テイルズ オブ ヴェスペリア ~始祖の隷長の傭兵~ 作:バルト・イーヴィル
バルトはエステリーゼを目前に、胸騒ぎが激化した。
触れられたとき、身体中の危険信号がバルトを動かし、エステリーゼの手を払ってしまう。
無意識に行われた行為。
憤慨するエルリック。
だが、エステリーゼは寛容にその行いを許した。
また、指名手配の詫びと称してソードピストル・試作黒匣を差し出す。
天才魔導士リタ・モルディオでなくとも、精霊の力を引き出せる物だという。
そして、ダーリンの名前が明らかとなる。
ダーリン、もといユーリという者にもう1本のソードピストル・試作黒匣を渡すようにとエステリーゼから頼まれた。
バルトがそれを了承したことで、新たな冒険が幕を開けようとしていた。
第1章『本を読み聞かせる者』
エルリックとシルトだけ城に残して、バルトとカムイは市民街の観光をすることにした。
エルリックは食料庫の始末書をフレンに、シルトはハルルの矢の報告のために残ったからである。
ビッグボスはエルリックの家に預けられているので、カムイとバルトが2人で居ることになる。
「帝都はさすがに治安が良さそうですね。
まあ、どんな街にも闇は有るでしょがね。」
と、カムイが身なりの悪い少年を見ていた。
何日も洗ってなさそうな布の服を着用した緑髪の少年だ。
「どんな街だろうと貧困てなぁ有る。
それに、今のご時世には魔物に対する力がねえ。
儲かる仕事は必然、命懸けになるだろうよ。」
命を失うリスクの少ない仕事など、きっとその日の食事すら買えない事だろう。
「おや、バルト兄さん?
その手に持った物はなんですか?」
バルトは手にカウフマンから貰った多額のガルドを持っていた。
「俺はこういうのは必要とはしねえんだ。
なら、必要なやつに渡すもんだろ?」
バルトその言葉にカムイが苦笑する。
「そんなことが彼のためになるとでも?
あのくらいの子供はギルドでは当たり前のように働いている年頃です。
お金がなく、学も無い……。
それでも、動くかどうかなんですよ。
動かない者は貧困ならざるを得ない。
そんな存在に同情など不要でしょうに。」
カムイの言葉を聞いていたのか、少年がカムイとバルトの方を見ていた。
「あら?
どうしたの?」
すると、身なりの良さそうな女性がその少年の視線に釣られてバルトとカムイに向いた。
「あ、うん。
なんでも……。」
カムイが眉をひそめる。
「あまりにもミスマッチですね。
あの女性と少年の関係性が謎です。
というか、あの女性の周りにはどうしてあんなに子供が集まっているのでしょうか?」
カムイが顎に手を当てて考えていると、女性が本を開いて読み始めた。
カムイはガテンがいったとばかりに指を弾く。
「なるほど、偽善者ですね。」
その言葉に子供達の多くが批難の目をカムイへと向ける。
「おや?
彼女は子供達の暇潰しに尽力しており、どうみてもその行為はお金にはなりません。
この時間を使って働けば目の前の子供達にお菓子を配ることも、良い服を買い与えることも出来るでしょう。
なのに、そうしないというのはあまりにも偽善……。
そもそも、身なりも良いので、良いことをしている自分を世にアピールしているみたいで気に入りません。」
カムイの辛辣な評価についに子供達が立ち上がった。
しかし、バルトもこの評価には大いに賛成だった。
貧困に喘ぐ子供を眼前に知識をひけらかす愚か者。
貧困が求めるのは一時の快楽なのか、長期の安寧か……。
貧困にはそれらを求めることすら出来ない場合がある。
その選択肢を与えてやれるのは裕福な奴等である。
金を与えてやれば、装備を買って狩りが出来る。
金を与えてやれば、食事を買ってその日を生き繋げる。
そうやって仕事という概念を教えて、生きるための方法を教えてやるのも裕福な人間である。
貧困にはそれを実行するだけの余裕すらないのだから。
「リュネさんを悪く言うな!」
「そうだそうだ!
余所者は引っ込め!」
「お姉さんは良い人だもん!」
カムイは肩をすくめる。
「洗脳されきってますね。
愚の骨頂です。
帝都だからこそ、そんな甘えた考えが通用するのです。
自分で状況を変えるだけの努力も行動も起こさない者を救ってあげる義理なんてありませんよバルト兄さん。」
そこまで言われては、バルトもガルドをしまうしかなかった。
「おい、そこの兄ちゃんたち!」
騎士の格好をした者から、身なりの良さそうな者から、一般的な格好をした者や独創的な格好をした者達が怒りを顔に浮かべて後ろに居た。
「おやおや、言い返せないから数で脅迫ですか?
