テイルズ オブ ヴェスペリア ~始祖の隷長の傭兵~   作:バルト・イーヴィル

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チュンチュンの嘴に引っ掛かっていた幼女のパティを助けた事により、パティの両親を探すため、話に聞いた船というワードからカプワノールとカプワトリムを目指す旅に出ることになった。

また、パティが落とした武醒魔導器。

それには精霊となって失われた筈のコアが付いていた。

パティの保護者と思われるダーリンの存在がコレにより見過ごせないものとなる。

始祖の隷長であるバルトはこの武醒魔導器を如何にしてダーリンとパティの手へと渡ったのか調べなくてはならない。

バルトは一先ずダングレストを出立し、ヘリオードを目指す。


第2話【出立ダングレスト】

第1章『弱者と強者』

 

朝、道具宿屋に起こされる。

 

目が覚めたバルトは顔を洗い、紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)の象徴とも言える紅をワンポイントに使った戦闘服へと着替える。

 

髪を後ろで纏め、赤いタオルで結ぶ。

 

胸元の大きく開いた黒のジャケット。

 

エリは立てられており、袖は赤い。

 

胸元にはフィートシンボルがぶら下がっており、申し訳程度に腹から腰にかけて意味もなくチャックが付いてる。

 

黒の皮のレギンスには、後ろのポケットに赤のスカーフが入っており、左足にだけ赤のベルトポーチが3つ結ばれている。

 

ベルトポーチには上からアップルグミ、オレンジグミ、ライフボトルがしまわれている。

 

腰に鞘を下げ、クラウソラスとコンパクトソード+1を刺し、バックパックを背負い、準備の出来たバルトはパティを起こす。

 

「起きろパティ、出掛けるぞ。」

 

パティが寝惚けて抱き付いてきたが、ここでパティがハッと我に帰り、バルトを見る。

 

「お主、誰じゃ?

 

ダーリンはどこに行ったのじゃ?」

 

バルトは頭を押さえてため息を吐き出す。

 

「あのなぁ、そのダーリンてのを探しにカプワトリムとカプワノールを見に行くって話だったじゃねえか俺と。」

 

と、タオルを外して昨日の髪型にしてやる。

 

「おお!?

 

ということはお主の言うとおりお主はダーリンではなかったのじゃな!」

 

ポンッと手を叩いて納得した様子のパティはベッドから降りる。

 

「では、バルトと呼んだ方が良いかの?」

 

バルトはそれに頷く。

 

「ああ、ダーリンとか変な名前で呼ばれるよりかは100倍良い。」

 

バルトはパティが準備を終えるまで待つと、パティへとパンを投げる。

 

「食っとけ。」

 

バルトとパティはパンを口にしながら道具宿屋を出る。

 

バルトがダングレストを出ようとすると、橋の上に見知った顔が有った。

 

「イーヴィルさん、女児誘拐ですか?」

 

赤髪を短く切り揃えた糸目の男がニコニコとしながらバルトを見ていた。

 

バルトは苦笑する。

 

「カムイ、変な冗談はよせ。

 

シムカに話は聞いてるだろ?」

 

彼の名前はカムイ。

 

シムカの弟である。

 

「姉さんから、イーヴィルさん一人では心配だから同行するようにと言われましてね。」

 

あからさまに嫌そうな顔をするカムイ。

 

「嫌なら別に来なくても良いんだぞ?」

 

「他でもない姉さんの頼みで無ければこんなボランティアは断っていますよ。

 

イーヴィルさん、貴方はなんというか、常々運の無い人だと思ってましたが、今度は迷子の親探しとは……。」

 

ため息を吐き出すカムイにパティが歩み寄る。

 

「こんにちはお嬢さん。

 

僕はカムイと申します。

 

シムカ姉さんには昨日会ったと思いますが、その弟です。」

 

カムイが自己紹介すると、パティは腰に手を当てて偉そうにふんぞり返る。

 

