Ace Combat side story of 5 -The chained war-   作:びわ之樹

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《こちらオーシア国防空軍空中管制機『サンダーヘッド』。集結した各国軍へ、協力に感謝する。
既に南方スーデントール市では戦端が開かれ、衛星軌道砲『SOLG』制御施設破壊へ向け各部隊が動き出している。これに呼応し、空軍部隊は敵対空設備および航空部隊を排除。しかる後歩兵部隊は制御施設へ通じるコントロール施設を制圧し、『SOLG』制御施設への道を開け。制御施設の破壊は南側から突入するウォードッグ隊と、こちら側から突入するバート…いや、『ハートブレイク・ワン』が行う。
諸君の奮戦一つ一つが、平和への道を近づける。…もう少しだ。各員、もう少しだけ、力を貸してくれ》


第40話 Break of Dawn(後) ‐The chained war‐

「これで…5つ!」

 

 押し込んだ指の動きに連動するかのように、機体の腹ががこん、と鳴る。

 正面を彩るは、鮮血のような深紅の炎と黄金色の対空砲火。そして空に屹立する対空砲の砲身と、逃げ惑う人の姿。天を照らす三日月よりも遥かにまばゆい地上の炎は、熱と赤い光でもって地上を照らしあげていく。

 放物線を描いて地を指すのは、主翼下の無誘導爆弾(UGB)2つ。

 それらは鏃を揃えたような地対空ミサイル(SAM)発射台の傍らに突き刺さり、粉塵と爆炎の中にその姿を沈めていった。

 

 操縦桿を引き、緩降下から地上すれすれの低空飛行へ遷移する。重く鈍重なYaK-38M『フォージャー』にはこれでも堪える機動だが、それでもUGBを一つ一つ捨てていく内にいくらかマシにはなってきた。

 

 右旋回に入り、機体を傾けながら俯瞰した地上はまさに魔女の釜。山の麓を削り取ったように狭い空間には白亜の施設が寄り添い合い、それらの一部を紅蓮の炎が舐め始めている。地上に咲いた爆炎の華の中には崩れ落ちた砲身や黒焦げとなった死体が転がり、近代的な街並みに相応しからぬ戦争と血の匂いが、こちらの高度まで届いてきそうな光景となっていた。

 空には三日月、そして幾何学模様を描きながらその下を舞う、いくつもの機影。こちらの低空侵入と同時に突入した和平派のユークトバニア軍機とベルカ残党機の交戦は、数十分が経過した今となっても止む様子は見て取れない。加勢しようにもウスティオから付いてきた護衛2機の姿は既に無く、時折こちらを狙って降下してくる敵機を回避するので精一杯であった。

 

 時に2010年12月30日、午後10時45分。

 ベルカ残党が拠る最後の地、ノースオーシア州スーデントールにおける戦闘は、ここバルトライヒ山脈北方においても既に佳境へ入りつつあった。

 

《南はもうゲートに取りついたらしいぞ!こっちはまだか!?》

《こちらユーク第88歩兵中隊!…くそっ!コントロール施設前の防衛陣地が邪魔だ!奴らT-90まで配備してやがる!》

《民間企業が聞いて呆れるな。『サンダーヘッド』より『ハルヴ』、トンネル正面の敵陣地攻撃を頼む》

「了解!」

 

 オーシアから派遣された空中管制機『サンダーヘッド』の指示を受け、エリクは横旋回のまま目標の陣地を目で探る。場所としては、バルトライヒ山脈に南北に穿たれたトンネルの入り口付近。目を凝らせばそこには確かにいくつものバリケードが築かれ、ひっきりなしに戦車や歩兵が応戦の砲火を上げているのが見て取れる。道路を挟んで北側にはユークトバニアの歩兵部隊と思しき集団が物陰に隠れ、攻めあぐねている様も上空から捉えることができた。

 兵装選択、残った全てのUGB、残弾4。侵入方位は眼下の道路に沿って真西、敵の横腹を突く位置。鈍足な『フォージャー』とはいえ、高度500に満たない極低空では眼下を流れる光景も速く、速度が圧迫感を以て感じられる。距離にして1900、1700。この陣地さえ突破すれば、あとは――。

 

《『ハルヴ』、注意しろ。後方より敵機》

「…!このタイミングで!」

 

 サンダーヘッドの声と同時に、ロックオンアラートの電子音がコクピットを揺らす。『フォージャー』のキャノピーの構造上直接後方を振り返ることはできないが、キャノピー上面に据え付けた後方警戒ミラーには確かに機影が2つ、こちらへ迫っているのが見て取れた。位置にしてこちらの斜め後方、鈍足のこちらを捉えるには絶好の位置取り。片やこちらは核攻撃のタイムリミットがある以上、余計な回避行動を取る余裕はない。『フォージャー』の垂直離着陸機構を用いた回避は――不可能。未だこの機体に慣れていない以上、下手をすればそのまま墜落する。

