チョウワン伝説 番外編開始   作:塔の跡
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わざとひらがなにしてます。
柔らかい感じを出したかったので。


しあわせをきみに

 アギト生活11日目。創痕の防壁からおはよう。突然だが、俺は今どんな状況だと思う?
《あー・・・えーと・・・こんにちはー・・・》
 人間だったら冷や汗ダラダラたらしてひきつった顔でぎこちなく笑っていただろう。
「・・・・・・・・・」
《えーと・・・君は、どこから来たのかなあ?お兄さんに教えてくれないかなあ?》
「・・・・・・・・・」
 アラガミ語がわかるわけないのに何をやってんだ俺は。
《お父さんと、お母さんはどこかなー?》
「・・・・・・・・・」
 ずっとこの調子で黙りこくっている。真剣な顔をしながら俺に祈っている。
《誰かヘルプ・・・》
 もし涙が流せたら、漫画みたく泣いていたかもしれない。
 ここまでで、わかっただろうか。今俺がおかれている状況が。そう・・・俺は今、拝まれている。小さな少年に(・ ・ ・ ・ ・ ・)
《君にはもうしわけないけど、お兄さん、幸せをあげたり、希望をあげたりできないんだよ。ごめんね?》
「・・・・・・・・・ぐすっ」
 いきなり泣き始めたよこの子!え!?俺怖かった!?
「おねがいします・・・おかあさんをたすけてください・・・」
 あ、違った。よかったよかった・・・よくねえよアホか俺は。
《あーもー・・・念話使えたらよかったのに・・・》
 困った・・・非常に困った・・・。俺は神様じゃない。この子には本当にもうしわけないけど、俺ができることなんて何もない。
「おねがいします・・・きせきをください・・・」
《えー・・・そこまで話広がったわけ?》
 いくらなんでも噂に尾ひれがつきすぎじゃないか?なんなんだ最近の人間は。神様なんていやしないんだと、神様が助けてくれるわけないんだと、そう思って生活しているとばかり思っていた。なのに、実際はどうだ?やれ『幸せを運ぶ者』だ、『希望を与える者』だ、『接触期待種』だって。しまいにゃ『奇跡を与える者』ってか。ふざけんな。幸せは誰かに運んでもらうものじゃないだろ。希望は誰かに与えてもらうものじゃないだろ。奇跡も誰かに与えてもらうものじゃないだろ。幸せは自ら勝ち取るもので、希望は自ら生み出すもので、奇跡は自ら起こすものだ。他人・・・いや、神の名を騙り、神の名を汚す化物に頼んじゃいけないものじゃないのか。実際は人間が勝手に名前つけただけだけどさ、それを抜きにしたって間違ってやしないか?
(この子には悪いが、もう行こう・・・)
 その場を立ち去ろうとしたとき、少年が俺の尻尾を掴んだ。
「まって!おねがいします!おかあさんをたすけて!」
 悲痛な叫びだ。だが俺はなにもしてやれない、ちっぽけな存在だ。君たち人間がいくら俺に祈っても、俺ごときに、何かできることなどない。
「おかあさん、びょうきなんだ・・・おいしゃさんも、しぜんになおるかどうか、わからないって・・・」
 そう言われても何もできないっての。医者すら諦めた病気を俺が治せるわけないだろ。
「かぜ・・・ぐすっ・・・なおらないんだって・・・ひっく・・・」
 ・・・風邪?確か、風邪に効くハーブみたいなのがあったような・・・?
(これなら、なんとかなるかもしれない!)
 後はアラガミがいれば完璧なのに、こういうときに限って出てこない。それに、これは一種の賭けだ。望んだ植物が生えてくるとは限らない。
《それでも、やってみるっきゃないだろ!》
 急に吠えたからビックリしたのか、少年は尻尾を離した。ビックリさせたのは悪かったが、これで自由に動ける。
(やったことはないが・・・一か八か!)
 地面に向かってホーミングレーザーをぶち当てる!
[ビーッ!]
 当てた地面には・・・望んだ植物が生えていた。
「わあっ・・・!」
 少年が嬉しそうな声をあげる。まあ、いきなり花畑が目の前に拡がったら、子供は嬉しいだろう。
 巨○兵の手を伸ばして、そこに生えたハーブを摘む。エルダーフラワー、エキナセア、ジャーマンカモミール、レモングラス、タイム 。ネット情報だが、何もしないよりはましだろう。それに、ノルン(いろいろな情報が詰まってるもの)にハーブティーの調合方法くらい載ってるだろう。後は医者に任せる。俺ができるのはここまでだ。
《少年、これを受け取れ》
 少年にハーブを渡す。それを嬉しそうに受け取ってくれた。
「ありがとう!おいしゃさんにわたしてくる!」
 そう言って、少年はアラガミ装甲壁の中へと入っていった。
《ふう・・・今回はなんとかなったか・・・》
 本当に奇跡的に成功した。が、慣れないことはするもんじゃない。どっと疲れたわ・・・。
《さて、俺はそろそろここを去るとするか》
 装甲壁に背を向けて歩こうとしたとき、後ろから先ほど別れた少年の声が聞こえてきた。
「アギトー!おかあさんのかぜ、なおったよー!」
《はいぃ?いくらなんでも早すぎじゃね?》
 即効性なんてなかったはずだぞ。どういうこったい。
 後ろを見てみると、少年の隣には若い女性が立っていた。彼の母親か。しきりに頭を下げている。すごくこそばゆい・・・。
《うー・・・なんかむずむずする・・・ん・・・?》
 ハーブ畑と化した一区画に、杜若(かきつばた)が咲いている。なんでもありかよ・・・いまさらだけど。
《・・・よし》
 杜若を摘み、親子にあげる。
「わあ・・・ありがとう!」
 少年は喜んで杜若を受け取ってくれた。
「本当に、ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
《・・・・・・》
 俺は深々とお辞儀をする母親と、母親と同じく深々とお辞儀をする少年に頭を刷り寄せた。すると、シグレの傷を癒したあの淡い黄緑の光・・・ではなく淡い空色の光が親子を包んだ。
「あら・・・?体が軽く・・・」
「あれ?ぼくもだー」
 癒しの力が発揮されて、どうやらこの親子の体の不調が治ったようだ。赤い雨に濡れていないとしても、湿気で具合が悪くなることもありえなくはないだろうからな。
 さて、本当に去るとするか。ここに長居してもしょうがないしな。
「ありがとー!」
「お世話になりました!」
 親子に視線を一度向け、ステルスを発動させる。そして、いまだに手を振る少年と、いまだに頭を下げている母親の幸せを願う。そのくらいは、この世界も許してくれるだろう。

 杜若---花言葉『幸せは必ず来る』



ほっこりを目指してみたんですが、どうだったでしょう?
次回は平常運転に戻ります。