テイルズ オブ ヴェスペリア ~始祖の隷長の傭兵~   作:バルト・イーヴィル

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人ではない何かであるということを悟られたバルト。

しかし、カムイはそんなバルトを受け入れた。

その道中、冒険王という旅の宿屋と遭遇する。

ハルルにて、満足に休むことなく出立したバルトは疲れを癒すべく滞在することにした。

だが、目覚めるとバルトを待ち構えるようにエルリックとシルトが居た。

エルリックは荷物護衛のための同行、シルトはハルルの矢を進言するための同行ということだった。

共に歩き、たどり着いたデイドン砦は封鎖されており、もぬけの殻だった。

良く観察してみると、黒の髪を長くした男と連れ添うように歩く蒼毛の犬が居た。

黒髪の男は腕にコアのある武醒魔導器をしていた。

すかさず飛び出したバルトはその男と接触、しかし、互いの考えがぶつかり合い、戦いになった。

直ぐに自分よりも上の実力者であると分かったバルトは、惜しげもなく始祖の隷長の力を解放し、なんとか互角の戦いに持ち込んだ。

しかし、不利と考えた黒髪の男は撤退する。

バルトも深追いはせずに仲間が入れるようにデイドン砦の扉を開くのだった。


第10話【帝都ザーフィアス・貴族の街】

第1章『もぬけの殻』

 

バルトが開く事になったデイドン砦の扉。

 

合流することが出来たのだが、皆で砦の中を探してみても、結局誰にも出会う事が叶わなかった。

 

バルトが出会ったあの黒い長髪の男は何者なのか?

 

暗闇の灯籠(カオスキャンドル)とは何なのか?

 

砦では何も出来る事は無いようなので、そのまま帝都ザーフィアスを目指すことにすることになった。

 

「争った形跡も見当たりませんでした。

 

また、人が隠れているという気配もありません。」

 

「ガウッ!」

 

ビッグボスとカムイをもってしても見付からないとなれば、本当に居ないということなのだろう。

 

「撤退命令が出たということなのだろう。

 

このデイドン砦に関しては、駐屯しているのはソディア隊長だ。

 

フレン騎士団長からの命令だと思われる。」

 

「って、エルリックは言ってるが、カムイはどう思う?」

 

バルトの言葉にカムイは肩をすくめる。

 

「現状、ここデイドン砦を撤退するだけの理由が存在しません。

 

デイドン砦はギガントモンスターすらも阻むだけの力を持っています。

 

ここを放棄しなくてはならないということは阻むことの出来ない……内側からの何らかの脅威ではないでしょうか?」

 

「内側からの脅威とは、なんだというのだ?」

 

エルリックがカムイへと訪ねる。

 

「内部分裂とか。」

 

シルトが呟く。

 

しかし、エルリックは首を振った。

 

「有り得ない。

 

今の騎士団はフレン隊長の知り合いで固められている。

 

ユルギス隊のユルギス隊長、エルヴィン副隊長、シャスティル小隊長、ヒスカ小隊長。

 

ルブラン隊のルブラン隊長、アシェット副隊長、アデコール小隊長、ボッコス小隊長。

 

フレン騎士団長直属の近衛隊であるソディア隊のソディア隊長。

 

それに、私も含めてだ。

 

内部分裂をするとは思えない。」

 

エルリックの言葉にシルトは再度思考する。

 

「それは、騎士団だけでの話。

 

評議会は別。」

 

「し、しかし、評議会は……。

 

いや、否定は出来ないな。

 

騎士団は大きく変わったが、評議会はラゴウ執政官の死の他に変化は生じてはいない。

 

腐った内情は未だに変化は無いと考えて良いだろう。」

 

そんな話をしていると、カムイが手を上げる。

 

「と、推測ではいくらでも仮説が立てられますね。

 

どうです?

 

お話は更なる情報の取得をしてからということにしては?