 それなら。

 

「――一か、八かッ…!」

 

 警報音が、ミサイル発射を示すものへと変わったその瞬間。エリクは歯を食いしばりながら操縦桿を前に倒し、地面に腹を擦る直前まで機体を降下させた。

 もとより周囲が炎に包まれている今、短距離空対空ミサイル(AAM)の赤外線誘導は当てになりはしない。地に刺さるAAMの爆炎を後方に振り切った所で、後方の2機は速度差を受けてこちらの上空を飛び抜けて行った。低空から見上げたその姿は、片方は前進翼を持つ大型機。そしてもう一方は、翼端を黄色く染めた、鶴のような流麗な首筋にカナードを設けた機体――Su-37『ターミネーター』。

 

「しつこいッ…!またあの『黄色』か!」

 

 上空を抜けた2機の背をユーク軍機が追い、小さな半径で反転した『黄色』が巴戦を仕掛けてゆく。どうやらあの『黄色』がこの敵部隊のエース格らしく、攻撃開始からこのかた、既に多くの機体が奴に喰われていた。並外れた格闘戦能力を持つ機体特性と相まってその機動は驚異的であり、目下応戦しているユーク軍機も早くも劣勢に追い込まれている。

 しかし、今は好機である。一瞬の隙とはいえ、眼前の敵陣地は無防備となり、わずかに対空砲がこちらを狙って撃ちあげているに過ぎない。ここを叩きさえすれば、歩兵部隊の道は開ける。

 

 低高度のまま投弾すれば、こちらも爆発に巻き込まれる。エリクは距離1200ほどで機首を上げ、機体がわずかに上を向いた時点でUGBを投下。慣性で速度を得たUGBを放り投げるように投弾し、一気に機体を加速させた。

 上昇する機体の下で、4つの黒い塊は放物線を描いて徐々に地へと迫る。

 逃げ惑う装甲車、物陰に隠れる敵兵。UGBは次々に着弾し、それらを非情に薙ぎ払いながら爆風へと飲み込んで――新たに咲いた爆炎の華に、誘爆の花弁が幾つも加わっていった。

 

《正面陣地沈黙!我々はこれより突入する!》

「トンネル正面の対空砲も叩いた!空挺降下もすぐに…!?」

 

 炎に包まれる陣地を迂回し、トンネルゲートの制御施設へ列をなして突入する影。支援のため後方のヘリ部隊へも通信を送りかけたその刹那、南に生じた凄まじい衝撃と轟音が、エリクの声を詰まらせた。

 南――スーデントール市、ではない。着弾と思しき光の残滓と舞い上がる塵は、空を赤く焼いたスーデントールとは幾分位置がずれている。目算では、爆発の位置はバルトライヒ山脈の中。事前情報でオーシアの歩兵部隊が進行している筈の搦め手に当たるルートのように見て取れた。

 

《何だ、今の衝撃は!》

《まさか…。『サンダーヘッド』より展開中の各部隊へ。衛星軌道上の『SOLG』が砲撃を開始した。核弾頭ではなく通常弾頭のようだが…く、電波状態悪化。山中の歩兵部隊と通信途絶》

「いよいよなりふり構わなくなってきたな。トンネルごと潰れるぞ!」

 

 衛星軌道という超高高度から放たれる砲弾がどれほどの運動エネルギーを持つかなど、想像の域すら超えている。ましてそれを自らの制御施設を抱えたトンネルの真上に放つなど、もはや正気の沙汰とは思えない。

 やはり、自身の破滅すら省みないほどに、奴らの怨恨は。

 脳裏に掠めたある少女の面影を打ち消して、エリクは下腹に力を籠めながら機体を左旋回させた。旋回の先には、墜ち行くユーク軍のMiG-29。そしてその傍らを掠め、こちらの地上部隊へと鼻先を向けた『黄色』の姿。トンネルを開放すべく殺到する歩兵を狙った機動であることは言うまでもない。

 

「ここまで来て、邪魔させるかよ!」

 

 横滑りする機体に舌打ちを向けつつ、半ばあてずっぽうに引き金を引く。

 まっすぐ緩降下する敵機に対し、こちらは横合いかつ至近距離からの銃撃。それにも関わらず、『フォージャー』の23㎜機関砲は虚しく吠えたに留まり、『黄色』は右ロールで機体を翻しこちらの射線を巧みに回避していった。攻撃を妨害できたのは収穫だったが、やはり最強の呼び声高い制空戦闘機相手に、鈍重鈍足の襲撃機では相手にならない。

 

 ――レーダー警報、ロックオン。

 不意に鳴った電子音に心臓を跳ね上げ、エリクは咄嗟に高度を下げる。斜め上空から襲い来た二筋のミサイルは、危うく傍らを掠め、炎上するガンタワーに吸い込まれて炸裂した。汗を拭う間もなく見上げれば、三日月を背にして降下してくる前進翼の機影が二つ。さらにその背を追うように、いくつかの機影が徐々にその姿を大きくして来ている。

