12歳の悪役幼女に転生しましたが、菅原様を籠絡して助かります 作:ないしのかみ
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二頭の重飛竜が羽ばたく。細身の軍竜と違い、如何にも鈍重で重々しい動き。ただその分、力強さはあるわね。ぴんと張った頑丈なロープ(鉄線が編み込まれてる)に括り付けられた双胴の『吹き流し』がずるずると地面を滑り出し、やがて空を舞う。
「おー、お嬢様の経験が役に立ったねぇ」とミードが嘯く。
「琵琶湖で使えたカーボン他の素材があったら楽でしたけどね」と苦笑する。滑空機部門とか懐かしいわね。
こんにちは、悪役幼女のシェリーです。今は避暑を名目に両親達と里帰りして、領内にて『吹き流し』こと滑空機、つまり竜に引っ張らせるグライダー訓練を見学してます。
前世で某飛行コンテスト用に設計したのに比べると、木枠に羽布張りでスマートさの微塵もありませんが、こちらは競技機ではなく貨物輸送用ですしね。
「空挺隊かぁ。早速、編成するんだろ?」と無邪気に尋ねるセイレーン。
それに対し「機体は揃いましたけど、肝心な人員養成が追いついてません」と答えます。曳航用の竜騎士もそうだけど、特に滑空機のパイロットが十指に足りないのよね。
軍の方も新設の空挺隊を胡散臭がるから、商用だと開き直って民間から雇用している最中よ。実際、軌道に乗ったら小包便の料金低下を見据え、これを小荷物輸送用に転用する計画だしね。
「任せて貰えるなら人材のアテがあるよ」とミード。但し、「亜人ならって条件は付くけどさぁ」と続ける。
竜人や翼人など『飛ぶ』と言う感覚を持ってるのが良いらしいわ。鳥目ゆえの夜間飛行の事は考えない事にしよう。
「鉱山の方は順調らしいわね」
「発電機増やして電解槽の規模を大きくしたいね。ほら純銅と金の地金が出来たよ。発破の方はこれからかな。石鹸作るグリセリンの副産物としてニトロなら用意出来るけど、どうせ作るならやっぱり無煙だよねぇ」
何か物騒な事を言ってるわね。
私はミードから手渡された輝く純銅板と小さな金地金を眺める。電気精錬。これで金山のない我が領地から金を産出する錬金術が整ったわ。
「お嬢様。帝都のカーゼル候から急報です」
筆頭侍女が駆け込んで来て手紙を渡す。私は一読すると隣のセイレーンに声を掛けた。「この成果をお父様達に報告して下さらない」と。
「え、まだ採算に乗るまで秘密にするって話じゃ…」
私は手を挙げて言葉を遮った。
「帝都で政変が起きそうです。この金産出に驚愕したお父様は、数日は視察などで領地に留まる事になるでしょう。それを利用して私は一足先に帝都へ行きます」
悪法の延期は三月と持たなかった。業を煮やした殿下は戦時強権を発して元老院議会の停止を宣言したわ。恐らく、これからクーデターで軍を掌握するでしょう。
「…カーゼル候、今、行きます」。
私はドレスから騎竜装備に着替えると、帝都へ向かう飛竜便に同乗して空の上の人となった。
<ここで解説>
エレキテルじゃあ(笑)。
電気精錬を使えば銅山からも金が出ます。まぁ、ほんの僅かなんですけど塵も積もれば何とやら。実験装置の規模では採算ベースには程遠いですけどね。
水車で発電機をえんやこりゃと回すより、落差を使って一気に発電した方が効率良いんですが、今のシェリーではこれが限界。
時間稼ぎがとうとう終焉。次回からゾルザルのクーデター勃発です。
時間が足りなくて、シェリーの軍備増強は結局間に合いませんでした。さて、どうなる?