テイルズ オブ ヴェスペリア ~始祖の隷長の傭兵~   作:バルト・イーヴィル

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魔導機(ブラスティア)のコアが精霊となり、科学がそれに代わり主流となろうとするテルカリュミレース。

しかし、人々が常に求めるのは利便性である。

慣れて親しんだ生活を忘れられず、明るみになった聖核(アパティア)の存在を求める者は少なくなかった。

新たに生まれる始祖の隷長(エンテレケイア)とそれを狩る者達が現れ、世界は再び破滅へと向かっていく。

彼もそんな世界の一員にして、世界の観測をする立場に居る者だった。

始祖の隷長(エンテレケイア)は、統一された姿形では無い。

というのも、皆が見た目がバラバラなのだ。

既出の始祖の隷長(エンテレケイア)の姿は、鯨や亀や馬や狐と様々だ。

彼もそれに該当し、姿形は違えども始祖の隷長(エンテレケイア)としてテルカリュミレースへと生まれた。

彼の名前はバルト・イーヴィルーー

人の形をした始祖の隷長(エンテレケイア)である。


第1話【失われた筈の力】

第0章『始祖の隷長(エンテレケイア)の傭兵』

 

バルトはギルド紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)所属の傭兵だ。

 

魔導機(ブラスティア)のコアが精霊化によって失われたこの世界、テルカリュミレースーー

 

その中のひとつであるギルドの集結した町ダングレストで彼は護衛の依頼を受けていた。

 

技と呼べるものも、魔導機(ブラスティア)のコアの無いこの世界では満足に発動できず、治癒術等も奪われたこの世界に安寧は無い。

 

町から町への仕入れは困難を窮め、商業の流通を取り仕切るギルドは1度殆どのものが廃れた。

 

それでも、五大ギルドと呼ばれるギルドの象徴たるユニオンを支え続けた。

 

その結果、中小ギルドもなんとか持ちこたえることが出来ている。

 

今は五大ギルドがその中小ギルドに対して仕事を斡旋してやることが多くなった。

 

「いやぁ、ありがとうねぇ。

 

本当に助かったよ。」

 

バルトは腰に下げた愛剣を指で撫でる。

 

「いや、俺には過ぎた剣だがーーこのクラウソラスが有るからな。

 

プチプリなんざ屁でもねえさ。」

 

魔導機(ブラスティア)の存在した頃にはあり得なかったプチプリなどというザコモンスターへの苦戦が人々には強いられる。

 

こんな状態でギガントモンスターなど倒せる筈もなく、再発したギガントモンスターは触らない近寄らない怒らせないが鉄則だ。

 

エアルの異常発生の少なくなったこのテルカリュミレースでは、バルトの始祖の隷長(エンテレケイア)としての役目は殆どなく、エアルクレーネが稀に起こすエアルの暴発に立ち寄れば良い。

 

空気中には微弱過ぎるエアルが有るので、飢える事はないのだが、人と異なり、治すのにはエアルが必要なため、大きな怪我など出来よう筈もない。

 

それなのに、バルトが傭兵ギルドに所属しているのには理由が有った。

 

始祖の隷長(エンテレケイア)狩りーー

 

それを未然に防ぐためである。

 

バランサーとして存在する自分達は時としてそれを崩してしまう事がある。

 

それは、死によって落としてしまう聖核(アパティア)である。

 

聖核(アパティア)魔導機(ブラスティア)のコアの元となっており、テルカリュミレースは再び滅びの道へと片足を突っ込んでいるのだ。

 

誰かが阻止しなくては滅びは促進される。

 

既存の始祖の隷長(エンテレケイア)はバルトの知る限り、鯨型のバウルと新しくアスピオ跡地で発生された象型そしてミョルゾのクラゲ型のクレーネスだ。

 

ミョルゾのクラゲ型のクレーネスと鯨型のバウルは人と共存しており、クリティア族という耳の長い種族と仲良しだ。

 

彼らはとても穏やかで戦闘には向いていない。

 

そうなると、自分しかいないのだ。

 

今日もどこかで新しい始祖の隷長(エンテレケイア)が生まれているかもしれない。

 

何も知らない彼らはきっと無力なんだーー

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

第1章『知らない島』

 

護衛の依頼を終えて、ダングレストの紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)の拠点で次に受ける仕事の選別をする。

 

バルトが基本的に請け負うのはおおよそにして所謂いわく付きのお偉いさん方の護衛である。

 

