この素晴らしい世界に問題児がやって来るそうですよ?   作:暁紅

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最凶の問題児異世界に行く!

この世にはもしも・偶然等がある。

それは時に命に直結する場合がある。

 

現在箱庭”煌焰の都”では、絶対悪を背負いし最強種アジ=ダカーハが復活し、その場にいた者全員で討伐を決行していた。

 

数々の同士の犠牲が出てが、どうにかアジ=ダカーハの心臓を表に出す事ができ、その心臓目掛けて青い髪を赤く染め上げ、うさ耳を靡かせている黒ウサギが、第六宇宙速度で疑似神格・梵釈槍(プラフマーストラ・レプリカ)を投擲する。

 

疑似神格・梵釈槍(プラフマーストラ・レプリカ)とは刺さった場合のみ勝利を与える能力がある。そう、刺さらなければ意味が無いのだ。

 

アジ=ダカーハも馬鹿ではない。

第六宇宙速度で迫る槍を躱そうと動き出す。

しかし、そんな事は十六夜も考えていた。いや、躱すと信じていた。

 

第六宇宙速度で飛ぶ槍を、十六夜はキャッチしてアジ=ダカーハに投げようとしていた。だが、十六夜はとあるギフトを受け取っていなかった。

 

それは、偶然なのかもしれない。

もしかしたら必然だったのかもしれない。

 

十六夜は槍をキャッチ出来ずに、自らの身体を突き抜けていった。

 

「十六夜くん!」

「十六夜!」

『こんな終わりとはな』

 

(お嬢様に春日部、そんな顔で見るなよ。これは仕方なかったんだから。それに、すまないなアジ=ダカーハ)

 

2人は必死に駆け寄るが、十六夜は臓器を空中にばら撒きながら落下していく。

 

落下している最中に、必死に手を伸ばして近づく黒ウサギが視界に入る。

 

「十六夜さん!まだ、約束を」

「ごめんな...黒ウサ...ギ...約束守......れそう...にな...い」

 

十六夜はその言葉を振り絞って言い放ったあと、静かにその目を閉じ視界は闇に染まっていく。

 

 

 

 

そうそこで普通ならば永劫に目覚めず、輪廻転生するなり無に帰るなりするはずだが、流石は十六夜。悪運か幸運かは分からないが、閉じたその目がまた開かれる。

 

開いた直後は少し視界が定まっていなかったが、数秒もすれば辺りの暗さにもなれる。

 

そこは、明かり一つない真っ暗な場所だった。

 

それにしてはいささかおかしい。

明かりが無いはずなのに、何故か地面らしき物が分かる。

 

(どうなっていやがる?そもそもここに来る前は......くっ、頭が痛い......思い出せるのは焔達と飯を食って...いや違う。今必要なのは、どうしてここにいるかだ)

 

しかし、十六夜はいくら思い出そうとしても、焔達の事しか思い出すことが出来ない。

 

そもそも十六夜を気絶させる程の威力を持った、物が存在していた事に十六夜自身も驚く。

 

十六夜は確かに人間となっているが、その身体は丈夫なんて物ではない。

普通第三宇宙速度で動けば、身体は燃え尽きてしまう。だが、十六夜の身体は燃え尽きること無く動き続ける事ができる。

 

そんな十六夜を気絶させるなんて、核爆弾を持ってきても確実とは言い難い。

 

そんな思考をしていると突然目の前が光輝き、椅子に座っている1人の少女が現れる。

 

「ようこそ逆廻十六夜さん。ようこそ死後の世界へ」

 

その少女の言葉は十六夜を混乱させるには、充分であった。

 

 

 

死後の世界へ=現実世界での死

ありえない大いにありえない。

 

(まだ、誘拐ならば千歩下がって納得する。

だが、死だと......それこそ俺を殺せるなら、世界が消えるはずだ......だが、そうなるとやはりこの記憶の空白が鍵か)

十六夜は持ち前の頭脳を活かし、ある程度予測を立てていた。

 

