テイルズ オブ ヴェスペリア ~始祖の隷長の傭兵~   作:バルト・イーヴィル

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ハルルの町へ到着する目前で、ブルータルと遭遇したバルトはハルルを救うためにうろ覚えのファイアボールを使用。

これにより、ハルルの町の人間には、バルトが武醒魔導器を所持していることが明るみになる。

しかし、ハルルを一時的とはいえ救ったことにより、多くを訪ねられることなく、暖かく迎え入れられた。

ハルルでは、ブルータル撃退のために使者が訪れていると元アスピオ研究員のシルトが言う。

案内され、その使者を見ると、天を射る矢のレイヴンだった。

レイヴンとは顔見知りのバルトは、相変わらずのうさんくささに撃退の案を心配していると、案の定無意味だと知る。

レイヴンがバルトへ武醒魔導器での助力を願い、バルトも目の前でハルルが滅びるのを見過ごすことが出来ず、助力をすることにした。

ブルータルを倒すために力を貸すことになったバルトだったが、果たしてこの先の戦いでハルルはどれだけの犠牲の上に勝利を得られるのだろうか?




第8話【ハルルの町の殺戮猪・後編】

第3章『残された者達』

 

宿屋から出たバルトが見たのは、木刀を振る子供や気丈に振る舞う老人。

 

怪我で苦しみながらも、バリケードの修復に勤しむ駐屯騎士達。

 

滞在中のギルド員はカムイとレイヴンに集められており、見た限りでは年齢も実力も不揃いのようだ。

 

カムイがレイヴンと肩を並べて話している。

 

それを眺めるバルトに気が付いたカムイがバルトに駆け寄る。

 

「残存戦力の確認が出来ました。

 

どうやら、中小ギルドが12名と駐屯騎士が34名。

 

駐屯騎士はどうやら、エステリーゼ姫の荷物護送班の取り残された者達のようです。

 

先程、負傷したエルリック・カンディライト隊長とお話しをしてきました。

 

僕達が指名手配犯であることは向こうも承知で助力を請われました。

 

助力の暁には隊長直々に罪の取り消しをエステリーゼ姫並びにヨーデル皇帝陛下に直訴してくださるそうです。」

 

協力要請が無くともバルトは手を貸していただろう。

 

それが、成功の暁には罪の帳消しの直訴とは有りがたい限りだ。

 

とはいえ、ブルータル相手に勝てる目処は立っていない。

 

「エルリックさんから聞いた話によれば、ブルータルと言えば、特に強いとされる3体のサイノッサスを連れていると拝聴しました。

 

また、その3体が死ぬと更に別にサイノッサスを新たに呼び出すようです。」

 

昨日はブルータルだけのようだったが、次もそうとは限らないということだろう。

 

「よっ、あんちゃん、暗い顔してどったの?」

 

そこにレイヴンが混ざってきた。

 

「騎士の奴らと中小ギルドとは話を付けてきたぜ。

 

あいつらがなんとかサイノッサスを引き付けてくれるらしいから、俺様とあんちゃん等とシルト嬢ちゃんとエルリック隊長でブルータルを相手にするってな。」

 

バク転して親指を立てるレイヴン。

 

なぜそこでバク転するんだ。

 

「この作戦の肝は武醒魔導器(ボーディブラスティア)の使い回しだな。

 

レイヴンは弓で牽制、カムイとビッグボスが足止め、俺とシルトが交代で武醒魔導器(ボーディブラスティア)を使う。

 

エルリック隊長ってのは何が得意なんだ?」

 

レイヴンは顎に手を当てる。

 

「エルリック隊長は剣が得意で光魔法が出来るらしい。」

 

「エルリック隊長なんて聞いたことねえな。」

 

バルトが呟くと、レイヴンがヘラヘラと笑う。

 

「そりゃ、キュモール隊で燻ってたからな。

 

キュモールの奴と思想が合わなくて、あんまり表に出ることが無かったのさ。

 

フレン騎士団長の近衛隊であるソディア隊長が元々はキュモール隊の所属だったってのは知ってるかい?

