世代は同じだがそれ以外は全てが違う。
だからこそ、彼は面白がった。数々の功績で〝怪物〟と呼ばれるようになったテゾーロと、名門一族の現当主にして石油王であるスライス……世界の金の流れをどちらが独占できるのか。一人の男として、一端の実業家として競い合うのだ。
「おれもテゾーロも男だ、こんな時代に生まれて力を持ったからには「覇権争い」に名乗り出ててみるとするか」
「こちらとしては遠慮してほしいがな」
スライスの意気込みにコングは深い溜め息を吐く。
海軍はテゾーロ財団だけでなく、スライスが当主を務めるスタンダード家とも裏で繋がっている。生産した石油を海軍と世界政府に売りつけて一定の権限を認められており、政府内部においてはテゾーロに匹敵する影響力を有している。
当然海軍にも出入りすることも多く、モモンガをはじめとした歴戦の海兵達とも付き合いはあり、現に彼の戦闘能力を確かめたいと何度か手合わせしたことがある。その時は強力な覇気と一端の実業家とは思えぬ高い身体能力で支部の基地をうっかり一部半壊させてしまったりしたが、海軍としても政府としてもあまり敵に回したくない輩であるのは変わらない。
「……そういやあ、ジンベエが王下七武海に加盟したそうじゃないか」
「! さすがに耳が早いな」
スライスは真剣な顔つきでコングを見据える。
そう――実は数日程前に不殺の精神を貫く「タイヨウの海賊団」の2代目船長である〝海俠のジンベエ〟が、人間との懸け橋になるために王下七武海へ加盟したのだ。五老星を筆頭とした政府中枢は種族間の和解が実現したとご満悦であり、世論も魚人が海賊を抑止してくれることに肯定的だが……。
「はっきり言うけどよ……〝ノコギリのアーロン〟を恩赦で釈放したのはダメだろ」
スライスは〝覇王色〟の覇気でコングを威圧する。
アーロンはタイヨウの海賊団に加わる前から海賊稼業をしており、とても気性が荒い魚人の海賊として知られていた。元々サメの系統の魚人であるために魚人の中でも凶暴性が強い上に人間は憎むべき存在と考えてもおり、極度の人間嫌いであると同時に種族主義者であった。
スライスはそんな輩がシャバに出たことに対し警戒心を強めたのだ。人間への憎しみを撒き散らし、いずれは海で海賊行為を超えて
「……まァその気になればおれ一人で潰せるが、生憎お前らの仕事を奪う気はねェんだ。だが、ああいう野郎は狡猾なのが多い。裏をかかれねェように気をつけな」
「スライス……」
「不信や憎しみが肥大化した勢力になったら、それこそ後の祭りだからな。ちゃんと目ェ光らせとけよ」
*
その頃、リュウグウ王国の竜宮城ではテゾーロとジンベエが酒を酌み交わしていた。
「ジンベエさん、どうぞ」
「すまんのう、お嬢さん」
ステラに酒を注がれながら、ジンベエはテゾーロを改めて見る。
マゼンタのダブルスーツに身を纏い黄金の指輪をはめたその姿は、傍から見ればギラギラとした派手な若者だが、その真っ直ぐな目と堅苦しさの無い立ち振る舞いは出会った人間を立場や種族の枠を超えて一目置かせている。
「ジンベエ、王下七武海の件は聞いたよ。よく決断してくれたじゃないか」
「ああ……わしが七武海になれば、立場を利用して魚人族が世界政府や海軍に近づける上に政府の恩赦で元奴隷の者達が逃げ回らずに魚人島で暮らせるからのう」
テゾーロから王下七武海の話を振られ、ジンベエは自らの思惑を語る。
コアラと出会い、テゾーロとも出会い、彼は人間の良い部分を垣間見て認識を改めていた。亡きタイガーもここ最近体調を崩しがちなオトヒメの為にも、自分から人間に近づくのが最善の手と思い加盟したのだ。
「もっとも、不安要素はあるが……」
「アーロンのことだろう? 彼の気持ちはわからないこともないが……世界中どこに行こうが暴挙を働けば海軍が動くなんて甘いこと考えちゃいかんよ、ジンベエ親分」
「!?」
テゾーロはジンベエを真剣な眼差しで見据える。