そう十六夜は気づいたのだ、焔達とご飯食べたりした後自分は何かをした。しかし、その何かを完全に忘れている。その何かで自分が死ぬような事になったのだと。

 

「えっと......聞こえてますか?」

「おう聞こえてるぜ」

 

少女は意外そうな顔をしていた。

 

まぁ、普通ようこそ死後の世界へ何て言われれば、慌てふためくのが常識だ。しかし、少女の目の前にいる男逆廻十六夜は、そんな常識は「しゃらくせ!」と言って嬉々として壊していく。

 

「随分と落ち着いていらっしゃるんですね」

「これでも頭の中は混乱してるんだがな。そんな事より、人の名前を言っておいてお前の自己紹介はまだかよ」

 

まだ自己紹介をしていなかった事に気づいた少女は、両手を目の前でポンと叩くと、椅子から降り軽く会釈をして自己紹介を始める。

 

「私の名前はエリスと申します」

「は?今なんて言った?」

「エリスと申しました」

 

エリス(Eris)

ギリシャ神話において「争い」「不和」の象徴である女神だ。

ゼウスとヘラの子供でもあり、軍神アレスの双子の姉妹というとんでも設定も持っている。

女神の中でもトップクラスの存在であろう。

 

それならば少し妙な点がある。

 

(何でそんな奴が俺を呼んだ?いやまだ、本物と決まった訳じゃないな)

 

十六夜はとりあえず情報を手に入れるために、自称エリスに質問を投げかける。

 

「なぁ、お前ギリシャ神話のエリスか?」

「はぇ!いや、その...違、違います!」

 

(当たりだな。しっかしやっと神に会えたと思ったら...死ぬとはな。我ながら情けないな)

 

十六夜は確信を持って頷き、エリスは違いますから!と言いながら十六夜の肩をポコポコ殴っている。

 

 

 

ある程度殴ったら疲れたのか、息を上げながら椅子に座る。

 

「おいおい、少し動いただけだろ」

「わ私は、女神ですから、体力なんて」

「そんな事はどうでもいい。何で俺を呼んだ」

「そんな事って...貴方が聞いてきた事なのに......けど、そうですね。分かっていると思いますが、貴方は」

 

エリスは逆廻十六夜と書かれた紙を取り、死因を告げ話を進めようとした。しかし、その紙の死因の欄は真っ黒に塗りつぶされており、さらには生きてきた証である場所も、途中から黒く塗りつぶされている。

 

(そんな...こんな事って...ありえない)

 

エリスはあまり感情を隠すことが出来ず、すぐに顔に出てしまう。十六夜はそこを見逃す程馬鹿ではない。

 

「どうしたよ女神(自称)」

「そうですよ私は女神(自称)......て、違います!私は本物の女神ですよ!」

「知ってるから安心しろ女神(笑)」

「また変わってる!うぎゃぁぁぁ!」

 

こいつはいい玩具を見つけたと獰猛な笑みを浮かべる。

だが十六夜としては何か、懐かしい物を感じている。

まぁ、関係ないだろうとそんな近親感を頭の隅へと追いやる。

 

女神(笑)なんて言われたのが初めてなのか、かなり苦しんでるエリスの首根っこを掴み持ち上げる。

 

「おい、早く話を進めろ」

「はい...シクシク」

 

エリスは少し涙声になりながらも、頑張って伝えていく。

 

この場所は異世界に転生していく重要な場所で、十六夜はそれに選ばれた事を。

 

「それで俺はなんで死んだ?」

「えっと......その...」

「はぁ...流石は女神(笑)か...」

「私は悪くありませんよ!だって黒いのがいけないんですから!」

 

そう言って、十六夜に黒く塗りつぶされている所を見せる。

 

それを興味深く見ると、半年程の間の期間が塗りつぶされていて、そこが死因と何か関係あるのだろうと考えた。

 

ならばやはりその空白の期間をどうにか、思い出さなくちゃいけない。そこに大事な何かを忘れている気がするからだ......