 

帝都ザーフィアスも目前に迫っております。

 

悪い提案では無いかと……。」

 

カムイの提案にエルリックが頷く。

 

「うむ、そうだな。

 

少ない情報では無限大の思考に陥るだけだ。

 

進もうバルト。」

 

そう言って、エルリックが荷物を抱える。

 

「だな。」

 

更なる情報の取得を目的に含めて帝都ザーフィアスを目指して歩くのだった。

 

帝都ザーフィアスの周辺には強い魔物が少ない。

 

というのも、定期的に騎士団が魔物を狩りに出掛けているからである。

 

バルトは帝都ザーフィアスに近付くギリギリの橋の上で立ち止まる。

 

「俺たち、エルリックが罪を消してくれんの待ったほうが良いよな?」

 

「そうですね。

 

どこで待ちましょうか?」

 

バルトとカムイが考えていると、エルリックが頷く。

 

「それなのだが、我が屋敷へと招待しようと思っている。

 

私は貴族の端くれでな?

 

この魔物が出るかもしれないような場所で待っているのも辛いだろ?

 

それに、それは私も心苦しいからな。」

 

バルトとカムイは頷く。

 

「まあ、それで良いなら俺は構わないが、貴族街は警備が厳しいんじゃないか?」

 

貴族街にはバルトはあまり入ったことはないが、騎士が巡回をしていたりした筈だ。

 

「ふふっ、砦が開くまでの間にカムイと話をしていてな?

 

カムイは変装が得意と言うではないか?

 

バルトとカムイが変装すれば何の問題もない。」

 

カムイが変装の道具を取り出す。

 

「さて、では、しばしお待ちください。」

 

カムイに待たされ、しばらくしてからカムイがバルトの肩を叩く。

 

「出来ましたよ。」

 

その姿は果たして……。

 

カムイから手鏡を渡される。

 

「おい……。」

 

「どうされました?」

 

ニコニコしているカムイの腕を掴む。

 

「これ、不味いだろ。」

 

バルトの姿は、レイヴン。

 

もとい、シュバーン隊長そのものだった。

 

「エルリックさんがシュバーン隊長のファンだということで、記憶に有るシュバーンさんで作ってみたのですが……。」

 

「大丈夫なのか?」

 

バルトがエルリックへと目を移すと、親指を立てられた。

 

……大丈夫らしい。

 

「じゃ、じゃあ、行くか。

 

ちなみに、カムイは誰に変装するんだ?」

 

バルトがカムイへと目を移すと、変装を始めていた。

 

そして、目の前でフレン騎士団長へと変わっていく。

 

「ストーップ!

 

ダメだろ!

 

それはやっちゃダメだろ!」

 

カムイが「なぜです?」と聞きたそうに首を傾げる。

 

「仕方ないですね……。

 

では、僕はレイヴンさんにしておきます。」

 

と、レイヴンの姿となるカムイ。

 

それも正直どうかと思ったが、フレン騎士団長の格好をされるよりかは遥かにマシだ。

 

レイヴンとシュバーンを引き連れたエルリックというなかなかにシュールな光景となっている。

 

なぜならば、シュバーンもレイヴンも同一人物であり、一緒に行動するなど有り得ないからだ。

 

「口調も真似なくてはですよ。

 

なので、俺様はこういう風に話すつもりだけど、あんちゃんはどうすんの?」

 

凄く声が似ていた。

 

どことなく雰囲気も似せているらしく、バク転からの親指を立てる仕草はレイヴンそのものと遜色が無い。

 

「シュバーンとかあまり知らねえよ。

 

まあ、言葉少なにさせてもらわぁ。」

 

あんまり喋らなければボロは出ないはずだ。

 

バルトはそう願い、エルリックの後に続くようにザーフィアスの貴族街側から入った。

 

入った途端、シュバーンとエルリックへと視線が集まる。

 

「やっぱり、逆のが良かったかも……。」

 

「バク転たくさんしないとですよ?」

 

それは嫌だな。

 

「このままでいい。」

 

我慢をして、エルリックへとついていくと、赤い屋根の豪邸に到着した。

 

灰色の煉瓦作りの古めの館だ。

 

エルリックが扉をノックすると、燕尾服にモノクルをした白髪のお爺さんが出てきた。

 

「はい、どなた……おお、エルリック様ではございませんか。

 

お帰りなさいませ。」

 

エルリックは片手を挙げる。

 

「うむ、こちら客人をお連れした。

 

存じておるだろう?

