テイルズ オブ ヴェスペリア ~始祖の隷長の傭兵~   作:バルト・イーヴィル

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第15話【クオイの森の殺戮虫・中編】

第2章『殺意の片鱗』

 

まるで死に戦をしたかのような疲弊。

 

キマイラバタフライの姿をハッキリと視認した訳でもないのに、その影を見ただけで本能的に理解させられた。

 

アレは敵対してはいけない歩く兇器、歩く殺意、害悪と害意の塊なのだと分からされた。

 

ギガントモンスターへの戦意など元々無かったが、これで確実に皆の意思が統一されただろう。

 

絶対に戦わない……と。

 

極度の緊張感からの開放は全員の呼吸と筋肉に負担をかけていたらしく、カタハに至っては全身を震わせていた。

 

否、彼女は分かるのだろう。

 

クリティア族特有の『ナギーク』の力によって。

 

「大丈夫か?」

 

近寄って背に触れると冷たく感じるほどに濡れていた。

 

「アイツは通り過ぎたぞ」

 

「ヤツとは戦ってはいけない」

 

奥歯をカチカチと鳴らしながら、まだ緊張したままらしく立ち上がれない様子だ。

 

「ああ、同感だ」

 

カムイは肩を透かし、語るまでもなく同意の様だ。

 

パルチも必死で手を振り、あんなのの相手は御免だと言わんばかりだ。

 

だが、そこでクライアントである護衛対象。

 

暗闇の灯籠《カオスキャンドル》が間の抜けた事を言い出した。

 

「ついでだ、アレを倒して行こう」

 

こいつは何を言っているんだ?

 

思わず思考が理解を放棄していた。

 

この人物はあの殺意の塊を理解していなかった。

 

「馬鹿な事を抜かしてんじゃねえ!」

 

バルトが立ち上がり、その人物の胸ぐらを掴む。

 

すると、フードが捲れて中の顔が分かった。

 

煤汚れた灰色の髪と目の年配の男性だ。

 

死んだ魚の様な目をしている。

 

掴んだだけで、男が宙に浮いたため、体付きは筋肉質ではなく、脂肪の塊でもないということが分かる。

 

「馬鹿な事ではない、大義だろう?」

 

薄ら笑みを浮かべる彼に、バルトは笑みがひくついた。

 

この人物に付いていき、武醒魔導器《ボーディブラスティア》の流通の根源に探りを入れる予定が、ここで依頼解消となっては元も子もない。

 

ようやく掴んだ情報の糸口を自ら失いにいくのは憚られた。

 

しかし、ここでバルトが戦う事を選べば、カムイもビッグボスもカタハも巻き込む事になるだろう。

 

パルチは絶対に見捨てて逃げると思う。

 

自分だけならばいざ知らず、他人を巻き込む訳にもいかない。

 

ギリと奥歯を噛み締め、考えあぐねていると、パルチが手を子招いていた。

 

「……なんだってんだ……こんな時に」

 

バルトが手を離してパルチの元へと寄ると、パルチがバルトの肩を叩いて交代だと言わんばかりに依頼者の前に歩み寄る。

 

「ギガントモンスター相手ってなると後払いじゃ割に合わないんだよねー。

 

だからさ、料金交渉といかない?」

 

そう言って手もみしながらニヤついていた。

 

こんな時にブレない奴だと思っていると、次いで鈍い音がした。

 

「ヨイショー!!!」

 

そこには、依頼者の腹に蹴りを入れているパルチの姿があった。

 

「え、お前何やってんの?」

 

「こいつは夢を見てたのよ!」

 

頭を蹴り飛ばし、完全に伸びたのを確認すると、その男を指差す。

 

「……なるほどな」

 

バルトもカムイも笑みを浮かべる。

 

「これは夢ですね」

 

「何も見なかったし、そもそも何も無かった」

 

伸びた依頼者をバルトが背負う。

 

「そんじゃ、クオイの森を抜けようじゃねえか」

 

背中に感じる男の呼吸と体温。

 

この男はなぜ暗闇の灯籠《カオスキャンドル》に属したと言うのか。

 

自分が始祖の隷長《エンテレケイア》だからこその複雑な胸中で、クオイの森を奥へ奥へと進んでいく。

 

すると、何故か前方から人の声が聞こえてきた。

 

同じように公のルートを通れない者が居るという事だろうか。

 

そんなことを勘ぐっていると、その姿が次第にハッキリとしてきた。

 

フードの様なヘアキャップを目深に被った白髪で顔に真一門の傷のある男だった。

 

バルトはその男を知っている。

 

「魔物を取り逃した上に毒まで貰っちまった……俺様も……これまでか……」

 

「何弱気になってるの師匠!」

 

そして、その傍らにナンが居た。

 

「良いか……全ての魔物は俺に……俺『達』に殴られるために居る……」

 

「っ……誰か解毒を……」

 

だが、彼らの所属するギルドは魔狩りの剣《まがりのつるぎ》という魔物を殺す事を最優先とする。

 

魔物が逃げたと言うことは弱っていたのだろう。

 

その魔物を取り逃す者達ではない。

 

つまり、魔物を追っていったため、通りがかったバルト達しかそこには居ない。

 

カムイがどうすべきかバルトに顔を向けた所で、バルトは背に負った男をカムイに引き渡す。

 

苦笑するカムイを背に右手を挙げると、駆け寄っていく。

 

「弟子を残して一人で逝くつもりか?