 

「く…!敵編隊が一斉に降下して来たか!ユーク軍機、フォローしてくれ!こっちじゃ手に余る!」

《今行く!とはいえ…くそ!トンネルはまだか!?》

《こちら第119工兵小隊だ。少し待て、もうすぐ…よし!トンネルを開放するぞ!突入機、準備はいいか!?》

 

 大型カナードを持つ前進翼機、そしてそれを追って次々と降下するユークトバニアのSu-27。高度にして1000未満という低高度に互いの機体が集い、廻り、喰い合う様は、もはや地上の合戦と何一つ変わらない混沌とした光景を作り出している。

 行き交い、飛び交う混戦の渦の中、上空から1つの機影が急降下してきたのはその時だった。

 

 直径の太い大型の機首。尾部に2枚並んだ垂直尾翼に、意思があるかのように速度によって角度を変える後進の可変翼。赤い尾翼端を残し全身を黒に染めたその姿は、『ラーズグリーズ隊』のF-14D『スーパー・トムキャット』とうり二つの姿である。彗星のように降り立つその機影は、六角形の開口部を露にしたトンネルへ向け、一直線に降下してゆく。

 

《準備万端だ。『ハートブレイク・ワン』、これより突入する》

《バートレット、後はもう君たちに頼る他にない。…武運を、祈っている》

《へっ。お祈りなんざ、丸くなったなサンダーヘッド。『あいつら』への伝言があれば持ってくぜ?》

《……いや。あの時、彼らを信じきってやれなかった私に、もう何も言う資格はない。…祈ることしか、できない》

《はぁぁ…。どっかのバカみてぇに生真面目な奴め。これが終わったら、大統領のオゴリであいつらと飲みに行くぞ。――その時までに考えとけ。お祈りとやらじゃなく、お祝いの言葉を》

《――………。…ああ。必ず》

 

 ――仲間。思わずその二文字を想起させる二人の通信に、心の中で淡い安らぎと苦みが入り混じる。あのような隔ての無い言葉を交わし合える存在も、かつて自分の周りにはあった。…この戦いで戦争が終わったとしても、彼らは、もう。

 

「…!感傷に浸ってる場合じゃない、か!」

 

 吸い込まれるように、トンネルへ突入してゆく『トムキャット』。それに呼応したかのように鋭角の弧を描いた敵の姿を目にして、エリクは予断を振り切った。纏わりつくユーク軍機をAAMで薙ぎ払い、螺旋の機動で銃弾を躱しながら、いくつかの機影は明らかにトンネルの方向を向いている。先頭は言うまでも無く、あの『黄色』。

 

「追わせるか!」

 

 燃料、弾薬、残量ともに僅か。それでも構わず、エリクはありったけの速度でトンネルを指し、いち早くその上空へと回り込んだ。速度差ではSu-37に及ぶべくもないが、元々トンネル前の陣地攻撃の直後であり、トンネルに近かったのが幸運だったと言えるだろう。トンネルを眼下に正面を向いたこちらに対し、『黄色』もまたトンネルへ向け正面から突っ込んで来る。行き先が決まっている以上針路も固定される道理であり、ヘッドオンならばある程度の性能差は無視できる。

 

 距離2000。1500。流石に新鋭の制空戦闘機と言うべきか、距離は瞬く間に近づいてくる。

 レーダー警報がロックオンアラートへと変わり、矛先が過たずこちらを指したことを告げる。

 致命の距離。しかし、ここで引く訳にはいかない。退く訳にはいかない。連鎖を断ち、終戦を導くその背中から。

 距離、1000。短距離AAMの有効射程へ至る一瞬前、エリクは一拍早く引き金を引き、機体がロックオンを告げると同時にもう1発を放った。

 

 ミサイル、正面からも二筋。迫る黄色の翼。

 一瞬早く放った1発は敵を捉えることなくその眼前に着弾し、土煙を上げる。

 煙を貫くは二筋、まっすぐこちら。ついで抜けた敵の機影は機首を上に上げ、トンネルではなくこちらを指している。土煙でトンネル入り口を晦まされた以上、衝突のリスクを甘受するほどに敵は愚かではない。

 バレルロールでAAMを回避する『ターミネーター』。それと入れ違いに殺到したミサイルが機体に突き刺さる一瞬前、エリクは緊急脱出レバーを引いて、噴煙の中にその身を消した。

 

 爆発、轟音、飛び散る破片。

 耳を聾するような衝撃の中で、衝撃がエリクの体を襲う。脚、脇腹。――何かが当たった。

 

 体が熱と浮遊感に包まれ、煙を抜けたパラシュートから体が吊り下げられる。

 煙が染みる目に映るのは、煙を避けるように旋回する『黄色』の背、眼下で跡形も無く燃える『フォージャー』。

 そして。…そし、‥‥てててて。

 

