縦横の時間軸の奇跡 作:八幡主義
題名の横は比企谷八幡です。
比企谷八幡①
俺は最低な兄だ。
「はぁ、結局俺は無能だってことか・・・」
下に俺にはもったいない妹と、これまたもったいない姉がいる。その妹はボーダーというネイバーから防衛する組織に身を置いている。その妹はネイバーを倒すために入ったと言っていたが、本心は俺に無理をさせないようにしていたんだろうな。姉は自分の夢を捨ててまで俺を選んでくれた。
「本当にこんな形で良いのか?・・・教えてくれよ、じいちゃん」
手に持っている懐中時計に向かって言う。
ここで俺たち家族の話をしよう。俺たちの親は約四年前の大規模侵攻で死んでいる。そのために当時、中学一年だった俺が姉と妹と離れたくないがために親戚の家へと行くのを蹴って、死にもの狂いでバイトをして生計を立てていた。この時の姉貴と小町には貧乏な思いをさせてしまって今でも後悔している。
「・・・俺があの二人をを縛ってんじゃないのか?」
そして小町は俺の負担を減らすためにボーダーに入り、A級になって家計を楽にさせてくれた。姉も小町とともにボーダーに入っている。
でも・・・それでも、変な意地を張ってしまって、頑張りすぎて、倒れて、病院に運ばれ、妹に泣かれて、姉には泣きながらぶたれて、もう家計の事は心配しなくても良いからバイトを全部やめてくれと言われ、そして全部やめてきたところだ。
「・・・全ては家族のためだったから、一番心配な小町も自立できているから俺という存在は必要ないか・・・」
それにこれから、妹の働いた金で生きていくなんて苦痛でしかない。
「このまま自殺して死んでいくのも、結局は迷惑が掛かるからな・・・捜さないでとか置手紙を出してから、富士の樹海とかでゆっくり死んでいこう」
今の俺は空っぽなんだ。
家に帰ると、晩飯を作ってくれている姉貴こと、比企谷真弓がいた。
「ただいま、姉貴」
「・・・ハチ、その呼び方を直せと言っただろ?」
不機嫌そうに返してくるが、これはいつものことだ。それに俺が姉貴の名前を呼ばないんじゃなくて、呼べないんだ。心に言おう言おうと何度も練習しても結局言えなかった。それはたぶん俺の心が拒んでんだろう。人と仲良くすることを。でも過去に一回は言えた。
「別に姉貴でも通じるから良いだろ。俺の姉貴は比企谷真弓しかいないんだから」
「・・・だからだ。そこまで分かっているのに何故名前で呼んでくれないんだ?」
「・・・・・さあな。それは俺の問題だから、今は放っておいて構わない」
ま、未来があれば、の話だけどな。
「それより小町は防衛任務か?」
「なぜ小町は良くて、私はダメなんだ?・・・分からん。まぁ、今は良いか。察しの通り小町は防衛任務で夜までいないぞ」
「そうか」
俺は自分の死に場所と、それに向けての準備のためにそうそうに部屋に戻って作業に取り掛かりたかった。だから俺は部屋に足を運ぼうとする。
「部屋に行くのか?だがもう少しで晩御飯ができるぞ?」
「俺のは置いといてくれ。もしくは置いとかなくていい。少し食欲がない」
「・・・倒れたんだからそうなるだろうな」
「そういうことだから」
一刻も早く、自分が枷になっているものから離れたかったから、少し速足で向かう。
「ハチ」
そう呼ばれたから、俺は振り返るしかなかった。
「意地を張るのは良いが、身体を大事にしないと、またぶつからな」
「・・・分かった」
ったく、姉貴には俺の考えでも読めているのか?