 

シュバーン元隊長と天を射る矢(アルトスク)のレイヴン様だ。

 

後ろに控えてらっしゃるのは元アスピオ研究員のシルトという。

 

長旅でお疲れだ。

 

疲れを癒すのに是非我が家にと招待したのだ。」

 

「おお、かしこまりました。」

 

うやうやしく頭を垂れる執事。

 

「すまない。

 

世話になる。」

 

と、シュバーンぽさが出せていれば良いが、言葉少なでも挨拶はしておく。

 

「俺様もお世話になっちゃっうけどいきなり悪いね!」

 

快活に笑うカムイ。

 

物凄くレイヴンぽい。

 

「いえいえ、滅相も御座いません。

 

では、こちらにお越し下さいませ。」

 

館に入ると階段を登っていき、一番手前の部屋へと通される。

 

「どうぞこちらで御休みになられてください。」

 

エルリックがお爺さんに言う。

 

「私はエステリーゼ姫にお届けものが有る。

 

故にその間ゆっくり休んでくれ。

 

では、行ってくる。」

 

部屋のベッドへと倒れ込み、ふかふかを堪能する。

 

「では、お言葉に甘えて休みましょうか。」

 

布団の中で意識が暗転する。

 

目が覚めたら無罪となっていれば良いのだが……。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第2章『親の仇』

 

そこは確かな足場の無い、空の上でのことだ。

 

バルトは生まれたときは空に居た。

 

世の理など何も知らないバルトは、生まれたままの姿でノードポリカの戦士の殿堂(パレストラーレ)の闘技場に降り立った。

 

運が良く、満月の夜だったこともあり、闘技場には人が居らず騒ぎにはならなかったが、そこでバルトは運命的な出会いをする事になる。

 

夜の闘技場に降り立ったバルトはそこからどの様に飛び回ったかは定かではない。

 

気が付いたら目の前に巨大な狐が居た。

 

月明かりに照らされる巨大な狐と交わした言葉、教えられたこの世の摂理と条理。

 

これが、ベリウスとバルトの最初の邂逅だった。

 

ーー目が覚める。

 

懐かしい夢を見た。

 

柔らかい布団から起き上がると、隣のベッドでカムイがまだ眠っていた。

 

あくびをして、バルトは体を鳴らす。

 

パキパキと首や腰が鳴る。

 

「はぁ……。」

 

窓の外に満月が見える。

 

長らく眠っていたらしい。

 

エルリックはもう戻っただろうか?

 

話でも聞こうかと思ったが、夜に向かうのも悪い。

 

部屋で大人しくしておこうかと思った矢先、胸のうちに謎の焦燥が駆け巡る。

 

この感覚は一体?

 

不安のような何かがずっと胸の内に有る。

 

この感覚はなんだ?

 

バルトは苦悶の表情を浮かべ、この状況が変化すれば程度の気持ちで部屋の外へと出た。

 

すると、何やら階段の下から話し声が聞こえた。

 

「エステリーゼ様が直々にお会いしたいだなどと……。

 

いや、しかし、私の立場上断れないが……。

 

いや、けれど彼らは……。

 

どうしたら良いのだ。」

 

満月を眺めるエルリックが憂いを顔に浮かべていた。

 

普段はシニョンになっている髪の毛は下ろされており、月明かりに照らされる彼女の髪はオレンジ色に輝いて見えた。

 

騎士の鎧で覆われていたため、分からなかったが、はっきりと主張し、そこに山と谷を作り上げた胸が、薄く透け透けの寝巻きを持ち上げていた。

 

ヘソが完全に出ており、あれでは下手をすれば風邪をひいてしまうのではないかと思えた。

 

「私がすべきは命令に殉じる事で……。

 

だが、罪の取り消しの条件としてそれはあまりにも彼らの身を保証できーー。」

 

「エルリック、お前、寝巻き薄すぎないか?」

 

バルトがエルリックの後ろから肩に手を置く。

 

「ひゃ!?きゃぁぁぁあ!!」

 

思いの外乙女な反応を受けた。

 

手を捕まれ、担ぎ上げられ、流れるように窓へと体が飛んで行く。

 

ーーバルトは窓の外に投げられていた。

 

「へ!?うわぁぁぁあ!!」

 

背中に冷や汗が流れた。

 

地面に叩き付けられる前に浮遊する。

 

「あ、危ないだろエルリック!」

 

文句を窓の外からエルリックへと訴える。

 

「す、すまない!