「痛、てててて!…畜生、ギリギリまで引きつけ過ぎた…!」

 

 脇腹の鈍痛が、一拍置いて鋭い痛みに変わり、聴覚すらも妨げる。

 痛みの元は、左の脇腹。脱出の瞬間に機体の破片が掠めたのか、フライトジャケットの下から血が溢れ、赤い染みを広げている。左のふくらはぎも同様らしく、切ったような傷口がじわりと赤く染まっていた。左目といい、どうしてこう左側ばかり負傷するのか。

 

「破片が残ってなきゃいいが…ぐっ!あいたててててて!…ちゃんと治るんだろうなコレ…!」

 

 左脇腹を押さえながら、エリクの体はふよふよと中空を漂う。下方の炎が上昇気流を生み出しているのか、早く降りたいのにも関わらず高度は容易に落ちてはくれない。寄る辺の無い身が空を漂う中で、包囲されたベルカ残党機は一つ一つと数を減らしていき、残る機影が意を決したようにトンネルへと突入して姿を消してゆくのが目に入った。先頭から2機はSu-47『ベルクート』、それに続いてあの『黄色』。その背を、残るSu-47が追っていく。

 腕時計をちらりと見れば、『ハートブレイク・ワン』の突入から1分と少し。『トムキャット』の加速ならば、トンネル内でよほど減速していない限り振り切ることができるだろう。あとは彼らの手で『SOLG』制御施設が破壊されれば、この馬鹿らしい戦争も終わりを迎えることになる。

 

 眼下の砲火は、既に下火に向かっている。残るベルカ残党も抵抗を断念したのか、上空のヘリに照射された地上では、ベルカ兵と思しき人の列が少しずつ被害の少ない広場へと向かっていた。

 

 咳き込んだ瞬間に脇腹が痛み、エリクは顔を顰める。

 掌に、吐血は無い。幸い表面の皮が裂けただけで、内臓までダメージはなかったのだろう。脇腹から溢れる血から目を背け、エリクはそう思うことにした。

 

******

 

「スーデントールの友軍が全滅した、だと…!?SOLG制御施設はどうなった!」

「…申し上げにくいのですが、制御施設は『ラーズグリーズ』を名乗る飛行隊によって破壊されたそうです。施設を管理していた同志は全員戦死、ないし自決されたとのこと」

「………ッ!!…!………!!故国の為に同志たちが奮戦していたというのに、私は…!!」

 

 エドワルド中佐の声にならない慟哭が、格納庫の空気を湿っぽく揺らす。憎悪と疲労で頬が削げ、がっくりと項垂れたその姿は、さながら幽鬼。カスパル少佐が戦死してから数週間と経っていないにも関わらず、特徴的な中佐の赤髪は前にも増して色が褪せ、もはや名乗るその名と同じ灰色に近くなってしまっていた。精神をすり減らすほどの執念と責任は、人をこれほどまでにも老いさせるものなのだろう。

 私は、どうだろうか。カスパル少佐を喪った時から、…いや、仲間を裏切ったあの時から、姿は変わってしまっているのだろうか。

 

 失意に沈むエドワルド中佐を遠目に、少女――パウラ・ニーダーハウゼンは鏡を覗くように、傍らに佇むX-02の外装へと目を向ける。漆黒の装甲は少女の視線すら吸収し、何の像も結ばずに、ただただ黒い肌を横たえるだけだった。

 夜半を超えて日付が変わり、2010年12月31日、午前2時半。レクタ中部スヴォレフホイゼンの地に、円卓より帰還した黒衣の翼竜(ワイバーン)は翼を休めていた。

 

「…中佐、まだです。まだ、我々は終わってはいません。『SOLG』は信号制御を失うと同時に、地上に落下するようプログラムされています。計算より得られた落着地点は、オーシア首都。午前6時半ごろに、オーレッドの市街地中心へ落着します」

「何…!?」

「情報を受け、残存したグラーバク、オヴニル両隊は機体を整備したのち払暁に出撃し、落着まで『SOLG』を護衛するとのこと。この攻撃さえ完遂できれば、我々の目的は達成できます」

 

 『ワイバーン』を前に机を引っ張り出し、がさがさとおもむろに地図を広げるのは中佐を含めて6人。皆が皆ベルカ公国時代からの生き残りであり、復讐を誓った同志なのだという。尤もそのほとんどは非パイロットである技術系の軍人であり、ベルカ戦争当時『グラオヴェスぺ隊』に属していたエドワルド中佐だけがパイロット出身という背景を持っている。言うなればここに残るのは灰色の復讐心に身を焦がした、根っからの国粋派だった。

 

