テイルズ オブ ヴェスペリア ~始祖の隷長の傭兵~   作:バルト・イーヴィル

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パティの保護者であるダーリンと、関係者と思われるカロルという人物を探しにカプワトリムとカプワノールを目指していたバルト。

その道すがら、寄らなくてはならない箇所にヘリオードという町が有るのだが、ヘリオードにはザーフィアスの評議会の御偉いさんであるラオウ執政官が滞在していた。

ヘリオードを任されていると思われるユルギス隊長が、バルト達に事件の関与を疑い、シャスティルを見張りに付けた。

カムイがバルトの持つ武醒魔導器が事件と関わりの有る可能性が有ると厄介だと考え、シャスティルへと変装して密偵を行ったのだが、それが間違いだった。

騒ぎが起き、シャスティルの双子のヒスカが制服が無いと大騒ぎしたため、シャスティルが一緒に探すと言い、扉の前を離れて空白の時間が出来てしまった。

その時間の潔白を証明するために身辺調査をされるのだが、見付かる武醒魔導器。

一も二もなくバルトは窓から飛び出し、ペテルギウスから離れるが、ユルギス隊長に先回りされていた。

カムイの臨機応変な対応で、ユルギスからナイトソードを奪い、無力化したところでバルトが気絶させる。

安全を確保したところで後ろから追いかけてくるシャスティルとヒスカから逃げ切るためにヘリオードを飛び出したのだった。


第5話【カプワトリムの人食いザメ】

第1章『偉大な死の教鞭』

 

バルトとカムイはヘリオードを抜けて、カプワトリムへ向けて走っていた。

 

というのも、ヘリオードにあまり近いと追跡され、捕まってしまうかもしれないからだ。

 

恐らくそれは無いだろうと考えつつも、走る足は止めない。

 

なぜ、そんな事を思うのかというと、ヘリオードにはザーフィアスの評議会の御偉いさんであるラオウ執政官が居るからだ。

 

あそこを手薄になど出来よう筈もない。

 

「しばらくはヘリオードには行けねえなぁ。」

 

「僕も、姉さんにしばらくは会えない寂しさが募りますね。」

 

男2人してやったことに後悔しつつ、カプワトリムまで走る。

 

騎士団はやはり、追ってきてはいないようだ。

 

バルトとカムイは足を止めて座り込む。

 

「ったく、今度からは変装するにしても気を付けろよカムイ。」

 

「バルト兄さんこそ、危険な物は見つからないところに隠しておいてください。」

 

抱えていたパティをバルトは下ろす。

 

「2人共に減らず口が聞けるようなら大丈夫じゃな!」

 

ふんぞり返るパティの頭をカムイとバルトの手がぐしゃぐしゃに撫でる。

 

「ぬわぁぁぁぁ!

 

やめるのじゃぁぁぁ!」

 

セットされていた三ツ編みがめちゃくちゃになったところで、カムイが切り出す。

 

「ナイトソード持ってきちゃいました。」

 

「密売、脱走、職務妨害に窃盗か……。」

 

「あと、殺人ですね。」

 

「殺してねえよ!」

 

気絶させたユルギスの事を言っているのだろうが、本当に殺していたら、非常に面倒な現状がより不味くなる。

 

何が不味いかというと、極刑や永久禁固刑なんかも有り得る。

 

今の罪状だけでも充分に不味くは有るが、最悪でも懲役複数年とかだろう。

 

とかだろうと信じたい所だ。

 

「これで、全国的にバルト兄さんの名前が知れ渡りますね。」

 

「望んじゃねえよ!

 

それに、それはお前もだろうが。」

 

望まぬ知名度にバルトは顔を歪める。

 

これから名乗る都度に面倒なことになりそうだ。

 

とは言え偽名を名乗ろうとは思わない。

 

名付けられた時から、罪も善も全てを含めてバルトという名前と共に背負うと決めているのだ。

 

バルトの名付け親はベリウスだ。

 

ベリウスは自由にして良いとバルトをノードポリカへ留まらせる事は無かった。

 

まさか、ベリウスが死ぬとは思っていなかったから、当時は大きなショックを受けたものだ。

 

ドンにしても、バルボスにしてもそうだ。

 

恩人はたくさん積み上げてきた善行も悪行も全部その身1つに背負って死んでいった。

 

だから、バルトもその生き様を見習うつもりだ。

 

「バルト兄さん、カプワトリムまではあと半日も歩けば到着するかと思います。

 

そこでダーリンさんを探すんですよね?」

 

「あと、カロルってやつな。」

 

立ち上がり、カムイを見下ろす形となる。

 