 

隊長が死んで後釜が居ないからって、次期隊長をエルリックにしてはどうかとソディア隊長が進言したんだとよ。」

 

キュモールと言えば、聞いたことが有る。

 

なんというか、貴族であることを鼻にかけ、平民を虐げる圧政を独断で行ったとかなんとか……。

 

「ザーフィアスはアレクセイと言い、キュモールと言い、シュバーンと言いまともなやつは居ねえのかよ?」

 

シュバーンの名前が出てレイヴンの眉がピクリと動く。

 

「生真面目な青年フレンが居るじゃねえの?」

 

「それしか居ねえのが問題だろうが……。」

 

こんなことだからザーフィアスが信用できないと、信念を持った人間がダングレストやノードポリカに行くのだ。

 

「エルリックさんは今しがたバリケードの修復に勤しんでおられました。

 

共に戦う相手でもありますので、ご挨拶に伺われてはいかがですか?

 

ここは、レイヴンさんと僕でご挨拶を済ませておきますので……。」

 

「そうだな。

 

騎士っつったら頭のお堅い連中だし、挨拶ぐれえはしねえとだろうな。」

 

バルトはカムイに背を向けてバリケードの有る町の最前線へと向かった。

 

そこでは、腕に包帯を巻いた女性騎士が現場指揮を取り、バリケードの補強を行っていた。

 

「そこの木の策はもう使い物にならないな、土嚢を後ろに積み上げて耐久を強化しろ!

 

真ん中はブルータルに壊されたから最優先で石を運べ!

 

石の隙間は泥で固めろ!」

 

「石ですが、町の中にはもう、石すらも……。」

 

「無いと言うのか?

 

無いならば家を壊して、それを材料にバリケードを補強せよ!

 

やらねば死ぬのだ!」

 

「し、しかし!」

 

「しかし?

 

なんだ?

 

このエルリックの言葉が聞けないのか!」

 

どうやら、あの女性がエルリック隊長ということらしい。

 

赤い髪を後ろで纏め、シニョンにしている。

 

顔は凛々しく、その目には迷いがない。

 

良く通る声を耳にしていると、彼女の意思はきっと真っ直ぐなのではないだろうかと思えた。

 

天を射る矢(アルトスク)のレイヴン殿のご助力と紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)のバルト殿がご助力を約束された!

 

また、天才魔導士の助言でハルルの矢も完成した!

 

とはいえ、敵はブルータルだけとは限らない!

 

サイノッサスも引き連れて来る可能性がある!

 

そうなったとき、誰が町へと進むサイノッサスを止められるのか!」

 

どこまでも真っ直ぐに感じる彼女の声に迷っていた者達が頷く。

 

「そのためのバリケードというわけだ!

 

良いか!

 

家はまた建てればいい!

 

だが、失った命は2度と戻ることは無いのだ!」

 

エルリックの力強い演説のような説得は、町の人間を突き動かし、建物を破壊し、バリケードの補強へと当てていく。

 

エルリックは満足そうにそれを見ると、バルトの方へと目を向けた。

 

バルトが右手を挙げると、エルリックが会釈し、バルトの元へと歩み寄ってくる。

 

「良い演説だったな。

 

町の奴らが突き動かされたのがその証だ。」

 

バルトの言葉にエルリックは首を振る。

 

「この状況だからな。

 

カムイ殿から話は伺っている。

 

その黒の長髪と胸元のフィートシンボル、赤の散りばめられた服飾……。

 

バルト殿とお見受けする。」

 

バルトは頷く。

 

「ああ、俺がバルトっつうわけだ。

 

今回のブルータルの件だが、よろしくたのまぁっつう挨拶に来たわけだが……。

 

その怪我であんたは剣が振れるのか?」

 

包帯を巻いた腕をエルリックは軽く動かすが、顔は痛みで歪んでいた。

 

「利き腕はこの様だ。

 

左手でも触れない事はないが、今回は盾役と考えてもらえれば結構だ。

 

足りない道具など有れば言うが良い。

 

騎士の経費で買い与えよう。」

 

「足りないのはブルータルを倒せるだけの可能性だな。」

 

エルリックは苦笑する。

 

どれだけの道具を揃えても、ブルータル相手にするならば微々たるパーセンテージの上昇しか見込めないと分かっているからだ。

 

「私は、見積もっても30%と考えている。」

 

実際の所はそれも希望的観測に過ぎない。

 

本来はもっと少ないだろう。

 

「残りの70%を埋めるには、ハルルの矢が機能するかどうかだな。」

 

なるほど、どうやらエルリックも機能しないことは知らないらしい。

 

「機能するさ。

 