「両隊が『SOLG』を護衛するとして、その障害になるものといえば」

「近隣のサピン軍やファトに駐留しているユークトバニア軍は被害が大きく、既に出撃が可能な状態にはありません。オーシア内部の空軍戦力もその多くは対ユーク戦で消耗しており、大半はユーク方面に張り付いています。機動部隊もいない以上、残るは首都周辺の首都防空大隊のみです」

「加えて、スーデントールに出現した『ラーズグリーズ』を名乗る隊もオーレッドのハイウェイ上に着陸し補給中とのこと。これらさえ叩けば、『SOLG』落着は確実です」

「オーレッド防空大隊の基地に割ける戦力は?」

「我々に同調したサピン第2航空師団機が一部残存しています。利を以て釣れば可能かと」

「よし、防空大隊の押さえにはそれらを充てる。我々は整備が終わり次第出撃。オーレッドに先行し、補給中のラーズグリーズを叩く。『ワイバーン』の整備を急げ!」

 

 声を張り上げるエドワルド中佐。その傍らで整備担当班長が僅かに顔を曇らせるのを、パウラは見逃さなかった。急ぐべきその『ワイバーン』の整備に、問題が生じているのだ。

 

 問題となっているのが、このX-02に搭載されている空戦機動用OS――通称『ヴァルハラ』である。平たく言えば『無人機にエースパイロットの機動を再現させる』システムであり、ベルカ伝統の小隊単位による戦闘機運用を重んじる姿勢に、エルジアからもたらされた無人機運用ノウハウが合わさった結果の産物である。

 すなわち、過去の空戦記録および所属者による機動の再現から、エースと称される各部隊の戦術機動をデータ化。OS上でシミュレートされる機体制御に、可変機構によって幅広い飛行特性を再現可能なX-02を組み合わせることで、あらゆるエースの機動を再現したものである。そのシステム特性上、入力データが多いほど再現性が高くなるため、旧ベルカのエースと比べてデータの少ない他国のエースは再現性に乏しいと言える。事実、かつてのサピンのエースを再現した『エスパーダ』や同じくオーシアの『ソーサラー』は、容易く機動を見破られ被害を被る結果となった。

 

 数多の英雄の魂を集め、戦に備える宮殿と神話に謳われる『ヴァルハラ』。あらゆるエースをこの世に顕現させうるそのシステムに欠陥が生じたのは、つい先ほどのことであった。

 わずかに数時間前、円卓上空でウスティオ戦闘機隊を退けた直後、システムが突然ダウンしたのである。そのエース部隊で想定される本来の機数を下回った結果がシステムに負荷を与えたのか、その原因は未だに判然としていない。そもそもこのシステムを実戦に投入するのは今回が初めてであり、運用ノウハウが圧倒的に不足しているのだ。

 原因は定かではなく、しかし時間には限りがある。方針を定め一同が解散した後も、残った整備担当班長は暗い顔でため息をついたままだった。

 

「パウラ」

「はい」

 

 様子を窺っていたこちらを目にとめたらしく、エドワルド中佐が声をかける。遠目にも老いが目立つ姿だったが、近くではそれが一層際立って見て取れた。目元にはわずかに皺が増え、疲労とすり切れた精神を映し出している。

 

「スーデントールは残念だったが、この作戦さえ完遂されればオーシアは再起不能の痛手を被り衰退する。東方諸国の泥沼化が進むのは勿論だ。犠牲は多かったが、報復の達成まであと一歩だ」

「はい」

「…。どうした、准尉。我々の悲願の達成だ、もっと喜ばないか。亡くなった君の父上も、壮絶な最期を遂げたカスパル少佐も、それでは浮かばれまい。荒廃した諸国の中で、(たか)く厳然と聳える理想のベルカ――その理想まで、もうすぐなのだぞ」

「ええ、勿論喜んでおります。…申し訳ありません、先の戦闘で少し疲労したようです」

「…それならばいい。君はもはや数少ないベルカ再興の同志だ。期待している」

 

 報復。理想。目の前で語られる謳に、言葉が浮かばない。おそらくベルカに対する記憶も想いも濃厚な中佐に対して、からっぽの記憶しかない私はベルカに対して虚ろな想いしか浮かべることができない。

 口数を語らないこちらに興ざめしたのか、エドワルド中佐はそれきり踵を返し、司令部の収まる建物へと向かっていく。

 『アシュレイ大佐へ繋げ!』外から聞こえるその声だけを、残響のように残しながら。

 

 ベルカ――今や姿を変えた、かつての祖国。

 皆がそう言う存在だが、物心付く前にベルカを離れたパウラにとって、その存在は夢や空想のような、実体のない空虚なイメージでしかなかった。周りの皆が口々に語るその様から、さぞ素敵な国であったのかもしれないし、またその復讐の為に自ら精神をすり減らしてゆく様を見れば、恐ろしい存在だったのかもしれない。

 かもしれない、かもしれない、かもしれない――。そんな仮定でしかない空虚な概念に対して、喪失感や復讐心を抱くなど、パウラにとっては無理な話だった。他のベルカ出身の軍人とは違い、復讐心はパウラの原動力たりえなかったといっていい。