「さて、行こうぜ。

 

ここでのんびりしたいところだが……。」

 

バルトがチラッと目を向けた先にはクラブマンが蠢いていた。

 

「なるほど、ここも直に危なくなりそうですね。」

 

カムイが立ち上がり、オウカ+1を抜く。

 

「戦いますか?」

 

カムイの言葉にバルトは首を振る。

 

「いや、わざわざリスクを背負う必要がねえならさっさとカプワトリムに行こうぜ。」

 

と、バルトはクラブマンを避けるように大回りする。

 

「それもそうですね。

 

怪我をすればなぜ戦ったのかと怪しまれるだけですからね。」

 

カムイはオウカ+1を下ろす。

 

「それに、戦ったら傷の1つや2つじゃ済まないこの御時世ですから、余計に……。」

 

「分かってるなら行くぞ。」

 

バルトと肩を並べてカムイは歩く。

 

「半日も歩けばということでしたが、訂正します。

 

どうやら、僕らが走ったことでかなりの距離を稼いでいたようです。」

 

カムイの視線の先にはカプワトリムが小さいが見えていた。

 

「どーせ、こっから歩いたら短くても6時間はかかるんだ。

 

見えてようがそんなに変わらねえよ。」

 

カプワトリムの姿が見えたことで少しだけ気が抜ける。

 

「のう、バルト。」

 

そんなとき、パティの声でバルトの意識がパティへと向いた。

 

「ん?どうし……た?」

 

そこには子供を背中に庇って戦っている赤髪と緑髪の女性がいた。

 

「ゴーシュ!もう保たないしー!

 

私が足止めするから行っちゃえばー?」

 

ヨタヨタとクラブマンに立ち向かう緑髪の女性が赤髪の女性へと目を向ける。

 

クラブマンはどうやら5体は居るらしく、子供達を庇いながらではこのままだと全滅かと思われる。

 

「そんなの出来るわけ無いでしょ!?

 

ドロワット!まだ、諦めるには早いわ!」

 

赤髪の女性が一喝して、緑髪の女性の隣へ立った。

 

カムイがバルトへ視線を向ける。

 

「どうしますか?」

 

カムイはオウカ+1を抜いており、戦闘準備は出来ていると言わんばかりだった。

 

「行くぞカムイ!

 

パティ!」

 

バルトはクラウソラスを抜き、女性達の前に入る。

 

「手ぇ貸すぜ!」

 

「え!?」

 

ゴーシュと呼ばれていた赤髪の女性が呆気に取られる。

 

「こんにちは、僕と彼は紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)のカムイとバルトと言います。

 

見過ごせない状況でしたので加勢に参りました。」

 

ドロワットと呼ばれていた緑髪の女性が歯を見せて笑う。

 

「千載一遇のチャンスだしー?」

 

「ありがとうございます。

 

では、1人1殺で行きましょう!」

 

そう言うが早いか、ゴーシュとドロワットは先程とはまるで違う動きとなる。

 

「なるほど、守るもんが有ったせいでまともに動けやしなかったっつうわけか。」

 

納得したバルトはクラブマンへ向けて攻撃を行う。

 

クラブマンと戦う際に注意しなくてはならないことは、彼らは硬い殻に覆われているということ、あとは横歩きと言うことである。

 

だが、横歩きから前後移動出来ないわけではなく、体を上げて2本足が地面に付いた状態でダッシュしてくるという事もある。

 

「クラブマンでしたら、硬い殻では有りますが、背後から倒すのがセオリーでしょうか?」

 

と、カムイは実際にクラブマンの背後へと回ってオウカ+1で切り付ける。

 

「硬いですね。

 

やはり、リスクは有りますが、柔らかい表を狙うべきかもしれません。」

 

と、そんなことを言っている傍らでは既にパティがクラブマンを1体仕留めていた。

 

「なんじゃ?

 

まだ倒しておらんのか?」

 

と、倒したクラブマンに腰掛けてこちらを眺めている。

 

「ったく、あのちっせえ体のどこにあんな力が有るってんだよ!」

 

バルトはクラブマンが攻撃した後の隙を突いてクラウソラスで表を切り上げる。

 

「だぁ、くっそ、かってえな! 」

 

弾かれるクラウソラスを再度同じ所へと切り上げることで殻を突き破った。

 

「よっし、こっちもいっちょあがりだ!」

 

と、バルトがゴーシュとドロワットを見ると、そっちも倒した後のようだった。

 

バルトはアップルグミを2つ取り出す。

 

「ゴーシュ!ドロワット!」

 

バルトが叫ぶと二人が顔をこちらへ向ける。

 

バルトはアップルグミを2人に向けて投げた。

 

受け取った2人はアップルグミへと視線を落とし、軽く会釈をして口に含んだ。

 

さて、カムイはどうなっただろうか?