 

「もしかしたら、異世界に行けば何かわかるかも知れませんよ?」

 

十六夜は首根っこを離し、椅子に座らせ疑問に思ったことを聞く。

 

「異世界ね......そこは楽しいか?」

「はい......楽しいですよ。ですが魔王がいて」

 

十六夜はとあるフレーズに歓喜して地面を踏みしめる。

 

そう十六夜が神の次程度には会いたいと思っていた『魔王』がその世界にいるらしい。

 

「おいおい、今とんだ素敵ネームが飛び出したぞ。魔王とかマジでいるのか?」

「マジです」

「大マジか?」

「はい、大マジです」

「女神(阿呆)か?」

「そうです。女神(阿...て、そこは違います!!」

 

ヤハハハと昔はしていなかった、独特な笑い声を上げる。

 

そんな漫才をしていると、エリスはため息を吐きながら分厚いカタログを渡す。

 

「この中にある特典から一つを」

「いらね」

「え?」

「いやまてよ...何でも良いのか?」

「はい構いませんよ」

 

十六夜は今の格好には少し不満があった。

 

今の服装は、灰色の無地の長袖に黒い長ズボン。こんな服装でいくのはいささか気に入らない。だから、特典は

 

「壊れない学ランに、焔の作ったヘッドホンを寄越せ」

「それだけでいいんですか?」

「おう......それにこの力だけで充分だしな」

 

エリスは、最後の方の言葉はいまいち聞こえて無くて、少し疑問に思ったが関係ないだろうと思い気にしないことにした。

 

「それであんたは俺に何をさせたい?」

「え?......気づいてたんですか?」

「まぁなさっきからなにか言おうとしては、やめを繰り返したからな」

 

エリスはこの人なら助けてくれるかもしれない。そう確信し、求めている事を話した。

 

「アクア先輩を助けてください」

「アクアだと?そんな神いたか?」

 

十六夜の頭脳には数々の神話の事が入っている。そんな十六夜でも頭に入っていないのだ。もしかしたら忘れているだけかもしれないが......

 

「いますよ!」

「そうか......だが、俺は誰かの為に働くなんてしないんでね」

「そんな...」

「しかしだ、俺が魔王をたまたま倒して、たまたまそのアクアって奴が救われるのは別にいいだろ」

「ありがとうございます」

 

エリスは深々と頭を下げた。

 

感謝される事じゃないんだがな...そんな事を思いながらエリスに案内されながら、魔法陣らしき物の上に立つ。

 

転移が始まるのか魔法陣が光り輝き始める。

 

「それでは残り十秒程で転移します。何か言い残す事はありますか?」

「そうだな......」

 

十六夜は顎に手を当て少し思考する。

特に言い残す事なんかはないんだが......改めてエリスを見ると、とあることに気づいた。

 

「ならそのPADやめた方がいいぞ。不自然すぎる」

「なっ、何で知ってるんですか!」

「明らかに形がおかしい。あまり大きすぎるの選ぶと不自然に見えるからな」

「は、早く言ってください!それに、私これが無くてもしっかりとありますし!」

「おいおい...冗談はやめ」

「わーわー!聞こえない!!」

 

こんなやり取りを過去にもした事があったような気がしたが、今は魔王とやらがいる世界が楽しみで仕方が無い。

 

そして遂に光の柱が現れ、十六夜を包み込み異世界へと飛ばす。

 

 

 

突然の浮遊感が十六夜を襲う。

 

そこは雲の上、上空4000m。

普通の人間ならば死を覚悟する所だろう。

だが十六夜は違う。

 

「は、ハハ...ひゃははははは!!最高だぞおい!」

 

雲を突き抜ければ無限に広がっているのでは?と思う程広大な大地。

遠くには龍らしき物の首。

まさに、自分が望んでいた。自分に似合った世界。

 

そんな所にこれて嬉しさのあまり、狂ったように笑い出す。

 

「さようなら、マイワールド!!

こんにちは、ニューワールド!!

此れかは......ここが俺の世界だーー!!」

 

楽しさのあまり大声をあげる。

 

「ハハ、ハハははあひゃははあハハハハはははあははは!!」

 

この日最強の問題児は、異世界に突入した。

 

 

 


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