最愛の人へ 〜未来への光〜   作:糖也

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第四話 お泊まり会

チュンチュン

 

 

 

「...」

 

 

カーテンの隙間から差し込む朝日で目が覚める。

自分で起きれたのは久しぶりだ。

俺は欠伸をしながら一つ伸びをした。

そのあと、いつもとは違う朝の風景に再び頭を抱える。

 

 

「...なんだこれ」

 

 

起きた瞬間、なんだか妙に暑苦しいし、いい匂いがすると思ったら...

 

 

スー‥

 

 

俺の布団に真姫が入り込んでいた。

 

 

「何やってんだこいつ...」

 

 

寝ている間にベットから転げ落ちたのだろうか。

だとすると寝相が悪いにもほどがある。

未だに隣で真姫は静かに寝息を立てていた。

こいつ...いつから入り込んだんだ?

二人で寝ていたせいか、暑さで真姫も額に汗をにじませ、髪の毛が張り付いている。

俺は真姫の額に手を伸ばし、髪の毛を横によけてやると

 

 

「ん〜ん...」

 

 

真姫が起きた。

 

そして真姫はゆっくりと上半身だけ起き上がり、右手で目をこする。

 

 

「おはよう。

よく眠れたか?」

 

 

俺が声をかけると、真姫は徐々に意識を取り戻していった。

 

 

「うん...

でも、ちょっと暑いかも...」

 

 

未だ半目のまま真姫はそう返す。

誰のせいだと思ってんだよ。

 

 

「そりゃ、布団一つに二人で寝たら暑いだろうさ」

 

 

「...え?」

 

 

俺がそう言うと、真姫は言っている意味がよくわからないと言いたげな表情を作った。

 

 

「これ、俺の布団だろ?」

 

 

「///...!」

 

 

すると、真姫の顔はみるみる内に紅潮し、まるでトマトみたいに赤く染まった。

 

 

「///な、なんで!

なんで私がこんなところにいるのよ!

 

 

「は?知るかよ。

寝相が悪くて転げ落ちたんじゃねーの?」

 

 

ゴチーン!

 

 

「いってー!」

 

 

脳天に衝撃が走る。

痛くて布団の上を転げ回った。

 

 

「何すんだよテメー!」

 

 

「あんたがデリカシーのないこと言うからでしょ!

それより早く起きないと、練習に遅刻しちゃうわ」

 

 

真姫は布団をたたみ、俺を置いて先に下へ降りていった。

 

俺はと言うと、久しぶりに真姫の理不尽パンチをくらい一気に目が覚醒したのだが、不満は抑えきれない。

 

 

「なんで俺が怒られてんだ?」

 

 

そんな愚痴をこぼしながら、俺も布団をたたみ未だ痛む頭をさすりながらゆっくりと階段を降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は午後四時。

 

今日一日何も予定がなかった俺は久しぶりにゆっくりと羽根を伸ばすことができた。

真姫はと言うと、朝μ'sの練習に出かけたっきりなぜか帰ってこない。

真姫がいなかったことにより、こんなだらしない生活を送れた俺にとっては、今日という日は有り難かったのだが、流石にこの時間まで帰ってこないとなるといささか心配にもなるというもので、俺が真姫に電話しようと携帯を手に取ったところで

 

 

ピーンポーン

 

 

インターホンが鳴り響いた。

 

やっと帰ってきたのか。

こんな時間まで連絡なしに出かけていたあいつに少し説教でもしてやろうと思いながら、廊下を歩き玄関でドアを開ける。

 

 

「おい!お前連絡ぐらい...」

 

 

「お邪魔しまーす!」

 

 

俺がそう言いかけたところで、聞き慣れた声が聞こえたと同時に目の前に穂乃果が現れた。

 

俺がポカーンと口を開け立ち尽くしていると、穂乃果の後ろから今度は希がひょっこり顔をのぞかせた。

 

なんだこいつら...

なんで二人して俺の家を訪れたんだ?

 

疑問は隠せない。

俺が首を傾げていると、最後に真姫が現れた。

 

 

「どういうことだ?

なんで二人がここにいるんだよ」

 

 

俺が真姫に向かって質問すると

 

 

「家のこと話したら勝手についてきちゃったのよ...」

 

 

そう返された。

 

 

「そういうことやね。

二人だけでなんか面白そーなことしてるなーと思ってついてきたんよ」

 

 

希は笑顔で俺に説明する。

にしても、希が俺の家に来るのは珍しい。

中学校の頃からの付き合いだが多分、俺の家を訪れたのは今日が初めてじゃないかな。

 

 

「こんなところで立ち話もなんやから、家に上がってもええかな?」

 

 

それ、俺のセリフだろ...

まぁ遊びに来たってんなら歓迎するけど...