現に、ハルルの矢は生きてる奴らの希望……。

 

生きる意思を助力してるんだ。

 

機能しないわけがない。

 

いや、機能しないわけにはいかない。」

 

「そうだな。

 

こうして話していてみて、君の人格が少し見えた気がする。

 

君は罪を犯すような人間ではない。

 

約束は果たそう。」

 

そのためには、ブルータルを倒すこと。

 

そして、エルリックの生存が不可欠だ。

 

「俺も罪で裁かれたくないんでね。

 

出来る限りはお前さんを守るさ。」

 

エルリックは頬を掻く。

 

「あぁ、いや、保身とかのつもりで言ったのではないんだ。

 

そこは勘違いしないでくれ。

 

私も粉骨砕身の心構えで戦いに挑むつもりだ。

 

立場は君達と同じ、一人の戦士だ。」

 

差し出されるエルリックの左手に、バルトは左手を重ねる。

 

「なら、容赦なく盾にしてやるよ。」

 

「おいおい、少しは遠慮してくれ。」

 

互いに手を離し、バリケードへと目をやる。

 

「良ければバルトもバリケードの補強と補修を手伝ってくれないか?」

 

勝ち目を少しでも上げるために、断れないと知っていての発言に失笑する。

 

「ハッハッハッハッ!

 

まぁ、こき使ってくれて良いぜ!

 

俺も死にたくねえからな!」

 

「そうか、助かる。」

 

エルリックの指揮の元、バルトもバリケードの補強作業を勤しむのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第4章『理不尽な殺戮』

 

バリケードの修繕に精を出すバルト。

 

「この瓦礫はここで良いのか?」

 

表側に回り、瓦礫を置いたその時だった。

 

「グオオオオオーーン!!」

 

遠くから響く何かの声。

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

そして、次いでバリケードの中から悲鳴が聞こえた。

 

バルトは何が会ったのかと、バリケードの中へと目をやる。

 

すると、中ではどこから入り込んだのか、3体のサイノッサスが暴れていた。

 

「救援を!

 

レイヴン殿をお呼びしてくるのだ!」

 

エルリックが叫び、中では3体のサイノッサスを囲うようにして戦っていた。

 

自分もそれに加わろうと思った矢先、突如としてバルトに落雷が落ちたかのようなビリビリとした痺れが走る。

 

「うぐっ……!?」

 

何が?

 

それを理解する間も無く、答えがバルトの体を空に打ち上げた。

 

「がっ……!!」

 

空からバルトはその答えを知る。

 

根本は青く、先になるにつれて白くなる双角。

 

全体的に灰色の体毛が毛先は青く、それが電流を纏っていた。

 

体が自由が効かない。

 

このままでは……。

 

自らの正体を明かす可能性のある技だけに、使いたくなかったが、バルトは空中で滞空してみせた。

 

そのまま痺れが切れるのを待ち、アップルグミを食べる。

 

充分に回復出来たと判断したバルトは、滑るように離れた位置へと着地して見せる。

 

グシオスとベリウス以外の始祖の隷長(エンテレケイア)は空中移動が使える。

 

現にフェローやバウル、クローネスが空に浮いる。

 

バルトもそれに違わずして、空中移動が出来る。

 

ただし、人に目撃されると、正体が危ぶまれるので、滅多には使わない。

 

ブルータルという特例で無ければ、バルトもこの力を使うことは無かっただろう。

 

他にも何か隠してるんじゃ無いかと言われれば、ベリウスが僅かながらも育て親だったので、ベリウス直伝の分身が出来るくらいである。

 

「今回は特別に奮発して俺の奥の手見せてやるよ!」

 

2人となるバルト。

 

空気中のエアルで作り出した幻影だ。

 

今の時代はエアルが非常に薄いため、一撃でも受ければ分身は直ぐに霧散してしまうだろう。

 

そのため、バルトは空中へと分身と共に浮かび上がり、交互に切りつける事とした。

 

叩き付けられるクラウソラスにビクともしないブルータル。

 

「ガチのベリウスとやったときを思い出すぜ……。」

 

ノードポリカの頂点であるベリウス。

 

そのベリウスに拾われ、名を与えられたバルト。

 

「今、俺はあのときのベリウスを越えようとしてるんだな。」

 

振り回す剣は時間稼ぎを目的にしたものだ。

 