「ウチはパティじゃ!」

 

「よろしくお願いしますパティちゃん。」

 

と、カムイがパティの頭を撫でると、カムイがバルトの隣に肩を並べる。

 

「では、行きましょうか。」

 

カムイと共にダングレストと外との境界であるバリケードを越える。

 

結界魔導機(シルトブラスティア)の失われたこの時代の主な防御方法はこのバリケードと、テント等で使われていた魔物の嫌う匂いによる結界である。

 

バリケードの修繕のために結界として匂いを配置し、バリケードの改修工事が終わったらまたバリケードで耐えるというサイクルでダングレストは魔物からの侵攻を許さない。

 

もしも、中に入られた場合はギルドの町だけあっていつでも戦う事が出来る。

 

今、ダングレストはそういった迅速な対応込みの意味で、住みたい町ランキングの上位である。

 

そんなダングレストを出ると南に真っ直ぐ進むわけなのだが、この辺の魔物が増えているために、真っ直ぐ直進等出来よう筈もない。

 

魔物を遠目に視認すると、カムイがオウカ+1を抜いた。

 

「僕が奴の注意を引き付けますのでその間にパティちゃんと走り抜けてください。

 

離れた位置にこのテントを置いて結界としましょう。

 

そこで一旦休んでからまた出発します。」

 

と、カムイからテントが渡される。

 

見えた魔物はこの辺りではポピュラーなトータスだ。

 

大きな体を持っており、硬い甲羅に守られた亀のような魔物で、思いの外伸びる首が厄介だ。

 

昔は雑魚の一匹として数えられていたが、今ではダングレストからヘリオードまでのエリアでの中ボス扱いである。

 

「んじゃ、任せるぞカムイ。」

 

カムイはポケットからアップルグミを取り出すと、それを魔物にぶつけた。

 

「さ、お先にどうぞ!」

 

カムイへと向かっていく魔物を中心に回るように迂回して走り抜ける。

 

そして、そのまましばらく走るとカムイに言われたようにテントを張る。

 

これで、この近辺の魔物は近付いては来ないだろう。

 

日は丁度真上だから、昼頃だろうか。

 

テントの前で座るバルトの視線の先に腕を押さえて走るカムイの姿が有った。

 

カムイがテントまでたどり着くと、直ぐ様応急処置と、アップルグミを食べさせる。

 

「いやはや、トータスだけかと思って油断しておりました。

 

まさか、トータスの影にオタオタが隠れていたとは……。

 

危うく腕を落とす所でしたよ。」

 

バルトがタオルで縛り、カムイの腕を止血する。

 

「お前の言うとおり休憩してから出よう。

 

初っぱなからトータスに出くわすなんざ運が無かったな。」

 

バルトの言葉にカムイは苦笑する。

 

「僕は普通の運ですよ。

 

運が無いのはイーヴィルさんの方では?」

 

「減らず口が利けるなら大丈夫だな。」

 

と、バルトはカムイをテントで横にさせる。

 

「お気遣い頂かなくても直ぐに出発出来ますよ?」

 

カムイの言葉にバルトは首を振る。

 

「血の匂いを追われたら面倒だ。

 

その怪我を少しでも治してから出るぞ。」

 

「そうですね。

 

御迷惑をおかけします。」

 

カムイがテントで休んでいる最中、念のためにバルトは外で見張りをする。

 

パティも退屈そうにしながらバルトの側に腰かけた。

 

「パティは休まないのか?」

 

そのバルトの言葉にパティは首を振る。

 

「ウチは平気なのじゃ!」

 

気丈に振る舞うパティの頭をバルトはグリグリと撫でる。

 

子供の癖に大人に気を使ってるのだろうか?

