ぼっちは語れない   作:苺ノ恵

9 / 22
忘れたいよ~♪

僕の哀しい~ 

くろ~れき~し♩



…それではどうぞ



第八話:一人一首

 

 

 

 他人の不幸は蜜の味

 

 __とはよく言うが、自分がその話の渦中にあるとすれば待ったをかけずにはいられない。

 

 そもそも幸せなんてものは、誰かの不幸によって生み出されている、一種の呪いのようなものだ。

 

 例えば、チョコレートを食べると幸せな気分になる。

 

 しかし、そのチョコレートは最低限の教育すら受けさせてもらえない貧しい子供たちによって収穫されたカカオから作られたものだ。

 

 遊び盛りの子供たちは泣きながら重いカカオをそのやせ細った小さな手で必死に運び、少ない賃金を両親に渡してはその日その日を懸命に生きるのだ。

 

 自分が生まれてきた意味、生きる理由なんて考えることはない。

 

 考えてもどうにもならないから。

 

 ただ、そうしないと生きていけないのは確かなので、そのことだけは考えている。

 

 

 

 死ぬのは怖いから

 

 

 

 いつしか涙は枯れ、それが世界の全てであり、この環境にいられることこそが自分にとっての幸福なのだと嘯いていく。

 

 その苦くて苦しい間違いだらけの幸福が誰かの幸せによってもたらされていることなど彼らは知らない。

 

 幸福を貪り喰らう奴らが自分たちを不幸にしていることを知らない。

 

 知らない。

 

 知ろうとしない。

 

 なぜなら知っても仕方がないから…。

 

 

 

 

 

 

 俺は彼らのことを可哀そうだとは思わない。

 

 いや、思っていても口にすることなどできない。

 

 なぜならそれは、安堵からくる言葉だと思ったからだ。

 

 自分は幸せでよかったと、アイツらのようにならなくてよかったと、…そんな悍ましくも淡泊な、まったくもって人間らしい感情を抱いてしまうことにどうしようもない嫌悪感が込み上げてくる。

 

 他人の幸せは自分を不幸にする。

 

 他人の不幸は自分を幸せにする。

 

 ごちゃごちゃしていて解り辛いことこの上ないから簡潔にまとめる。

 

 

 

 

 

 

 【幸せこそが人を不幸にする】

 

 

 

 

 

 だから俺は、願ってもどうにもならない、仕方のないことを敢えて願おうと思う。

 

 

 世界中のみんなが笑って幸せに暮らせますように___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ______みんな不幸になっちまえ

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かたりーたーいよー…キミのすーてきー…くろーれきーしー…」

 

「……………どったの、ゴミいちゃん?」

 

 リビングにあるソファーにうつ伏せの状態で寝転がり、最近気に入っているアニソンの歌詞を口遊んでいると愛しの妹の声が聞こえてきた。

 

「おー…おかえり小町。…こんな面倒な兄貴を見ても無視せず話しかけてくれてくれるような妹に育ってくれて兄ちゃん嬉しいよ…」

 

「…ただいま、ゴミいちゃん。こんな可愛い妹に話しかけさせて三秒で後悔させるような兄に育ってしまって、小町哀しいよ…」

 

「小町ちゃん?それは言わない約束よ?」

 

「小町、ゴミいちゃんに対して悪いと思ったことなんて一度も無いよ?」

 

「それは言わない約s__」

 

「お兄ちゃんしつこい」

 

「…すみませんでした…」

 

 小町は俺の背中に学校指定のカバンを強めに投げつけると洗面所の方に去っていった。

 

 まだ新学期ということもあって、カバンの中にはそれなりに参考書が入っていて、ぶつけられた腰の部分がその重みとじんじんとした痛みを訴えている。

 

 怪我人になんてことを…と思ったが、その考えも途中で霧散してしまう。

 

 テント

 

 俺の頭の中はそのことで一杯だった。

 

 あの後、どうやって家まで帰ってきたのかまるで覚えていない。

 

 ただ気付いた時にはこうしてソファにダイブしていた。

 

 そしてすぐに現実逃避したくてテレビをつけた。

 

 すると予備校のCMで__

 

「赤点とるような勉強法は勉強ではありません!」

(八幡ear:あかテントる___)

 

 ローカルニュースで__

 

「今年は例年よりも沢山の園児が集まり、中でもてんとう虫が人気の様子でした」

(八幡ear:なかでもテント___)

 

 マッハでリモコンの赤いトコを強打して、テレビをブラックアウトさせる。

 

 何なら永遠にブラックアウトさせてやりたいくらいだが、それだと俺が家族からブラックアウトさせられそうだから辞めた。

 

 はっ!!命拾いしたなテレビめ!!

