Ace Combat side story of 5 -The chained war- 作:びわ之樹
ウスティオ、ならびにレクタ軍は、これより総力を投入し一挙に『テュールの剣』を制圧、ラティオ中郡を突破する。航空部隊は空対空装備で制空任務に当たり、陸軍、ならびに攻撃機へ脅威を及ぼす全ての敵を排除せよ。
ラティオ首都セントラムは目の前である。一気呵成に首都へなだれ込み、この戦争を勝利のうちに終えるのだ。諸君の奮闘に期待する》
息を吸った拍子に、新車のような新品のシートの匂いが鼻を突く。
酸素マスクを付けているものの、一体どこから入り込んだのだろう。息を吸うのもそこそこに、エリクはその匂いを追い出すように、鼻から息を吐き出した。
乗り物に酔いやすくなるという子供の頃からのジレンマゆえか、塗料と糊と電子部品がないまぜになったようなその匂いは正直好きな匂いではない。もっとも、空戦機動ならばいざ知らず、通常の巡航で酔うなどということはそうそう無いが。
2010年10月28日、午前11時。ラティオ中郡ベレッツィアより北西約80㎞、高度3200。秋らしく
《ラオディ・ブルより各機、安全装置解除。火器管制を再点検せよ。陸軍の進発が遅れているが、定刻通り攻撃を開始する》
編隊中央の前線航空管制機たるOA-10Aから、作戦士官の命令が伝えられる。粗暴な猪を指すそのTACネームと裏腹に、その声質は神経質と思えるほどに細い。
エリクは操縦桿を握ったまま、大量に備え付けられたボタンの一つを押し込む。計器盤中央の液晶ディスプレイにそれまで映し出されていた表示が入れ替わり、代わって『Fire Control』の表示と、各装備の状況や残弾数が緑色の光で描き出された。8つのハードポイントと機銃は、いずれもコンディショングリーン――異常無しを示している。
部隊の装備機がJAS39C『グリペンC』となりこれまでと勝手が変わったことは少なくないが、その最たるものの一つが、このような各計器操作の簡便化――いわゆる『HOTAS概念』を導入した設備への変更である。
火器管制、レーダー、多機能センサー。戦闘機は時代を重ねるごとに複雑化の一途を辿り、もはや精密機械の塊と言っていい存在となっていた。多機能化の帰結として、コクピットの計器盤に表示される情報量や計器の数は凄まじいものとなり、パイロットにとって著しい負担となっていたのだ。必要に応じて逐一計器盤を操作していては、その間操縦桿から手を離さなければならず、操縦すらも覚束ないという訳である。
この課題の解決のため考案されたのがHOTAS概念であり、簡単に言えば操縦桿に幾つもの計器操作用ボタンを設け、操縦桿から手を離さずに計器を操作できるようにしたものである。先のような火器管制はもちろん、レーダーレンジ変更や戦闘モード変更など、大抵の操作は操縦桿のボタンで可能となっており、ディスプレイの大きさと相まって利便性の向上は今も実感していた。先代『クフィルC7』でもHOTAS概念は導入されていたが、適用領域は『グリペン』がより大きい。
もう一点特筆すべき点としては、これまで『クフィル』で採用されていた
HMD越しには、前方を飛ぶ機体に友軍機を示す緑色のカーソルと識別番号が重なっているのが見える。
編隊先頭は、例によってウスティオのエース部隊である『ガルム隊』のF-2Aが2機。編隊左翼には同じくウスティオのF-15E『ストライク・イーグル』4機が連なり、少数ながら対空・対地いずれも対応できる編制を取っていた。この他に、編隊のはるか下方にはA-10A『サンダーボルトⅡ』とF-111A『アードヴァーク』からなる攻撃隊も布陣している。
片や右翼方面はレクタ編隊が連なる訳だが、その先頭はあろうことかエリクの『グリペンC』である。背後は見渡せないが、レーダーに表示されたマーカーの様子から、エリクの左右両翼後方にはヴィルさんとクリスの2機が並び、それぞれの後ろにスポーク隊の2機。そのさらに後方に『ミラージュF1C』8機が並んでいるのが判別できる。
スポーク隊を押しのけてまでこの配置となった要因に、エリクらハルヴ隊が『ラグナロク作戦』で挙げた戦果があることは想像に難くない。機体に専用の塗装を施し――多分にロベルト隊長の思い付きではあったものの――、エース部隊として名の知れた『ガルム隊』の突破口をこじ開け、撃墜されながらも大勝利の端緒を開いた。実際にはその技量は他の部隊とさほど変わることは無いにも関わらず、あらゆる偶然と運と状況が合わさった結果、有体に言えばエリク達はエースとして祭り上げられる形となったのだ。
