テイルズ オブ ヴェスペリア ~始祖の隷長の傭兵~   作:バルト・イーヴィル

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帝都ザーフィアスへと到着したバルトは、エルリックの招待を受けてカンディライト家の邸へお世話になることになった。

休息するバルトだったが、懐かしい夢を見て、過去に浸る。

また、寝起きに謎の胸騒ぎがし、再び眠ることも出来なかった。

そのため、気分転換に少し歩くことにした。

すると、薄着でエルリックが呟いており、バルトはその話を聞くこととなる。

なんでも、エステリーゼ姫がバルト達と会って話がしたいのだとか。

バルトとしては、ベリウスを殺した憎い相手故に、複雑な心境だった。

それでも、罪の帳消しをしてもらうための条件ならばと会うことを承諾し、バルトは城へと赴くのだった。


第11話【帝都ザーフィアス・城】

第1章『託された物』

 

朝となり、城に招かれるということで、紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)としての正装をする。

 

淵に白を使っている真っ赤なジャケット、黒い長袖のインナーシャツ、シャツの上から巻いた白のベルト、白のパンツと黒のシューズ。

 

バルボスはこれを普段着として使っていたが、それはボスだからである。

 

細く筋肉質なバルトにとってはジャケットが鬱陶しいと感じるため、ユニオンでの集まりぐらいでしか着ていない。

 

「これを着用するとバルボスさんを思い出しますね。」

 

カムイが懐かしそうに呟く。

 

「ああ、パンパンの服が印象的だったな。」

 

ぴっちりと肌に張り付いて隙間無い腰の部分とか、よく破れないもんだと思ったりもした。

 

「あれ?

 

バルト兄さんはベルトを上に巻くんですね。」

 

カムイはインナーシャツの下に巻いていた。

 

「バルボスにこう着ろって教わらなかったのか?」

 

「言われたのですが、姉さんから、こう着た方が格好いいと言われたので……。」

 

シムカから吹き込まれたらしい。

 

「バルト兄さんも僕と同じにしませんか?」

 

カムイとバルトで着こなしが違うのも変だろうと思い、バルトもカムイと同様の位置にベルトを巻いた。

 

「二人とも似合ってる。」

 

アスピオのフード付きローブを着用したシルトが歩み寄る。

 

「シルトさんこそお似合いですよ。

 

おや、エルリックさんも準備出来たみたいですよ。」

 

エルリックは、騎士の格好をしていた。

 

「ビッグボスには今回は留守番して貰わねばならない。

 

その間は爺やに面倒を見てもらえるように頼んでおいた。

 

さて、君達も正装をしたようだし、行くとしようではないか。」

 

エルリックに案内される形で城へと案内される。

 

「こんな間近に見たことは有りませんね。」

 

「待て、柱に何をするつもりなんだ!」

 

カムイが記念にと城に名前を掘ろうとしているのをエルリックが止める。

 

「カムイ、折角来たんだ。

 

何か記念になるもの貰って帰ろうぜ。」

 

「待て、その壺はやめろ!」

 

バルトがペシペシと壺を叩くと、エルリックが青い顔でバルトの手を取る。

 

「大人しくしていてくれないだろうか?」

 

ぎりぎりと力を込められ、カムイとバルトは痛みに呻く。

 

「うぐぉ、分かった!

 

分かったから!」

 

「いっ、痛いです!

 

分かりましたから!」

 

二人で根をあげて、大人しくエルリックに引率される。

 

「カレーの臭いがする。」

 

言葉少なに、シルトが食堂と思われる場所の扉へと消えていく。

 

「待て!

 

くっ、バルトとカムイはここで大人しくしているように!」

 

と、念押しされ、エルリックが扉の中に消えていくと、引きずるようにシルトを連れてきた。

 

「後で食べさせてやるから、まずは用事を済ませるぞシルト。」

 

こころなしか落ち込んでいるように見えなくもない。

 

「分かった。」

 

城を進んでいると、昨日から感じていた胸騒ぎがどんどん強くなっていった。

 

大人しくさせられ、歩いて行き着いたのは白い扉の前だった。

 

扉の先にこの胸騒ぎの正体が有る。

 

なぜかは分からないが、そんな気がした。

 

エアル暴走の時に近いようなそんな嫌な予感。

 

エルリックがノックをして先に入る。

 

「失礼致します。」

 

エルリックの姿が消えてから、しばらくして、ピンクの髪をした女性が現れた。

 

バルトの心臓がドクンと跳ねる。

 

「っ……!?」

 

バルトの背筋に嫌な汗が流れ、身体中の毛穴が警戒するかのように開き、鳥肌が立つ。

 