組織というモノは、大きくなればなる程に末端の活動を把握することが難しくなる。海軍がどんなに「絶対的正義」を掲げていても、巨大な組織である以上は汚職や暴挙を働く海兵も少なからずいるだろう。そこにアーロンが目をつけ、賄賂や利権の話で丸め込まれたら悪事がもみ消されて止めに行くことができなくなる。
「おれとしちゃあ本部はともかく支部の海兵をおいそれと信用しちゃいけない気がするがね」
「そうね、支部は本部の目が行き届きにくい場所もあるってシード君も言っていたし……」
テゾーロとステラの発言に、ジンベエは眉間にしわを寄せる。
「お前さんら、政府側の人間じゃろう? そんなこと言ってええのか」
「おれが政府に与するのは、おれの野望である革命を実現するために一番影響力を周囲に与えやすいからだ。一番の大元が変われば自然と周りが変わっていくのが摂理だからな」
テゾーロは自らの野望を語りだす。
この世界は暴力や武力で支配する時代である。そこに一石を投じ世界的な革命を起こし、経済力や権力、民意で世界の秩序を維持して真の平和・自由を実現するという壮大な野望を抱いている。その為に様々な慈善事業で力と種族間を超えた信頼を得て、国家や世界情勢を巻き込み、いらぬ物を淘汰するような腐敗した社会を根絶する。
それがテゾーロの野望であった。
「武力はある程度の防衛力で十分……国を攻め落とすためではなく、国と民を護り通せればそれでいい。それが理想論であっても、必ず実現してみせる」
「テゾーロ……」
「無駄な血を流すばかりの世界の未来なんて、3秒もあれば何となく想像できるだろう?」
その言葉に、ジンベエは息を呑む。
「………お前さんら、これから何をするつもりなんじゃ」
「そうだな……今は建国を見据えて活動してるが、それも野望への過程だからねェ」
「建国!? お前さんが!?」
さりげなく言ってのけたが、国家樹立というとんでもない計画を企てるテゾーロにジンベエはまた驚かされる。
「お前さんには随分と驚かされるのう……一体どんな国にするつもりじゃ」
「それは最初から決まってるさ。この世界でまかり通っている慣習を全てブチ壊したような国さ」
テゾーロの事業の中では最大規模である「グラン・テゾーロ計画」における国家は、中立国家であると共に政府公認の世界最大のエンターテインメントシティを目標としてるが、実際は世界政府の軌跡を否定するような国家であるという。
「伝統と慣習は別物だ。伝統は歴史を通じて後代に受け継がれてきた有形無形の系統であり、慣習は一定の社会で一般に通ずる習わしだ。伝統は守り続けるべき存在だが、慣習には悪習も含まれる。差別がいい例だろう」
「!!」
「世界政府が否定したはずの風習が今なお肯定されている地域は多い。むしろ政府が利権の為に黙認しているものだってある。おれはそれを全て否定した国家を樹立させるのさ」
あらゆる娯楽を備えた独立国家でありながら、およそ800年もの長い歴史がある世界政府が築いてきたモノを否定した世界の常識を覆すような国。世界の変革を狙うテゾーロが元首となる国は、この世界への挑戦とも言えよう。
「おれが変えるのさ……全てを変えて、未来をあるべき方向へ正す!」
「……!!」
「――なんてな。だがこの世界を変える気は満々だぜ?」
そう言って純粋に笑うテゾーロに、ジンベエは呆然とする。
思えば、テゾーロという男は不思議な人物であった。人間も魚人も人魚も根本は皆同じと語り、人間への恨みを完全に消せなかったタイガーですら「中々まともな感性の持ち主」と評してすぐに手を上げなかった度量に感心していた。数々の慈善事業の功績から彼の思想信条は察することができたが、こうして今思うと彼との邂逅は僥倖とも言えるだろう。
(お頭……わしらは
テゾーロと出会えたことは、種族間の溝を埋められる希望を見出したことなのではないか――ジンベエはそう思えてならないのであった。
スライスの全力は未だ不明(そもそもそういう描写をしていないだけですけど)ですが、身体能力と覇気はテゾーロとほぼ互角と捉えてもいいです。
シャボンディ諸島編辺りの麦わらの一味なら圧倒できます。(笑)