 

そんなことを思ったバルトはそう言えばと、バックパックにしまっておいたサンドイッチのレシピを取り出す。

 

「ほら、昼飯作ってやる。」

 

レシピを見るまでもないのだが、分量まで細かに書かれていたのでそれに沿って作ってみた。

 

味見をする。

 

「まあ、たかだかサンドイッチ……え?美味い。」

 

予想を上回る美味しさがそこには有った。

 

レシピの分量通りに作ればこれほどまでに美味しさが増すのか。

 

ワンダーシェフを侮っていたことを少し反省しつつ、カムイとパティに食べさせる。

 

カムイがサンドイッチを食べて目を見開く。

 

「イーヴィルさんにこんな才能が有ったとは驚きです!」

 

「いや、たかだかサンドイッチで何を言ってるんだお前は。」

 

パティも美味しそうに食べている。

 

皆が食事を終えて一息ついた時だろうか?

 

カムイが走ってきた方向から、トータスがこちらに向けて進んできていた。

 

「カムイ、あのトータス、『結界慣れ』みたいだぞ。」

 

結界慣れーー魔物が嫌う匂いを難度も定期的に嗅ぐことで慣れてしまい、テントに近付いてくる魔物の事である。

 

「困りましたね。

 

僕はこの通り手負いですので、足手まといになるでしょう。

 

パティちゃんは僕が見てても良いのですが、トータスはまともに戦って勝てる相手では無いです。

 

フェイタルストライクを狙うにしてもあの硬い甲羅にどの程度ダメージが通ることか……。」

 

フェイタルストライクとは、同じような攻撃を加えてバランスを崩した敵を次の一撃で仕留めるというものだ。

 

トータスの硬い甲羅に自分達の技術でダメージが入るかどうか……。

 

カムイが困ったようにバルトを見ていた。

 

バルトはポケットの中の武醒魔導器(ボーディブラスティア)を触る。

 

使うしかないか……。

 

バルトはカムイに背を向ける。

 

「パティを任せるぞ!」

 

「それは、構わないのですが、何か手でも有るのですか?」

 

カムイの言葉に頷く。

 

「ああ、だから、ここでパティと大人しくしていろ。」

 

テントから離れてトータスへとコンパクトソード+1を投げて気を引く。

 

「こっちに来やがれ!」

 

クラウソラスをブンブンと振り回し、存在を主張すると、自分へ向かって来るトータス。

 

この近辺は森が多いが、そこに行くと別の魔物へ遭遇する可能性が有る。

 

撒いて逃げるにも、近場が安全である保証は無い。

 

バルトは武醒魔導器(ボーディブラスティア)を腕に装着し、念のために赤いリストバンドで隠す。

 

「さあってと、確か……。」

 

朧気な記憶を頼りに離れた位置からクラウソラスの先を地面に擦り付けて上に切り上げる。

 

「蒼破刃ーー!!」

 

地面を這うように剣の一撃がトータスに当たる。

 

久しぶりだったから自信は無かったが、どうやら簡単な技なら使えるようだ。

 

ならば、このまま離れた位置から蒼破刃をぶつけ続けるだけである。

 

この技は非常にオーソドックスで、騎士やギルド員なんかが昔使っていた。

 

今はこの技自体を見ることは無くなったのだが、この調子でどんどん削っていく事にする。

 

フリーランで離れてトータスに向て蒼破刃。

 

これをしていると、精神的に疲れてくる。

 

当然だ。

 

技の発動には集中力が必要となる。

 

そして、集中力が必要となるということは、注意力が散漫になるということだ。

 

今はトータスと自分だけだが、周りに他の敵が居ようものなら良い的になってしまう。

 

それだけに、疲労も貯まるので、その疲労を和らげてくれるのが、オレンジグミと言うわけである。

 

バルトはベルトポーチから取り出すと、口に含む。

 

慣れ親しんだ味で疲労を和らげ、トータスから距離を取りつつ、テントからは離す。

 

上手く事が運んでいるためか、心持ち少し余裕が出てきた。

 

いや、これは少し違うな……。

 