この女は危険だと、バルトの体が拒絶していた。

 

「お越しくださりありがとうございます。

 

私がエステリーゼ・シデス・ヒュラッセインです。

 

あなた方がエルリックの言うバルト・イーヴィルとカムイ・シルトにお間違いないです?」

 

こいつが、話に聞いたエステリーゼ・シデス・ヒュラッセイン。

 

ベリウスを殺した女。

 

そして、先程からバルトの危険信号が全力で警鐘している存在。

 

「バルト、エステリーゼ様の問いに答えろ。」

 

バルトが険しい面持ちでいると、エルリックがエステリーゼの後ろから出て来てバルトに話すようにと促す。

 

「あ……あぁ、俺がバルト・イーヴィルで間違いない。」

 

「僕もカムイ・シルトで間違いないですよ。」

 

バルトとカムイが答える。

 

「この度はあなた方のご活躍をエルリックから拝聴いたしました。

 

また、届け物の中にパティとカロル、それにカウフマンさんからの手紙も入ってました。

 

あなた方の無罪をパティの手紙が証明していました。

 

この度は騎士団がご迷惑をおかけしたことを心よりお詫び申し上げます。」

 

エステリーゼは目を閉じてバルトの手を取り、頭を下げる。

 

バルトの体がこれ以上無いくらいに危険信号を発する。

 

バルトは咄嗟にエステリーゼの手を払った。

 

「俺に触んな!」

 

バルトが手を払った直後、弾かれたようにエステリーゼが床に尻餅をつき、間にエルリックが割って入って背に庇う。

 

「何をするかバルト!

 

大丈夫ですか?

 

エステリーゼ様。」

 

エルリックがエステリーゼへと手を伸ばし、エステリーゼを引き起こす。

 

「大丈夫です。

 

今回の指名手配は取り消しとさせて頂きました。

 

それでサヨナラとしても良かったのですけど……。

 

ほぼ騎士団の誤解から指名手配をしていましたので、ご迷惑をおかけしておいてそれだけでは示しがつかないのではないかとリタに言われたので……。

 

そこで、あなた方にリタからの発明品を1つお渡しいたします。」

 

そう言ってエステリーゼはバルトの前に1つの剣と銃が合わさった物を差し出した。

 

「これはソードピストルと言って、剣としての機能と自動拳銃としての機能の弾丸の装塡や発射、空薬莢の排出が引き金を引くだけで自動的に行われる……です。

 

また、試験段階ではありますが、精霊の力を活用できる黒匣(ジン)という技術が組み込まれています。

 

リタやウィチルとアスピオの研究員達が魔導機(ブラスティア)に代わる力として共同開発し立証し組み込んだ試験サンプルです。

 

運んでもらっていたあの箱はその試験サンプルを積めた物でした。

 

これにより、理論上ではリタでなくとも精霊の力を引用できるのだそうです。」

 

黒匣(ジン)というソードピストルをバルトは受け取る。

 

「これは、武醒魔導器(ボーディブラスティア)を秘密裏に作っている組織に対抗するための術として用意してもらったものです。

 

パティから預けられているそれは、暗闇の灯籠(カオスキャンドル)という組織が作ったものです。

 

それを持つことで絶大な力を得られますが、パティからそれを託されたということは恐らく、バルトさんは暗闇の灯篭(カオスキャンドル)に対抗するために必要だと考えたのでしょう。」

 

パティがそんな事を考えるとは到底思えない。

 

というか、詳しい事情はダーリンが知ってるとかいう程に他人任せだった気がする。

 

「パティちゃんはそんなことを考える子でしょうか?」

 

バルトの疑問を復唱するようにカムイが呟く。

 

「パティから、詳しい事情はダーリンが知ってるって言ってた。

 

ダーリンてのに記憶はねえか?」

 

バルトが訪ねるとエステリーゼは頷く。

 

「はい。

 

ユーリの事だと思います。

 

ユーリは暗闇の灯篭(カオスキャンドル)を捕らえるために、走り回ってて、私は何処に居るかまでは把握してません。」

 

ユーリ……。

 

確かカロルと出会ったときそんな名前を聞いたな。

 

「ユーリも暗闇の灯篭(カオスキャンドル)から入手した武醒魔導器(ボーディブラスティア)を持っています。

 

もしよろしければ、この黒匣(ジン)を届けて貰えませんか?」

 

エステリーゼが差し出したのは、もう一本のソードピストルだった。

 

「ユーリにも力が必要です。

 

私はこの城から動くことは出来ません。

 