力の無い者達の脅迫など無意味に等しいですよ。
帝都の騎士はレベルが低いと有名ですからね。」
諜報を得意とするカムイだからこそ知り得る情報だ。
バルトは騎士が弱い等とは聞いたことがない。
「子供が貧困に喘ぐ時代を作ったのは今を生きる大人達です。
それを変えることが出来るのも大人達なのですよ?
それをしないのもあなた方なのです。」
カムイがそう言うと、バルトの手を引く。
「行きましょう。
彼らには何を言っても無駄でしょうしね。
救われるだけの理由もないただの愚者に話をして、時間的損をしました。」
カムイの挑発に我慢の限界だったのか、騎士が掴みかかろうとする。
しかし、カムイはその手を掴むと、足を払った。
頭を踏みつけて、腕を捻りあげる。
「いっ、いだぁぁぁあ!!」
絶叫する騎士と、カムイの早業に周りの大人達は躊躇いを顔に浮かべた。
カムイの行動に恐れをなしたということだろう。
「帝都に居る騎士はレベルが低いですからね。
こんなことをして偽善に浸るより、生活水準を向上させて偽善に浸りなさい。
どうせ、子供達の笑顔が嬉しかっただなどという浅い理由の行動なのでしょう?
しょせんは自己満足なんですよ。
どうせ満足するなら、相手をとことん救って差し上げてはいかがです?
子供達の笑顔に救われるだけの価値があなた方には無い。」
カムイは手を離すと、騎士を蹴り飛ばす。
「さて、今度こそ行きましょうか。」
カムイの後ろに付いて歩き、狭い路地へと入る。
「こんなものでデモンストレーションとしては上出来ではないでしょうか?」
カムイが何をもってして、このような行いをしたのか?
それは、表で騒ぎを起こして自分達の価値を見せていたということだ。
どういうことか分からないかもしれないが、要するに、騎士だらけの町で傭兵が雇われるための手法として、騎士よりも強いことを示したということだ。
また、騎士とは対角線に居る、またはそういった仕事でも受けるという意思表示にもなる。
最後に、人目の少ない狭い路地へと入ったのはそんな自分達に用の有る人物を誘い出すためである。
「いや、ありゃ余計な敵まで増やしたんじゃねえか?」
町を歩く度に白い目で見られそうである。
「いえ、なぜかこちらを品定めというか、そういった視線を感じましたのでね。」
カムイの察知に引っ掛かったというわけである。
路地へと入ってきたのはクリティア族のようだ。
「僕らに用が有るのでしょう?
お仕事ですか?」
「ああ、是非ともお願いしたいことが有る。」
そのクリティア族は女性のようだ。
「何を求めますか?」
「某が求めるのは貴様らの命でござる。」
某……。
この個性的な一人称にバルトは目をしかめる。
「おい、カムイ……。」
「時として余計なものが連れるのがこのデモンストレーションの悪いところですね。
はぁ、新しいお仕事を見繕おうと思っていたのに……カタハさん。
あなたはどうして僕たちの命を?」
カタハはニバンボシの鞘に左手を当て、右手で柄を持つ。
「なに、私は見定めようと思ったまでだ。
指名手配の取り下げが有り、本当に君達が取り下げられるべき者なのかとな?」
「カムイ……。
どうすんだよこいつ?」
カタハの実力はカプワトリムでプレデントとの戦闘の際に嫌と言うほどに見た。
「やれやれ、カタハさん、あなたはギルドをなんだとお思いですか?」
「志を同じくする者達の集いだ。」
それを聞いてカムイは頷く。
「つまり、我々は正義の味方なんかでは無いのですよ。
汚れ仕事でさえも互いの利益となるならば行うのが我々です。
あなたのギルドが僕らと同じとは言いません。
ですが、存じておいていただきたい。」
カムイは口の端を吊り上げて笑う。
「我々
まあ、バルト兄さんは例外かもしれませんがね。」
カムイがバルトを見る。
バルトが受ける仕事は実益が乏しい物だ。
なぜなら、長期の仕事を1つ受けるよりも、短期の仕事を何度もした方が儲かるからだ。
「まあ、けれど、バルト兄さんはその仕事を受けるだけのメリットがきっと有るのでしょう。
さて、僕は実益のためのデモンストレーションを行うのはやぶさかではありません。
カタハさん、僕たちが何者かに見られているのはお気付きですか?」
バルトが視線をさ迷わせる。
「カタハ意外にも居るってのか!?」
バルトがキョロキョロと視線を動かしていると、カタハの後ろから一人現れた。
そいつはローブを着用しており、腕捲りをする。
その腕には青い火を灯した蝋燭が描かれていた。
「某はそのような戯言に踊らされはせぬ!