「おっと、この高揚感……久しぶりだな。」

 

テンションが少しずつ上がっていく感じが分かる。

 

「オーバーリミッツーー!!」

 

オーバーリミッツ状態の時は、簡単な技なら連続で使うことが出来る。

 

狙うのはトータスの足である。

 

蒼破刃を浴びせ続け、トータスの右前足がドサリと落ちた。

 

次は左足を中心に狙う。

 

「離れてくださいパティちゃん!」

 

カムイの声が聞こえた。

 

オーバーリミッツが切れたタイミングと重なり、そちらへと視線が向かう。

 

そこには……。

 

もう一体のトータスがいた。

 

バルトは慌ててそちらへと向かう。

 

が、バルトは今まで相手をしていたトータスの伸びた首に腕を噛まれてしまった。

 

「しまっ!」

 

引きずり回され、振り回され、地面へと叩き付けられる。

 

けれど、これはバルトにとってもチャンスで有った。

 

伸縮性が有る頭。

 

それはつまり、ある程度の柔軟性がある。

 

ようは柔らかさが有るということだ。

 

バルトは咄嗟にクラウソラスを伸びた首に叩き付ける。

 

「離しやがれ!」

 

叩き付けた剣がトータスの首を鞭打たせる。

 

それに合わせて大きく叩き付けられたバルトだったが、直ぐ様体制を立て直し、トータスの頭にクラウソラスを突き立てた。

 

大概の魔物は、頭を潰されたら流石に即死である。

 

トータスも例外ではなく、バルトの前で動かなくなった。

 

一息ついたバルトだったが、パティの事を思い出してテントの方を見る。

 

すると、思いもよらない光景がそこには有った。

 

トータスがむしろ押されぎみで、しかも、体制を崩していた。

 

まさかーー!!

 

予想は的中した。

 

体制を崩していたトータスへ向けてパティが次に行ったのはフェイタルストライク。

 

敵を一撃で仕留める大技だった。

 

「パティは一体?」

 

何者なんだ?

 

トータスが倒せるのにどうしてチュンチュンなんかに?

 

疑問は尽きなかったが、一先ずはパティの所へと走る。

 

「パティ、今のは……。」

 

カムイも呆然とパティを見ていた。

 

「なんじゃ?知らぬのか?

 

今のはフェイタルストライクと言っての?」

 

分かったことがある。

 

パティが武醒魔導器(ボーディブラスティア)を使わなかったのは、そもそもパティには必要なかったからだと……。

 

バルトはパティだけに見えるようにリストバンドをずらす。

 

パティは目を丸めて、バルトを見た。

 

「話を聞けるか?」

 

バルトの言葉にパティは頷く。

 

「うむ、ウチに分かることだけじゃがな!」

 

バルトはリストバンドで直ぐに隠す。

 

「これをどこで?」

 

パティは目を伏せる。

 

「これは遺構の門(ルーインズゲート)が発掘のときに見付けたらしいのじゃ。

 

ラーギィとか言うたかのう?

 

ウチのダーリンがそれについて調べることになって、ウチはそれの手伝いをしていたのじゃ。」

 

「遺跡か……。」

 

けれど、コアが余すこと無く精霊となった今、これが機能する状態で発見されるのはおかしな話である。

 

「それで、足取りは掴めたのか?」

 

「うむ、それなのじゃが、探している途中でダーリンとはぐれてしまったのじゃ。

 

ウチは迷子になったであろうダーリンを探したのじゃが、気が付いたら空を飛んでいたのじゃ。」

 

なるほどな。

 

そんで、チュンチュンに捕まった訳だ。

 

「となると、ダーリンてのがこれの持ち主を追いかけてる訳だ。」

 

カムイはようやく固まった状態から回復したのか、心配そうにパティへと駆け寄る。

 

「だ、大丈夫ですか!?