 

 理想に向かう原動力も無く、拠って立つべき根も無い浮き草のような存在であるパウラにとって、指向性ある唯一の原動力とは、身近な人の言葉――意志持つ人の言葉、それだけだった。生まれてからずっとその立ち位置にいたのがカスパルであり、その命じるままに彼女は飛び、戦い、殺してきた。

 

 意思も無く、言われるままに動き、それを当然と信じる操り人形。そう言って差し支えない彼女に意思らしきものが芽生えたのは、彼女を上司や部下ではなく、『仲間』として扱った存在が現れたことであろう。命令ではなく、それは時として提案であったり他愛ない雑談であったり、時として喧嘩であった。そんなやりとりを繰り返していくうちに、パウラの中には確かに自分自身を想う意思が育まれていったのだ。だからこそパウラはロベルトを警戒しつつもどこか信頼し、エリクにどこか父性にも、恋心に似た想いも寄せ、それゆえにしばしばクリスとぶつかった。自らの立場を考えればロベルトを速やかに処断し、エリクにも確実に止めを刺すべきだったのに、それすらもせず見逃した。

 

 だが、今やもう――エリクを裏切り、カスパルを失った今、パウラの中の意思は再び死んでいた。もはや仲間と呼べる存在はおらず、雑談を交わす相手すらいない。理想も復讐も抱きようが無く、過去も未来も描きようがない今のパウラは、もはや自らの機体に搭載されたOSと何ら変わりがなかった。復讐を謳われればそれに従うし、殺せと言われれば殺す。カスパルを喪ってからからっぽとなった心の中には、今も何一つ無い空虚のままである。きっと今から出撃し、眼下にラーズグリーズを見下ろしたその時でさえも、おそらく無感情のまま彼らを殺しきるだろう。

 

「…三日月…」

 

 格納庫のシャッターをくぐって注ぐ淡い光に気づき、一歩、外へと歩き出す。

 西の空には、傾いた黄金色の三日月。ちゃり、という金属音に、自らの右手へ目を落とすと、手首に巻いたブレスレットの三日月が、月光を反射して淡く輝いていた。

 いつだったか、エリクやクリスと一緒に外出した際にこっそり買った、二人とお揃いの意匠の品。脳裏に過ぎるのは二人の相貌、クリームロールの甘い香り、もう二度と戻ることのない日々。

 

 右腕を下ろし、俯いて、パウラはその思い出を一つ一つ噛み潰し心の虚無へと沈めていく。

 

 踵を返し、キャノピーを開けた『ワイバーン』へと、パウラは一歩、向かっていく。

 空に浮かんだ三日月から、まるで逃げるかのように。

 

******

 

「こんな、ことが。…ありえません」

「………この期に及んで、これかよ…!!」

 

 今だ夜色深い窓の外、それを映すかのように仄暗い室内。キーボードを擁した正面のディスプレイを前に、エリクは呻くように声を漏らした。

 

 ノースオーシア州、ルーメン郊外。スーデントール上空で脱出したのちL.M.A.のヘリに拾われ、そのままL.M.A.の本拠へ帰還してから、わずかに4時間ほど。無事『SOLG』制御施設が破壊され、全てが終わったと信じていた矢先の凶報に、エリクの心は絶望に沈んだ。

 これまでの溢れる情報量に、頭はただでさえ沸騰している。カルロス、ニコラスによるオーレッド襲撃阻止の成功、その傍らでパスカル率いるウスティオ部隊の壊滅、オーレッドにおける両首脳の会談、スーデントールの制圧。

 終戦に向けて築きあげられたそれらの階段を一挙に崩壊させる情報が、情報収集艦『アンドロメダ』に拠るピーター参謀からもたらされたのだ。

 

《天文台による観測だが、間違いなく『SOLG』は落下軌道にある。落着予測は午前6時32分。場所は…オーレッド。その中心街とみられる》

「地上や艦艇からミサイルによる迎撃はできないのですか?」

《難しいだろうね。突入する『SOLG』の前面は非常に強固だ。突入角の関係から、構造上脆弱な各モジュール接合部や砲塔内部を地上から狙い打つのは無理がある。戦術核での迎撃も、オーシア国土上空と考えるとリスクが高すぎる》

「じゃあ…」

《そうだ。残された手段は、戦闘機で『SOLG』の弱点に回り込み、ミサイルでその弱点を狙い打つ他に無い。オーシア軍の大半はユーク前線、東方諸国はもはや迎撃に割く戦力が無いことを踏まえると、頼みの綱は『ミラージュ』を装備する首都防空大隊とラーズグリーズしかいないことになるね》

 

