ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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研修で少し遅れました、やっと更新です。


第102話〝テゾーロとハンコック〟

 ハンコックと再会したテゾーロは、彼女の計らいによりアマゾン・リリーへの入国及び船舶の停泊を許された。

 だがテゾーロは「アポなし訪問で国内の風紀を乱すのはよくない」とアマゾン・リリーの事情を尊重して住民が住む集落に近づかず、ハンコックもテゾーロが自らの恩人であることを島の住民に公表して手を上げぬよう下知を下して海岸で改めて会談することにした。ちなみに会談に参加するのは財団側ではテゾーロとメロヌス、九蛇側はハンコックら三姉妹とアマゾン・リリー先々々代皇帝のグロリオーサ――ニョン婆である。

「レイリーから聞いておる。そなたらにはニャんと礼を言うべきか……」

 ニョン婆はテゾーロにそう言葉を投げ掛ける。

 テゾーロは「礼を言われる程のことはやってない」と謙遜しながら愛用の湯呑みで注がれた茶を飲む。

「……妹さん達も変わらず元気のようで。二人にいい土産話ができそうだ」

「こうして故郷へ帰れたのもあなたのおかげよ、テゾーロ」

「あなたは元奴隷達にとってはタイガーに次ぐ恩人……本当にありがとう。レイリーやシャッキーにも会いたいものね」

 ハンコックの妹であるサンダーソニアとマリーゴールドは、テゾーロに感謝の言葉を贈る。

 フィッシャー・タイガーによる聖地マリージョア襲撃事件で逃走に成功した元奴隷達は、シャボンディ諸島に流れた。予め事態を想定していたテゾーロは人種を問わず匿って錠を外し、新規事業という口実とコネで元奴隷達を故郷へ送ったり財団で安全な生活を保障しつつ雇用したりして手を差し伸べた。

 そんな中でテゾーロはハンコック達と会い、政府上層部でも迂闊に手を出せないレイリーとシャクヤクの元へ案内し、彼女らを匿うよう手を回した。

 

 ――チップを弾むから彼女らに〝希望〟を与えてくれませんか?

 

 そんな小粋なテゾーロにレイリーとシャクヤクはあっさりと了解し、偶然その場にいたギャバンと共にハンコック達を保護した。その後どこからか事情を聞いて駆けつけたニョン婆によりハンコック達は無事故郷へ戻ることができた。

 しかし天竜人の奴隷にされた忌まわしい過去は消えるはずもなく、背中に押し付けられた烙印を公衆の前に晒すと故郷に居れなくなるとして「幼くして外界で武勇を馳せ、怪物ゴルゴンの呪いを受けた」と偽った。

 そして現在に至り、こうして故郷への帰還のきっかけを作ったテゾーロに会えて三人と如ン婆は笑みを溢している。

「それにしてもテゾーロ、お主もわらわと同じ〝覇王色〟の持ち主であったのか」

「君らを救ったおれの部下のアオハルもそうだけどね。ウチは海賊稼業やり始めたら海軍もお手上げになる組織だし。メロヌス、お前は〝見聞色〟と〝武装色〟だよな?」

「おれはどっちかって言うと〝見聞色〟の方が強いけどな」

「あなたも覇気使いなの?」

「それもかなりの手練れね、雰囲気でわかるわ」

 覇気に関する話に花を咲かせる一同。

 外界の人間で熟練度の高い覇気使いに会うのはやはり珍しいのか、興味津々な三姉妹。

「……ところでステラは?」

「何か戦士達に連れられて国内に入ったっぽいぞ。まァ同性に手ェ出す国家じゃねェから心配ご無用だと思うが」

 ステラの行方を問うテゾーロに、メロヌスは愛銃の手入れをしながら答える。

 男子禁制のアマゾン・リリーは男性が入国すると即死罪だが、たとえ侵入者でも女性や恩人には多少は寛容である。ハンコック自身が恩人に手を上げぬよう伝えてあるので、いきなり敵意を露わにしたり攻撃したりすることはないだろう。

「それじゃあ……そろそろ本題に入るとしよう、ハンコック」

「王下七武海の件じゃな?」

「その通り……世界政府は間違いなくハンコックの力を買ってるよ。初めての遠征で8000万の懸賞金って、結構なモンだよ? ビッグ・マムの初手配時の額を余裕で越えてるからね。もっとも、あっちはあっちで別次元でヤバイけど」

 テゾーロは政府から預かった文書を取り出し、ハンコックに渡す。渡されたハンコックは、その場で文書に目を通す。

 その内容は予想通り、ボア・ハンコック及び九蛇海賊団の王下七武海の加盟を要請するものだ。王下七武海に加盟した場合の恩恵から守らねばならない規定、政府での扱いについて事細かに書かれており、逆にこうも丁寧に書いてあると政府がいかに九蛇を警戒しているのかが丸わかりである程だ。