 

怪我は……してませんね。」

 

ホッとしたように息を吐き出すカムイは次にバルトを見た。

 

「やはりトータス相手ではイーヴィルさんのようになるのが普通ですよね?」

 

カムイはパティを見て苦笑する。

 

「何か訳ありなのでしょう?

 

まあ、僕はこの子の両親を探すためのお供です。

 

深くは聞かないことにしておきますね。」

 

と、パティへとカムイが微笑む。

 

「うむ、カムイはダーリン程ではないが良い男じゃな!」

 

「それはそれは、光栄の至りです。」

 

バルトはアップルグミを食べて、怪我した腕をスカーフで止血する。

 

「トータスを仕留めた。

 

使えそうな部分だけ回収して、離れた場所に捨てよう。

 

カムイはそっちのを頼めるか?」

 

カムイは頷くと立ち上がる。

 

パティの倒したトータスの亀の甲羅とトルビー水を回収した。

 

バルトが倒したトータスからも、同じ物を回収した。

 

バルトがその場で剣で解体し、カムイが捨ててくる。

 

日が暮れ始めると、カムイもバルトもテントへと戻り、パティと共に夕食を食べる。

 

「また、サンドイッチですか?」

 

カムイが不満をぶつけるようにバルトを見る。

 

「仕方ねえだろ。

 

それとも、パンをそのまま食うかよ?」

 

少なくともパンそのままよりは美味い。

 

「いえ、今後食事のレパートリーが増えることを願ってます。」

 

カムイがサンドイッチに口を付ける。

 

「味は美味しいのですけどね……。」

 

このままだといつか飽きる。

 

そう言いたげなカムイの視線を受け流す。

 

「うるせえな。

 

そんなに言うならお前も何か作るかよ?」

 

そう言うと、カムイがレシピを1つ取り出した。

 

「なんのレシピだ?」

 

開いて見る。

 

サラダ……。

 

「んなもん、レシピが無くても間違えねえよ!」

 

レシピでカムイの頭を叩く。

 

「そう言うイーヴィルさんこそサンドイッチのレシピしか持っていないじゃないですか!」

 

掴み合いの喧嘩になりそうだったが、互いに怪我をした方の腕を動かしたがためにうずくまることとなった。

 

「やめよう。

 

不毛だ。」

 

「そうですね。

 

不毛です。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

第2章『癒えない傷』

 

テントの中で朝を迎え、昨日カムイが渡してきたサラダのレシピを使って朝食を作る。

 

分量をちゃんと守れば美味しさが増すと分かっているので、きっちりとレシピ通りに作った。

 

「うん……不思議と美味いな。」

 

バルトは味見をし、完成したサラダをカムイとパティへと渡す。

 

カムイは美味しそうに食べると、こう漏らした。

 

「うん、これなら義兄さんと御呼びしても良い気がしてきました。

 

ええ、美味しいです。

 

昨日のはまぐれでは無かったということですね。

 

流石ですバルト兄さん。」

 

「なんだそりゃ?」

 

カムイとはギルドで一方的に噛み付かれてくる感じの犬猿の仲である。

 

こうも素直に誉められれば気持ち悪い。

 

「ふふ、まあ、1面では有りますが、認めたと言うことですよ。」

 

カムイの率直な反応から顔を背け、パティを見る。

 

パティもどうやら美味しそうに食べている。

 

「バルトは良いお嫁さんになれるのじゃ!」

 

お嫁さんに……。

 

その場合、相手って?