極端に報酬の上下する長旅は、何らかの事象や事件に巻き込まれる事がある。

 

バルトはそれを狙って長旅、それもキナ臭いものを選別して請け負っていた。

 

「荷物の輸送を、こりゃ、どこのことだ?」

 

ナム孤島までと書かれた依頼書を握り、自分の書いて埋めた地図を確認する。

 

やはり、書かれていない。

 

自分の知らない新たな大地か……。

 

バルトはそれを手にカウンターへと向かう。

 

「これの受領をたのまぁ!」

 

バルトが出した紙を丁寧に受けとる女性。

 

「あんたまたこんな訳分からない仕事を受けるのかい?」

 

女性はこのギルドで受付を任されているシムカという人だ。

 

「まあ、あんたが誰も受けない仕事を消化してくれるから、こっちとしては大助かりなんだけどね?」

 

苦笑する彼女は煙草を取り出して口にくわえる。

 

火を探している彼女へとバルトはマッチを差し出した。

 

「おー、さんきゅ、気を付けて行っておいでよ?

 

このギルドにはバルボスさんも居ないんだから、あんたみたいなのまで居なくなられると本当に大変なんだからね?」

 

バルトは煙草を吹かす彼女の傍ら、今回の報酬を彼女の所へと置く。

 

「これで美味いもんでも食ってこいよシムカ。」

 

「これは、あんたが稼いだもんだろ?

 

あたしに貢いでどうすんのさ?」

 

彼女はそう言いながらも手は素直にそれを懐へと納めた。

 

「この仕事はあんた以外に3人居る。

 

他の3人は仕事の良し悪しも分かっちゃいない駆け出しの奴等ばっかりさ。

 

先方にはこっちから人数が集まったことを伝えるから、仕事は明日からだよ。」

 

シムカに背を向けて、アイテム屋へと向かう。

 

傷はエアルが無くては直せないが、命を繋ぎ止めるための薬は自分の体にも効いたからだ。

 

買うのは当然アップルグミとオレンジグミだ。

 

満足な術技が使えなくなった今では、オレンジグミはただの趣向品。

 

いわゆるお菓子でしかない。

 

とはいえ、多くのギルド員が在籍しているダングレストではこのオレンジグミの味が定着しているため、流通が止まることは無いだろう。

 

バルトもオレンジグミのぐにぐにっとした触感の懐かしさ有る味に病み付きになっている一人である。

 

買ったばかりのオレンジグミを口に転がしながら、如何にも怪しいオブジェを眺める。

 

「なんだありゃ?」

 

怪しい物には近づかないのが普通だが、バルトはそれに敢えて近付く。

 

すると、ボウンと音がし、煙で視界が真っ白になった。

 

「良くぞ正体を見破ったな!」

 

バルトはこのヘンテコな人種の事を人伝てに聞いたことが有った。

 

ワンダーシェフと呼ばれる、変装して景色に溶け込み、見破った人にレシピを押し付ける者だったか?

 

バルトは押し付けられたサンドイッチのレシピを鬱陶しそうに受けとる。

 

「では、さらばだー!」

 

ワンダーシェフの消えた場所を不思議そうに眺め、押し付けられたサンドイッチのレシピを眺める。

 

「サンドイッチくらい誰でも作れるっつうの。」

 

そう思いながらも、ひとまずレシピをバックパックへと押し込む。

 

バルトは買い物の後は決まってケーブモック大森林へと行く。

 

あそこは稀にだが、エアルの暴走が起きる場所の1つだ。

 

エアルの濃度もダングレストの比ではない。

 

とは言っても、バルトにとってはそれほど多い訳でもない。

 

そんな事を思ってダングレストからケーブモック大森林へと向かう途中、そこかしこを飛び回るチュンチュンの嘴の先に金髪の幼女が引っ掛かっていた。

 

本来チュンチュンはこの近辺には居ない筈なんだが、生態系も棲息域も近年変わりつつある。

 

弱いモンスターが増えた理由は単純に人が倒さなくなったからである。

 

いや、倒せなくなったというのが正しいのだが。

 

「と、それよりも、見てみぬ振りってなぁ出来そうにはねえよな!」

 

クラウソラスを抜いて、タイミングを伺う。

 

前は何も考えずに剣を振り回しておけばごり押しでも勝てた相手だったのだが、やはり、時代が変われば戦い方というのも変化する。

 

チュンチュンがバルトの前に来た。

 

そこですかさずガード。

 

なぜ、避けないのか?

