12歳の悪役幼女に転生しましたが、菅原様を籠絡して助かります   作:ないしのかみ

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第8話をお届けします。


ある疑念

<8>

「いやな雲行きだ」

 カーゼル侯爵の呟きが憂鬱さを更に深めます。

 天気は曇り。

 こんにちは悪役幼女のシェリーです。

 カーゼル侯爵を我が家に招いた後、間髪を入れずに脱出しました。原作通りだと、掃除夫がやって来て両親が殺され、我が家も全焼してしまうからです。

 ただいま絶賛、逃避行中になります。幸い、両親は帝都不在です。私は使用人達に暇を出すと、すかさずカーゼル侯爵を連れて地下に潜りました。

 悩みましたけど、翡翠宮へ逃げ込む為です。

 ここは原作通りに行くか、それとも別のルートを辿るか悩む所でした。フラグ的に危険な所があるのですが、菅原様の事を考えればやるべきと決断したからです。

 幸い、早めに行動した為か、『GATE』(げて)で突破に苦労した包囲網はまだ形成されていません。

 そして、あらかじめ食料も水も多めに携帯してますからね。あの真珠のネックレスを失う事もないでしょう。

「帝国兵だ」

 しかし、幸運が続くのも最初の内だけでした。

「あと少しで翡翠宮なのに…」

 そう、前方の道路に皇子子飼いの掃除夫と、帝国兵がピケを張っていたのです。

 候と私は茂みに隠れると様子を窺いましたが、動きはなく、夜になるまで近くのあばら屋に潜伏する羽目になったのでした。

 

 あばら屋に隠れていると、嫌な物が目に入ります。

 皇子は遂に人食いのジャイアントオーガーを市井に投入して来ました。

 ガウガウ言いつつ、それが帝都の中を徘徊してる光景は悪夢です。

 同時に疑念も浮かびます。あれは原作ではかなり後に投入される物なのでは…。

「正直、頭は正常なのかと皇子を疑いたくなるよ」とカーゼル候。

「オーガーの統制がいつまでも取れるとでも考えておるのだろうか。もし自分の方が周りの兵より強いと認識してしまったら…」

 私は頷きます。

「手綱のない猛獣が市中で暴れ回って、始末に負えなくなりますね」

 でも不謹慎ですが、「そうなってくれた方が脱出する我々には有り難いんですよね」との言葉を私は押し殺しました。

 考え方が悪役ですね。ゲーム内での悪役幼女との役割を超えて、自分の本質が外交官として、悪党寄りな思考になっているのではないかと自問自答します。

 思えば、私は菅原様の事を本当に愛しているのでしょうか?

 自分が助かりたい為、便利な駒として利用しているんじゃないでしょうか?

 との暗い想いがわき上がってきます。

「どうした。シェリー」

 カーゼル候の声。はっとして私は現実に立ち返ります。

「いえ、なんでもないですわ」

 そう答えて、私は頭の中の疑念を振り払いました。

 

<ここで解説>

 原作との差異が目立つのは、シェリーの工作のせいだけでは無いかも知れません。

 悪役令嬢っぷりが出てまいりました。でも、元々の彼女も純粋無垢な善人だとはとても言えない、陰謀策術の手練手管を使うキャラなので、案外貴族としては普通なのかも知れないですね。

 あ、原作と言っても『GATE』(げて)の方のシェリーは単なる我が儘馬鹿令嬢ですよ(笑)。  

 




元の連載版にないお話をお届けします。
元版では、前話から直ぐに翡翠宮まで場面が飛んでしまうんですが、逃亡中の話を1話入れた方が、らしくなるとの改変です。

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