 ピーター参謀の説明と同時に映し出される『SOLG』の3D画像に、エリクは思わず絶句した。

 全長、およそ1㎞。砲身基部のメインモジュールからは弾倉や加速器などの各モジュールが十字に延び、概観としては尻尾の生えたバドミントンの羽根、あるいは骨が4本しかない傘のような姿をしている。比較として傍らに表示された『トムキャット』の画像からもその大きさはけた違いであり、さながら天そのものが落ちて来るかのような錯覚すら感じされた。こんな巨大な物を、果たして戦闘機が墜とせるのか。

 生唾を下し、ごくり、と鳴る喉。一同の曇る相貌。ただでさえ重い絶望の空気の中、背後の廊下の方から、足早に駆ける音が響いてくる。

 それは、さらなる絶望を重ねる凶報だった。

 

「た、大変ですサヤカ主任!」

「あらあら、通信中ですよ、ノックして下さいませ。お尻スパナの刑に致しますよ?」

「か、勘弁して下さい…。って、それより緊急連絡です!レッドミルの首都防空大隊基地が急襲を受け、機能を喪失したとのこと!」

《な…》

「何だって!?」

「襲撃機はサピン国籍とされていますが詳細は不明。全機を撃墜したものの滑走路全てを損傷し、復旧までに最低でも半日とのことです!」

 

 書類の束を纏めたバインダーを手に、叫ぶように口にする通信兵。もはや絶望する間すら惜しく、エリクは壁面から地図をはぎ取り、傍らの机に押し張った。レッドミルはオーレッドの南に位置する最も近い駐屯地であり、確かにサピンとは運河を隔てて隣合わせの位置にある。

 

「他に近傍の基地は?」

《クランストン、ハイエルラーク、ワズワース…いずれも遠い。落着にはおそらく間に合わないだろう。所属機をユーク方面に回してしまい、空になっている基地もかなりある》

 

 ピーター参謀が口にする地名を地図で見取り、それぞれの位置を探る。迎撃にはミサイルを満載しなければならない以上、たとえ全速を出した所で到着できる範囲には無い。こうなれば、オーレッドに駐機しているラーズグリーズだけが頼りだった。

 だが。

 

「続いてもう一報なのですが…レクタから大型の航空機が6機飛び立ち、南西へ向かって飛行中とのことです。離陸地点はレクタ中部、スヴォレフホイゼン付近とのこと」

「スヴォレフ…。……!!」

「エリク様。スヴォレフホイゼンといえば、確か…」

 

 瞬間、記憶の奥底にある地名が脳裏を過ぎり、電流を受けたように体を突き動かした。

 スヴォレフホイゼン――そう、確かスポーク隊の裏切りに遭ったあの時、本来行くべき目的地だった場所。前後の事情を踏まえると、あれがベルカ残党の拠点であったことは存分に考えられる。

 背筋に冷や汗が走る。

 スヴォレフホイゼンは、レクタ中部。そこから南西に向かった先と言えば。

 

 指先がスヴォレフホイゼンを指し、そこからゆっくり地図の左下へと動いてゆく。指先はラティオ北部を通り、サピンを横切り、オーレッド湾を通って――首都オーレッドへ、至る。

 

「そいつらの位置は!?」

「え!?…ええと、10分前の時点で…ラティオとサピン、ウスティオの国境付近になります。もうサピン領内に入った所かなと」

 

 現時点で、三国の国境付近からサピン内陸。機体の速度と装備にもよるが、並みの戦闘機が最高速度を出せば1時間も経たずにオーレッド湾へ到達する。予測到達時刻は、おおむね5時半。

 

「ピーター参謀、ラーズグリーズ隊の補給終了時刻は分かりますか?」

《詳細は分からないが、場所が只のハイウェイ上だ。どんなに急いでも6時近くになるだろう。可変翼機の『トムキャット』では、通常機の倍は整備の時間がかかる》

「離陸まで30分は足りない、か…。くそ!練習機でもせめて上がれる基地があれば…!」

 

 どう計算しても、時間が致命的に足りない。既にこの敵と思しき編隊はサピン国境まで到達しており、それほど近距離にある基地は他に無いのだ。

 せめて民間空港でもいい。どこか、無いか。エリクの指はサピン国境を指し、右へ、左へと揺れ――同じ緯度を左へ、左へと行った時、ある地点で不意に止まった。

 ノースオーシア州、ルーメン。今いるこの地は、奇しくも敵がいるであろう現在地と、オーレッドへの距離はほぼ等しい。今から飛び立てば、オーレッド湾上空で敵の眼前に先回りできる。

 

 ルーメンにある発着施設といえば、ここL.M.A.の滑走路以外に無い。

 機体はといえば、YaK-38Mこそ失ったものの、元々の乗機『クフィルC10』は整備を既に終え、万全の状態にある。

 そして、今それを駆ることのできるパイロットといえば。

 

 ――。

 

「分かった。ピーター参謀、そっちから可能な限りラーズグリーズの整備を急がせてください。…俺は今から出撃し、オーレッド湾に先回りします。『クフィル』なら、今からでも間に合う」

