12歳の悪役幼女に転生しましたが、菅原様を籠絡して助かります 作:ないしのかみ
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チチ・モスコーミュールは何処とも知れぬ空間に居た。
ここに召喚されたのは何度目か。もう覚えてないなと独りごちる。
最初に『GATE』(げて)の世界に来た時は驚いた。既に転生者が何人も現れて、ゲームの登場人物と入れ替わっているのを知ってびっくりした。
「そこに居るんだろ。神様」
名も無き神。いや、名乗らないだけで名はあるんだろうとチチは推測しているが、に対して娼婦は呼びかけた。
「ご苦労様。今回はどうだった?」
空間全体から思念が発せられる。あくまで自分に姿を晒す気は無いらしい。
「何を今更。全てお見通しだろ。
最初に転生した時は皇女としてピニャに成り代わろうと努力した。
二度目は悪所の情婦で何が何やら分からない内に、あっという間に殺された。
そして三度目、四度目だろ。あんたがあたいに何をやらせたいのか、さっぱり分からないけどね」
クスクスと笑い声。
「いい加減、何度も記憶を持ったまま、同じ時代、同じ時間に生まれ変わるのは飽きてるんだけどね。これは何かの罰なのかい?」
「違う。君は神の実験に協力している。まぁ、被験者みたいな存在だよ」
「被験者?」
「同時にその事象を観察する、観察者でもある。だからそれに必要な力も与えてある」
要らねぇ。とチチは嫌悪した。
「だから君は、私の亜神なんだよ。特殊なね。不死身の力を持つ形が、転生と言う方法になっているんだ。
だから君は死なない。死んでも別人として同じ時代に甦る」
身勝手だ。
神なる存在にとって人間なんぞ弄ぶべき者なのか。理不尽だ。理不尽すぎる。
「くそっ、きっと破ってやる。この閉じ込められた時間の牢獄を、あたいは必ず打ち破ってみせるよ!」
ぐらりと空間が揺れ、そしてチチは自分の寝台で目を覚ました。
チチが叫ぶのを、満足そうに時空神は見下ろしていた。
今回の世界は上手く安定しそうだった。
地球人が『GATE』(げて)の世界と思い込んでいる並行世界。それは元々、彼(彼女か?)の管理下にあった世界の一つだった。
異世界の作家にそれをweb小説として書かせ、更にゲームとしてヒットさせたのも彼の策略であった。多数の人間が同じ世界を、同じ物語を認識する共同幻想。大勢の他者を別世界へ転生させる為には、それがどうしても必要だったからだ。
全くの未知の状態より、ある程度見知った下地がある方がその世界に同調する為に、すんなりと転生させやすいからである。
例えば、伊丹みたいなハーレムを築きたい。ピニャみたいな素敵に姫に憧れる人間を、その人物と置き換えるのは容易なのである。
実はその世界、仮に『げてワールド』と呼ぼう。は滅亡に瀕していた。
魂をコレクションする悪癖を持つ神々が登場し、世界に生まれてくる者が劣化してしまったのだ。つまり、閉じた世界の中で転生が上手く行われないのである。
世界は活力を失い。社会は停滞して遠からず滅ぶのが確定している。
尤もあの世界は神々に頼りすぎる連中が余りにも多く、自己努力が足りないのも原因であるが。
故に異世界から新たに魂を呼び寄せ、世界を活性化しようとしたのが門だ。だが、それだけでは世界は変革しない事を時空神は悟っていた。
「もっと、世界全体を引っかき回すパワフルな存在が必要だ」
それが送り込んだ異世界からの転生者だった。
世界をアクティブにぐいぐいと引っ張って行き、今までに無い結末を作ってくれる者。
違う未来を見せてくれるかも知れない者。
「しかし…。大半があのレミーの様に原作に拘ってしまうのだな」
だからワザと人物の名称もちょこちょこ変えて、ここはパラレルワールドだと親切に知らせてやっているのだが。
失敗した世界の方が多かった。むしろ一割でも成功すれば良い方だろう。
では次の分岐、次の並行世界を準備しようか。設定は門が開く10年前からだ。
「さて、次の世界はどうなるのかな」
シェリーの物語は終わった。彼女はちゃんと世界を変革してくれたから、もう干渉する気は無い。このまま生を全うし、輪廻転生しても記憶が受け継がれる事もない。
だが、途中退場した魂は再び表舞台に立って貰おう。
そろそろ最初に門を開けずに進む話や、帝国が地球を圧倒する結末とかも見てみたい物だが…。
あたしの名はレミー・マルタン。
って、えっ。獄死したはずよね。シェリーのうちの塔の中で病をこじらせて。
医者なんか要らないって固辞して、このゲームが間違ってるからリセットするんだって。
ここ何処? 何処かの邸宅みたいだけど、そっか、無事にリセット出来たのね!
ええと、あたしは12歳でリープ・フラウミルヒ。男爵令嬢。
ここはフラウミルヒ邸。
って、ああっ、どうなってるのよ。あたしはレミーじゃないの!?
…そしてまた、新たなる物語が幕を上げる。
<完>
チチが第11話でシェリーへ「あんた、まだ初めてなんだ」と尋ねた理由がこれ。
時の牢獄で輪廻を繰り返し、神に満足した結果を出さない限り、翻弄され続ける転生者達の事を知っていたからです。
でも『自分から気が付かない限り意味は無い』(いきなりそう言われたって信じないでしょ?)ので、神に抗う同志が欲しくても何も言いません。記憶を持たぬ輪廻の環から外れる可能性だってあるんですからね。
そんな彼女を神は面白そうに観察してます。
世界へ直接介入する手合いの神って残酷ですね。まぁ、それだけこの『げてワールド』が不完全な物だったのでしょうけど…。
さて、本作はこれにて完結。
稚拙な作品でしたが、ご愛読下さった皆様方に感謝を。
有難うございました。