 

それは、武醒魔導器(ボーディブラスティア)の恩恵が無いからスキルを使えないのだ。

 

かくいうバルトもバックステップやマジックガード等を使えるものならば行使したかったが、無いものはどうしようもない。

 

フリーランと呼ばれてる技法を使えば、避けることも可能なのだが、今回はチュンチュンの嘴に幼女が引っ掛かっている。

 

不測の事態が起きるかもしれないのだから、ガードを選ぶしかなかった。

 

ガードで嘴の攻撃を防ぎ、攻撃の終わったタイミングでクラウソラスでチュンチュンの嘴を下から切り上げる。

 

「これで、がら空きのボディを……なに!?」

 

すると、幼女がブラブラと揺れて、チュンチュンの体の前に入ってきた。

 

これではバルトは攻撃出来ない。

 

「くっ……予想以上にキツイな……。」

 

こればかりは仕方ないので、フリーランで距離を取って万が一のためにアップルグミを食べる。

 

「あの子ずっとプラプラしてるけど、やっぱり死んでるのか?」

 

死んでるなら助ける意味はない。

 

チュンチュンも生きる糧を得るために必死なのだろう。

 

始祖の隷長(エンテレケイア)は人も動物も魔物も同一視する者もいる。

 

自然の摂理だから仕方がないと割りきる者もいた。

 

だが、長い間、人として生き、人と関わって生きてきたバルトはその価値観には当てはまらなかった。

 

「親御さんにせめて骸ぐれぇは届けてやりてぇよな……。

 

それに、まだ死んでるって決め付けるには早いしな!」

 

気絶してるならば、ライフボトルさえ在ればまた意識を戻せる。

 

バルトは今は持っていないが、ダングレストからさほど遠くはない。

 

戻って買うことも許容出来る範囲だった。

 

チュンチュンが再び近付く。

 

今度は勢い良く突進してきた。

 

「っ……不味い!!」

 

幼女がバルトのクッションになるかのように間に入る形となる。

 

バルトは咄嗟にガードをやめてフリーランで下がった。

 

「間に合えーー!!」

 

バルトが後ろへ駆ける。

 

チュンチュンの体が空を切ると、幼女の引っ掛かりが甘くなり、下に大きくずり落ちた。

 

バルトはフリーランを解除し、振り返ると幼女を引っ張る。

 

チュンチュンが振り回される形で地面へと叩きつけられ、幼女は無事にバルトの手中へと収まった。

 

そうなれば、話は早い。

 

あとは逃げるだけである。

 

ダングレストへと逃げるバルトの後ろにはチュンチュンだけでなく、ゲコゲコ等も集まっていた。

 

とはいえ、さほど彼らは足の早い魔物ではないのでどんどんと距離を離していけた。

 

ダングレストへと逃げ切った時には後ろに魔物の姿はなかった。

 

ダングレストの宿屋と道具屋のくっついてる場所を借りて、幼女をベッドへと寝かせる。

 

幼女の腕を取り、脈拍を確認する。

 

ーー生きてる。

 

「なんだバルト?コレか?」

 

ダングレストにはもう長らく居るためか、ここの店員とは3年くらいの付き合いとなる。

 

生まれて1年目でドンに正体を見破られ天を射る矢(アルトスク)へと勧誘され、断った俺は2年目にバルボスの紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)へ入団した。

 

その翌年、つまりは今年にバルボスが行方知れずとなり、紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)は運営の危機となった。

 

まあ、それでも流しただけの血を絆とする紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)の結束は一筋縄ではなく、今もこうして存続している。

 

「んな訳あるかよ、ライフボトル貰えるか?」

 

1000ガルドを取り出して渡す。

 

物価も流通が難儀な為に上げざるを得ない。

 

ライフボトル1本でこの物価の高騰だ。

 

安いときに買い貯めしてたギルドは大儲けしてるようだ。

 

バルトは幼女の口元にライフボトルの液体を注ぐ。

 

「口移し、しないのか?」

 

こちらをおちょくってくる店員はこの際は無視だ。

 

飲んで直ぐに効果が有ったようで幼女はムクリと起き上がり、キョロキョロとした後にこちらの顔を見て言った。

 

「おお、ダーリンなのじゃ!」

 

その言葉に店員が吹き出す。

 

「なんだ、やっぱりコレじゃねえか?」

 

「おい、こら、俺はお前なんぞ知らねえぞ!?」

 

バルトはその幼女の言葉に大きく首を振る。

 

「長い黒髪、ぶっきらぼうな顔、それに、真っ黒な服……ウチの目を誤魔化そうと言うのなら、1度アンコウのように深海に潜って顔を出さぬ事じゃな。」

 

なんだこいつ?