にしても別に俺の家に来なくてもいいだろ...

そんな愚痴をこぼしながら、俺は二人を家の中に案内した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、適当に座ってくれ」

 

 

「うん、ありがとう」

 

 

家に上がった後、二人をリビングに入れた俺はそう言って二人を座らせた。

ていうか、本当に何しに来たんだこの二人...

面白そーなことって、ただ真姫が俺の世話してくれてるだけなのにな。

 

 

「ねぇヒロ。

お茶がもうないんだけど」

 

 

キッチンから真姫の声が聞こえる。

穂乃果たちのためにお茶を入れようとしてくれたのだろう。

 

 

「わりー。

さっき飲み干したんだった。

ちょっと買ってくるから待っといてくれ」

 

 

そう言って立ち上がろうとしたところをガシッと希に腕を掴まれた。

 

 

「お茶ならウチが買ってくるからヒロくんたちはゆっくりしてて。

真姫ちゃん、一緒に行かへん?」

 

 

「え?」

 

 

そう言って強引に座らされた後、希は真姫の手を引いて玄関のドアから消えていった。

 

 

ぽつーん

 

 

いきなり二人きりになったところでぽつーんと、二人座り込む。

 

 

「相変わらず何考えてるかわからんやつだな...」

 

 

「あはは...だね」

 

 

中学生の頃からそうだった。

一緒のクラスになったのは三年の時だけだけど、一年の頃から存在は知ってたこともあり、仲良くなるのは時間の問題だった。

そのため共に過ごしていると、よく俺の考えを見透かされたり、占ってもらった結果通りの不幸にあったりなど、なんだか俺の行動が全て見透かされている感じがして少しだけ苦手だった。

高校に入ってからもそれは変わらない。

 

 

「ヒロくんたちっていつから二人きりなの?」

 

 

俺が希について考えている途中で隣の穂乃果から声をかけられる。

おそらく真姫が俺の家に来たのはいつからかってことだろう。

 

 

「昨日からだぞ。

それがどうかしたのか?」

 

 

「ううん、べつに。

どうだった?楽しかった?」

 

 

「?」

 

 

穂乃果は何が言いたいのだろうか。

今のところまるでわからないな...

 

 

「普通だな。

ただいつも母さんがやってることを真姫にしてもらってるだけだし」

 

 

「...そっか」

 

 

穂乃果がポツリとそう呟く。

 

 

「暇だな、なんかゲームでもするか?」

 

 

「そうだね、そうしよう」

 

 

やることもなく俺たちは階段を登って俺の部屋に入り、真姫たちが帰ってくるまでの間テレビゲームをすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トントントン

 

 

包丁の音と共に良い匂いが漂う。

鍋の中ではグツグツと具材が煮えていた。

 

 

「ヒロ、これもお願い」

 

 

「はいよ」

 

 

そう言って、刻み終えた具材を鍋の中に入れる。

真姫たちが帰ってきた後、良い時間になったところで晩御飯を作ることにした。

昨日と同じように、真姫が料理をする中俺が隣でサポートをする形。

後ろのテーブルでは、俺たちの料理する姿を見守る二人が椅子に座っていた。

 

 

「なーんか二人、夫婦みたいやね」

 

 

「///...!」

 

 

グサッ

 

 

「うおっ!!」

 

 

希の言葉を聞いた真姫は誤って包丁を滑り落とし、それは俺の右足の前の板に突き刺さった。

 

 

「あっぶねーだろ!!

何してんだよ!」

 

 

「///しょ、しょうがないでしょ!

希がいきなりあんなこと言うんだから」

 

 

 

あわゆくば大惨事という事態に俺が声をあげると、真姫は顔を真っ赤にして反論してくる。

その後もガミガミ言い合いしながらも、料理は順調に進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうや。

今日ウチらもここに泊まるから」

 

 

「...!」

 

 

四人で晩御飯を食べている最中、突然希が爆弾を投下した。

 

 

「え?本気?」

 

 

俺が信じられないという風な顔を作り二人に問いかける。

 

 

「ダメ...かな?」

 

 

「ぐっ」

 

 

穂乃果の上目遣いに一瞬だけ動揺してしまった。

しかし、本当にいいのだろうか。

真姫はまだしも、他の女の子を、それに二人も家に泊めるってのは...