レクタにも、ウスティオと並ぶエースあり。意図的に作り上げられたその偶像は、戦争に消耗し、武力介入を仄めかしたサピンの動向に動揺するレクタの国情と、おそらく無関係ではない。
生き残り、命令を達することとはまた別。エースとして求められるに十分な戦果を上げ、友軍を、そして祖国を導くこと。求められるものに加わった重みに耐えかねるように、エリクは正面へと目を泳がせた。本来そこにあるべきロベルト隊長の姿は、消息を絶って1週間を経た今もなお掴めていない。
隊長。俺は、どうすれば。
変化に翻弄され揺れる心が、自ずとその眼を彼方へと向かわせる。求めた声は返らず、左翼に染め抜いた三日月は黙して語らない。虚しい静寂の中で、時だけが徒に空を流れて行った。
《ラオディ・ブルより各機へ、攻撃予定ポイントへ到達。攻撃隊ならびにレクタ軍護衛機は降下し、『テュールの剣』への攻撃を開始せよ。ウスティオ戦闘機隊は現高度に留まり、雲上の制空権を確保されたし》
《ガルム1了解。制空戦闘へ移行します》
《本機も雲上にて指揮を継続する。以降、攻撃部隊における指揮権をスポーク1へ移譲》
《スポーク1了解、これより降下する。ハルヴ、クレフト各隊続け》
「こちらハルヴ2、了解」
《クレフト1、同じく。ウスティオのエースにあの『
スポーク1――実際の指揮官であるアルヴィン少佐が指示を下し、先頭に立ったスポーク隊の2機が機体を翻して高度を下げてゆく。そう、今回は政治的理由もありレクタ編隊の先頭に立ったものの、自身の範疇はあくまで小隊指揮であり、全体への指示は最高階級のアルヴィン少佐の役割である。アルヴィン少佐が指揮の前面に立ったことで先の困惑も多少は薄れたものの、直後のクレフト1の無邪気な一言に、エリクの胸にずしりと重圧が重なった。エースという立場が周囲へと与え、そして与えられる重み。無邪気に憧れたその存在が、こうしてみるといかに重いものか分かる。
あの『ガルム』も、同じ重圧を抱いているのだろうか。
降下する『グリペン』の中から、エリクは空を見上げる。
両翼端を青く染めたF-2Aの姿は徐々に雲に遮られ、やがて厚い雲の上に見えなくなっていった。
《全員聞こえるな。こちらスポーク1、『カルクーン』。早速お出ましだ。方位135、距離4000。機数12。MiG-29Gが8機と…泣けてくるね、MB-339が4機だ》
《甘く見るな、ラティオも必死だ。各機、
現代の戦闘は情報戦と言われている。ミサイルの技術が進歩しその捕捉範囲が向上した今となっては。いかに高性能な機体に乗り優れた武装を搭載していても、先に見つかり撃たれたら終わりである。レーダーという電子の眼は、現代戦において戦況すらも左右する極めて重要なものと言えるだろう。
その点、この『グリペンC』のレーダー性能は、先代『クフィル』と比べて隔世の感すらある。優秀なアビオニクスの恩恵により索敵範囲は格段に向上し、瞬時に敵の方位や位置を判別するのはもちろん、機種までも特定できるようになっているのだ。それだけ敵の脅威を判断する余裕も生まれる訳であり、その遅速は生死にも直結する。
雲を抜けて下方域に達し、こちらでもレーダーが敵の姿を捉える。位置としては半壊した『テュールの剣』の前方。機数は確かに12だが、まだその姿は肉眼では判別できない。レーダーによると8機はラティオ仕様のMiG-29Gのようだが、残る4機を指す表示は何と練習機のMB-339。一応短距離AAMを搭載した軽戦闘機として運用も可能な機体ではあるが、いくらなんでも超音速機相手には無謀という他ない。なりふり構わぬその様は、まさにラティオの死力を体現しているかのようだった。
とはいえ、ミサイルを搭載している以上、それらは紛れもなく友軍へ脅威を及ぼす敵である。情けをかける余裕など、エリクには――いや、連合軍にはもはや無い。
操縦桿のボタンを押し、複数の兵装から使用火器を選択する。
XMAA、2発。視界外の距離から、ミサイル自らが目標を見定め追い詰める、必殺の一撃。
HMD上のシーカーが、未だ目に見えない目標を追い始める。
緑色の枠が追うのは、編隊左のMiG-29G。
目標が朧に黒点となって浮かぶ。
黒点に重なるシーカーが赤へと変わり、電子音がロックオンを告げる。
距離、わずかに縮まり3200。
射程限界。
《発射》
アルヴィン少佐の声とともに、ボタンをがちり、と押し込む。
機体がミサイルを放り出す、ごとん、という機械音。一拍遅れた噴射音が後を継ぎ、煙の尾が敵の方向目指して飛んでゆく。その数、XMAAを搭載するグリペンの機数に各機2発を乗じた数――12。