お主らを見損なったぞ……。
某も正義の味方などではない……だが、自ら邪道に踏み込む貴様らを見ていると、刀を抜かずしてはいられない!
正義の味方に代わり某が成敗いたす!」
カタハは姿勢を低くし、バルト達へと駆けて行く。
狙いはカムイのようだ。
カムイは肩を竦めてカタハへと駆けていく。
「覚悟!」
ーー刹那。
カタハのニバンボシが一閃される。
煌めく刃が切ったのは虚空。
すなわち、カムイにカタハの攻撃が当たることはなかったのだ。
カタハの目が見開かれる。
スタッとカムイの着地音がした。
カムイはカタハの背後に着地した。
何があったのかバルトには見えていた。
故に、カムイがカタハの後ろを取った瞬間、クラウソラスを向ける。
抜き放たれたニバンボシを咄嗟にガードに使うが、背後からカムイがカタハの首を刃で撫でる。
「武器を捨てて貰いましょうか?」
カムイの言葉にカタハは悔しそうに歯噛みすると、ニバンボシを地面に置いた。
「くっ……。」
バルトは落ちたニバンボシを拾う。
「お前一人で俺達に勝てるわけがないだろう?」
「バルト、お前は共に旅した短い期間でも悪人ではないと思えたでござる。
カロルに慕われていた君がよもやカムイと同じくした考えの持ち主だと思うと残念でござるよ。」
カタハの手足をバルトが縛ると、カムイが地面に転がした。
あのとき、カムイが何をしたのかは明白だ。
単純に飛び越えたのだ。
カタハの攻撃をジャンプで回避し、背後に回った。
ただ、それだけのことだ。
「さて、お話が有るのでは有りませんか?」
カムイが目を向けるとローブの人間がバルトとカムイへと近付いてくる。
「仕事をやろう。
目的地はマンタイク……。
我々と共に来るが良い。
ーーバルト・イーヴィル。
ーーカムイ・シルト。」
バルトはカムイを見る。
カムイは頷いた。
「十中八九例の案件かと……。」
だが、根絶するには目の前の人物を倒すよりも、奴等の拠点を潰す方が確実である。
そうなれば答えは1つだ。
「おもしれぇ、やってやろうじゃねえか!」
「明日の朝に下町に来い。」
そう言ってローブの人間が路地から消えていく。
残されたカムイとバルトは地面に転がしたカタハへと視線を向けた。
「さて、カタハさんをどうしましょうか?
余計なことを話されても面倒ですし、始末しますか?」
カムイの言葉にカタハが息を飲む。
「まあ、待てよカムイ。
カタハにはこっちの事情を説明しても良いんじゃねえか?
こいつの命を取るよりも利用できるならした方が何倍も良いだろうよ?」
バルトの言葉にカムイが溜め息を吐き出す。
「また、お節介ですかバルト兄さん。
偽善もほどほどにしないと、余計に苦しませる結果になるやもしれませんよ?」
カムイの言葉を受けて、それでもカタハの命は奪いたくはなかった。
「可能性の芽まで摘む必要はねえだろ?
カタハだってきっと信じてくれるさ。」
「甘いですよバルト兄さんは……。
では、説明してみてあげてください。
その反応如何にして、処遇を決めましょう。
全く……あなたという人は全く……。」
『バルト・イーヴィル』
【種族】始祖の隷長
【所属】紅の絆傭兵団
【通り名】《頼りの絆:ラストリゾート》
【装備品】
クラウソラス
コンパクトソード+1
ソードピストル・試作黒匣
フィートシンボル
武醒魔導器
【通常技】
飛行
エアル吸引
分身
【術技】
蒼破刃
ファーストエイド
ファイアボール
リカバー
シャープネス
『カムイ・シルト』
【種族】人間
【所属】紅の絆傭兵団
【装備品】
オウカ+1
ナイトソード
ブーツ
【通常技】
挑発
察知
変装
【術技】
ローバーアイテム
『カタハルト・シホルディア』
【種族】クリティア族
【所属】暁の雲
【装備品】
ニバンボシ
【技】
不明
『レシピ』
サンドイッチ
おにぎり
サラダ
野菜炒め
海鮮丼
超絶・海鮮丼☆
『共有戦利品』
亀の甲羅×2
海苔×1
グミの元×1
サーモン×2
オレンジグミ×1
大きなハサミ×5
トルビフィッシュ×2
蟹の甲羅×3
口ばしラッパ×1
チキン×1
『貴重品』
ソードピストル・試作黒匣×2
武醒魔導器×1