 

いきなりだったから、つい!」

 

ついで投げられ、地面に叩き付けられるのは勘弁願いたい。

 

「で、身の保証がどうとか言ってたけど?」

 

エルリックが気まずそうな顔をする。

 

「聞いていたのか……。

 

今日、直訴してきたのだが、罪の取り消しをする代わりに君達を連れてきて欲しいと頼まれてしまった。

 

共にブルータルを倒したということと、荷を届けてくれたこと等色々と話した。

 

明日、エステリーゼ様にお会いしてはもらえないだろうか?」

 

エステリーゼ。

 

その名前を聞いたとき、バルトはどのような顔をしていたのだろうか?

 

エルリックが顔を強ばらせ、バルトの二の句を待つように冷や汗を額に浮かべていた。

 

「っ……。」

 

エルリックの顔を見て、自分の失態に気が付いた。

 

満月を見て、深呼吸をする。

 

「ビビらせちまって悪かったな。

 

分かった。

 

明日だな。」

 

明日、エステリーゼに顔を見せる。

 

積年の恨みと言うほどの時間は立っていないが、時間が立っていないからこそ、恨みがまだ新しく、記憶に残っている。

 

「……。

 

今、私は君をエステリーゼ様に会わせるべきでは無いと思ってしまった。

 

バルトに聞きたい。

 

エステリーゼ様と何かあったのか?」

 

エルリックの問いに首を振る。

 

「無いよ。

 

俺とは何にもな……。」

 

自分に関係ないところで、自分が深く傷付く結果に結び付いたというそれだけの関係だ。

 

「そう……か。

 

明日はなるべく大人しくしていてもらえないか?

 

バルトがどのような事情を抱えているかは知らないが、恐らくは良くない感情を持っているのではと感じた。」

 

監視ということだろう。

 

「ああ、その方が俺としても安心だ。」

 

「指名手配は一時的に取り消しになっているから、普段の君の姿で町を歩いて大丈夫だ。

 

さて、私ももう寝るとしよう。

 

バルトも寝るといい。」

 

エルリックが階段を登っていく。

 

「……エステリーゼ。」

 

気が付けば拳をキツく握りしめていた。

 

手から力を抜くと、僅かばかり痺れる。

 

「さっきまで寝てたし、寝れやしねえな……。

 

うし、カムイ起こして話し相手にでもするか。」

 

こうして、バルトは朝を迎えたのだった。

 

 




『バルト・イーヴィル』
【種族】始祖の隷長
【所属】紅の絆傭兵団
【通り名】《頼りの絆:ラストリゾート》
【装備品】
クラウソラス
コンパクトソード+1
フィートシンボル
武醒魔導器
【通常技】
飛行
エアル吸引
分身
【術技】
蒼破刃
ファーストエイド
ファイアボール
リカバー
シャープネス


『カムイ・シルト』
【種族】人間
【所属】紅の絆傭兵団
【装備品】
オウカ+1
ナイトソード
ブーツ
【通常技】
挑発
察知
変装
【術技】
ローバーアイテム

『シルト・スタンダード』
【種族】人間
【所属】アスピオ研究員
【装備品】
スターロッド
ネコガード
ミスティマーク
【通常技】
不明
【術技】
ファイアボール
ストーンブラスト
シャンパーニュ
スプレッドゼロ

『ビッグボス』
【種族】プチウルフ
【所属】バルト
【装備品】
魚人の得物
マント
【通常技】
追跡
マーキング
【術技】
不明

『エルリック・カンディライト』
【種族】人間
【所属】騎士団
【装備品】
ナイトソード・リアル
ナイトシールド
【通常技】
不明
【術技】
フォトン
ファーストエイド
魔神剣


『レシピ』
サンドイッチ
おにぎり
サラダ
野菜炒め
海鮮丼
超絶・海鮮丼☆


『共有戦利品』
亀の甲羅×2
海苔×1
グミの元×1
サーモン×2
オレンジグミ×1
大きなハサミ×5
トルビフィッシュ×2
蟹の甲羅×3
口ばしラッパ×1
チキン×1

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