爆炎一つ、二つ、三つ。機影も朧な彼方の空で命中の炎が爆ぜ、やがて地を指す黒煙へと変わってゆく。緊急回避で矛先を脱したのだろう、HMDの上には、辛うじて翼を保つ機影がわずかに3つ残っていた。回避行動で算を乱したらしく、既にその機動は編隊行動からも逸脱している。
《クレフト隊、残存目標へ
《了解。クレフト1、敵機捕捉。距離2500。各機、
スポーク隊を隔てた先を飛ぶクレフト隊の『ミラージュF1』から、1発ずつミサイルが放たれる。母機のレーダーを利用して目標へと誘導するSAAMは、射程距離こそ自己誘導型のXMAAに劣るものの、その精密さはXMAAに勝る。まして、機動を乱し機数を減らしたこの場合ならば当然のこと。
まるで獲物を狙う蛇のように機動を曲げたミサイルは、生き残った3機の尾部へそれぞれ食らいつき、それらをも空の塵へと変えしめた。
12機、16人。
一瞬にしてそれだけの命が散ったとは思えないほど、空は依然静謐の中にある。これが現代の戦争と言ってしまえばそれまでだが、それは撃墜の実感も戦争の意識も介在しない、まるでゲームのような光景。命だけが浪費されていく、無味無臭の戦場――そう思い至った時、エリクは興ざめたような、一抹の虚無感を抱いていた。
《こちらスポーク1、低空域の敵機を排除》
《ラオディ・ブル了解。攻撃隊は射程に入り次第攻撃を開始せよ。陸軍部隊へも前進を要請する》
立ち込める雲の下、丸裸となった『テュールの剣』へ攻撃機が殺到し、次いで地を這う戦車や装甲車も負けじと歩を進め始める。勇壮を誇った『テュールの剣』も、残すレーザー砲塔はあと一つ。半壊し辛うじて形を保つ惨めなその姿、そしてその城壁がまさに食い破られんとする様は、まるで力尽きようとするラティオの姿を示しているかのようだった。
その時、だった。
《何だ、今空が光っ…》
雲間を裂く、稲妻。
そんな錯覚を覚えた次の瞬間、上空から注いだ一筋の光が遥か前下方のA-10に直撃し、その機体を両断したのだ。光の筋は徐々に位置を変え、地上を走る戦車や歩兵を次々と薙ぎ払い、地面もろとも消し炭へと変えていっている。
長時間照射されているためだろう、その光の軌跡は肉眼でも十分に確かめられた。雲を割いて空から注ぐその光の元を辿れば、『テュールの剣』から空へ向けて光が照射されている様が遠くに見て取れる。つまり直射ではなく、上空の航空機を介したレーザー反射による間接照射。かつて一度見たこの戦法は、間違いない。
「
《オランニェ・ベール2、7がやられた!3は左をやられて擱座している!》
《前より威力が増している…。おそらく無傷だったジェネレータの出力を全て1基に回しているのだろう。…もはや、『エクスキャリバー』そのものだな》
《やられたな…!ラオディ・ブルより護衛機各機、緊急連絡!ラティオ軍機接近、距離1500!!奴ら、雲の中を飛んで来ている!》
レーザーでの奇襲に加え、予期せぬ位置から懐に飛び込まれた衝撃に、管制官の声が震えている。その混乱を嘲笑うかのように、雲の中からは既に機影が一つ、二つと、前進していた攻撃隊の真上へと姿を現しつつあった。
――やられた。
もはや戦力で劣った以上、ラティオ軍はあらゆる手を使って挽回を図る筈である。例えば、わざと旧式機を交えた囮を出し、こちらを懐までおびき寄せる。また例えば、レーダーでの探知が困難な厚い雲の中に戦闘機を隠し、懐に入った隙を喰らう。まんまと敵の手に乗ってしまった迂闊さに、エリクは思わず唇を噛んだ。上空から現れた機数は既に12を数え、ウスティオのA-10を襲わんと機首を下げている。
《図られたか…!各機、XMAA発射!以降小隊編制で近接戦闘に入れ。ラオディ・ブル、低空域へ援軍を求める》
《スポーク1へ、ネガティブ。上空域にも敵援軍多数。戦力を裂く余裕なし》
ちっ。
通信に混じったその音はフィンセント曹長の舌打ちだったのか、それとも知らぬ間に自分が打っていたのか。HMD上の狙いもそこそこに、エリクはXMAA2発を選択し、ボタンを押した。同時にスロットルを入れ、『グリペン』を増速。敵機と攻撃隊の間へ割って入る針路を取る。
煙の軌跡を描くミサイルは、しかし真下を指す敵針路とほぼ直交するため、命中はおそらく望めない。案の定、ハルヴ隊が放った3機分6発は命中することなく空を割いて行ったものの、照準を合わされた敵機が針路を曲げて回避行動に入るのが見えた。空に一つ上がった爆炎は、スポーク隊のどちらかが1発を当てたのだろう。