ですから、私の代わりに届けて貰えませんか?」

 

ユーリという人物は暗闇の灯篭(カオスキャンドル)を捕らえるために走り回っている。

 

つまりは、バルトの始祖の隷長(エンテレケイア)を守るということに貢献していることになる。

 

ならば、断る事もないだろうと、バルトは承諾した。

 

「分かった。

 

これをユーリという人物に届ければ良いんだな?」

 

「ありがとうございます。

 

私からの用件と、お話は以上です。」

 

エステリーゼがペコリと頭を下げると、エルリックがエステリーゼを部屋へと促し、扉を閉めて大きく息を吐き出した。

 

「お前が手を払ったとき、私は気が気では無かったぞ……。」

 

バルトの警鐘信号が、エステリーゼが部屋に戻ったことで薄れていく。

 

「俺も気が気ではなかったからな。」

 

普段の自分ならば有り得ない対応に、自分自身が一番驚いていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第2章『味覚音痴』

 

城の騎士用の食事スペースへとエルリックに案内される。

 

シルトが言っていたカレーを約束通り食べさせてやるためなんだとか。

 

ハルルの矢の事も報告しないといけないということで、シルトはこのまま残るのだそうだ。

 

バルトはユーリという人物にソードピストルを届けるという用件が有る。

 

だが、ユーリが行方不明なので、急ぐこともないと一緒に食事をさせてもらおうと、カムイも連れて騎士食堂へと入った。

 

すると、金髪碧眼の好青年が奇妙なカレーと思われる物を食べており、満面の笑みで「美味しい。」と感想を漏らしていた。

 

その好青年を見た途端にエルリックが顔をひきつらせる。

 

「うっ、フレン騎士団長……。

 

まさか、このカレーは騎士団長が?」

 

この好青年こそがフレン騎士団長。

 

バルトも顔を見たことがある。

 

向こうは知らないだろうが……。

 

そんなことよりも、カレーの鼻孔を擽るスパイシーな香りがバルトの食欲を駆り立てる。

 

食べなくても飢えない。

 

けど、美味い物は食べたい。

 

食欲には逆らえず、カレーの鍋に手を伸ばすシルト。

 

皿に盛り付け、食べようとする様をエルリックが顔を真っ青にして慌てている。

 

「シルト!

 

ダメだ、それを食べては……!」

 

シルトがカレーを口にし、無言で机に突っ伏した。

 

口の端からカレーが滴っている。

 

「気絶するほど美味いというやつか?」

 

バルトが首を傾げる。

 

すると、エルリックが額に手を当てて深く溜め息を吐き出した。

 

「本当にそうならどれ程良かった事か……。」

 

この様子はただ事では無さそうだ。

 

カムイを見ると、カムイはカレーの鍋を流しに蹴り倒していた。

 

「僕の嗅覚を侮らないで頂きたい。

 

このカレーからは生臭い磯の香りがしました。

 

色も若干おかしいです。

 

これは、犬の餌と言っても過言ではありません。

 

いえ、犬の餌を食べた方がましでしょうね。」

 

五感の鋭いカムイが言うのだから間違いないだろう。

 

エルリックの反応、シルトの反応から統合して、目の前のフレン騎士団長に当てはまる単語が浮かび上がる。

 

「味覚音痴?」

 

「音痴など生易しい。

 

騎士団長は味覚馬鹿だ。」

 

エルリックからも酷い言われようである。

 

すると、フレン騎士団長がエルリックを見る。

 

「やあ、エルリック隊長。

 

僕は旅をしていたころを思い出してね。

 

久しぶりにカレーが食べたいと思ったんだ。

 

ユーリの作ってくれたコロッケや、カロルの作ってくれたオムライスも美味しかったけど、たまにはってね?

 

良かったら君も一緒にどうかな?」

 

フレンが気を効かせてカレーを出そうとして、カムイに気が付いた。

 

「なっ!?

 

君は何をしている!

 

そのカレーは僕が作ったものだ!

 

食べ物を粗末にするんじゃない!」

 

カムイはカレーを空にすると、鍋を濯ぎ始める。

 

「粗末にしたのはあなたです。

 

アレは人の食べる物ではありませんよ。

 

本当の料理というのを教えて差し上げますよ。

 

バルト兄さんが……。」

 

と、カムイがバルトを指名すると、フレンがバルトを見た。

 

「彼がかい?