 

そう思ってバルトが視線を向けると、カムイがナイトソードをクラブマンへ突き立てていた。

 

「やれやれ、やっと一息つけますね。」

 

カムイがナイトソードを抜いてこちらへと歩いてくる。

 

「向こうの方々もご無事なようですし、一先ずは剥ぎ取りをしてきます。」

 

と、カムイは全員が倒したクラブマンから器用に剥ぎ取りを始めた。

 

バルトはゴーシュとドロワットの元へと歩いていく。

 

「ありがとう、助かりました。」

 

ゴーシュがそう言うので頷いて返す。

 

「ああ、子供達に怪我はねえか?

 

有るなら一応手当てするが……。」

 

と、バルトが包帯を取り出すと、ドロワットが首を振る。

 

「子供達には指一本触れさせなかったしー。

 

けど、あたしたちはこのザマだけどねー?」

 

血を流す彼女達にバルトはタオルをトルビー水で濡らして渡す。

 

「それで血を拭きな。

 

それから包帯を巻いてやっからよ。」

 

バルトはタオルをゴーシュへと渡すと、バックパックからテントを取り出す。

 

「ひとまずは治療のために結界張るぞ。

 

6時間歩けばカプワトリムだが、万一を考えればここで少し休んだ方がいい。」

 

バルトがテントを張っているとゴーシュがバルトにタオルを渡す。

 

「タオルありがとう。

 

包帯を貰える?」

 

バルトはバックパックから包帯を取り出すと、ゴーシュへと渡す。

 

「ほらよ。」

 

「ありがとう。」

 

ゴーシュがドロワットの所へと駆けて行き、互いに包帯を巻き始める。

 

バルトはテントを組み立て終わると、火を起こして料理を始める。

 

まあ、料理と言ってもサンドイッチなのだが……。

 

料理をしていると子供達が寄ってきたので、一人ずつにサンドイッチを配ってやる。

 

子供は3人いた。

 

笑顔でサンドイッチを頬張る姿を見ていると、こちらの顔も緩むというものだ。

 

「バルト兄さん、素材の剥ぎ取りを終わりました。」

 

カムイが持ってきたのは……。

 

大きなハサミ5つ、トルビフィッシュ2つ、蟹の甲羅3つ、サーモン1つだった。

 

「サンドイッチ、僕も貰いますね。」

 

と、カムイがサンドイッチを2つ手に取り、1つをパティへと渡す。

 

パティとカムイがサンドイッチを食べてるのを見て、残る3つをゴーシュとドロワットに1つずつ渡してから自分も食べる。

 

「うわ、サンドイッチがチョー美味しいんだけど!?」

 

「本当、美味しい。」

 

と、感想を貰い、ワンダーシェフにまたも少し感謝する。

 

「さて、ゴーシュとドロワットは怪我してるし、ひとまずはテント貸してやるから中で休めよ。

 

パティ!お前よりは一回り小さい子供だが、一緒に遊んでやってくれるか?」

 

バルトが問いかけるとパティはふんぞり返って頷いた。

 

「カムイは俺と交代で見張りな。

 

俺が昼の見張りすっから……。」

 

「そうですね。

 

料理とかも任せますので僕が夜というのは納得です。」

 

「ゴーシュ、ドロワット。

 

アップルグミを4つやるから、一応持っとけ。」

 

ガサゴソとアップルグミを取り出すと、ゴーシュとドロワットに2つずつ渡した。

特に理由を聞くこともなく、この日は休ませる事に専念させたのだった。

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第2章『新たな仕事』

 

翌朝、子供を真ん中に守るように前後左右にバルト、カムイ、ゴーシュ、ドロワットが配置し、万が一のために子供達の真ん中にパティが居る布陣で出発した。

 

朝食はゴーシュが作ったサラダだったのだが、ゴーシュのやつが失敗したとかぬかして、なぜか焦げてるサラダを押し付けられた。

 

食えという事だろうか?