それでも弾雨を抜け、2機の敵機が下方の攻撃隊へと襲い掛かってゆく。攻撃を中断し回避行動に入る攻撃機の機動は、武装を満載していることもありやはりと言うべきか遅い。翼を広げて逃げ惑うレクタ軍のF-111A『アードヴァーク』へ1機が早くも追いつき、ミサイル2発でその翼を食いちぎっていった。残る敵機も旋回降下に入っており、既に退路すらも包囲された感にある。
「ヴィルさん!クリス!密集隊形で下の2機を追撃します、追随を!」
《了解!》
エースの名を頂きながらエースに至らない葛藤を、今更悩む暇すらない。今はただ、1人の小隊長として、エリクは声を張り上げた。
操縦桿を右前へと倒し、機体が背面を描きながら右下方へと旋回降下へ入る。機首のカナード翼が電子制御で自在に動くためか、旋回速度も半径も、その切れ味は『クフィル』とは比べものにならない。
眼前には、左右に蛇行して懸命に逃げるA-10A。そしてその背を狙う、ラティオの塗装が施されたMiG-29G。目前の目標に気を取られているのだろうか、その機動は『ファルクラム』にしては些か鈍い。
淡く光るガンレティクルが、その円の中央にMiG-29Gの翼を捉える。エンジンの加速は続けたまま、一撃離脱で切り抜ける戦術である。もはや間近くなった至近距離で、左旋回したA-10に合わせて敵機も機銃掃射しつつ旋回に入る。
円の中央に敵機が入るのと、唐突に後方警戒アラームが鳴るのは同時だった。
《先輩、後ろ!》
「応!」
一瞬の機銃掃射ののち、すぐさま操縦桿を左へ押し倒す。直後に機体を掠めたミサイルは、地面へ飲み込まれて土煙を噴き上げた。穴を穿たれた『ファルクラム』の後方を回り見返したその先には、こちらを追うべく機体を翻すSu-27の姿。HMDの表示によれば、輸出仕様のSu-27SK『フランカーB』らしい。手負いの『ファルクラム』を二人に任せ、エリクは機体を横倒しのまま旋回させて、横方向への巴戦に入った。
「……!くそ、腐っても『フランカー』か…!」
軽量な機体と高性能なエンジン、可動範囲の広いカナード翼。格闘戦能力ではデルタ翼機の中でも優れたものを持つ『グリペン』ではあったが、それでもなお、敵の『フランカー』と旋回能力は互角だった。おそらく少しでも旋回半径を緩めれば、あっという間に後ろを取られることになるだろう。低空では重量の軽いこちらが優位の筈だが、それでも互角になる辺り、輸出型でさえ『フランカー』の格闘戦能力は本物ということか。
時間をかければ、それだけ攻撃隊が受ける危険は高まる。焦りは高じこそすれ、互いの距離は全く縮むことは無かった。
こんなことで何が小隊長、何がエースだ。期待を表すそれらの言葉を脳裏に浮かべながら、エリクは奥歯を食いしばり、天面に位置したままの敵機へと目をやった。どうすればいい。こんな時、ロベルト隊長ならどうする。
《オランニェ・ベール6より上空の戦闘機!ハルヴ隊ってのはいるか?》
「後にしてくれ!今取り込み中だ!」
《あー…すまんすまん。たった今、レクタのパイロットを保護した所だ。あんたらの隊長って言ってるが、違うかね?》
「……!?」
唐突に向けられた戦車兵の言葉に、思わず苛立った声を返すエリク。そのまま通信を切ってやろうかと思ったその瞬間、続いた声にエリクは思わず操縦桿を持つ手を震わせた。
レクタのパイロット。保護。――隊長。場所は隊長が消息を絶った位置からやや遠いが、『テュールの剣』周囲には違いない。
まさか。
心の隙は、機動を鈍らせる。束の間緩んだ旋回の隙を突き、エリクと相対していた『フランカー』は射程の一歩手前まで、一気にその距離を詰めていた。
「…くっ!」
《ハルヴ隊、悪かった。また後で通信させよう。俺たちの上はしっかり…あ、おい、ちょっとあんた!?》
《エリク、聞こえるか!何だオイ、俺のいない間にいい機体乗ってんな!》
「…!その声、やっぱり――ロベルト隊長!…って、今それどころじゃ…っ!」
聞き覚えのある声、親しみのある響き。
間違いない、本当にロベルト隊長。予期せぬ再会の歓喜も安堵も、しかし直後に響くロックオンアラートに打ち消された。既に敵機はほぼ後方、短距離AAMの射程に入ってしまっている。
このまま横旋回の機動では、ミサイルの回避ができない。隊長の声を待つことなく、エリクは機体をすぐさま水平に戻し、機首を上げるべく操縦桿を引いた。縦方向へ機動を変更すれば、少なくとも直後に放たれるであろう1発は回避できる。
だが、エンジン出力が高く上昇力に勝る『フランカー』相手に、縦の巴戦で勝てるだろうか?