 

「は〜わかったよ...」

 

 

「本当!?やったーー‼︎」

 

 

見ると穂乃果は両手を上げて喜んでいる。

本当いつも元気だな、お前は。

 

ふと隣を見ると何やら不機嫌そうな顔でこっちを見ている真姫と目があった。

 

 

「どうしたんだよ、そんな機嫌悪そうな顔して」

 

 

「べつに、なんでもないわよ」

 

 

俺の質問に答えた後、真姫は反対側に顔を向けた。

なんだよいきなり。

最近の真姫は本当によくわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「またお前らは何やってんだ?」

 

 

風呂から上がり、自分の部屋の扉を開けると希と穂乃果が部屋で俺の卒アルを見ていた。

 

 

「あ、ヒロくんおかえり〜」

 

 

そう言って穂乃果は俺の方を見た後再びアルバムに目を落とす。

 

 

「じゃなくて勝手に見てんじゃねぇよ。

恥ずかしいだろ」

 

 

「ヒロっちのことやからどっかにいかがわしい本でも隠してるんやないかって探してたらこれが出てきたんよ」

 

 

二人が見ていたのは俺の中学生時代の卒アル。

自分の昔の写真を見られるのは、結構恥ずかしいものがある。

 

 

「ヒロくん昔と全然変わってないね。

髪がちょっと伸びたくらいかな?」

 

 

「ヒロっち、この頃はモテてたんよ?

うちのまわりもヒロっちのこと好きって子が結構いたんよ」

 

 

「///」

 

 

希の発言はともかく、穂乃果の全然変わってないって言葉に少しだけ傷ついた。

高校に入ってからも顔が幼いって言われ続けてきたこともあり、いままでずっと大人っぽくしようと頑張ってきたつもりだったんだけどな...

 

 

「真姫ちゃんの写真とかはないの?」

 

 

そう言って穂乃果は俺の方を見つめる。

 

 

「あぁ、そらならこっちだ」

 

 

俺は本棚の一番奥にしまってある家のアルバムを引っ張り出し穂乃果に渡した。

穂乃果たちは渡されたアルバムを熱心に見ながら次々とページをめくる。

 

 

「二人は本当に仲がいいんだね」

 

 

「まぁ、幼馴染だからな。

俺もおばさん達に真姫の面倒を見るように言われてたし、一緒にいる時間はあいつが一番長いよ」

 

 

「ふーん。

ねぇ、ヒロくんにとって真姫ちゃんってどんな関係?」

 

 

唐突に穂乃果が聞いてくる。

隣を見ると希も興味津々と言いたげな目で俺の方を見ていた。

 

 

「幼馴染」

 

 

「それだけ?」

 

 

「え...?」

 

 

俺が答えると再び希が聞き返してきた。

 

 

「本当にそれだけなん?」

 

 

何が言いたいのだろうか。

相変わらずこいつの考えが俺にはわからない。

 

 

「じゃあ真姫ちゃんのどんなところが好き?」

 

 

俺が答えないでいると今度は穂乃果が質問を変えて俺に問いかける。

 

 

「はぁ?急に言われてもわかんねーよ。

ただあいつの悪いところなら山ほどあるぞ」

 

 

「例えば?」

 

 

「まず口が悪いだろ?

そんですぐに手を出すところ。

あと素直じゃないところとか...」

 

 

それから俺は次々と真姫の悪いところを上げていく。

 

 

「あ..はは...

それは相手がヒロくんだからじゃないのかな...」

 

 

「でも、そこが真姫ちゃんの可愛いところやと思わない?」

 

 

「見た目は認めるけどな。

でも、俺はあいつほどめんどくさい女を見たことがない!」

 

 

俺は胸を張り自信満々に答える。

確かにあいつの見た目は、十人が十人振り返るほど美人なんだろうけどそれは中身を知らない奴らだからそう思うだけであって、俺からしたらいつも殴られてばかりで迷惑この上ない。

まあそれも、俺と真姫の関係だからというのは俺自身わかってはいるけど...

 

 

「ヒロっちは本当に真姫ちゃんのことが大切なんやね」

 

 

希が微笑みながらそう呟く。

 

 

「真姫ちゃんもヒロっちもお互いのことよく理解してる。

長年一緒にすごしてきたからやね。

そうやって二人支え合ってきたんやろ?」

 

 

「...まぁそうだな」

 

 

いつも隣にいる存在。

俺にとってのそれが真姫だった。

俺自身もそれがどこか心地よくて、この関係がいつまでも続けばいいのにと心の奥で思ってる。

ただ俺もいつまでもあいつを見ていてやれるわけではないから、俺がこの学校を去る前に穂乃果達に出会えたのは本当に感謝してる。

俺がいなくなっても、真姫のこと...あとは頼めるから。

 

 

「真姫ちゃんって小さい頃はどんな感じだったの?」

 

 

穂乃果からの問いに、俺は昔のあいつを頭の中で思い浮かべる。

すると、なぜか笑みがこぼれてしまいその顔を穂乃果達に見られてしまった。

 

 

「?」

 

 

「いや...えっと、あいつはな...」

 

 

穂乃果達にも真姫のことをよく知ってもらいたい。

 

そう思いながら俺はかつての真姫と俺の出会いから話し始めた。

 


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