部屋に戻り、ベットに身体を預けるように倒れる。
「・・・明日、だな。・・・早ければ早いほど決意は揺るがない」
俺は素早く起き上がり、自分のパソコンを起動させる。探すのはここから一定の距離があって、自殺者が少なく、自殺しやすい場所だ。
「・・・」
まあ、当たり前のことだが、俺の条件で調べても出てくる場所なんてそうそうない。だから、先に手紙を書くことにした。
「・・・何かの事件に巻き込まれたとか勘違いされても困るからな」
小町と姉貴へ
俺は少しの間だけこの家を出ていく。別に自暴自棄とかになってないから安心してくれ。
意地張って倒れたから、少し家族との距離を開けときたいんだ。
俺がいなくても家事は姉貴が出来るし、ボーダーで頑張っている小町の学力は少し心配だが姉貴がいればそこも安心できる。
俺に頭を冷やす時間をくれ。
比企谷八幡より
「こんなもんでいいか」
念のために直筆で書いといた。
それより、書いてるときに気づいたが調べようとしても、もしかしたら痕跡を辿られるかもしれないから歩きながら考えた方が危険性は低い。
あの姉妹が属している組織の規模が大きいから細心の注意を払っとくのに越したことはないだろ。
「・・・寝るか」
まだ夜の七時だが、あれこれあったせいか睡魔が襲ってきた。
万が一、妹が急に部屋に入ってきたらいけないから、引き出しの中に終い、ベットに入り目を閉じる。
目が覚めると朝の五時だった。俺にしては随分寝てしまった。バイトで張り詰めている時は睡眠時間が二時間というのはザラだった。
計画を決行すべく、昼間に歩いていても怪しまれないような大人びている格好をする。・・・そもそもそれをしていても死んだような眼をしているやつは怪しいが、そこは置いておく。
「机の上に置いとけば見てほしいという意思を表していると分かんだろ」
引き出しに入れておいた置手紙を机上に置き、財布だけを持ち、部屋を出る。
幸い、この時間に姉貴はいなかった。そもそも朝に会ったら、俺がバイトを辞めて行くあてなんかないんだから怪しまれる。誰にも合わないことは好都合だ。
「・・・・・じゃあな」
家族との別れと、それに伴う死を覚悟するまでもなく、俺の決心は揺らいでいない。それを胸に、俺は死へと歩んでゆく。
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少し俺の昔話をしよう。
俺は比企谷真弓の三つ下の弟であり、比企谷小町の二つ上の兄である。
両親はいたって普通だと思う。しかし俺たち、つまり子供全員に分け隔てなく接していたつもりだろうが、俺はそうとは思わなかった。息子より娘の方がさぞ可愛かっただろう。俺への接し方だけ雑になっていった。
だから俺は、二歳にして世界の不平等さを知った。
俺が小学生の時に、テストで良い点数を取ったとしても親は俺の事をほめてはくれなかった。俺が良い点数を取るのは当たり前のことだろというような顔をしてくれた。その癖、姉貴がいつも良い点数を取っているのにそれを毎度両親は褒めていた。
当時何も分かっていなかった俺は努力を重ねて小学四年生で高校卒業レベルまで達していたが、結局俺を褒めることはなかった。
当時、俺はこの世界は才能だけじゃダメなんだと悟った。
俺に優しくしてくれていたのは、母方の祖父母であった。
祖父母は山暮らしをしていたため、俺が頻繁に行くことはなかったが、夏休みや春休みなどの長期休暇には必ず行っていた。祖父母からは身体を鍛えていて損はないと聞かされていた。だから身体も鍛えた。
だが、祖父母がなぞの死を遂げた。
俺はその場にいたが、途中で気絶してしまっていて何が起こったか分からないしから、警察もお手上げな状態だった。それに祖父母の遺体がどこからも見つからなかった。失踪の痕跡はなし。祖父母は行方不明といて処理された。
そして、俺は気づいてしまった。
この世界は俺にだけ厳しいのだと。
祖父母の死をきっかけにそこからこれまで、俺は幾度となく不幸を味わうことになる。一日に一回くらいで収まればいいが、ザラに一時間に一回とかあった。まるで俺を試そうとしているがごとくに。
しかし今現在は奇跡的に何も起こっていない。まぁ、何かの前兆でなければいいけど。
「・・・隣町まで来たか」
三門市を離れ、隣町まで来ていた。だらだらと歩いていたからもう日がてっぺんに上がっていた。