分身の剣はやはり、薄いエアルでは威力に乏しいらしく、ブルータル自身もどちらが本物なのかは気が付いているようだ。

 

長くは保たない。

 

そう思った時、分身が消し飛ばされ、バルトは弾き飛ばされた。

 

「しくじった……。」

 

ブルータルもオーバーリミッツが使えた。

 

ブルータルと戦ったことの無いバルトには分からなかったことだ。

 

そのまま2発、3発、4発と前へ前へと突進され、気が付けば、巨大な角に体を貫かれ、バリケードに縫い付けられていた。

 

「うぐっ……。」

 

揺れるバリケード。

 

頑丈に作った事が仇となり、更に深く角が侵入してくる。

 

バルトの血液がバリケードから地面へと流れ落ち、バルトの意識が遠退いていく。

 

だが、痛みで意識が引き戻されるという繰り返しだった。

 

バルトは抜け出すことも出来ず、アップルグミを鷲掴みにし、口に含む。

 

命を食い止めるべく、食い繋ぐ。

 

アップルグミで回復したとしても、流れた血は元には戻らない。

 

流れてくる電流と、押し込まれる角により、バルトの意識がついに途切れたーー。

 

静寂と闇が自分を包み込む……。

 

何も見えない。

 

何も聞こえない。

 

何もーー。

 

何も無いはずの空間、何も聞こえないはずの空間。

 

そこに、揺れが加わった。

 

「起きろバカ野郎!

 

姉さんを泣かせるつもりか!

 

ライフボトルを早く!」

 

体の中を冷たいものが駆け巡る。

 

地震のように体全体が揺れる。

 

「こ、こら、揺らしてやるな!

 

聖なる活力、此処にーーファーストエイド!」

 

バルトの視界が闇から白へと移ろう。

 

「やべぇ、やべぇ!

 

やっこさん、マジになりやがった!

 

エルリック!

 

あんちゃんはまだ起きねえのかい!?」

 

「治癒術はかけた!

 

あとは、今意識が戻るかどうかは彼次第だ!」

 

「いけね!

 

そっちへ行ったぞ!」

 

大きな揺れが近付いてくる。

 

視界いっぱいに広がった白は次第に色を帯びる。

 

「僕が足止めします!」

 

「ガウッ!」

 

視界に映る色に色が増えていく。

 

そして、目一杯にシルトの顔が有った。

 

「……。」

 

「……。」

 

互いに目が合い、固まる。

 

「起きれる?」

 

シルトが立ち上がり、バルトへと手を差し伸べる。

 

バルトは手を持ち上げ、シルトに手を重ねた。

 

引き起こされるバルト。

 

視界に映ったのは満身創痍で戦うカムイ。

 

キズだらけで睨むビッグボス。

 

苦しそうな顔で胸を押さえるレイヴン。

 

盾を構えて皆の盾となるが、容易に弾き飛ばされるエルリック。

 

そして、火傷だらけの体でバルトの手を引いたシルトの姿だった。

 

シルトは武醒魔導器(ボーディブラスティア)をバルトへと差し出している。

 

「私はもう、戦えないから、お願い……。」

 

バルトへと渡すと、シルトが倒れる。

 

「シルト……?」

 

倒れたシルトの後ろにはブルータルの姿が有った。

 

エルリックは地面に倒れており、カムイも動けないのかその場にうずくまっていた。

 

バルトの隣にレイヴンが駆け寄り、バトルナイフでブルータルの角を弾く。

 

「ぼさっとしてんじゃねえよ!

 

お前さんを守ってくれた奴らを見殺しにすんのか!?

 

おら!お前のその剣は飾りじゃねえだろ?」

 

レイヴンへと向かっていくブルータル。

 

「チッーー!

 

そろそろ倒れてくれても良いでないの!?

 

俺様のキャラじゃねえが……。

 

ーーオーバーリミッツ!」

 

一瞬、怯んだブルータルの隙を見て、バルトの所まで下がると、バルトの持つ武醒魔導器(ボーディブラスティア)へと触る。

 

「あんちゃん、少し離れてな!」

 

バルトは動かない思考の中、レイヴンの指示に従い、シルトを抱えて共に離れる。

 

シルトを地面に置いたバルトはレイヴンの技に目を見開く。

 

「回る回る景色!

 

からのーー天涙の雨!

 

まだまだ!