 

ドロワットも子供達も押し付けられ、皆が苦悶の表情を浮かべたのだった。

 

朝食が終わったら、まだテントの効力の有るうちに移動を始める。

 

結界の安全圏を移動し終えると、気を引き締めて歩く。

 

カムイが察知したのを皆に知らせてなるべく避けて行くのだが、いかんせん全く戦わないというわけにもいかない。

 

カプワトリムに到達するまでに、パッパカに遭遇した。

 

パッパカと言えば、鳴き声の煩いチュンチュンのようなものである。

 

この人数でかかれば対したことはなかった。

 

口ばしラッパを1つと、チキンを1つ手にいれた。

 

カプワトリムへと到着すると、まず最初にバルト達を迎えたのはバリケードだった。

 

カプワトリムもヘリオードもダングレストと同じでバリケードを結界の代用として使っている。

 

デイドン砦のような壁を作れれば一番なのだが、人手も資材も足りないので全て木材で出来ている。

 

バリケードの合間を潜って、カプワトリムの町中へとやってくると、ゴーシュとドロワットは子供達を連れて何処かへ行った。

 

「なんと言いますか、無事にここまで来られて良かったと言いますか……。」

 

「無事ってのは、指名手配されるかもしんねえことも含めてか?」

 

とはいえ、すんなり捕まってもやれなかった訳だが……。

 

「僕は今晩の宿を取ってきます。

 

バルト兄さんはどうなさいますか?」

 

バルトはパティを肩車した。

 

「ちょっくら、ダーリンとカロルの捜索してくらぁ。」

 

カムイと別れてカプワトリムの町の中を歩いて回る。

 

すると、防波堤の方から怒鳴り声が聞こえた。

 

気になって見に行けば、どのギルドでも有名な人物が屈強な男達を叱っていた。

 

その人物とは、幸福の市場(ギルド・ド・マルシェ)のメアリー・カウフマンである。

 

バルトがパティを肩車していたからだろうか?

 

カウフマンが視線を反らしたときにバルトとカウフマンの目が合った。

 

カウフマンはニンマリと笑うと、何やら思い付いたかのようにバルトの元へと駆けてくる。

 

「ねえ、あなたその格好傭兵ね?

 

ちょっとビジネスの話が有るんだけどどう?」

 

指を立ててこちらを伺っているカウフマンが目をパティへと向けた。

 

「あら、あなたユーリ君達と一緒に居た……。」

 

パティはバルトの頭の上で腕を組んで頷く。

 

「うむ、愛しのダーリンのパティじゃ!」

 

カウフマンはバルトへと視線を戻した。

 

きっと、パティとだと話してて疲れると思ったに違いない。

 

「メアリー・カウフマンの目は誤魔化せないみたいだな?」

 

バルトがそう言うと、カウフマンは眼鏡を手で押し上げる。

 

「俺は紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)のバルトだ。

 

内容にも寄るし、今はこのパティの保護者を探してる。

 

受けるかどうかは聞いてからだ。」

 

カウフマンは笑みを深める。

 

「それなら大丈夫よ。

 

パティちゃんのお家はあそこに見える灯台だからね。」

 

バルトはパティを見上げる。

 

どうやら、本当のようだ。

 

カウフマンがパティの事を知っているのも、御近所なら不思議ではない。

 

「そっか、パティとはここでお別れってことで良さそうだな。」

 

バルトがそう言うと、パティがバルトの耳元で呟いた。

 

「うむ、ありがとうなのじゃ!

 

それと、その武醒魔導器(ボーディブラスティア)はそのままバルトが持っておくと良いのじゃ。」

 

「良いのか?」

 

「うちはコバンザメのように、くっつく人を見る目はちゃんと有るのじゃ!」

 

バルトは薄く微笑む。

 

「そっか。」

 

手懸かりである、武醒魔導器(ボーディブラスティア)をどうするかは考えなくてはならなかった。

 

持っていて良いと言うならお言葉に甘えるとしよう。

 

バルトは肩からパティを降ろす。

 

「バイバイだな。」

 

「うむ、ありがとうなのじゃ!」

 

パティが手を振って離れていくのを見送ると、カウフマンへと向き直る。

 

「話、聞かせてもらおうか?」

 

「迷子の親探しってやつ?

 

良いねえ、そういうのアタシ好きよ?」

 

と、カウフマンが組んでいた腕を海の方へと指差した。

 

「今、カプワトリムからカプワノールまでの海域で人食いザメが頻出してるのよ。

 

あそこにいる傭兵たちに護衛の依頼をしていたんだけど全然ダメだったのよ。

 

そこにあなたが来たってわけ。」

 

なるほどな。

 

それは、本当に丁度良いタイミングってやつだ。

 

「それも、同じ五大ギルドの1つだなんてツイてる!」

 

カウフマンが、指を鳴らす。

 

「ねえ、どう?

 

やってみない?」

 

カウフマンの顔は真剣にバルトを見つめていた。

 

「俺の仲間に話をしてみ「お呼びですか?」どわぁ!?」

 

バルトの後ろからカムイがひょっこりと顔を出す。

 

「カウフマンさんとバルト兄さんが話しているのが見えたので、気になって見に来たのです。

 

それで、人食いザメでしたか?

