ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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リボーンの小説にも記載しましたが、4月から本格的に働くので、更新が遅れると思います。
ご了承ください。


第104話〝英雄死す〟

 月日は流れ、ゴア王国近辺でゴタゴタが起きているその頃。

 テゾーロは次の世界会議(レヴェリー)に備えるオトヒメを全面的にバックアップし、権力とコネで署名活動の規模をさらに拡大させた。かつての慈善事業で深く関わったフレバンス王国に署名の同意を促したり、ライバルにして盟友であるスライスや知り合いであるモルガンズに協力を呼びかけたりして積極的に活動した。

 そんな中で、その報せが彼の耳に入った。

「フィッシャー・タイガーが、死んだ?」

《これから記事を作るところだ!〝奴隷解放の英雄〟の訃報はビッグニュースだぞ!》

 モルガンズからタイガーの訃報を耳にしたテゾーロは、彼の死について詳しく訊いた。

 モルガンズ曰く、数年程前にタイヨウの海賊団がとある島に立ち寄った時、タイガーはある元奴隷の少女を島民から故郷へ送ってもらうよう託されたという。タイガーはその少女を故郷につい先日無事送り帰したのだが、その帰り道に海軍本部のストロベリー少将が率いる海軍の部隊に取り囲まれ「襲撃」と「逃亡」の罪状を突きつけられ、奇襲攻撃に遭ったという。

 さらに話は続き、タイガーはすぐに輸血しないと出血多量で死に至る程の重傷を負いながらも、一味が海軍の軍艦を奪ったおかげで命からがら沖へ脱出したという。だが、タイガーは断固として輸血を拒んだ末に命の幕を閉じたという。輸血を拒んだのは、原作と同様に一味の者と血液型が合わず軍艦に積んであった人間の血液のストックと型が一致したが、タイガーは人間への恨みを消すことができなかったからだろう。

(大方、原作通りってところか……)

 モルガンズの情報収集能力の高さには恐れ入るが、テゾーロは迷っていた。

 というのも、原作ではタイガーの死は歪曲されて報じられたからだ。タイガーは次の世代に負の感情を伝えないよう望んでいたが、その負の感情はホーディジョーンズらに引き継がれてしまい新魚人海賊団という恨みと憎しみを原動力とした勢力が生まれてしまった。

 そう、テゾーロが電話しているこの瞬間は、魚人島の未来に関わる重要局面なのだ。

「――モルガンズ、記事についてなんだが頼みがある」

《頼み……?》

 

 三日後、世界中にフールシャウト島周辺で起きた事件――フィッシャー・タイガーの死と魚人海賊団の動向が報じられた。

 タイヨウの海賊団の船長を務めた奴隷解放の英雄は、海軍との壮絶な流血戦の末に死亡した。タイガー亡き後は報復の為にフールシャウト島の人間を襲おうとした一味の中核の一人〝ノコギリのアーロン〟をボルサリーノが捕らえた。一方で残されたタイヨウの海賊団は〝(かい)(きょう)のジンベエ〟を二代目の船長とし、初代船長(タイガー)の理念であった「不殺の信念」を貫く海賊団として周知されるようになったという。

 

 

           *

 

 

 〝偉大なる航路(グランドライン)〟のとある海域。

 亡きタイガーの後を継いだジンベエは、新聞を読んで仲間達と語っていた。話題は、タイガーの死の報道だ。

「世間には事実を公表するか……」

「妙な話だ。いくらアーロンから尋問で得たとはいえ、世界政府の情報操作で「人間に拒まれた」と記載されていると思ってたが……」

 ジンベエの呟きに、船医であるアラディンが続けて言う。

 アーロンは一味の中では過激派であり極度の人間嫌い――一味が持っていた人間に対する意識を変えた少女・コアラとも、他の人間とは違うとわかりつつも最後まで心を許すことはなかった。それでもタイガーを尊敬していたのは紛れも無い事実であり、海軍の尋問にもタイガーが輸血を拒まなければ生きられたことを言っただろう。しかしアーロンがいくら事実を証言しても、人間への怒りを優先して「人間のせいでタイガーは死んだ」と証言しても、それを報ずるのは世界政府であり海軍である。

 歪曲されて世間に報道される可能性はかなり高く、残されたジンベエ達も正直な話、事実の歪曲は止むを得ないと思っていた。しかし蓋を開けてみれば、まさかの事実論。タイガーが自らの意思で輸血を拒んだことだけでなく、コアラ――記事には「人間の少女」と表現されている――を故郷まで送り届けたことも記載されていた。

 ジンベエ達としては、タイガーの最期の願いである「島に何も伝えるな」という次世代に恨みを伝えない願いを一部叶えた結果であるので不満はないが、違和感は覚えていた。聖地マリージョアを襲撃し、天竜人に手を出した大罪人に情けなど掛けるわけもないのに、どうして事実をありのまま伝えたのかが理解できないのだ。考えられるのは、タイガーの為に裏で動いた人間がいるという一つの可能性くらいだ。