 

「ま、まあ、起きたんだしそれは置いておくか。

 

ひとまず、お前の名前は?」

 

親御さんを探すにも金髪の幼女という情報だけでは特定も難しいからだ。

 

「記憶喪失というやつかのう?

 

ウチの愛で思い出させてやるのじゃ!」

 

バルトは頭を抱える。

 

「お前の名前は何て言うんだ?」

 

幼女は「うむ」と頷くと、両手を腰に当てて偉そうにふんぞり返る。

 

「パティじゃ。」

 

ようやく聞けた名前にホッとする。

 

「俺の名前はバルトだ。

 

お前の親御さんをちょいと探してくるからここでじっとしてな。」

 

と、宿屋から出ようとしたら、なぜか後ろにそいつはいた。

 

「ちょいと待ってろって言ったろ?」

 

「ウチも行くのじゃ!」

 

「まあ、本人が居た方が両親も探しやすいか……。」

 

納得してダングレストの町を歩き回る。

 

「この辺に住んでるのか?」

 

「うむ?ウチは船の上で暮らしているのが長かったのじゃ。

 

それからはお宝を探す旅をしてたのじゃ。」

 

つまりは、冒険ごっこや探検ごっこしてたらチュンチュンに捕まったと……。

 

しかし、船か……。

 

バルトは船と聞いて顔を曇らせる。

 

カプワノールとカプワトリムの辺りからここまで連れて来られてしまったということだろうか?

 

子供の一人旅にしてはかなりの距離がある。

 

良くも無事だったものだ。

 

とならば、ギルドまで行って迷子の依頼でも出すとするか。

 

そう思った矢先、パティが奇妙な物を落とした。

 

「ん?」

 

パティは気付いていないようだが、バルトは屈んでそれを拾う。

 

武醒魔導器(ボーディブラスティア)

 

コアの抜けた状態なら良く見る廃棄物だが、コレは違った。

 

「コアが有る?」

 

不振に思ったバルトはそれをポケットへと押し込み、さりげなくパティへと話を振る。

 

「なあ、パティはどんな冒険をしてたんだ?」

 

パティは腰に手を当ててふんぞり返る。

 

「うむ、ウチはダーリンとマンボウも羨む熱愛の冒険をしたのじゃ。」

 

そのマンボウというのが今いち分からなくさせるが、要はダーリンという何者かと冒険をしていた。

 

それで、武醒魔導器(ボーディブラスティア)が有りながらもチュンチュンに捕まったということは、コレは使おうとしなかったということ。

 

彼らは何のために。

 

パティは何のために武醒魔導器(ボーディブラスティア)を持ち歩いていた?

 

そんな事を考えていると、紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)の拠点へと到着した。

 

バルトはパティを連れて中へと入る。

 

いつもならば賑やかな居酒屋のような雰囲気なのだが、今日はバルトがパティと来場したことで雰囲気が変わった。

 

静かすぎる空間を歩き、受付に到達すると、シムカが怒りをあらわに眉根を吊り上げてカウンターを拳で叩く。

 

「あんた、そりゃ、どういうつもりなんだい?」

 

口をピクピクとさせているシムカ。

 

迷子がそんなにも珍しいでもないのにこの反応は異常である。

 

「いや、ちょいと外で迷子を拾ってな。

 

シムカ……?」

 

シムカは力が抜けたようにがっくりとカウンターに項垂れる。

 

「おい、どうしたんだよシムカ?」

 

バルトがシムカを心配する傍らでは、仲間のギルド員達がヒソヒソ話をしているが、バルトには聞こえていない。

 

「なぁ、シムカ姉さんがバルトの事好きってのマジなん?」

 

「さあな、けど、あの剣幕見たろ?

 

コブ付きかあるいは結婚してると思ったんじゃねえか?」

 

バルトは首を傾げ、シムカに事情の説明をする。

 

しかし、シムカは首を振った。

 

「あんた幾ら持ってるの?

