開戦
とりあえず七星は寝室のクローゼットに用意してあった男物の紳士服をセイバーに着せることにした。
サイズ的にどうかと思いもしたが一番小さいサイズの紳士服がぴったりと合ったのでそれを着て貰った。
「そうだ、忘れていた。セイバー、君の願いはあるのか?」
ふと思い出して聞いてみることにした。
だがしかし、七星にはこの話題を聞いて良いものかという懸念があった。
なぜなら相手は世紀末論に名を連ねる一人なのだから。
「とりあえず今ある文明諸国は全て破壊する」
七星は手で目を覆った。
やはり彼女は世界滅亡を夢見ているようだ。
しかしそんなことをしようものなら安全装置が作動してしまうはずだ。
そんな兆しは今の所ない。
「七星、何か誤解をしているぞ」
「誤解?」
「私の願いは世界統一国家の誕生だ」
「統一国家?」
セイバーは壁に貼り付けてある世界地図の国境線をそっと撫でる。
「ああ、この世界地図にある継接ぎだらけの世界は見ていて痛々しい、壁も、柵も、人には必要ないものだ。七星、お前にはこの国境が何に見える?私には
壮大過ぎると七星は思った。
いや、壮大さで言うのなら自分も負けてはいないだろう。
しかしその方向が違うのだ。
「なるほど、確かにおっかないな、流石は噂に聞く恐怖の大王様だ」
「それで七星の願いはなんなのだ?」
「私の願いは地球の延命とでも言っておこう」
「そうか、では我々は良い仲間となり得るだろう…」
それだけ言うとセイバーは棚に置いてあったこの島の見取り図を広げて見始めた。
正直なところ良い仲間というのが七星にはピンと来なかったがそれを深く考える前に七星の意識は別の物へと向けられた。
電話だ。
寝室から出て直ぐの所にある据え置き型の電話だ。
ダイヤル式とかなりの骨董品だが縁や各所に金の装飾が施されているので気に入っている。
それが鳴り響いたのだ。
七星は地図を凝視するセイバーを置いて廊下に出る。
廊下に出ると一層電話の音が大きくなるが特に嫌ということはない。
これが目覚まし時計だったのなら叩き割っていることだろう。
七星は電話の上に置かれた受話器を手に取る。
電話の相手は身内かもしくは監督役の神父だろうと思っていた七星は聞こえてきた声を認識して苛立ちを覚えた。
「やあ七星、健在か?」
嗄れた声で、なんとも人を馬鹿にしたような喋り方をする男。
電話の向こうでにやけている面が目に浮かんだ。
「健在だと?ふざけるなよ老害、誰のせいでこうなったと思ってるんだ!」
電話の相手は七星を最初に裏切った男、ガーランド・ウラスベルトと言う魔術師だった。
彼は足を生まれて早くに悪くしておりずっと車椅子で過ごしている。
歳は既に百を超えて、七星と違い見た目でもわかる。
長い髪は既に白髪で青色の目も今はくすんでいる。
「おー怖い怖い、七星は年寄りを労わる事を知らん」
ふざけるのもいいかげんにしろよと言おうとして途中で言葉を遮られる。
「まあ待て、お前さんにプレゼントがあってな?」
「は!?」
「誕生日プレゼントじゃよ、まあ誕生日じゃなくても渡すがなハッハハ!」
そう言うだけ言ってガーランドは一方的に電話を切った。
それと同時に寝室からセイバーが飛び出してきた。
「七星敵だ!」
「まさか!」
プレゼントの意味に気がついたが既に遅かった。
次の瞬間には七星は爆発に巻き込まれていた。
「くっ!」
素早くセイバーが七星を抱えて窓から飛び降りる。
七星たちがいたのは二階だったがセイバーなら問題はなかった。
それに飛び降りた所は庭になっていて綺麗に揃えられた芝生がセイバーと七星の衝撃を吸収して緩めたのだ。
直様体勢を立て直したセイバーと七星は爆発により半壊した屋敷とその後方上空に姿を見せた時代錯誤な戦闘機を見た。
先端にプロペラの付いた全時代の戦闘機だ。
「あの中にサーヴァントの気配がある」
セイバーは淡々とそう言った。
その手には何時出したのか鉄で出来ているであろう何の飾り気もない西洋剣が握られていた。
「相手は上空にいるんだぞ、戦えるのか?」
既に戦闘機は旋回してこちらに向かってきている。
射程距離に入れば撃ってくるだろう。
「成るように成る、七星は隠れていろ」
「ああ、そうする。お前の力を見せつけてやれセイバー」
そう言うと七星は巻き込まれず、この戦況を見れる場所を探しに走っていった。
セイバーは剣を構えると何かを呟く。
途端にその無骨な剣は黄金に輝き始める。
いや、輝き始めるでは適切な表現ではない。
なぜならその剣は先程までの鉄の剣ではなく。
「勝利を呼ぶ王の剣だ、貴様に耐えきれるかライダー?」
そう言うとセイバーは剣を振り下ろした。