 

見たところ、料理人という訳ではなさそうだけど……。

 

まあ、そこまで言うのなら、教えて貰おうかな。」

 

フレンが顎に手を当てて、バルトを訝しげに眺めている。

 

「エルリック、この味覚馬鹿には何を食べさせても美味いって言うんじゃねえか?」

 

バルトの言葉にエルリックが頷く。

 

「ああ、その通りだが、食材も貴重なんだ、あまり無駄になるようなことはやめてくれ。

 

作るなら、皆が食べられる物にしてくれると助かる。」

 

エルリックから念押しされたので、所有しているレシピを眺めながら、手持ちの材料と相談しているとエルリックが厨房の倉を開き、食材を見せてくれた。

 

「この中の物を自由に使ってくれて構わない。

 

ただ、恐らくは私も食べる流れになるかもしれないから、くれぐれも……。」

 

「しつけぇ。」

 

エルリックの額を指で弾き、食材を眺めて、とあることに気が付いた。

 

超絶・海鮮丼☆の食材が揃っている事に。

 

良く考えなくても、ここは帝都ザーフィアス。

 

そして、騎士だけでなく、姫や皇帝も住まう場所である。

 

となれば、食材もそれに合わせてピンからキリまで用意されていたとしても不思議ではない。

 

「決めた。

 

作ろう。」

 

超絶・海鮮丼☆を作ることに決めたバルトが材料を豪快に捌いていき、分量通りに作っていく。

 

そして、出来たものをエルリックとシルトとカムイとフレンの前に置いた。

 

盛り付けられた魚介類が視覚から美味い。

 

磯の香りが空腹を誘発して嗅覚から美味い。

 

箸が触れた食材から新鮮さが伝わり触覚から美味い。

 

皆の腹が鳴り早く食べさせろと聴覚から美味い。

 

心の底から食べたいと心から感じるの感覚から美味い。

 

そして、口に入れた途端に広がる幸福感で味覚から美味い。

 

ようは、六感全てが美味いに違いないと認めるそれが超絶・海鮮丼☆というわけだ。

 

無論、そんな物がおいそれと作れる訳ではないのは作ってみてバルトが一番良く理解した。

 

「やっぱり食材揃えるの無理なやつだったわ。」

 

カムイは鋭すぎる五感故に涙を流すほどに満足そうにしている。

 

また、感情を顔に出しにくいシルトも満足そうにしていた。

 

エルリックも大興奮していた。

 

フレンだが、彼も美味しそうに食べている。

 

「あ、美味しい。

 

うん、美味しいな。

 

これは確かに教えられたかもしれないな。

 

良ければレシピを書き写させてもらえないかな?」

 

フレンの提案にバルトは首を振る。

 

「いや、やめた方が良いと思うぜ。

 

兵糧が今ので海産物結構使ったから、こんなの続けてたら食料難に陥るってもんだ。」

 

バルトが倉を指差すと、エルリックが顔を覗かせて顔を真っ青にしていた。

 

「というわけだ。」

 

 

 

 

 

 

 




『バルト・イーヴィル』
【種族】始祖の隷長
【所属】紅の絆傭兵団
【通り名】《頼りの絆:ラストリゾート》
【装備品】
クラウソラス
コンパクトソード+1
ソードピストル・試作黒匣
フィートシンボル
武醒魔導器
【通常技】
飛行
エアル吸引
分身
【術技】
蒼破刃
ファーストエイド
ファイアボール
リカバー
シャープネス


『カムイ・シルト』
【種族】人間
【所属】紅の絆傭兵団
【装備品】
オウカ+1
ナイトソード
ブーツ
【通常技】
挑発
察知
変装
【術技】
ローバーアイテム

『シルト・スタンダード』
【種族】人間
【所属】アスピオ研究員
【装備品】
スターロッド
ネコガード
ミスティマーク
【通常技】
不明
【術技】
ファイアボール
ストーンブラスト
シャンパーニュ
スプレッドゼロ

『ビッグボス』
【種族】プチウルフ
【所属】バルト
【装備品】
魚人の得物
マント
【通常技】
追跡
マーキング
【術技】
不明

『エルリック・カンディライト』
【種族】人間
【所属】騎士団
【装備品】
ナイトソード・リアル
ナイトシールド
【通常技】
不明
【術技】
フォトン
ファーストエイド
魔神剣


『レシピ』
サンドイッチ
おにぎり
サラダ
野菜炒め
海鮮丼
超絶・海鮮丼☆


『共有戦利品』
亀の甲羅×2
海苔×1
グミの元×1
サーモン×2
オレンジグミ×1
大きなハサミ×5
トルビフィッシュ×2
蟹の甲羅×3
口ばしラッパ×1
チキン×1

『貴重品』
ソードピストル・試作黒匣×2
武醒魔導器×1

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