 

僕らには荷が重くないですか?

 

なんせ、今は二人しかいないのですし……。」

 

カムイの言葉にバルトは頷く。

 

「そうなんだよなぁ。

 

なあ、そっちでもう少し頭数増やせねえか?」

 

バルトがそう言うと、カウフマンは顔を曇らせた。

 

「急ぎで届けなきゃならないものがあるのよー!

 

少しの間なら待てるから、考えてくれないかしら?」

 

「ふむ、バルト兄さん、パティちゃんはどうなさったのですか?」

 

「無事に保護者の所さ。」

 

そう言うと、カムイはホッと表情を柔らかいものへと崩した。

 

「それは、良かったです。

 

バルト兄さん、ここは誰か一緒に仕事を受けられそうな人をスカウトしてみては如何でしょうか?」

 

カムイが指を立ててそんなことを提案してきた。

 

「けどなぁ、んな簡単に手の空いてる強いやつなんか見付からねえだろ?」

 

バルトの言葉にカムイはため息を吐き出す。

 

「ゴーシュさんにドロワットさん、パティちゃんにカウフマンさんというとんでもない人材がこのカプワトリムには揃っているのですよ?

 

居ないとどうしても言い切れるんですか?」

 

「そんだけ傑物が居りゃ、町としてはもう充分だろ。」

 

一人居たら十人は居るってやつか?

 

ゴキブリじゃあるまいに……。

 

「とにかく、このままここで立ち往生するのも馬鹿馬鹿しいではないですか。

 

ひとまず、町の中を探してみましょう。」

 

バルトはため息をつくと、カムイと別れてスカウトへ赴く。

 

適当にサボろうか?

 

などと頭に過った所で、バルトは倉庫の前で泣きわめく少年を見付けた。

 

「酷いよユーリぃぃ!」

 

と、ユーリという人物に泣いて当たり散らす。

 

だが、そこには少年しかおらず、ユーリらしき人物は見当たらなかった。

 

「どうかしたのか?」

 

バルトが話しかけると、ビクッと震えてバルトを見上げた。

 

「ユーリのばかぁ!!

 

って、あれ?

 

なんか違う……。」

 

少年がいきなり体当たりしてきたのだが、直ぐに違う人物であると気が付き、顔を青くさせる。

 

「ご、ごごご、ごめんなさい!」

 

少年がバルトにヘコヘコと頭を下げている。

 

他人が見たらどう思われるだろうか?

 

「まあまあ、落ち着けって。

 

俺は構わねえよ。

 

んで、どうしたんだ?」

 

バルトが優しく問いかけると、少年は語り始める。

 

「僕が倉庫の片づけをしてたんだけど、ユーリは外で待っててくれるって言ってたのに、戻ったら居なくなってたんだ……。」

 

メソメソ、ボソボソと呟く少年が不憫に思えてきた。

 

「そ、そうか、まあ、元気出せよ。」

 

バルトが少年を慰め、話を聞いてやるという形でしばらく話した。

 

「僕はカロル・カペル。

 

お兄さんは名前なんて言うの?」

 

泣き止んだ少年が握手を求めて名乗る。

 

「俺はバルト・イーヴィルだ。

 

よろしくな。

 

さて、カロルはこれからどうすんだ?」

 

バルトが問いかけるとカロルは顔を曇らせる。

 

「どうしよ……。

 

あ、そ、そうだ!

 

バルトさんはこれから何か予定有るの?」

 

カロルに言われて、スカウトをする予定だったのを思い出した。

 

「あ、いや、まあ、なんつうか、仕事を一緒にしてくれる奴を探してる途中だったんだよ。」

 

と、そう言うと、カロルは異様な食い付きで、バルトにしがみついた。

 

「そ、それ!それ、僕がやるよ!」

 

少年には流石に無理だろう。

 

だが、パティのような前例も有る。

 

それに、他に宛も無い。

 

「ま、まあ、そんなに言うなら腕に自信が有るって事なんだろ?

 

分かった。

 

んじゃ、よろしくなカロル。」

 

バルトがカロルの手を引いて起こす。

 

「うん!よろしくバルト!」

 

少年が元気に笑っている。

 

子供は笑顔が一番だ。

 

そんなことを考えたのだった。

 

考えた矢先に思い出した。

 

カロル。

 

ナンがパティを見て言った名前だ。

 

だが、パティの友達ならカロルくらいの年だろう。

 

気にする程の事ではない。

 

それに、ナンに心配されるようなのだから、パティのように異様に強いなんてことは無いだろう。

 

まあ、パティとナンの知り合いだから、少しは期待しても良さそうだと思った。

 

しかし、カロルが少年だったとは……。

 

もしかしたら、カロルもこの武醒魔導器(ボーディブラスティア)に関しては詳しくはないのではなかろうか?

