ラブライブ! × バトル物 です。昔書いたプロットから最終章ラストエピソード前後の場面を書き起こしてみました。一年生組です。文章から設定がにじみ出てる感が好きです。能力のイメージは〇ンター×〇ンターが大きいです。

 EPISODE:『孤独なHeaven』

※あらすじ※
突如として姿を消した花陽、ことり、希の3人が‛ハッピーメイカー’と共に居る事を知ったメンバーは、遂にその拠点を突き止めることに成功する。3人を取り戻し、全ての決着をつけるべく拠点へと急ぐメンバーの前に、何故か花陽が立ちはだかる。まるで感情を全て失ってしまったかのような変わり果てた姿で行く手を阻む花陽。限られた時間の中で決断を迫られた真姫と凜は、他のメンバーを先に行かせ、自分たちで花陽を取り戻すことを誓うのだった…

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『孤独なHeaven』

真姫「くっ……!ここまで、なんて…!」

 

 

 

覚悟はしていたつもりだった。ただ、真姫の想定をゆうに超える強さに、自分の甘さを痛感する。

 

侮っていたつもりは毛頭ない。高飛車で自信家だと自他共に認める真姫だったが、ことµ'sのみんなに限って言えば誰かを下に見たり軽視した事など無いと断言できた。それは花陽も例外ではない。

 

彼女の控えめな、ともすれば臆病過ぎる態度にやきもきする事はある。しかしその奥に秘めた情熱と確かなこだわりを、真姫は尊敬していた(言わないけど)。

 

みんなを先に行かせた判断も、花陽を軽く見たからではない。戦闘向きの能力である自分と凛の2人なら、基本サポート向きである花陽を充分相手に出来るはず。戦力を冷静に分析した上での、確かな判断だった…そのはずだった。

 

 

 

真姫「‛孤独なHeaven’……孤独な、とは上手い事言ったものよね…」

 

 

 

想定外だったのは、花陽の能力が文字通り『孤独』になるほど指数関数的に強化される事であった。

 

花陽自らが『µ'sを裏切った』と考えている。自分はもうみんなとは仲間ではない――その思考が、孤独感が、今の言わば「暴走状態」を引き起こしているのだろう。

 

 

 

凛「かよちん!お願い聞いて!凛たちは怒ってないよ!」

 

 

 

凛が花陽の攻撃を避けながら、もう何度も繰り返した言葉を投げかける。

接近戦タイプの凛は、真姫以上にダメージを受けている。その動きも普段の精彩を欠きつつあった。

 

それでも、凛はずっと、ずっと言葉での説得を続けていた。

 

 

 

凛「かよちんの気持ちに気付けなくてごめんね!かよちんは優しいから…µ'sのみんなの事を考えてたんだよね!みんな分かってる!かよちんは悪くないよ!」

 

 

 

暴走状態の花陽に、凛の言葉が届いているとは思えない。しかし、真姫は凛に、無駄だから止めろとはとても言えなかった。

 

違う。真姫は思う。この声は無駄なんかじゃない。

 

花陽は、苦しんでいる。熾烈になる攻撃はその裏返しだ。私たちが受けるそのダメージの何倍もの苦しみを、自身の心に受けている筈なのだ。

 

真姫(私では出来ない…でも、凛なら…いえ、多分、凛にしか出来ない…。花陽の心に、一番長く寄り添ってきた凛にしか…。)

 

 

 

凛「かよちん!……きゃ!」

真姫「!! 凛!」

 

 

 

危うくも直撃は避けていた凛が、遂にまともに攻撃を食らい吹き飛ぶ。辛うじて真姫の‛Darling︎‼’が壁の直前で受け止める。それでも衝撃は止まらず、凛と‛Darling︎‼’は絡まるように壁にぶつかり、倒れこんだ。

 

 

 

 

真姫「凛!大丈夫︎!?」

凛「ありがとう。凛は…平気。でも、かよちんが…」

真姫「えぇ…このままじゃまずいわね。」

 

 

 

 

自分も凛も、もうほとんど体力は残されていない。花陽の暴走はますます加速しているようにみえる。それはつまり、花陽の苦しみも大きくなっているという事。

 

先に行かせたみんなの様子も気掛かりだ。あらゆる意味で、もう余裕は無い状況だった。

 

 

 

 

真姫「花陽…どうすれば……。」

凛「やっぱり、これじゃあダメなんだね…仕方ないにゃあ。」

 

 

 

 

ふいに凛が戦闘態勢を解いた。

 

真姫が驚いて凛を見るのと、花陽の‛孤独なHeaven’が凛に今までで最大の一撃を叩き込むのは同時だった。

 

 

 

 

真姫「くっ……きゃあああ!!」

 

 

 

 

轟音が鳴り響く。床がひび割れ、衝撃があらゆるものを吹き飛ばしていく。吹き飛ばされながら、それでも真姫は目で凛を探していた。

 

砂埃が視界を奪う。叩きつけられた衝撃で身体が悲鳴を上げる中、真姫は花陽からの追撃を警戒するのも忘れて、周囲をがむしゃらに見回していた。

 

いくら凛でも、今のをまともに食らったら…!!