 

「僕ですか?」

 

カムイが首を傾げる。

 

「凄く不愉快です。」

 

本当に機嫌が悪そうに表情を曇らせ、普段開かない糸目が開き、バルトを睨む。

 

「分かった、分かったから落ち着け。

 

子供の戯れ言だぞ?」

 

そう言うバルトの言葉でいつもの優男のような笑顔に戻る。

 

「そうですね。

 

さて、バルト兄さんヘリオードへはいつ出発しますか?」

 

カムイがもう直ったのか、タオルを返してくる。

 

カムイの腕には瘡蓋が出来ており、治りはじめているようだ。

 

その反面バルトは瘡蓋なんて出来てない。

 

「やはり、バルト兄さんは軟弱ですから怪我の治りも遅いのですね。

 

がっかりです。」

 

カムイに呆れられたようなリアクションをされたが、これはエアルがなくては治らないからである。

 

空気中の微弱過ぎるエアルでは、傷を塞ぎきるには足りない。

 

この傷を塞ぐには、エアルクレーネへと立ち寄るか、武醒魔導器(ボーディブラスティア)を使って蒼破刃を連発するしかない。

 

そうやってエアルを乱してエアルを増やして傷を治すのだ。

 

だが、人前ですれば、自分の正体がバレてしまう可能性が有る。

 

バレてしまえば、自分もバウルやミョルゾのように狙われる危険が有る。

 

そうなれば、カムイやシムカにも危険が及ぶかもしれない。

 

それだけは見過ごせない。

 

「俺はお前と違ってデリケートなんだよ。」

 

「やれやれ、ショートケーキのいちごちゃんでは有るまいに……。

 

僕はバルト兄さんのその軟弱さは治すべきだと思いますよ。」

 

生まれもっての体質や特性を治せとは無茶が過ぎる。

 

「出来たら苦労しねえよ!」

 

悪態を付いて立ち上がる。

 

テントは消費アイテムだ。

 

使ったあとは適当に燃やしたり、埋めたりして進む。

 

バルトはバラバラに引き裂くと、適当に埋める。

 

「んじゃ、行こうぜカムイ、パティ。」

 

未だ手負いのバルトは最後尾に、先頭をカムイが進む。

 

間にパティが居るわけだが、パティがこの3人の中では一番強い可能性がある。

 

そんなことをきっとカムイも思っていたのだろう。

 

「提案が有るのですが……。」

 

前を警戒しながら足を止めるカムイ。

 

「パティさんも次からは参戦してもらえませんか?

 

先程の戦いを見た限り、僕らよりも手練れであると判断しました。

 

どうでしょう?」

 

パティはふんぞり返る。

 

「うむ、構わぬのじゃ!」

 

「ありがとうございます。

 

では、僕とバルト兄さんが敵の足止めを致しますので、機会を見て攻撃をお願いします。」

 

機会を見てということは、つまり。

 

「俺達でフェイタルストライクが出来る状況まで持っていく訳か?」

 

「そうなりますね。

 

ただ、これは敵が2体までの手段です。

 

3体以上と戦わないといけない状況になったら、機会などどうでも良いのでささっと1体を片付けて僕たちに合流してください。

 

僕たちは出来るだけパティちゃんが一対一で戦えるように引き付けるのが仕事です。」

 

なるほどな。

 

「パティにおんぶに抱っこだな。

 

なんというか、大人として情けないぜ。」

 

とはいえ、バルトはまだ生まれて3年しか経っていないのでパティよりも本来は子供である。

 

「これが一番確実だと思ったまでです。」

 

パティは納得したようで大きく頷いた。

 

「本人が良いみたいだし、それでいくか。」

 

と、そんな事を話していると、目の前をゲコゲコ1体とオタオタ2体が立ち塞がった。

 

「では、手筈通りに!

 

僕たちはオタオタを引き付けますので、パティちゃんはゲコゲコをお願いします!」

 

サラッと一番強いゲコゲコをパティに押し付ける辺り、カムイはその辺を割りきっている様だ。

 

「は!」

 

カムイがオタオタの尻尾を踏みつけ、挑発している。

 

バルトも負けじと、カムイを真似てもう一匹の尻尾を踏みつけた。

 

オタオタはちゃんとバルト達へ向かって行き、ゲコゲコかが一番弱そうに見えるパティへと向かっている。

 

「一番弱そうに見えますよね?