脳裏に兆した敗北の予兆。それを破ったのは、またしても隊長の声だった。
《エリク!機動そのままだ!》
「へ…!?しかし、この位置じゃ!」
《全部一人で背負おうとすんな、何のために僚機がいると思ってんだ。――だろ?二人とも》
《その通り、です!》
《任せて、先輩!》
僚機。仲間の声。
直後に生じた爆音に、エリクははっと息を呑んだ。音の生じた先は、後方。監視ミラーに映っていたのは、炎に巻かれて墜ちていく『フランカー』、そしてその上を過ぎてこちらの横に並ぶ、ヴィルさんとクリスの姿だった。先の『ファルクラム』と同じく、自分に気を取られて動きの鈍った『フランカー』を、後ろから追撃したのだろう。
《どうした、動きが硬かったな。らしくないぜエリク》
「……隊長。…俺は…」
《いいさ、皆まで言うな。『エース』だの『国』だの背負って飛ぶんだ、翼も重くなるさ。そんなもん、今は忘れちまえ。お前は…俺たちは何でもない、ただの一パイロットだ。『エース』なんて呼び名はその翼の塗装と同じ、ただの飾りだって思っとけ》
「……!」
《ついでのワンポイントアドバイスだ。戦場と敵の様子をよく観察して、弱点を見いだせ。仲間のことを意識しろ。…あ、これじゃツーポイントか、なはは。ま、ともかくさっきの心構えと加えて、以上3点だ》
「…観察すること、仲間を意識すること。…『エース』の名に、振り回されないこと…」
《そうだ。それは多分、どこの空でも変わることはない。俺も師匠から受け継いだモンだ。…ほら、分かったら行け行け。嬢ちゃんたちが苦戦してるぞ》
「――はい!!」
エースとして、隊長として、国を背負う者として。
そんな自分の想いなんて、隊長はお見通しだったのだろう。隊長が言った言葉を一つ一つ、エリクは心の中で咀嚼していく。
――敵わないな、隊長には。
そんな口内の呟きと同時に、溜息が漏れる。気のせいだろうか、溜息と同時に心が少し軽くなった。そんな気がした。
頭を切り替え、エリクは戦場とレーダーを交互に見やる。心なしか、先程よりも空は広い。
ラティオ機の反応は、雲の下に見える限りで8機。攻撃隊は3機ほどが欠け、レクタ機も『ミラージュF1』2機が減っている。低空域で密集し攻撃の機会を待つ攻撃隊の上では、スポーク隊とクレスト隊が敵機と格闘戦で切り結んでいる様が見えた。雲が低いせいか、そのほとんどは横方向の巴戦である。敵機の多くは先と同じSu-27SK『フランカーB』で、既にクレフト隊の『ミラージュF1』を圧倒しつつあった。上空からのレーザー照射が鳴りを潜めているのは、上空のウスティオ隊が懸命に踏ん張っているためだろう。
戦場を見、次いで敵を観る。
スポーク隊の2機と格闘戦を行うのは4機。高度としてはそのやや下方で、残る4機が横の旋回で『ミラージュF1』を追っている。既に1機は機銃掃射を受け、煙を吐きつつあった。対スポーク隊と、クレフト隊。それぞれに向かう敵機の間での連携はなきに等しく、それぞれが目標だけをひたすらに追っている。
ならば。
「さっきの隊長の戦術を応用するか。ヴィルさん、クリス、クレフト隊を追う敵を、下から攻撃する。あの様子だと、横方向以外への警戒はザルだ。…二人とも、頼らせてくれ」
《了解です、エリク中尉。こんな年の功でよければいくらでも》
《えへへ…任せて下さい!》
エンジンが唸りを上げ、機体が風を孕んで急上昇する。電子制御の甲斐もあって、最適化された機体の制動は驚くほどに振動が少ない。
高度1200、1400、1600。ぐんぐん数字を跳ね上げる高度計を横目に、HMDのシーカーが横への旋回を続ける敵機を追い始める。
目標、クレフト1を追っている『フランカー』2機。撃墜ではなく、攪乱を主とした一撃。
ロックオンの電子音と同時に、三日月を刻んだ
予期せぬ方向からの警報に、『フランカー』が統制を乱して回避に入る。攻撃方向を見失い初動が遅れたらしい1機は、その左翼をAAMに貫かれ、その機体を四散五裂させながらベレッツィアの空に呑まれていった。残る1機も機動を乱し、速度を落として旋回に入っている。
操縦桿、手前へ。速度やや減速、カナード自動制御。攻撃モード選択、
敵機後方を抜けると同時に、エリクは背面飛行で敵機の背を取る。横合いの振動の中、薄緑にガンレティクルに捉われるのは、テイルコーンが特徴的な『フランカー』の尾部。