 

 

 

 

ふいに、後方からから爆発的なエネルギーを感じ、真姫は驚いて振り返る。

 

凛は無事に今の一撃を避けていたようだった。とりあえず安堵する真姫だったが、しかし、これは…

 

 

 

 

真姫「凛!……まさか!」

 

 

 

 

砂埃が徐々に収まり、視界が開けていく。見えてきたのは、今までのBellではなく、タオルを手にして構える凛の姿だった。

 

 

 

 

凛「凛の全力で届かないなら……超全力を出すしかないよね!」

 

真姫「‛パッショネイト’⁉ まさか凛、一人で…!」

 

 

 

 

無茶だ。真姫は言いかけ、しかし…その言葉を飲み込んだ。

 

凛も馬鹿じゃない。自分の状態も、この状況も、全て分かった上で、これしか無いと考えての無茶なのだ。

 

実際、2人の中で現状を打破しうる破壊力のある手段は、これしかないだろう。

 

 

 

しかし…それは、正しく‛パッショネイト’を発動できた場合に限る。

 

 

本来‛パッショネイト’は穂乃果と凛のコンビネーションあっての能力だ。さらに言ってしまえば、そもそもµ's全員で初めて完成する‛Mermaid festa’を、2人で無理やり再現するのが‛パッショネイト’である。

 

おそらくメンバー内で一番運動能力が高い凛だが、それでも一人ならほとんど真価を発揮できないだろう。

 

もしかしたら発動すら難しいかもしれない。

 

 

 

---そう、一人なら。

 

 

 

 

姫「…イミワカンナイ」

凛「真姫ちゃんごめんね。でも凛は馬鹿だから、これしか思いつかなかったよ。」

真姫「…まぁ、みんなの無茶に付き合うのも、いい加減慣れてきたしね。」

凛「凛が超全力で頑張るから、後を…かよちんを、お願い。」

真姫「馬鹿ね。それじゃダメに決まってるじゃない。」

凛「? でも、もうこれしか…」

真姫「どうせ無茶するのなら、勝算のある無茶をしないと、ね…」

 

 

 

 

言うまでもなく真姫も満身創痍であった。だけど関係ない。

 

花陽を助けるのは凛の役割だ。でも。

 

ほんの少しでいい。その背中を押してあげたい。

 

 

 

もう一度、あの時のように。

 

 

 

 

真姫「もってよね……‛Darling‼’」

 

 

 

 

コンディションは最悪。‛Darling‼’を出せるのもこれが最後だろう。それでも迷いは一切なかった。

 

‛Darling‼’を、本来なら穂乃果が付く位置に立たせる。

 

 

 

 

凛「真姫ちゃん¡?」

真姫「‛Darling‼’じゃ穂乃果の代わりは無理だけど…いないよりマシでしょ?」

 

 

 

 

‛Darling‼’をメンバーの代わりに躍らせる。試したことはなかったが、不思議と不安はなかった。

 

ずっと見てきたのだ。動きも、癖も、考え方すら、µ'sのみんなの事はすべてわかっている。

 

 

 

 

真姫「私がフォローに回るから。最後は凛が決めてきなさいよ。

   …馬鹿な事考えてる花陽を、ちゃんと連れ戻してきてよね。待ってるから。」

凛「真姫ちゃん……分かった。任せて!」

 

 

 

 

凛はあらためて、花陽に向き直る。ますます暴走状態が進んでいるのだろう、すでに凛や真姫を半ば無視して周辺全てを無差別に攻撃し始めていた。

 

その顔は一見、無表情に見える。しかし凛には、花陽の苦痛が、後悔が、涙が、痛いほどに感じ取れた。

 

 

 

 

凛「ふぅー……」

 

 

 

 

呼吸を整える。息をするたび身体中が痛む。それ以上に、心が痛かった。

 

凛が苦しい以上に、かよちんは独りで苦しんでいるんだ。

 

どうしようもなく、でも必死に、自分と闘っているんだ。

 

一度は絶望に沈んで、自分も他人も傷つけてしまって、それでも。

 

だから、凛は、叫ばずにはいられなかった。ずっとずっと一緒だった、大好きな人の名前を。

 

 

 

 

 

 

凛「かよちん!

 

  かよちん!!

 

  かよちん!!!

 

  かよちん!!!!」

 

 

  かーよーちーん!!!!!!」

 

 

 

 

 

その声に反応した花陽が、‛孤独なHeaven’を凛に放つ。数も威力も、既に数分前とは比べ物にならないほどに膨れ上がっていた。食らったら今度こそ無事では済まないだろう。

 

 

だが、先ほどと違うのは凛の方も同じだった。

 

 

 

 

凛「‛パッショネイト’‼……超全開で、いっくにゃー!」

 

 

 

 

瞬間、洞窟内の空気が沸き立つように震える。

 

余力も限界も一切無視した、文字通り超全開の駆動。

 

常人では目ですら追えないスピードで攻撃を避けた凜は、そのまま一直線に花陽に向かっていく。

 

近付く凜に、花陽は攻撃を集中させる。接近するほどに濃度を増す攻撃は、しかし凜を捉えることは出来ずに空を切る。

 

 

 

 

真姫(とりあえず発動は、出来たみたい。もしも、これでも届かないなら……いや、今は弱音を吐いてる場合じゃないわね。…それにしても、普段から凜と穂乃果はこんな無茶な動きを…!)