 

バルトはそう推測すると、カロルではなく、ダーリンという人物に絞って探すことにした。

 

「とりあえず、こっちに来てくれ。

 

仲間と合流すっからよ。」

 

「あ、うん!」

 

カロルと手を繋いで戻ると、カムイがニバンボシを腰に下げたクリティア族の女性と立っていた。

 

「バルト兄さん……。

 

彼は?」

 

カムイの視線が痛い。

 

それに、普段開かない目が睨み付けてきてる。

 

「僕はカロル・カペル!

 

バルトにスカウトされて、一緒に仕事をするって話になってるんだよね!」

 

どうだと言わんばかりに胸を張るカロルから、バルトへとカムイとクリティア族の女性の視線が刺さる。

 

「はぁ、僕は恥ずかしいですよバルト兄さん。」

 

あからさまに呆れて見せるカムイ。

 

まあ、気持ちは分からんでもない。

 

「こちら、暁の雲(オウラウビル)のカタハルト・シホルディアさんです。

 

丁度仕事を探していた所だと言うので、スカウトしてきました。

 

それで、バルト兄さんの方は……カロル君ですか?」

 

カロルは胸を張る。

 

「何々?ギルドの名前を名乗る感じなの?

 

なら、僕は凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)の首領をしてるカロル・カペルだよ。」

 

凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)ーー!?

 

バルトは咄嗟にカロルを何度も見た。

 

それは、至極真っ当な理由だ。

 

バルボス、ベリウス、ドン、アレクセイ、ザギ、イエガー……。

 

名だたる傑物の死と関与したというギルドだからだ。

 

「まあ、僕に任せてよ!」

 

自信満々の少年にバルト、そして、カムイも目が釘付けになったのだった。

 

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第3章『食うか食われるか』

 

カウフマンの元へと向かうと、カウフマンは首を振っていた。

 

「時化てきたから、今日は運行は見直しよ。

 

明日また来てくれるかしら?」

 

カタハルトとカロルとカムイを連れて共に宿屋へと向かう。

 

「カタハルトは同じ部屋で良いのか?」

 

「バルト殿、某はカタハで良い。

 

それと、部屋をもう1つ取ると出費がかさむでござるからな。

 

某としては大助かりで御座るよ。」

 

クリティア族にしては個性的な話し方のように思える。

 

「うぬ?某の顔に何か付いているでござるか?」

 

ペタペタと触って確認しているが、気になってるのは見た目ではないからそれでは分からないんだよなぁ。

 

「そういえば、バルト兄さん。

 

ここに来るまでにだいぶアイテムを消費しませんでしたか?」

 

カムイの言葉にバルトはベルトポーチを確認する。

 

本当にほとんど残ってない。

 

「ちょっと買い出しに行ってくるよ。

 

お前らは先に休んどけ。」

 

そう言って宿屋を飛び出すと、露店を探す。

 

見付けた。

 

バルトが駆け寄ると、雨が降ってきた。

 

急いで買い足して、戻らねば。

 

アップルグミを大量購入して、財布が軽くなっていくのを感じる。

 

このままではヤバイ。

 

駆け足で宿屋へと戻る途中で、犬が傷だらけで倒れているのを見付けた。

 

バルトは犬に駆け寄る。

 

「かなり弱ってるな……。」

 

バルトは犬の口にライフボトルの液体を流し込む。

 

すると、意識を取り戻した犬が警戒して唸ってきた。

 

「グルルルルルル……。」

 

バルトはそれで怯むようなことはなく、犬が怪我をしているところへ包帯を巻いていく。

 

犬は最初こそ警戒していたものの、バルトが敵意が無いことを悟ったのか、大人しくなった。

 

アップルグミを取り出して犬に食べさせる。

 

「さて、雨も酷くなってるし、お前も来るか?」

 

バルトが訪ねると、意を解したかのように立ち上がり、バルトの隣に立ち並んだ。

 

「いや、待て、ちょっと待ってな。」

 

バルトは先程の店に戻ると、マントを1つ購入した。

 

犬の所へと戻ってくると、犬にマントを被せてやる。

 

「これで、濡れないな。

 

ほら、行こうぜ。」

 

バルトの後を追いかけてくる犬。

 

宿屋へと戻ると、スタッフにタオルを借りて、犬と自分を拭く。

 

乾いたところで部屋に戻ると、カロルが犬を指差して驚いている。

 

「あああああ!!

