12歳の悪役幼女に転生しましたが、菅原様を籠絡して助かります 作:ないしのかみ
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帝国軍は瓦解しました。
いえ、正確には帝都の、ゾルザル配下の帝国軍は。ですね。
ゾルザル殿下は宮殿で砲弾を受けて亡くなりました。嫌がらせに過ぎない砲撃が首魁をあっけなく仕留めたのは皮肉です。
既に指揮系統が支離滅裂で、内部分裂を起こしていた帝国軍はあっさりと帝都を開城。ここに戦争は終結します。
そう言えば、テューレなる女人は殿下の側には見当たらなかった模様です。ただ、後に兎族の奥さんを伴った板前自衛官を見かけたとか、なんとか。
現在、帝国の首都は臨時政府があるアルヌスへと移り、ピニャ殿下が今後の代表となる事に決定してます。
ここにピニャ殿下の政権を正式な帝国政府とする事で、日本との和平が成立したのでした。
そして…。
あれから二十年が過ぎました。
「製鉄技術の向上が目下の課題だね。反射炉があと幾つ必要なのやら」
「後裝銃の施条が三本なのは何となりませんか?」
「量産化の為の尊い犠牲だね。ま、暫くは我慢だよ」
「ローマンコンクリートの発注が滞ってるとさ。施設科から文句が」
ミードの率いる開発局は、相変わらす忙しそうですね。
様々な新技術。地球から見たら時代遅れも甚だしいのでしょうが、それを次々と実用化して、我がテュエリ領に富国強兵をもたらしています。
転生者を積極的に集め、農地の発展。特産品の開発なんかも行い、我が領は周りから見れば、飛躍的に発展しています。
「伯爵婦人、テラスで伯爵がお待ちです」
「ありがとう」
それを伝えてくれた家令に、私は感謝の言葉を示すとテラスへと上がります。
既に父と母は私達、新しい世代へと職を譲って引退しています。
私は結婚しました。そして夫は…。
「菅原様っ!」
私は小さな頃の様に駆け寄って夫に抱きつきます。旦那様は「おやおや。未だにその呼び方なんだね。そろそろ浩治と呼んで欲しいな」と苦笑しつつも抱きしめてくれます。
コージ・スガワラ・テュエリ伯爵。彼は一命を取り留めた後、門の閉門に遭遇して、こちらへ取り残されてしまったのでした。
私の夫としてティエリ家の養子となり、今は帝国議員としても活躍してますが、これには訳がありました。
原作では門は再び開くのですが、この世界ではそれは起こりませんでした。
重要な役割を果たす筈の伊丹ら一行も、亜神ロウリィ聖下以下、丁度、全員が日本へ向けて旅立っており、こちらへ帰還する事もなくそのままになっています。
噂では神の誰かが策を巡らせたとも…。
自衛隊の特地駐屯地も大混乱に陥りましたけど、為す術もなく、今では独立国家として成立しています。その『日本』国から帝国との折衝役として、こちらに残されていた我が夫が起用され、帝国議会へと送られてしまったのは仕方の無い事なのでしょう。
「今度は何日ゆっくりされますの?」
その功績から、夫は正式に貴族院議員に選出されてしまい、今では帝都と我が家を行き来する忙しい身になってしまいました。
「四日は大丈夫。ああ、でも通信が高速になったのは不便になったな。前は連絡が届かなかったとか理由を付けてサボれたんだけど」
セマフォア(腕木)式の視覚通信網が発達してる今、帝国全土ならば僅か半日で、何処へでも通信連絡が取れるようになっています。便利になった反面、こうした弊害(?)も出てしまうのでした。
「そっちは大事ないかい?」
「ええ、領内は平穏。問題はありません」
「そうじゃない」
菅原様は私を抱き寄せます。そっと私に腹部に触れて優しく撫でてくれます
「生まれる子供の方だよ」
どちらともなく顔が寄せられ、唇が重なり合いました。
私はシェリー。もう悪役幼女ではありません。
これからも私は私の人生を、しっかりと歩んで行きます。
<FIN>
<ここで解説>
一応、悪役幼女はこれで完結ですが、あと一編エピローグがあります。
もう暫くおつきあい下さいませ。
シェリーの物語はこれにて終了です。
最後はやはり「大団円」で決めさせて貰いました。
菅原ともっと恋愛シーンを入れた方が良かったかなとの反省もあります。
また、戦闘シーンが割合あっさり目だったし、伊丹やらロウリィ等、メインキャラの登場を期待してた方にも期待を裏切ってしまったかも知れません。
本作はあくまで悪役幼女シェリーの視点から見た物語なので、別視点、別キャラの行動を追いかけられないんです。『エロエロンナ物語』の様に三人称を織り交ぜて、主人公以外の描写ってのは本編では禁じ手で、字数が多くても1,500字内外って言う縛りもかけていました。
「本編では」、ですけどね。
次、エピローグではこれを解禁します。
最後の話はネタバレ編になります。