 

 

 

 

最大限集中していても、少しでも気を抜いたら‛Darling‼’の制御が破綻しかねない、圧倒的なパフォーマンス。

 

フォローに専念してこれなのだから、本来の穂乃果の動きはさらにレベルが違うのだろう。

 

凜と違い、穂乃果は元々飛びぬけて運動が得意ではなかったはずだ。彼女の努力が並大抵のものでないことは、一緒に過ごしてきた真姫もよく分かっていたつもりだったが…

 

もう随分と長い時間を共有してきたのに、いつもいつでも新しい驚きをくれる。だから、彼女はµ'sのリーダーなのだと、真姫は思う。

 

 

 

 

真姫(あんまりこの言葉は好きじゃなんだけど…。本当に…奇跡のように、運命のように集まった9人だと思う。そう、一人もかけちゃだめ。勿論あなたもよ、花陽…‼)

 

 

 

 

激しい攻撃の全てをかわし切り、少しずつだが確実に、凜は花陽との距離を詰めていっている。これなら…

 

真姫は今一度‛Darling‼’の制御に全神経を傾ける。

 

 

 

 

 

 

 

凛(真姫ちゃんはやっぱり凄い…初めてなのに、ほとんど完璧に合わせてくれてる…。でも…)

 

 

 

 

…しかし。

 

 

 

 

凜(でも、やっぱり……思うように身体が動かない…)

 

 

 

 

満身創痍の身体。一人での発動。やはり無理がありすぎたのは事実。むしろ何とか発動出来ているのが不思議なぐらいだった。

 

真姫の、〝Darling‼”を操る卓越した才覚と精神力がなければとっくに破綻しているかもしれない。

 

普段は考えるより先に身体が動くくせに、肝心な時に考え込みすぎる事が凛にはあった。

 

 

 

長くはもたない。凛も、かよちんも。

 

焦りと不安が、じわじわと凛の心に広がっていく。

 

 

それでも、叫ぶのだけは止めなかった。

 

 

 

 

凛「かよちん!!

 

  聞こえてるんでしょ、かよちん!!!

 

  かよちんがµ'sのために、みんなの為にこうなったのは知ってるよ!

 

  みんなを想って自分が苦しんで、でもそんな事考えてるのみんなが知ったらもっと悲しむから

 

  それすらも隠して、必死に強がってるの、凛は知ってるよ!!」

 

 

 

 

 

花陽の攻撃はますます激しさを増していく。もう、花陽の意思など関係なく、音のするところをめちゃくちゃに攻撃しているようにすら見えた。

 

紙一重でその攻撃を避けながら、凛はなおも叫ぶ。

 

 

 

 

凛「かよちんは優しいから!!

 

  じぶんを犠牲にしても、凛を、みんなを守ってくれたんだよね!

 

  どうすればいいのかずっと考えて、それでもどうしようもなくって!

 

  だから、そんなに苦しそうなんでしょう!?」

 

 

 

 

 

〝孤独なHeaven”がついに凛の左足を掠める。空中でバランスを崩した凛は、それでも何とか体勢を立て直しながら着地した。

 

激痛を無視して、叫ぶ。

 

 

 

 

 

凛「凛は、そんなかよちんも好きだけど!!!」

 

 

凛「もう、そんなかよちんは、見たくないよ!!!」

 

 

 

 

 

ふいに、花陽の動きが一瞬、止まった。

 

気のせいかと思える一瞬だった。

 

 

 

 

花陽「……、」

 

 

 

 

しかし凛は、確かに見た。確かに、聞いた。

 

 

 

 

花陽「…………。」

 

 

 

 

自分が見間違える訳がない。隣でずっと見てきたんだから。

 

自分が聞き間違える筈がない。一番聞いた台詞なんだから。

 

 

 

花陽の目に一瞬浮かんだ涙を。

 

「ダレカ、タスケテ…。」その、心からの、叫びを。

 

 

 

 

凛「やっと聞こえた……ううん、ほんとはずっと、聞こえていたはずだったのに。」

 

 

 

 

嘘のように身体が軽い。力が全身にみなぎっていく。

 

 

 

 

 

凛「かよちん、待たせてごめんね…。

  あと、ほんの少し。

  ほんのちょっと待っててね……

 

 

  今、助けにいくから!!」

 

 

 

 

もう、焦りも不安もない。自分のすべてをぶつけるだけ。

 

凛は飛び出した、その全身に、すべての情熱を込めて。

 

 

 

 

NEXT EPISODE:『Hello,星を数えて』

 



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