唸る30㎜がその尾翼を噛み砕き、黒煙に包まれた『フランカー』が錐揉みを描いて落ちてゆく。撃墜を確認し機体を翻すと、ヴィルさんもクリスもそれぞれの目標を捉え、撃墜せしめた所だった。その上空では、僚機の撃墜に動揺した隙を突き、スポーク隊の2機が反撃を始めている。敵の速度が落ちた瞬間に格闘戦から加速離脱に切り替え、インメルマン・ターンでその真正面を撃つ近接戦法で、早くも1機を血祭りに上げていた。
《は…ははは…!流石は『三日月』、一発で戦況押し戻しやがった!》
《ハルヴ隊、よくやった。空中の脅威は半減した、攻撃隊前進せよ》
駆逐されつつある、陸空のラティオの脅威。それらを縫うように、低空域に留まっていた攻撃隊は、再び『テュールの剣』へと鼻先を向けていった。多少の対空火器は残っているとはいえ、残存した攻撃隊はA-10Aが4機とF-111Aが7機。半壊した要塞一つを破壊するのには十分すぎる戦力を保っている。地上の戦車や歩兵部隊も、俄然勢いを取り戻して進軍を再開していた。
さて、残るは。
エリクらの今回の任務は、空域の全ての脅威の排除。その残る脅威が居座る先――すなわち雲の上へと目を向けたその時、再び雲を割いて光が地上へと降り注いだ。もっともその照射時間は先程より短く、狙いも正確さを欠いたためか、陸空の友軍に目立った被害はない。
それはまるで、ラティオの断末魔のような咆哮だった。
《…怯むな!俺たちには『ガルム』も『三日月』も付いてる!オランニェ・ベール各車、陸軍魂見せろ!!》
《ラオディ・ブルよりレクタ各機へ。上空の敵機が多く、レーザー照射を妨害できない。援軍求む》
《スポーク1了解。こちらは我々で何とかなる。ハルヴ隊、上空域の援護に回れ》
「了解!ハルヴ隊、上空域へ移行します」
殺到してゆく戦車、歩兵、攻撃機。掃討し尽くされたラティオ軍機。
全てを確かめたのだろう、アルヴィン少佐は戦場を俯瞰し、上空への支援を命じた。確かにこの状況では、万一に備えた上空の脅威を排除するのが急務である。先ほど、雲中からの奇襲を受けたとあればなおの事だ。
ヴィルさんとクリスが両翼に集ったのを確認し、エリクは操縦桿を引き上げた。向かう先は、雲の上の戦場。エースが飛び交う、崇く遠い空である。
機体が雲へと飛び込み、束の間視界が薄暗い闇に閉ざされる。レーダーにはノイズが走り、人馬ともに一時的に目が塞がれる恰好となった。
隙間に、光。
そう思えた次の瞬間に、機体は雲を抜けて上空域へと飛び出した。いくらか上昇を続けて背面に旋回して見下ろすと、雲を背景にいくつもの円弧が描かれている。
ウスティオの6機は、全て健在。ラオディ・ブルのOA-10の姿が見えないのは、雲の中に隠れているためだろう。片や、ラティオ機は倍を超える13機が見える。そのうち5機は赤、白、緑の3色に染め抜いた曲技飛行隊『パンディエーラ・トリコローリ』のG.91だが、それを差し引いても機数で上回る敵を相手に損失を抑えたウスティオ軍の技量は瞠目に値するだろう。上から見定めた限り、G.91はやや離れた位置にあり、残る8機がウスティオ機を包囲する形である。HMDで判別する限り、こちらも機種はSu-27SKが大半を占めている。ウスティオ側からミサイルの応射が少ないのは、既に残弾を使い果たしているためなのかもしれない。
その時である。
ラティオ編隊後方――すなわちこちらの斜め下に位置する『三色旗』の5機が、これまでの扇形の陣形を不意に崩したのだ。互いに機体の腹を向け合いながら、千鳥状に二筋の縦方向へと連なるその形は、今までに見たあらゆる陣形とも異なっている。
『三色旗』が連なる事、数秒。その違和感は、脅威となって現れることになった。
《何だ?光が――》
雲を照らす、一瞬の閃光。知覚できたのはそれだけに過ぎない。
ウスティオのパイロットらしいその声はその一瞬の間に、全てを語ることなく雑音に消えた。視界を奔らせると、背にした雲に浮かび上がった染みのような黒煙が一つ、ばらばらになって落ちてゆくのが見える。ウスティオ機の反応は、ガルム隊を含めて5。
まさか。
《何だ!?スパロー3が粉々になった!》
《まさか……『テュールの剣』のレーザーを反射させて狙い撃ちにした…!?》
《馬鹿な…!…くっ。こちらガルム2。『三色旗』を最優先で狙う。PJ、行くぞ!》
《了解です!》
「くそ、ラティオの奴ら…到底守り切れないと思って、『ガルム』狙いに移ったか!こっちも攻撃に入る!」