 

驟雨の乱!

 

ーー目にもの見せてやろうかね?

 

ブラストハート!!」

 

小太刀とバトルナイフで何度も切りつけ、ブルータルをコマのように回す。

 

その直後、小太刀で切り上げ飛び上がり、仰け反った敵を追撃する。

 

息つく暇なく、矢の束を空へと打ち上げ、雨のように拡散させてブルータルを全体から攻撃。

 

最後に左胸からエアルの揺らぎを感じた。

 

揺らぐエアルのエネルギーを放出し、ブルータルを吹き飛ばした。

 

流れるような技の繋ぎ。

 

そして、最後に放たれた謎の技により、ブルータルが大きく後ろへと下がった。

 

だが、それと同じくしてレイヴンが苦しそうに胸を押さえる。

 

「ちょいと……無理し過ぎたかね?」

 

あまりの凄い技に目が奪われていたバルトは気が付かなかった。

 

レイヴンが全く動こうとしないことに……。

 

目前まで迫るブルータル。

 

あれだけ動けたのだ、レイヴンのそれは間合いに誘い込んでいるようにも見えた。

 

だが、それは違った。

 

ブルータルに角で凪ぎ払われ、無抵抗に倒れる。

 

「へへっ、後は任せるぜ……青年。」

 

バルトへ親指を立てるレイヴン。

 

その傍らには武醒魔導器(ボーディブラスティア)が転がっていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第5章『ハルルの矢』

 

ブルータルを前にして、戦えるのは自分だけ。

 

嫌な冗談である。

 

レイヴンがブルータルに大ダメージを与えたらしく、勝ち筋は完全に切れてはいない。

 

しかし、勝つための武醒魔導器(ボーディブラスティア)は倒れたレイヴンの側に転がっている。

 

最優先で確保しなくてはならないのは、武醒魔導器(ボーディブラスティア)である。

 

その次に、仲間の確保。

 

自分だけでブルータルを相手に出来るなどという傲りはない。

 

そのためのライフボトルはーーある。

 

バルトは分身を作り、分身へライフボトルを持たせる。

 

そして、自分はクラウソラスを抜き、ブルータルへと構えた。

 

分身ではなく、自らを囮にし、仲間の回復へと向かわせる。

 

先ずは最も近くに倒れているシルトへ分身がライフボトルを飲ませた所でブルータルがバルトへと襲いかかってきた。

 

「この際だ、見られちゃ困るが……。

 

死にたくねえから使うしかねえ!」

 

空へと浮かび上がり、ブルータルの眉間へとクラウソラスを突き立てる。

 

その間に分身がシルトを抱えて飛び上がり、レイヴンへと向かう。

 

「……バルト?」

 

シルトが目覚めた。

 

分身を喋らせるだけの技量は自分にはない。

 

無言でライフボトルをシルトに持たせて、分身には武醒魔導器(ボーディブラスティア)の回収をさせた。

 

分身がバルトへと向かい、飛んで来る。

 

バルトの上空から武醒魔導器(ボーディブラスティア)を投げ、バルトはそれを受け取った。

 

「シルト、先ずはその火傷を……。

 

卑しき闇よ、飛んで行けーーリカバー!」

 

シルトの火傷が回復していく。

 

「まだだ!

 

聖なる活力、集えーーファーストエイド!」

 

傷付いたシルト回復させる。

 

「ブルータル!

 

お前の相手は俺達だ!」

 

分身と重なり、詠唱する。

 

「刃よ宿れ、更なる高みへーーシャープネス!」

 

自身の攻撃力を強化し、分身と共にブルータルの周囲を飛び回り、切りつける。

 

「今の俺は、まだ、ブルータルには及ばない。

 

だからーー!」

 

バルトが分身を残して離れる。

 

「手を貸してくれ!」

 

バルトが更に詠唱を始めたとき、ブルータルは囲まれていた。

 

誰にーー?

 

「青年は何者なのよ?」

 

レイヴンが矢を放ち……。

 

「いやはや、バルト兄さんにはいつも驚かされてばかりです。」

 

カムイがブルータルの足を切りつけ……。

 

「ガウッ!ガウッ!アオオォォーン! 」

 

ビッグボスがブルータルの毛を引っ張り……。

 

「さあ、私が盾となる!