「え…。エリク様!?」

《………すまない。エリク君、どうか彼らを護ってやってくれ》

 

 ディスプレイの向こうで、ピーター参謀の顔に哀悼のような色が過ぎる。ふっ、とそれに微笑んで応じてから、エリクはすぐさま踵を返し、早足で廊下へと出、格納庫へ向かうルートへと歩を進めた。後ろからはぱたぱたと慌てたように、サヤカの足音が続いてくる。

 

「エリク様!エリク様、少々お待ちを!」

「サヤカ、すぐ整備班にエンジンの火を入れるよう伝えてくれ」

「え…エリク様!!」

「増槽は3本。兵装は短距離AAMをありったけ積んでくれ。あと…」

「待って!!」

 

 建物から出たのと同じタイミングで、追いついたサヤカが左手を握る。慣れない早足で体力を使ったのか、その息遣いは常に無いほどに震えていた。

 

「り、離陸するだけでしたら、わが社には輸送機のパイロットもいます。足止めだけでしたら、わが社の人員でも可能です!エリク様が上がられる必要はありません。…これは、管轄権限者の命令です!」

 

 掌を掴む力がぎゅっと強まり、伝わる熱が一際高まる。常にない断言するような鋭い口調と激しい息遣いは、普段のサヤカらしからぬ様だった。これほどの感情を、今までサヤカからぶつけられたことがあっただろうか。

 

「いや、連中が本当にスヴォレフホイゼンから上がったのなら、その中の一人はたぶん俺が知ってる奴だ。互いの為にも、俺は決着を付けなきゃならない。――それに、戦闘機に慣れた奴じゃなきゃ『ラーズグリーズ』の離陸までは持たせられないだろう。唯一の戦闘機パイロットでもあるし、ここまで首突っ込んだ責任もある。行くのは、俺でなきゃならない」

「っ…!しかし、…しかしその傷では。……エリク様の、命、が…!」

 

 感情を抑えられないように言葉を詰まらせ、俯くサヤカ。その目元に一筋流れた涙に、今度はエリクの方が言葉を詰まらせた。

 パウラ、クリス、カルロス。喜怒哀楽の感情をむき出しにして言葉を交わした面々の顔が過ぎり、エリクはそっと、サヤカに向き直る。なぜか初めて、今サヤカと繋がった気がした。

 

「傷は…まあ脇腹は妙な機動しない限り大丈夫だろ。脚の方は遠心力で出血しないよう、きつめに包帯巻いて行くさ」

「でも。……でもっ…!」

 

 ぽろり、ぽろりと零れる涙。

 ――残っていたい。本能が呟く。

 ――行かねばならない。心が叫ぶ。

 

 こみ上げるものを堪えるように、エリクは瞼を閉じ、天を仰ぐ。

 呑み込み、見上げた先には、西の空を彩る淡い三日月の姿。自らの――皆の誇りを託した、黄金色の象徴。

 顔を下ろし、交わしたサヤカの濡れた瞳には、朧な月の光が映っている。

 

 意思は、固まった。ベルカの策謀を破り、カスパルの怨恨に打ち勝つため。下らない報復の連鎖を断ち切るため。そんな、己が信念のため。――いや、それ以上に。

 

「サヤカ、行かせてくれ。俺は、行かなくちゃならない。報復の連鎖を乗り越えるために。決着を付けるために。――それに、何より。俺の周りの大切なものを、護るために。…行かせてくれ、サヤカ」

 

 そこで言葉を切って、エリクは右の拳を握り、静かにサヤカの下腹部に押し当てた。

 これ以上、言葉はいらない。この手の意味は、言葉の意思は、お互いがよく知っている筈だから。

 

 紅潮した頬。潤んだ瞳。

 ぽろ、と落ちた涙滴を最後に、サヤカは涙を拭いて、ぷい、とこちらに背を向けた。慇懃無礼、年齢不詳な常とはらしからぬ、子供のようなその仕草が、エリクには可笑しかった。

 

「AAMはオーシア製の最新のものがあります。すぐに手配致しましょう。燃料も最上のものを。命令違反による違約分は、のちほど請求致します」

「ああ、頼む」

「…ご武運を」

「ああ」

 

 一歩、一歩。サヤカを背に、エリクは脚を踏み出してゆく。

 向かう先は、三日月照らす格納庫。愛機クフィルの末裔、『クフィルC10』が翼を休めるシャッターの先。手首を彩る三日月のブレスレットは、月光を反射して淡く輝いている。

 

 12月の夜は長く、東の空は今なお暗い。しかし確かに、夜明け(Break of Dawn)は近づいている。

 

「エンジン回せ!『クフィル』、すぐに上がるぞ!」

 

 The chained war ――連鎖する、報復と悲劇。その先へ向かうための翼の下へ、エリクは一歩、進んでいった。


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