「誰がこんなことを……?」

「……テゾーロじゃ。あいつがタイのお頭の為に裏工作したんじゃ」

「あ、あの金ピカ野郎がか!?」

「どういうつもりだ!?」

 ジンベエの仮説に、魚人達はざわめく。たったの一度しか会っていない一人の人間が、タイガーの死をありのまま伝えるよう裏で動いていたというのだから、信じられないのは当然だろう。

「ジンベエ、なぜそう言い切れる? 確かに奴は〝おれ達の知る人間〟とは違ったが……」

「さァのう……じゃが、お頭と会って何か思うことがあるとする人間などあいつ以外おらんじゃろう」

 

 

 魚人島、竜宮城。

 国王であるネプチューンは、新聞の一面を見て複雑そうな表情を浮かべていた。

「ムゥ……」

 パサリと音を立てて新聞を()じる。

 フィッシャー・タイガーの死は、魚人島中を震撼させた。世界政府と天竜人に手を上げた大犯罪者であると同時に奴隷解放の英雄であった彼は、リュウグウ王国及び魚人街に希望の光を投げ続けた大アニキでもあった。ゆえに魚人街の無法者達も彼の死に深い悲しみを露わにし、人間と決別したまま人生の幕を閉じた彼を称えた。

 幸いなことに「フィッシャー・タイガーは人間に献血を拒否されて死んだ」ことや生前の彼との最後の会合で知った「タイガーが元奴隷であった」ことは報道はされなかったため、魚人達や人魚達はオトヒメの署名活動から距離を置く者こそ現れど彼女の活動自体に反感を覚えることはなかった。それでも彼女のショックは大きく、号泣して家臣達が必死に宥めていた程だった。

「いつか来るとは思っていたが……」

 頭を抱えるネプチューン。

 正直な話、彼の死が訪れるのは時間の問題だと考えていた。聖地マリージョアを火の海にした上に天竜人に手を上げた以上、世界的な犯罪者として海軍本部が血眼になって海の果てまで追跡し討ち取ろうとする。だがこうも早く海軍の手が回るのは想定外だった。

 フィッシャー・タイガーの死の影響は、人間と魚人・人魚族との確執という面では非常に大きい。オトヒメの意見に賛同して積極的にバックアップしてくれるテゾーロに申し訳なく感じ、溜め息を吐く。

「国王様!」

「ム?」

 その時、ネプチューンの元に電伝虫を携えた左大臣が駆け込んできた。

 電伝虫を携えているということは、ネプチューンとの会談を望む者がいる証拠。何者かと問うと、左大臣は意外な人物の名を出した。

「それが、テゾーロからです!」

「何じゃと……!?」

 テゾーロからの電話と知り、ネプチューンは早速応じた。

《お元気ですか。ネプチューン王》

「うむ……じゃがオトヒメがのう……」

《ああ、やはりショックを受けているんですね。無理もない……》

 オトヒメを心配してくれるテゾーロに内心感謝しつつ、ネプチューンは用件を訊いた。

「して、何用じゃ」

《ああ……実はタイヨウの海賊団についてなんですが、今の船長・ジンベエを王下七武海に推そうとする話が持ち上がってまして》

「ジンベエを、じゃと?」

 テゾーロ曰く、世界政府と海軍はストロベリー少将がタイガーに奇襲攻撃を仕掛けた際に駆けつけた和装の魚人・ジンベエを危険視しているという。

 ジンベエの強さは相当なものだ。魚人空手や魚人柔術を駆使した接近戦を得意とし、さらには〝武装色〟と〝見聞色〟の二つの覇気を会得しており、魚人の中でもトップレベルの猛者であるのは紛れも無い事実。世界政府と海軍が危険視するのも頷ける。

 だが一方で、ジンベエはタイヨウの海賊団に入団する前はネプチューン軍の兵士として国に忠を尽くしており、腕っ節の強さと仁義を重んじる性格から「親分」として慕われていた。かつては海軍も一目置いていた仁義を重んじる「海の男」のような海賊が消えゆく今、ジンベエのような海賊を手中に収める動きがあっても別におかしくはない。

 それに今回のタイガーの一件で「種族間の確執」が表面化しており、人間と魚人・人魚による〝人種戦争〟の勃発という最悪の事態も現実味を帯びてしまった。それを回避するために「種族間の和解」としてジンベエを王下七武海に加盟させようと考えているのかもしれない。

《私としては貴国の情勢を配慮して政府と掛け合う気です。タイガーの死で混乱しているでしょうし》

「……わかったのじゃもん。じゃがその件に関してはジンベエに問うとしたい……無論すでに伝書バットで話は伝わってるであろうが」

《了解。では彼からの返答があれば電話を掛け直してください》

 ネプチューンは一言礼を述べてから受話器を下ろすと、一連の会話を傍で聞いていた左大臣に声を掛けた。

「左大臣。ジンベエの船が――タイヨウの海賊団が島の周辺に現れたら、すぐにジンベエを竜宮城に案内するよう皆に伝えとくのじゃもん!」

「はっ!!」

(ジンベエ……お前が我ら魚人と人魚の希望の光じゃもん……)

 ジンベエの帰参を、ネプチューンは静かに待ちわびるのだった。


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