 だが、ハンコックは鼻で笑って投げ捨てた。

「わらわの要求を受け入れぬ限りは加盟することを考える気にもなれんな」

「だろうね……そう言うと思ったよ、〝政府の狗〟になれっつってるんだからね。だが政府は確実に九蛇の力を恐れている。下手に暴れられるよりも、ある程度妥協して自らの手中に収めたがるのが本音だろう――それで、要求は何だい?」

 テゾーロがメモ帳を取り出すと、ハンコックは三つの要求を告げた。

 一つは、聖地マリージョアには行きたくないということ。過去のこともあって世界政府が嫌いな彼女は、たとえ緊急時の招集命令があろうとマリージョアで集まりたくないという。王下七武海制度において緊急時の招集命令に応じないと除名も検討される程の事だが、それでもマリージョアにだけは二度と行きたくないとしつこく告げた。

 次に、世界政府は島の海岸より3km(キロ)以内には一切近づかないことを突きつけた。これはアマゾン・リリーの自治を守ることもあるだろう。下手に世界政府が介入されては島の秩序にも関わるのは明白だ。

 最後に、政府に対して略奪品の一部を納めることについて特別待遇すること。わかりやすく言えば、九蛇海賊団の収益を政府に渡したくないということである。これも除名を検討される程の事であり、普通に考えれば無理難題そのものと言える。

「……これで手を打つのならば応じよう」

 ハンコックはテゾーロを見下すように呟く。

 彼女はテゾーロを試しているのだ。この突きつけられた三つの無理難題をどう解決させ、自分を納得させられるような反論ができるのか、男としてではなく一人の〝リーダー〟として試してみたのだ。

「滅茶苦茶な要求だな……理事長、島の海岸はともかく他の二つはかなり厳しいんじゃないか?」

普通はな(・・・・)。だが不可能じゃない……こっちにゃ知り合いの天竜人を動かして物言わせるっていうとっておきの手段(カード)もあるんだぜ?」

「っ!?」

 テゾーロが投下した爆弾発言に、ハンコックは絶句する。

 あの天竜人を動かし、その権力を利用して世界政府に圧力をかけるというのだ。通常ならば考えられない神をも恐れぬ離れ業を、テゾーロは交渉材料として手札にしている。ハンコックはおろか、妹のサンダーソニアやマリーゴールドも信じられないとでも言わんばかりの表情を浮かべている。

「お、お主……そこまでの芸当もできるニョか!?」

「おれの〝戦場〟は腕っ節だけで勝負していける業界(セカイ)じゃないんだ。コネやカネだってれっきとした「力」なんだよ」

 動揺を隠せないニョン婆に、テゾーロは微笑む。

 戦場というと国や地域の戦争・紛争、海賊と海軍の戦闘を想像するだろうが、テゾーロは競争と競合の激しい世界規模の市場が戦場だ。彼の盟友であるスタンダード・スライスも親交はあれど実業家同士で優劣を競い合う仲でもあり、経営者という生き方を選んでいる以上は様々な業者を相手に戦っているのだ。

 モノとカネの流れを把握して活動していかねば置いてかれて潰される世界で生きるテゾーロは、ハンコックやニョン婆の想像を遥かに超えた力を手に入れているのだ。

(もはやギルド・テゾーロは実業家という域を超えている……!! 若くも老成したこの男、一体どこまで手を伸ばしておるニョじゃ……!?)

 ギルド・テゾーロの話は度々耳にしてたが、ここまでの男なのは想定外だった。

「さて話を戻そう。ハンコック、君の要求は理想通りにはならないだろうが通らせてみよう」

『!?』

 テゾーロ曰く、拡大解釈すれば通用する可能性が高いとのこと。

 たとえば、マリージョアに行きたくないというのは政府嫌いであることを全面的に出して「天竜人でも容赦しない」という認識を植え付ければ通るのかもしれないという。天竜人の暴走ぶりは五老星の意向をガン無視することも多いので、「天竜人に手を上げることも厭わない人物であるかもしれない」と思わせれば来ない方がいいと判断しやすいだろう。

 特別待遇の方も、アマゾン・リリーの国家体制を説明すれば許可が下りる可能性もある。アマゾン・リリーの収入源は海賊による略奪品であるのだが、逆を言えばそれ以外の収入は無いということでもある。大海賊時代になって海賊達の数は圧倒的に増えたが、他の七武海が海賊狩りを積極的に行えば収入ゼロという事態も十分にあり得る。世界政府が要求する略奪品の一部を納めることは、ハンコックから見れば国の財政に関わる案件なので多少優遇してほしいと主張すれば検討はしてくれるだろう。