 

今、うちらギルドに通せる依頼って幾らでやってるのか分かってるの?」

 

バルトの腹を拳でグリグリとするシムカ。

 

バルトは顔を青くして汗を流す。

 

「あんたが面倒見てあげるしかないでしょうね。

 

はぁ、さっきの依頼は先方に断りを入れておくから、あんたは、まずその子の親御さんを見付けてやんな。」

 

「わ、分かりました。」

 

依頼発行は断念。

 

そして、受けてた依頼はシムカに迷惑をかける形で放棄。

 

持ち金の怪しい中、パティの親御さんを見付けるために旅に出なくてはならないという現実がバルトを苦しめる。

 

とはいえ、パティをこのまま放置なんて出来よう筈もない。

 

バルトはパティを連れてギルドを後にすると、旅に出るために道具宿屋へと戻り、ライフボトルとアップルグミ……。

 

オレンジグミは……。

 

ポケットにしまっておいた武醒魔導器(ボーディブラスティア)を指で叩く。

 

武醒魔導器(ボーディブラスティア)のエアルの乱れなんかはバルトが力を使えばその場で0に出来る。

 

始祖の隷長(エンテレケイア)として、元々備わっている力がエアルの乱れを抑制する。

 

まあ、正しくは乱れたエアルを体内に吸引する力なのだが……。

 

パティと自分だけの旅になる。

 

ーー力は有った方が良い。

 

この武醒魔導器(ボーディブラスティア)の事は後でパティとダーリンて奴に聞くこととして、一先ずは俺が預かっておく事にしよう。

 

パティを寝室へと先に向かわせて、道具宿屋の店員にスキルが使えなくなったことでただの武器となったスキル武器を安く買うことにした。

 

この武醒魔導器(ボーディブラスティア)が有れば十全に活かせる。

 

勿論、何時でも使うわけにはいかない。

 

けれど、スキルを覚えないことには今回の旅は無謀にも思えた。

 

今売れてるのは……コンパクトソード+1!?

 

こんなの使えねえよ。

 

コンパクトソード+1のスキルは全ての攻撃が1ダメージになるという、練習用のスキルとして優秀だったものだ。

 

求めている物が無かったのは、恐らくは鍛冶ギルドの供給の不足と戦うための力を欲する需要が吊り合わなかったためだろう。

 

これは、鍛冶ギルドに直接顔を出さなければまともにスキルを覚えることも出来ないだろう。

 

バルトの持ってるクラウソラスにも2つだけスキルが有る。

 

1つはハイパーキャンセラーと言い、連携中に一度だけ、奥義から奥義への連携が可能になるというものだ。

 

けれど、技を使わなくなってしばらく経った。

 

奥義など使わないと思っていたから、思い出す為にも戦闘をこなす他無いだろう。

 

もう1つはバーストキープ。

 

バーストアーツ中はオーバーリミッツの効果時間が0にならないというものだ。

 

だが、このバーストアーツを使いこなすのは今の時代では中々に困難である。

 

バーストアーツとは、オーバーリミッツ中に奥義との連携で出せる秘奥義の1つ前の技の事である。

 

つまり、武醒魔導器(ボーディブラスティア)が無いとそもそも使えないのだ。

 

そして、オーバーリミッツだが、闘気というか、気合いというか、そういったボルテージやテンションを最高潮へと持っていき、それを一気に解放する武醒魔導器(ボーディブラスティア)を必要としない技術だ。

 

これも一応は出来るには出来るのだが、今は戦うよりも逃げろの時代だ。

 

今でも稀に使う奴等は見るが、それは余程の戦闘好きか運の無い奴等である。

 

一先ずは、出立を明日としよう。

 

何もなければ南に6時間も歩けばヘリオードへと到着する。

 

あそこは確か騎士団の駐屯所が新たに設けられたって話だったな。

 

市民は皆このダングレストに避難したという話だ。

 

まあ、無理もないか。

 

結界魔導器(シルトブラスティア)も無いのだから。

 

今やあそこは商人ギルドの仕入れの為の中継地点だ。

 

バルトはコンパクトソード+1しか無いなら仕方ないと、一先ずはそれを購入した。

 

明日からまた忙しくなる。

 

そう思い、バルトもベッドへと向かう。

 

ベッドにボスンと音を立てて倒れると、そのまま目をつむり、意識を闇の中へと手放した。

 

 

 

 




『バルト・イーヴィル』
【種族】始祖の隷長
【所属】紅の絆傭兵団
【装備品】
クラウソラス
コンパクトソード+1
フィートシンボル
武醒魔導器
【技】
蒼破刃

『レシピ』
サンドイッチ

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