 

バルト!

 

その犬!!」

 

カロルの知ってる所の犬だったのだろうか?

 

「ん?

 

野良犬じゃなかったのか。」

 

首輪は無いけど、賢いし、飼い犬だと言われれば納得してしまいそうではある。

 

「ビッグボスだよ!

 

元ビッグボス!!」

 

ビッグボス?

 

「どういうことだ?」

 

「何て言うのかな?

 

ラピードのライバルというか……。」

 

ラピード。

 

また新しい名前が出てきたな。

 

「お前、ビッグボスって名前なのか。」

 

バルトが歩くと、ビッグボスも歩き、バルトが立ち止まるとビッグボスも立ち止まる。

 

それを見てカタハが吹き出した。

 

「バルト殿はビッグボスに気に入られたようでござるな。

 

犬に慕われるとは、バルト殿は良い御仁ということなので御座ろう。」

 

「なんにしても、バルト兄さんは犬やら子供やら、拾ってきますけども、ビッグボスを飼うんですか?」

 

カムイの言葉に、バルトがビッグボスへと目を合わせる。

 

屈んでビッグボスの目の高さに合わせる。

 

「お前も来るか?」

 

「ガウッ。」

 

「なら、これからよろしくな。」

 

バルトがお手をするようにビッグボスと握手をする。

 

「けれど、良いのですか?

 

明日には仕事があるのですよ?」

 

その言葉にカロルが反応する。

 

「ラピードのライバルだし、犬というよりはプチウルフだから、強いと思うよ?」

 

カロルの言葉にカムイの目が薄く開く。

 

「やれやれ、世の中は分からないものですね。」

 

なんにせよ、ビッグボスもカタハ、カロルに続いて仕事仲間になったのだった。

 

翌朝、宿屋で朝を迎えたバルトは出発の仕度をする。

 

そうしていると、カムイとカタハも目覚めたらしく、カロル、ビッグボスと目覚めたようなので、カウフマンの居るであろう港に向かった。

 

すると、港にはカウフマンが予想通り待機しており、バルト達を見ると、急がせるように船に乗せた。

 

「本当は昨日には届けておきたかったのよねぇ。

 

まあ、時化たから、仕方ないとは思うんだけどね。

 

バルト君にカムイ君、それにカタハさんにカロル君。

 

カロル君は久し振りかしらね?」

 

カロルはカウフマンに問われて頷く。

 

「そうだね。

 

バウルやトクナガさんのおかげでカウフマンさんの船に乗るのは久し振りだね。

 

仕事も久しく受けてなかったから、今回は改めてよろしくね。」

 

子供だと思っていたが、どうやらカロルはパティよりかは大人と同じような目線で話が出来るらしい。

 

パティは魚やらダーリンやらを混ぜてくるからいちいち面倒だった。

 

「問題のカプワトリムの海域に出没するようになったサメなんだけど、プレデントって呼ばれてるわ。」

 

カウフマンの言葉にカロルが首を傾げる。

 

「プレデントってあの?

 

あの幽霊船にしか出ない筈なのに……。

 

やっぱり、棲息域の拡大が原因なのかな?」

 

「プレデントか……見たことねえな。」

 

バルトは見たことが無いので、どんな姿をしているのか?と、少しだけ気になった。

 

カムイがふと海面を眺めていた。

 

「どうした?」

 

「いえ、少し気になる音がしまして……。」

 

カムイの察知に引っ掛かった何か。

 

「僕達が出発してから、音が断続的に船底の方からするんです。

 

これは、もしかしなくても船底に?」

 

カウフマンがそれを聞いて積み荷のひとつを海へとバラ撒いた。

 

それは、魚の死骸のようだ。

 

すると、その死骸へと次々と群がっていく何か。

 

その、何かをカロルは指さす。

 

「プレデントだ!

 

何か投げる武器ない!?

 

海の中に居られたら僕らなんにも出来やしないよ!!」

 

カロルの言葉にカウフマンは首を振る。

 

「今から網を投げてプレデントを引き揚げるから……。」

 

「おい!

 

あんな数を引き揚げて相手しろってのか!?」

 

「まさか、今日に限ってこんなに居るなんて……。

 

けど、やらないといずれ船底に穴を空けられるかもよ?」

 

やるしかないのか……。

 

「カムイとビッグボスは撹乱!

 

カロルとカタハは殲滅!

 

俺は要人の警護だ!

 

良いか!!