「ハンコックはただの海賊じゃないのが最大の強み。歴史ある九蛇の国の皇帝という立場と政府の警戒心を利用して、五老星をうまい具合に丸め込めればそれでミッションコンプリートさ」

「し、しかし……いくらニャんでもお主一人で到底実現できるとは……」

「おれは腐ってもビジネスマン……口喧嘩は強い方だと思ってるつもりさ。それに政府上層部は自分達の損得で動くから、そこを突けば案外大漁かもしれない」

 ニョン婆の懸念を一蹴するように笑うテゾーロ。

「さて……おれとしては裏で手を回して最善は尽くすつもりだが、ハンコックはどうなんだい?」

「……そうじゃな、加盟することで九蛇全体に得があるのならば応じてみるのもよかろう」

「わかった、とりあえず了承と判断する。政府に報告するから――」

 その直後、テゾーロの電伝虫が鳴り響いた。

 受話器に手を伸ばして取ると、聞き慣れた声が発せられた。

《テゾーロか? コングだ、九蛇の件はうまく行ってるか?》

「今それをやってるんですけど。雰囲気的にはいい感じになったってのに、このタイミングで電話はナシでしょ元帥殿」

《いや、無性に確認したくてな》

「何ですかそれ」

 海軍のトップの言い分にテゾーロはこめかみをひくつかせる。さすがは伝説的大物が揃うロジャー世代、正義の味方もフリーダムな一面があるようだ。

「……ガープ中将のこと言えませんよ、あんた」

《あいつと一緒にしないでくれ、おれは胸を張って仕事はサボらん》

「その言い方だとサボる時はあるみたいに聞こえるんで撤回した方がよろしいですよ」

(確かに口はよく回る方じゃな……)

 世界政府直属の軍隊の総大将を相手にスラスラと言葉を並べるテゾーロに、ニョン婆は遠い目をする。

「それで、ご用件は?」

《ああ、王下七武海をもう一人決めてほしくてな》

「……今何つったジジイ」

 コングが投下した爆弾発言に、テゾーロは額に青筋を浮かべて地を這うような声を放った。先程とは別人のようになった彼に部下のメロヌスは勿論、ハンコックら三姉妹とニョン婆ですら思わず顔を引きつらせた。

 海軍元帥をジジイ呼ばわりしたのだから、かなり頭に来たようだ。

「なぜおれに話すんですか? 経済制裁もう一発見舞うぞコラ」

《嫌がらせ感覚でやろうとするな! 地味に堪えたんだぞ》

 無表情かつ据わった目で恫喝の言葉を並べるテゾーロに、コングは電伝虫越しでもわかる程の溜め息と共に事情を説明した。

 大海賊時代が開幕してかなりの年月が経った中、政府は王下七武海制度を設けたのだが面子が〝砂漠の王〟クロコダイルだけという人材不足ぶりに頭を抱えているという。選定基準の第一は「圧倒的な強さを持つこと」なのだが、王下七武海に相応しい猛者が中々現れず困っているのが現状なのだ。また王下七武海への勧誘をするにも日々多忙な海軍やサイファーポールでは対処しきれないことも多い。

 そこで政府が導き出した答えが、「いっそのことテゾーロにやってもらおう」という無責任も甚だしい決断なのであった。

「……自分の足でやれよって言いたい」

《言うな、テゾーロ……》

 コング自身も思うところがあるのか、何とも言い難い感情を声に乗せる。

「……あーもう、わかりました。一応留学中の連中に電話してこっちなりに事を進めてみます」

《すまんな、恩に――》

 必要な会話を終えると、テゾーロはすかさず受話器を置いてハンコックと向き合う。

 向こうが言い終える前に切ったのだから、内心では相当お怒り気味のようだ。

「……すまない、取り乱した」

「いや、アレは仕方ないだろ理事長」

 同情の視線をテゾーロに送るメロヌス。

 王下七武海加盟の交渉の代行どころか人材探しまでさせられたら、確かに溜まったものではないだろう。

「お主ら、随分と苦労しておるんじゃニョう……」

「「いや、全く」」

 テゾーロ財団の苦労を垣間見たニョン婆とハンコック達だった。

 

 後日、全世界にアマゾン・リリーの現皇帝ボア・ハンコックが王下七武海に加盟されたことが大々的に報じられ、彼女は〝海賊女帝〟として老若男女問わず数多の人間を魅了する女海賊として恐れられるようになる。


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