この素晴らしい世界に問題児がやって来るそうですよ? 作:暁紅
「チッ...何を忘れたんだよ...」
十六夜は先日のベルディアとの戦闘を、気に寄りかかりながら思い出していた。
自らにある謎の空白。
そこで一体何があったのか、それが分からない。
「ふぁぁ......寝るか...」
その日は日差しも最高で風も心地いい。
眠るには最適な環境だ。
そんな環境で森に居れば眠くもなる。
それにずっと考えていても思い出すわけもないので、一旦休憩の意味を込めてヘッドホンをつけ眠りにつく。
「......ち.........は.........き.........お」
どれぐらい寝たか分からないが何かが身体を揺すり、声を掛けてきているのは分かった。
眠い目を少し擦りながらその相手を見る。
身体を揺すっていたのは、黒髪赤目の巨乳の女で歳は若く何処ぞの中二ロリに似ている。
何だこいつ?てか声が聞こえ......あぁヘッドホンか。
必死に声を掛けてきているが、十六夜はヘッドホンが邪魔をしていて途切れ途切れにしか聞こえていない、それに気づきヘッドホンを外すとかなり騒がしくなる。
「やっと起きた!ここは危険なのよ。何せ一撃熊が出没するの。てか何でこんな所で寝れるの?馬鹿なの?死ぬの?」
「お褒めの言葉感謝するぜ......誰だお前?乳か?」
「違うわよ!私はゆんゆん!紅魔族の時期」
紅魔族それは確かあの中二ロリも言っていた言葉だ。同じく種族であれば似てるのも分かる?......いや分からん。どうなってる?
そんなゆんゆんは未だに後ろの生物に気づいていなく、後ろを見させると顔色が真っ青になる。
そこにはエサをあまり食べれていなく、涎が溢れ出ている黒い生命体。一撃熊が腹を空かせてゆんゆんを、食べようとしていた。
それに気づいたゆんゆんはその場から駆け出し、十六夜の周りをグルグル回るとそれに釣られ一撃熊も一緒に回る。
そんなお遊びを数分続けると流石に十六夜も飽き、その名の通り一撃熊を一撃で蹴散らす。
もしかしたら名前の由来は一撃で殺られる熊だから、一撃熊なのかもしれないと思う程一瞬だった。
「倒せるなら先に言ってよ!」
「聞かれなかったからな」
「ううう」
寝起きの運動も終わりそろそろ帰ろうとした時、辺りから異様な匂いを感じる。
鉄臭い。おおいに鉄臭い。
何でこんな匂いがと考えると、あの熊は少し何かに恐怖をしていたような感じが......
「危ねぇ!!」
「えっ、キャッ!」
突然空から襲来すると人影か守るように、ゆんゆんを脇に抱えその人間?から距離をとる。
その人物はかなり大きな巨大でベルディアにも引けを取らず、その巨体を覆い隠すように布を被っており、その手にはかなり大きな大剣が握られている。
「随分なご挨拶だな」
「貴様ならこの程度躱せるだろ?」
「ごもっともだな」
脇に抱えていたゆんゆんを地面に起き敵を見定める。
あの敵はベルディアと同格かそれ以上の存在だと予想する。
十六夜ですら、気づかずに不意打ちを許してしまったのだ。かなりの実力があるのは確かだろう。
そんな相手にお荷物を持ったままでは到底戦えない。
「えっと...これは」
「早く逃げろ。このままここに居たら死ぬぞ」
「死ぬ」
ゆんゆんはさらに顔を真っ青にして、その場から逃げていった。
「待ってくれるとはな...随分とお優しい事で」
「用があるのは貴様だけだ。逆廻十六夜」
「どこで俺の名を聞いたか知らねぇが、とっとと始めようぜ!」
すでに十六夜の名はベルディアを倒したとして、数々の街に伝わっているので、例えこの人間がいる知っていたとしても到底気にするところでない。
それに十六夜としては倒した後ゆっくりと聞けばいいと思っていた。
十六夜は地面を深く踏み込み謎の男に向け突撃しようとした。
しかし、その男は何の予備動作も無く十六夜の目の前に、突然移動する。
その距離は十六夜ですら踏み込まねば行けない距離、それを一瞬で十六夜に気づかせる事なく移動する事から、ベルディア以上の強さだと仮定する。
男は移動すると同時に大剣を両手で掴み、そのまま高速で大剣を振り下ろす。
それにどうにか反応し身体を逸らし、どうにか無傷で耐える。
十六夜は三歩程後に飛ぶと、今度こそ地面を踏みしめ男の顔に回し蹴りを入れる。
男は避ける行動を取らずに、そのまま受ける。
「なっ!」
「まだまだ緩いな」
男は十六夜の回し蹴りを喰らっても、何食わぬ顔で佇んでいて十六夜の足を掴む。
頭上で2、3回程回すと木に向かって投げつける。
「がハッ!」
当たった木々をなぎ倒しながら飛ばされ、8メートル程飛んでやっと止まる。
それにたいし男はゆっくりと十六夜の方へと進んでいく。
十六夜のいるであろう地点に行くと誰もいない。
「?...何処に行った?」
「しゃらくせェ!!!」
今度は手影なく本気も本気の拳を、惑星の重力と言う力とも共に放つ。
突然の事に躱す時間などなく、そのまま直撃する。
その一撃は普通ならば相手を倒すには申し分内威力だ。そう相手が普通ならばだ。
男は全ての威力を剣から地面へと流した。
確かにベルディアも似たような事をしていた。だが今回は点で条件が違う。
難易度的に言えば、ベルディアが手を使わずにゴールキーパーをするのに対し、この男はヘディングのみでゴールキーパーをするぐらい難しい事だ。
そんな事を平然とやってしまう男に初めて十六夜は思った......この男には勝てない。
あまりの光景に驚愕した十六夜は飛来してくる拳に気づくのが遅れ、慌てて目の前でクロスした両手で守りが軽く吹き飛ばされる。
「まだまだァ!!」
「諦めが悪いな少年」
男は大剣を横薙ぎをする。
その大剣を右の肘と膝で挟み、真剣白刃取りの容量で受け止める。
しかしこの男はその剣を放し、左手で思いっきり十六夜を殴る。その威力は十六夜の拳に引けを取っていなかった。
十六夜ははるか後方に飛ばされ、巨大な岩に当たると肺から大量の空気が飛び出る。
「がハッ!」
「さて......これで分かったな。少年我が主から伝言だ......何故箱庭を捨ててこちらに来た?とな」
「箱庭......あぁぁぁぁあ!!」
十六夜は箱庭と言葉を聞いた瞬間はとてつもない頭痛に襲われ、数秒後に意識を失う。
それを見た男はこれをあの人に報告したほうがいいなと、急いでその場を後にする。
逆廻十六夜はこの日、この世界に来て初の敗北をした。