 

存分に使え!」

 

エルリックが盾を構えてブルータルの角を弾き……。

 

「みんな助けてきた。」

 

シルトが親指を立てる。

 

「揺らめけ焔、突っ込めーーファイアボール!」

 

不格好なファイアボールがブルータルの横顔を殴る。

 

すると、レイヴンがピンク色の矢をつがえていた。

 

「やっこさん、バランスを崩してんぜ?

 

この隙を逃す俺様じゃねえよ!

 

貫け、ハルルの矢ーー!

 

ーーフェイタルストライク!」

 

ブルータルの頭を貫通し、矢が地面へと突き刺さる。

 

ブルータルの動きが止まり、誰もが固唾を飲んで見ている中で、ブルータルの足が折れた。

 

横に倒れるブルータル。

 

動く気配はない。

 

静寂が支配する。

 

そして、腹の底から沸き上がってくる感情に声が爆発する。

 

「ウオオオオオオオオオーー!!」

 

「やりました!

 

やりました!

 

本当にやりましたよ!」

 

「ガウッ!ガウッ!アオオォォーン!」

 

「やったのだな!?

 

我々は倒したのだな!?」

 

シルトは座り込み、安堵から泣き出す。

 

レイヴンも余程疲れたらしく、大の字に倒れて大きなため息を吐き出した。

 

「エルリック!

 

このブルータルはどうするんだ?」

 

バルトがブルータルの頭を蹴って問い掛ける。

 

「勝利の祝杯だ。

 

その肉を食らい、散っていった仲間を弔うぞ。」

 

散っていった仲間……。

 

その言葉に、バルトはようやくハルルへと目が向いた。

 

バリケードは完全に破壊されており、中には倒れた3体のサイノッサスと動く気配のまるでない人達。

 

「こんなの勝利じゃねえよ……。」

 

バルトの口から漏れた言葉に、レイヴンが答える。

 

「確かに……。

 

勝利じゃねえよ。

 

けど、町の奴等には俺達が勝ったってことにした方が都合がいい。

 

これから生きていくためにはなーー?」

 

レイヴンが立ち上がり、バク転をして、バルト達に親指を立てる。

 

「さあ、行こうぜあんちゃん等……。

 

この大敗を勝利にするための凱旋だ。」

 

バルトは町の中へと歩いていく。

 

ハルルは町としては存続することが出来た。

 

しかし、大敗を勝利とするために、沈む気持ちを胸に押し込めてハルルの町へとブルータルの骸を引きずって帰るのだった。

 

 

 

 




『バルト・イーヴィル』
【種族】始祖の隷長
【所属】紅の絆傭兵団
【通り名】《頼りの絆:ラストリゾート》
【装備品】
クラウソラス
コンパクトソード+1
フィートシンボル
武醒魔導器
【通常技】
飛行
エアル吸引
分身
【術技】
蒼破刃
ファーストエイド
ファイアボール
リカバー
シャープネス


『カムイ・シルト』
【種族】人間
【所属】紅の絆傭兵団
【装備品】
オウカ+1
ナイトソード
ブーツ
【通常技】
挑発
察知
変装
【術技】
ローバーアイテム

『シルト・スタンダード』
【種族】人間
【所属】アスピオ研究員
【装備品】
スターロッド
ネコガード
ミスティマーク
【通常技】
不明
【術技】
ファイアボール
ストーンブラスト
シャンパーニュ
スプレッドゼロ

『ビッグボス』
【種族】プチウルフ
【所属】バルト
【装備品】
魚人の得物
マント
【通常技】
追跡
マーキング
【術技】
不明

『レイヴン』
【種族】人間
【所属】天を射る矢
【装備品】
デス・スリンガー
バトルナイフ
【通常技】
不明
【術技】
回る回る景色
天涙の雨
驟雨の乱
ブラストハート


『エルリック・カンディライト』
【種族】人間
【所属】騎士団
【装備品】
ナイトソード・リアル
ナイトシールド
【通常技】
不明
【術技】
フォトン
ファーストエイド
魔神剣


『レシピ』
サンドイッチ
おにぎり
サラダ
野菜炒め
海鮮丼
超絶・海鮮丼☆


『共有戦利品』
亀の甲羅×2
海苔×1
グミの元×1
サーモン×2
オレンジグミ×1
大きなハサミ×5
トルビフィッシュ×2
蟹の甲羅×3
口ばしラッパ×1
チキン×1

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