「・・・・・腹減った」
死のうと覚悟を決めた時でさえ腹は減るものだ。昨日の晩から食べていないが、別に気にすることではない。むしろ無駄なエネルギーを摂取して死期が遠のいたりでもしたら本末転倒だ。
「・・・」
だから俺は歩を止めない。誰でも死ぬのは怖い。だが今の俺は嬉々として身を捨てようとしている。その気分を崩さないために歩く。
「・・・?」
しかしここで俺は周りの雰囲気に気が付いた。いつもの統制のとれていないざわざわではなく、一つのことに対して何かをざわつかせている。
「あれ何?」
「さあ?何か黒いぞ」
「動画にとっとこ」
「何かの催し物か?」
周りに耳を向けているが、要領を得られないから俺もそちらに視線を向ける。
「・・・なんだあれ?」
黒いものは空にあった。それに一個じゃない。二桁には届かないがそれなりにある。黒いやつは大きくなったり小さくなったり形を定めていない。まるで無理にでもここに現れようとしているように。
「・・・ここにきて、周りを巻き込む不幸が来るのかよ・・・!」
俺の不幸は二種類ある。俺一人で受けるものと、俺とその他大勢が受ける二種類だ。俺一人だったら自動販売機にお金が詰まってジュースが買えないとか、本当にどうでもいいけど、受け続けると精神的に来るものだが、俺一人じゃなかったら大体の確率で人が死ぬ不幸が襲ってくる。
俺のこれまでの経験からして、この感じは確実にデカい不幸だ。
「くそが・・・」
俺はすぐさまこの場から離れようと全速力で走り出す。俺の不幸の範囲は直径1kmだから今の俺では間に合わないのは確実だが、それをしないで巻き込むのは訳が違う。
「何か出てきたぞ?」
「なんだろ?」
だが俺の決心空しく、巻き込む不幸は進行してきた。
黒い何かは、空中で円の形をして定まった。そこから二階か三階建ての家程度の大きさの白い化け物が現れた。
そして、轟音とともに近くの建物が崩されていった。
化け物が建物にぶつかって建物の内側がむき出しになっている。
「・・・えっ」
「どうい・・・」
いまだに状況を理解していない者たちは、その様子を諦観していた。しかし次の化け物の行動ですべてが動き出す。
「うわぁぁぁ!!たす・・・助けてくれ!!・・・」
その化け物に男の人が喰われていったのだ。
「・・・・・に、逃げろぉぉぉぉ!!!!」
「「「「「「「「「「「・・・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」」」」」」」」」
誰かの合図に場の全員が反応して、一斉に動き出す。
「・・・」
こうなってしまえば、不幸を回避することは不可能だ。不幸が起きるときは何かの予感があるから、たいていはそれを回避できるが今となってしまえばどうしようもないことだ。
俺はその場で立ち尽くす。別に腰が抜けたとか、そういう問題ではない。逃げている人は命欲しさに叫び逃げまどっているが、俺は死の恐怖なのとうに捨てているから、今動こうと思えば動けれる。
だが、俺の予感がこう言っている。『逃げれば再び全体の不幸が襲い掛かる』と。だから俺は動けないし、動かない。
「・・・はぁ、俺の最後はこんなバカげたやつらに囲まれて終わるのかよ」
俺が立ち尽くしている間に、俺は化け物の無法地帯の中にいた。四面楚歌というやつか。
「死ぬという形は変わらないから別に構わないか・・・」
俺は別にそこに美を求めていないからそこはこだわらない。
俺と化け物のにらみ合いが数秒と続く。そこに既に逃げまどう人々の姿や声は存在しなかった。案外不幸というのは適当だな。中途半端に人を襲って、あとは俺を狙う。
もしかしたら、こいつらの狙いは最初から俺だったのかもしれない。
「・・・!」
そしてついに一体の化け物が俺に向けて突進してきた。
俺は構えもせずに、じっと化け物の方を見て、その来るべき時間をじっくり待つ。スローモーションに見えるのは身体も覚悟を決めたのであろう。
しかし、俺は不幸体質だ。だから俺の望むことは、ことごとく看破される。もし俺が死を望んでいるのならばその逆である生を優先させるのが道理である。
「大丈夫か?そこの死んだ目をしている奴」
サングラスをしている茶髪の男が化け物を倒してその上に立っていた。
比企谷真弓・・・はたらく魔王さまの木崎真弓を少し若くした感じです。