馬鹿な。レーザーを反射させた空中目標への狙い撃ちなど、常軌を逸している。思いを至らせ機体を降下させながら、エリクはいや、と頭を振った。そもそもが、航空機の鏡でレーザーを反射させること自体常軌を逸しているのである。もはや陥落は避けられないと悟ったラティオが、せめてもの抵抗に『ガルム』の首を狙うことは大いに考えられた。
敵の真正面からガルムの2機が、上からレクタの4機が襲い掛かる。ガルムのF-2Aはやはりミサイルを使い果たしたらしく、機銃で敵機へと攻撃を加えているようだった。
流石に名を世に知られた曲技飛行隊というべきか、性能で雲泥の差がある筈のG.91で機銃掃射をひらりと避けてゆく。旋回で鈍った所へミサイルを浴びせかけるも、それすらも『三色旗』は難なく回避し、こちらへ腹を向けて機体を翻した。機体下部の鏡が、太陽の光を反射してエリクの目を射た。
はっと思い至り、反射的に操縦桿を押し倒す。直後に傍らを掠めたレーザーの衝撃で、『グリペン』の機体が大きく揺れた。
凄まじい。
奥歯を噛みしめて、エリクは空を舞う5機を見上げる。
このまま持ち堪えても『テュールの剣』陥落は時間の問題だろうが、それまでは絶えずレーザーの危機に晒されることになる。あれほどの正確さを考えれば、本当にガルム隊やこちらに命中させてこないとも限らないだろう。だが、あれほどの機動性と技量を持つ相手に、果たして攻撃が当たるものだろうか。あまつさえ、先程の攻撃でこちらもミサイルを使い果たしてしまったのだ。
落ち着け。あくまで戦術の肝は、さっき隊長が言った通りである。エースの名にこだわるな。敵をよく見ろ。そして、仲間、を――。
仲間。
そうだ。
「ハルヴ2よりスポーク1、上空域に優勢な敵戦力あり!上空域へ来られませんか!?」
《…先輩?》
《こちらスポーク1、カルクーンだ。一応こっちはひと段落付きつつあるが…どうした?》
「『三色旗』を落とす策を思いつきました。今落とさないと、レーザーでこちらの被害が広がるばかりです」
《…!こちら『アウル』。ハルヴ2、策を言え》
そう、仲間は何もハルヴ隊だけではない。思いがそこへ至った時、エリクの脳裏に閃いた作戦があったのだ。
回避行動を取りつつ告げた作戦に、ほう、と入り込んだ吐息は果たして誰のものだったのだろう。
《やってみる価値はあるな。残弾に余裕があるスポーク2を向かわせる。そちらは頼んだぞ、ハルヴ2》
「ありがとうございます。――よし、2人とも、もう1回仕掛ける!」
《了解!》
さて、この作戦を成功させるためには、パウラ到着前にもう一工夫する必要がある。反転したガルムの2機が攻撃を加える隙を狙い、エリクは2人に先行して機首を上げた。後方の戦場では、1機を失ったウスティオ軍が劣勢に立ちつつある。
目標、右翼の2機。『ガルム』の掃射を避けた2機が、銀色に光る機体の腹を見せる。
距離、700。射程外にも関わらず引き金を引く。
虚しく虚空を裂く弾道。その先で、『三色旗』がこちらに機体の腹を向けた。
真正面に、鏡。
この位置は――。
「
後方からレーザーが閃き、それが正面の機体に当たってハルヴ隊の中心を貫く。
回避が一瞬でも遅れていれば、エリクはコクピットを直撃されていただろう。機体が喚く警告に右主翼を見やると、レーザーで黒く焦げた外装を見て取ることができた。
「何て精度だ…!雲へ!!」
左旋回から操縦桿を引き、背面飛行から宙返りに移って急降下する。雲に隠れてしまえば、少なくとも『三色旗』からの狙撃は困難になる筈。おそらく今ので、こちらもミサイルが尽きたことは看破されただろう。そうなると、今度攻撃に移った時はより近い、必中の位置から狙ってくるに違いない。
3機のグリペンが雲に入り、白い闇の中で急旋回する。
重要なのは、タイミングである。ガルム隊の攻撃で敵編隊が散り、奇襲に向いた雲の近くまで高度を下げたその瞬間。狙うべきは、その一瞬。
「――今だ!!」
鏃の形に並んだ3機が、やや高度を下げた『三色旗』へ狙いを定める。エンジン出力を高め、軽い機体を活かした雲からの一撃離脱で、確実に敵機を屠る戦法である。
だが。それすらも読まれていたのか、上空の2機はこちらの矛先を逸らすように散開して旋回。1機はこちらの正面で腹を晒し、残る1機が急旋回してこちらの死角へ――急上昇するこちらから見ればキャノピーの真上の方向へ、機体を占位させた。