 

倒さなきゃ食われるぞ!」

 

投げ網に引っ掛かったプレデントが甲板へと引き上げられる。

 

奴等は二足で立ち上がると、碇のような形をした武器を手にしていた。

 

それは、バルトも見たことがある。

 

「魚人の得物か……。

 

俺も素材は見たことがあるが、こいつが持ってるとはな……。」

 

バルトはクラウソラスを抜いた。

 

打ち上げられたプレデントは15体。

 

どう考えてもこちらが不利だ。

 

カムイは腕を薄く切り、血をプレデントへとばら蒔いた。

 

「血の臭いでなるべく引き付けます。

 

カタハさんとカロル君はなるべく急いで数を減らしてください。」

 

プレデントの合間を駆けていくカムイはプレデントのエラにオウカ+1を刺し込む。

 

「さあ、あなた方のエラをもっと開いて差し上げましょう!」

 

カムイへ向いた注意。

 

カロルはガーディアンスタンプと呼ばれるハンマーを振り回していた。

 

「へへーん!

 

どんなもんだい!」

 

次々と叩き潰されていくプレデント。

 

「つよっ!

 

カロルつよっ!」

 

人は見かけによらないとはよく言ったものだ。

 

その傍らカタハは着実に1体ずつプレデントを始末していた。

 

ニバンボシの刃から流れ落ちるプレデントの体液を振り払い、鞘に収める。

 

「ふむ、気分が乗ってきたでござるよ!

 

ーーオーバーリミッツ!!」

 

カタハは息を全て吐ききるように、柄に手を添える。

 

そして、息を止めた瞬間ニバンボシが引き抜かれ、プレデントの頭が甲板へと転がり落ちた。

 

体液を振り払い、また同じ動作でプレデントを切り倒していくカタハ。

 

バルトがカタハやカロルの戦いに気を取られていたからか、ビッグボスがバルトに向かって吠えた。

 

バルトの近くで甲板を軋ませる足音がしていた。

 

咄嗟にクラウソラスでガードすると、いつの間にやらそこにはプレデントが3体来ていた。

 

その内1体にビッグボスが噛み付き、2体がバルトへ向く。

 

バルトは、手を薄く切る。

 

血を振り撒いて2体をフリーランで引き付けた。

 

誰もの死角に入ると、剣を下から切り上げる。

 

「蒼破刃ーー!!」

 

バルトが叫ぶのと同時にビッグボスがフォローのつもりなのか、声をかきけすように吠えた。

 

「ナイスだビッグボス!」

 

魚人の得物をくわえて振り回すビッグボス。

 

バルトに迫る1体のエラに刺し込んで引き倒した。

 

残るは1体。

 

バルトはクラウソラスを横から凪いでエラに刃を立てた。

 

「食うか食われるか……。

 

俺は勿論食う側だ!!」

 

倒れるプレデント。

 

甲板に流れるプレデントの体液。

 

カロルが駆け寄ってきてピースして見せる。

 

カタハはニバンボシに付いたプレデントの体液を手拭いで拭いていた。

 

「バルト兄さん、皆さん終わったようですよ。」

 

バルトもカムイの言葉で臨戦態勢を解いた。

 

揺れる船の上でカウフマンが手を叩く。

 

「さあ!

 

倒したプレデントを解体して頂戴!

 

素材はその場で買い取るわよ!

 

倒した数だけ報酬も上増ししてあげるわ!」

 

カウフマンがそんな気前の良いことを言ったのだが、そこからは船が襲われることはなく、カプワノールへと到着したのだった。

 

 




『バルト・イーヴィル』
【種族】始祖の隷長
【所属】紅の絆傭兵団
【装備品】
クラウソラス
コンパクトソード+1
フィートシンボル
武醒魔導器
【技】
蒼破刃
ファーストエイド

『カムイ・シルト』
【種族】人間
【所属】紅の絆傭兵団
【装備品】
オウカ+1
ナイトソード
ブーツ
【技】
挑発
察知
変装
ローバーアイテム

『カロル・カペル』
【種族】人間
【所属】凛々の明星
【装備品】
ガーディアンスタンプ
【技】
不明

『カタハルト・シホルディア』
【種族】クリティア族
【所属】暁の雲
【装備品】
ニバンボシ
【技】
不明

『ビッグボス』
【種族】プチウルフ
【所属】バルトのペット
【装備品】
魚人の得物
マント
【技】
不明


『レシピ』
サンドイッチ
サラダ


『共有戦利品』
亀の甲羅×2
海苔×1
グミの元×1
サーモン×2
オレンジグミ×1
大きなハサミ×5
トルビフィッシュ×2
蟹の甲羅×3
口ばしラッパ×1
チキン×1

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