Fate/Line Frontier   作:ジル青髭

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二戦目

三十代後半と思われる男は森林内を何かから逃げるようにして走る。

そのせいで服には小枝や葉が所々に付き、解れている所まである。

新調したワイシャツとセーターは既にボロボロだ。

しかし足は止められない。

 

アサシンに出会したのは先日の深夜のことだ、隠れられる工房を作ろうと森林区へ入った時に奇襲されたのだ。

間一髪、キャスターの召喚した護衛用の悪魔が身代わりとなって助かったのだ。

 

直ちに戦闘態勢に入るキャスター。

相手はアサシンとだけあって気配が掴めない。

キャスターは更に無数の悪魔を召喚して捜索する。

すると後方に向かった悪魔の反応が消えた。

 

男は殺られる前に振り向いた。

しかしそこにいたのは食事をするアサシンだった。

食っている。

召喚した悪魔の右足に齧り付く姿がそこにあった。

 

髭は短く切り揃えられ、髪は少し長いぐらい。

服装は軽装で身軽な格好、腰には包丁がいくつもぶら下がっていた。

 

アサシンは残った足の骨を捨てると一言。

 

「まあまあだな」

 

そして視線を男へと向ける。

それは紛れもない殺人鬼の目だ。

顔には笑顔を貼り付けている辺り狂気に満ちている。

 

「次はお前を頂こう。キャスターのマスター」

 

殺し(かいたい)にかかるアサシン。

当然男も黙ってはいない。

男の横で呪文を唱えるキャスターが召喚した悪魔で反撃する。

 

アサシンは両手に包丁を持って応戦する。

なんとも変わった戦闘スタイルだ。

まるでここが厨房か何かに思えてくる。

包丁を空中で自在に操り次々と捌いていく。

そして食す。

心臓を、脳を、肺を、腸を、眼球を、舌を。

 

「食い飽きた」

 

「舐めるな食人鬼!」

 

更なる悪魔の投入。

このサーヴァント・キャスターは神秘は浅いが生前に有した能力だけは神代に引けを取らないものだった。

キャスターの宝具は自ら魔力を精製して永久機関の如く活動し続ける。

強いて欠点を言うならばその用途が悪魔召喚か呪詛に限定されることだろうか。

 

いくら捌こうと数で勝り続けるこちらに負けは無かった。

そう、無かったのだ。

邪魔が入った。

 

朝日が差し込み始めた頃。

アサシンも幾らか疲労を見せ始めた。

そこに一気に悪魔を送り込んだのだ。

しかし悪魔達は全て射殺された。

 

そう、新手のサーヴァントである。

矢を使ったので紛れもなくアーチャーであろう。

 

「くそ!余計なことを!」

 

組んでいるのかいないのかは不明だが邪魔をされたことには変わらない。

そのせいでアサシンが姿を晦ましてしまった。

仕方がないので相手をサーヴァント・アーチャーに変更する。

 

無数に召喚する悪魔はその尽くが矢によって打ち抜かれていった。

十放てば十射られる。五十放てば五十射られると、その繰り返し。

挙句の果てには更なる邪魔が入った。

サーヴァント・セイバーだ。

アーチャーを援護しているのかこちらにばかり攻撃してきた。

 

「キャスター!」

 

「なんだマスター?」

 

詠唱を中断したキャスターがその人相の悪い顔を向ける。

 

「奴らに目に物を見せてやるぞ!」

 

男がやじろべえの様な模様をした令呪が宿る右手を掲げる。

 

「――――令呪を持って命じる。――特大級の悪魔を召喚して邪魔者を排除しろ――!」

 

その言葉を紡ぐと同時に一画が消える。

既に一度使っているので残っているのは一画だけだ。

 

本来上級の悪魔は召喚できないが令呪による行使でそれを無理やり実行させる。

キャスターはその強行にニヤリと笑うだけで先ほどとは全く違った詠唱を唱え始める。

 

その光景を遠くから見ていたアーチャーはその協力な千里眼でキャスターの本質を見ていた。

 

「成る程、そこに付いているのが(ほうぐ)か」

 

そう言ったアーチャーは不意に一度上を見上げると視線を元に戻す。

 

「セイバーよ、どうやら手を組むようだ」

 

「そうか」

 

「では茶番を終わらせよう。あれでは本体が可哀想だ」

 

アーチャーが弓を力強く引き絞る。

その力を一身に受けるのは予め作っておいた普通の矢だ。

しかし一度アーチャーが放てばそれは神獣をも殺すであろう。

 

アーチャーは狙いをキャスターに定める。

強大な魔力の収束に息を呑むセイバー。

そしてアーチャーはその真価を口にする。

 

■代九■射■(■■■だいく■■しゃ■■)

 

あまりの防風が巻き起こりその真価を聞きそびれたセイバー。

だが、そんなことは問題ではない。

今、暴力とでも言うべき力の奔流が森林区を破壊して過ぎ去った。

何の冗談か、慈悲なのか、アーチャーはマスターは攻撃せずにいた。

 

暴力が過ぎ去ればそこにキャスターの姿はなく。

薙ぎ倒された木々が無残な姿を晒していただけだった。

 

「これが彼にとって救済となるでしょう。行きましょうかセイバー」

 

そうしてアーチャーはセイバーと共に各々のマスターの下へ戻って行った。

 

サーヴァントを無くした男に最早勝ち残る術は無いに等しい。

 

逃げる。

悪態をつきながら。

 

「くそ!キャスターめ!わざわざ令呪で主人格を封印してやったのに負けやがって!」

 

そう、キャスターであるエドワード・モードレイクは本来紳士の中の紳士と言っても過言ではないほど誠実で志のある男だった。

しかしエドワードにはある問題があった。

それは後頭部にあるもう一つの顔だった。

 

この顔は夜な夜な呪詛と悪魔を召喚する呪文を唱えるエドワードとは正反対のものだった。

悪魔の顔と人々は言った。

結局、生まれながらに二面を宿したエドワードはその生涯を自ら命を絶つことで終わらせた。

 

男は逃げる。

今一度召喚を行う為に(・・・・・・・・・・)

 

「何処へ逃げようというのだね?」

 

目の前に突然現れたのは。

 

「お前はアサ――!」

 

解体一族(ビーンズ・リッパー)

 

言い終わる前に男は精肉店に並ぶ豚や牛や鶏のようにバラバラにされていた。

 

アサシンは地面に転がる眼球を一つ摘むと口に入れて咀嚼する。

 

「大変美味である」

 

アサシンは解体した肉を袋に入れると闇の中へと消えていった。




サーヴァントの真名が判明しました。

真名┓
エドワード・モードレイク

属性┓
秩序・善

ステータス┓
筋力:E 耐久:D 敏捷:E 魔力:C+ 幸運:D 宝具:B+

クラス別能力┓
陣地作成:E 道具作成:E

保有スキル┓
悪魔憑き:B 
※悪魔にどの程度体を乗っ取られているか。
 エドワードの場合乗っ取られている割合は少ないが頭部なのでこのランクである。
黄金率:C
※出自が名門貴族であるためお金に関しては不自由はない。

宝具┓
対人┓
魔を呼ぶ鬼の顔(ディアブロス・サモンフェイス)B+
※常時発動型宝具、無数の悪魔を召喚し続けるもうひとつの顔、延々と悪魔召喚の呪文を言い続ける、この宝具は意思を持っている。

笑顔呼ぶ麗しの顔(ユーモラス・ノーフェイス)B
※普段もうひとつの宝具を封印している宝具、頭に布を巻く。

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