今度は、真正面からの狙撃ではない。正面の機体を経由して、死角の1機がさらにレーザーを反射し、こちらの3機を纏めて焼き払う肚であろう。こちらの残弾と射程距離を計算して占位したのだろう、中継機である正面の1機を先に狙おうにも、『グリペン』の機銃では届かない。その距離、850。
そう、『機銃では』届かない距離。
《スポーク2、FOX2》
その瞬間、正面のG.91のパイロットは驚愕しただろう。ミサイルを使い果たしたと読んでいた眼前の敵機から唐突にミサイルが放たれ、過たず直進して来たのだから。
そしてその動揺が、彼の回避を一瞬遅らせた。
当然ながら、航空機は背を捉えるより、機体下方の方が投影面積が広い。おまけに速度の遅い練習機とあっては、至近からのミサイルの回避は一層困難となる。奇襲と言っていいその攻撃を避ける性能はG.91に無く、一筋のミサイルはその後部へ突き刺さり、爆発。鏡の破片を空に散らし、炎の中で四散した。
《隙ありですよ、三色旗殿!!》
直後、雲から別の機影が走り出て、死角に陣取っていた1機へ強襲を仕掛ける。一撃離脱のセオリーに基づき、その進路は目標へ向けまっすぐ、機銃以外を使い果たして軽くなった機体は速度も速い。
僚機の死に動揺した『三色旗』が、やっとのことで我を取り戻したのか機体を旋回させる。遅きに失したその機動は、『グリペンC』の強襲を避ける鋭さは無く――30㎜弾に胴体を引き裂かれ、爆炎の中に身を散らしていった。
エリクの描いた策は、仲間たるスポーク隊の存在と、機種が同じ『グリペン』になったことを利用したものであった。すなわち、牽制の攻撃を仕掛けた後に一旦雲に入り、その際にミサイルを残していたパウラとヴィルさんが入れ替わったのである。つまり、直後に雲から出たのはエリク、クリス、パウラの3人で、油断した正面のG.91の隙をパウラが突いたのだ。最後に攻撃を仕掛けた1機がヴィルさんであることは言うまでもない。
《『三日月』がやった!》
《隙あり、です!!》
動揺が空全体へ広がり、ラティオ軍機の統制が目に見えて乱れていく。両翼が青いF-2Aはその隙を真っ先に突き、残る『三色旗』の1機を見事に機銃掃射で仕留めた。残る機体は『三色旗』を殿に残し、東目指して遁走していく。
残弾数、30㎜がわずかに20発。追撃は到底叶わない。逃げていくラティオ残存機を、エリクは見送る他無かった。
「…!」
せめてもの挑発の積りだったのだろう、最後尾のG.91がエリクの機体を掠め、パイロットが中指を立てながら傍らを擦過してゆく。タイミングを逃したにも構わず、エリクはHMDを跳ね上げ、そのG.91の背中へ向け親指を下向きに指してやった。
《こちらラオディ・ブル。上空の敵勢力掃討を確認。『テュールの剣』へも制圧部隊が進入を開始している。もはや制圧は時間の問題だ。各員、よくやった》
《やれやれ…先日の作戦から長丁場でした。これで、戦争も終息することでしょう》
雲が薄くなってきたのか、眼下の雲から『テュールの剣』が透けて見え始める。既に残った塔にも炎が回り、外装は崩れ始めているようだった。戦車が上げる砲火もあらかた収まり、既に戦闘が終盤へ向かっていることを物語っている。
終わった。勝った。これでラティオ中郡の守りはもはや無く、首都はもはや目前である。そうなれば、戦争はじきに終わることだろう。
だが。今はそんな戦局のことより、エースたるパイロットたちの戦場で打ち勝った喜びの方が大きかった。新たな機体と、仲間の存在。今回の勝利は、全てそんなかけがえのない存在のお蔭である。
《……悪くない策だった》
「…ありがとよ、パウラ。――ありがとう、皆」
あらゆる万感の想いを籠めて、エリクは通信へ言葉を向ける。
雲の上、遮るものない青い空は、エリクの目の前に広く遠く広がっていた。
《諸君、よくやった。諸君の奮闘の甲斐もあり、『テュールの剣』は完全に崩壊した。この戦いの大勝利は、長く歴史に伝えられるだろう。『テュールの剣』陥落に伴い、ラティオは大きく動揺している。この隙に首都セントラムを突き、戦争を我らの勝利の内に終えるのだ。諸君らには一層の奮起を期待する。
なお、友軍機甲部隊によって発見されたロベルト・ペーテルス大尉は、多少の衰弱が見られるものの命に別状はないとのことだ。リハビリを済ませ次第、原隊に復帰することとなる。――ついては、大尉の生還祝いに基地司令から30年物のとっておきのワインを頂戴してきた。戦勝祝いも兼ねて、本日は盛大に祝うとしよう》