 

魔狩りの剣のティソンが……だらしないな」

 

そこで目線を上げたティソン。

 

「……誰かと思えば……俺様の死に際を嘲笑いに来たのか?」

 

弱りつつも立ち上がり、睨みつけてくる。

 

ティソンとバルトは互いを知ってはいるが、それは互いに味方としての認識ではない。

 

ティソンは魔物であると認識した始祖の隷長《エンテレケイア》を守る魔物側の人間としてバルトを認識し、それに対してバルトは反対に無害である始祖の隷長《エンテレケイア》を殺そうとする悪虐な人間として認識していた。

 

だからといって死んで良いとは思っては居らず、静かに弱ったティソンにアップルグミとライフボトルが入ったベルトポーチを投げ渡した。

 

「これだけ有ればザーフィアスは無理でも、ハルルの街までは保つ筈だ」

 

そのベルトポーチを不格好に地面へと落とし、咳き込みながらもバルトを睨む。

 

「必要ない……」

 

「んな訳あるか!」

 

ティソンの頭を掴み、地面へと引き倒す。

 

「くっ」

 

落としたベルトポーチを開いてアップルグミを無理やりティソンの口に押し込む。

 

「万全のお前なら俺より断然強いだろうに、今のお前はこんなにも俺より弱いんだ……弱さとは奪われる罪だとお前は俺に教えてくれただろう?」

 

この場合、ティソンが奪われたのはプライドというものだろう。

 

誇りを穢したとも言える。

 

「つまらない事で意地になるなよ、1つも2つも変わらないだろ?」

 

そうして手を離すと、ティソンはバルトを憎々しげに地面から見上げていた。

 

 

「今のティソンならナンでも御せる筈だ」

 

ベルトポーチをナンへと渡し、先へと進もうとする。

 

「待って!」

 

引き止めるナンに「お前もか」と内心思いながらも振り返ると、ティソンに肩を貸してバルトの後ろに立っていた。

 

「ハルル方面に行くのよね?」

 

「だったらどうした?」

 

生唾を飲み込む音がした。

 

それだけ緊張させているのかもしれない。

 

「キマイラバタフライは逃げたのはそっちよ」

 

バルトの額に嫌な汗が流れる。

 

「ハルルまでしかグミが保たないなら、私も一緒に連れてってくれない?

 

どの道同じ方向なら、二人でいくよりも断然あんた達と居た方が安全そうだから」

 

ナンとティソンを加えて、クオイの森を進む中で依頼主が何度も目覚めそうになるが、それを妨げるのがパルチがその都度意識を刈り取る。

 

事情を知らないティソンとナンからすれば、この非効率なやり取りについて気になったのだろう。

 

「どうしてそんな事を?」

 

その問いに、パルチが肩を透かして言う。

 

「キマイラバタフライをなんでか知らないけど倒そうなんて言うからよ」

 

「魔物を狩るのは当たり前だろう」

 

「あんた達と一緒にしないでよ、私はお金の絡まない仕事はやんないし、契約以上の事なんてお断りだし、ギガントモンスターなんていうのは手の混んだ自殺でしかないわよ!」

 

手の混んだ自殺というのに思わずカムイが吹き出していた。

 

「何か言いたいことがあるみたいだな」

 

自らブルータルへ絡みに行ったバルトの事を思い出したのだろう。

 

「いえ、なにも……」

 

笑いながら言われても説得力の欠片もない。

 

笑みが凍り付く。

 

これ程的確な表現も無いだろう。

 

皆に最初にカムイとビッグボスの表情に緊張が走り、次いでパルチとカタハ、ナンとバルトが気が付いた。

 

そこには足跡がある。

 

引っ掻いたかのような生々しい傷跡があり、根刮ぎ木を倒していた。

 

「どうやったらこんな事になるんだ」

 

「キマイラバタフライには鋭い鎌がある」

 

ナンが木の断面を指でなぞった。

 

その断面は非常に真っ直ぐ滑らかである。

 

「切られたら死に直結するぞこりゃ……」




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ーー『令和4年の5年後から続きを書きに戻ってきました』ーー

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