 

その子、僕たちより強いんです。」

 

カムイがオタオタを挑発しながら、そんな事を口走る。

 

大人としては認めたくないが、認めざるを得ない。

 

バルトも挑発をしていると、パティが早くもゲコゲコを仕留めていた。

 

「カムイ!先にこっちを片付けて良いか?」

 

「どうぞ、手負いのバルト兄さんにはキツいでしょうからね?」

 

こんにゃろと思ったが、カムイのお言葉に甘えてパティに来てもらう。

 

ひたすらに切り下ろしをする。

 

「今だーー!」

 

オタオタの体制が崩れた所で綺麗にパティのフェイタルストライクが決まった。

 

「カムイ!そっちはどうだ!」

 

バルトがカムイの方を見ると、カムイはオウカ+1でオタオタの頭を貫いていた。

 

「いえ、充分にダメージを与えられたようで、パティちゃんの出る幕は無かったようです。」

 

にっこりと微笑むカムイはオタオタの体液を振り払う。

 

「では、素材を剥ぎ取り、先に進みましょうか。」

 

オタオタからは海苔とグミの元が手に入った。

 

ゲコゲコからはサーモンとオレンジグミが手に入った。

 

「オレンジグミとか、なんでゲコゲコが持ってんだろうな?」

 

「さあ?

 

案外、ゲコゲコもオレンジグミのあの味が好きなのかもしれませんね。」

 

「オタオタの尻尾、踏みすぎたな。」

 

「本来であればこれも素材の1つなのですが、これはもう価値が無いと思われます。」

 

尻尾を踏んで挑発を繰り返した結果、オタオタの尻尾はボロボロで剥ぎ取る理由が無くなっていた。

 

「行くか。」

 

ヘリオードへと向けて再出発する。

 

このまま何も無ければ、昼頃にはヘリオードに到着するだろう。

 

先程までの戦いが嘘のようにめっきりと魔物と遭遇しなくなった。

 

カムイが顔をしかめて、カルボクラムの方角を指差した。

 

「あそこから血の匂いがします。」

 

カムイは五感が鋭く、斥候や諜報、陽動、調査を紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)の仕事では任される事が多い。

 

今回はそんなカムイの嗅覚がカルボクラムに向けて反応して見せた。

 

カルボクラムへは東に向かう必要が有る。

 

「どうしますか?」

 

カムイが訪ねてくるが、カルボクラムと言えば今は誰も住んでいない滅びた町である。

 

そんなところからする血の匂いとなれば、とても怪しい。

 

しかし、今はパティの事がある。

 

こちらを優先してヘリオードへと向かうべきでは有るのだが……。

 

「全く、貴方はお人好しですねバルト兄さん。」

 

と、カムイが進路をカルボクラムへと変更した。

 

「しゃあねえな、ちょっと様子見てくるのに付き合ってくれるかパティ?」

 

バルトが訪ねると、パティは頷いた。

 

「そうじゃな、ダーリンも『義を持って事を成せ、不義には罰を』と言っておったからの。

 

ウチもダーリンを探してくれる義に対して協力するのじゃ!」

 

なんというか、ギルドの信念のような事を言うんだなと思った。

 

進路はカルボクラム。

 

この先に果たして何が有るというのか?




『バルト・イーヴィル』
【種族】始祖の隷長
【所属】紅の絆傭兵団
【装備品】
クラウソラス
コンパクトソード+1
フィートシンボル
武醒魔導器
【技】
蒼破刃

『カムイ・シルト』
【種族】人間
【所属】紅の絆傭兵団
【装備品】
オウカ+1
ブーツ
【技】
挑発
察知

『パティ』
【種族】人間
【所属】ダーリン
【装備品】
クルビス
【技】
不明



『レシピ』
サンドイッチ
サラダ


『共有戦利品』
トルビー水×2
亀の甲羅×2
海苔×1
グミの元×1
サーモン×1
オレンジグミ×1

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