 

 …いつもプリキュア観せてくれてありがとな!!

 

 ……………………。

 

 …で、アニソン口遊んでたら小町が帰ってきて冒頭へ。

 

 そして、この回想の間にうがい手洗いを済ませて帰ってきた小町は__

 

「今日の夕飯どうする?冷蔵庫の中、ところてんとかしか無いよ?」

(八幡ear:今日のテントどうする?テントの中、ところテントかテント?)

 

 …とか言って俺を殺しにかかっている。

 

 というより、俺が俺の首を絞めてる。

 

 大丈夫か俺の聴覚…

 

「あとはー…あっ、ジャガイモと玉ねぎあった。でも、昨日肉じゃがだったしなー…お肉とルーがあればカレーにするのになー…チラ☆」

 

 あらやだ、うちの妹ホントやり手だわ。

 

 死に体の兄にさり気なく食材買って来いって言ってる。

 

 …正直、今はカレーどころか飯そのものが喉を通るのか怪しい状態なのだが、可愛い妹の為なら仕方がない。

 

 足の骨も、もうほぼ完治している。

 

 こういう時だけは自分が持つ亜人の性質に好感が持てる。

 

 リハビリがてらには丁度いい運動だ。

 

 それに、何か目的を持って作業に没頭していれば、このテント症候群(ありとあらゆる単語がテントに聞こえてしまう難病)も収まってくれるだろう。

 

 俺は迷いを断ち切るかのようにソファから舞い降りるとエコバックを手にして玄関へ向かう。

 

「…あいよ。肉とルーな」

 

「あれ?行ってくれるの?珍しいこともあるもんだね。それならあと、人参と、レタスと福神付けとトマトもお願いね~」

 

「お前は鬼か…」

 

 そう言った時すでに小町の姿はなく、キッチンの方からまな板をたたく音が聞こえてきた。

 

 小町よ…ジャガイモの皮は剝いてくれよな?

 

 まあ、未だにピーラーでしか野菜の皮を剝くことができない俺なんだが…

 

 玄関をくぐった先に見えた夕日は、今の俺の心情を反映させたかのように酷く色褪せているように思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事に食材を買い終えた俺は近くの公園のベンチに腰掛けマッカン片手に黄昏ていた。

 

 強烈な甘さが口内を満たすにつれて、やつれた心も満たされていくように感じる。

 

「…これで俺の黒歴史も浄化してくれたらいいんだけどな…」

 

 どうでもいいけど導師、生きててよかったね。

 

 巨人の世界に現界して無垢な奴ら浄化してくれないかなあ…。

 

 色々混ざりすぎでややこしくなった。

 

 それでも、当初の目的は果たせているのでこれくらいは大目にみてもらおう。

 

 そうして、最後の一口を煽ったところで、背後から何かが落下する音が聞こえた。

 

「あ…」

 

 女の子の声。

 

 続いてビニールが地面に擦れる音が耳介を叩く。

 

 どうやら買い物に行ってその帰りに誤って商品を落としてしまったらしい。

 

 こういう時、俺はどのような行動を選択するべきなのだろうか。

 

 率先して落とし物を拾い、善意の押し売りを敢行するか?

 

 はたまた、聞こえなかったふりをしてそいつが自分で拾い終わるのを待ってから席を立つか?

 

 答えは案外すぐにでた。

 

 それは__ベンチの下をくぐって足元に転がってきたフルーツの缶詰を何も考えずに拾ってしまい、返さざるをえない状況になってしまった…ということである。

 

 これ俺から話しかけないと駄目なんだよな?

 

 こっちに気付いて無いっぽいし…

 

 つーか、ちょっと拾うの遅くないか?

 

 どんだけ落としたんだよ…

 

 俺は渋々立ち上がり持ち主の方に足を運ぶ。

 

 顔を見ると目が合ってコミュ障の弊害がでるからなるべく顔は見ないようにして…

 

「…あのー…コレ、落としましたよ?」

 

 よし!!初対面の相手に噛まずに言えた!!やったぜ!

 

 俺が悲しい自画自賛をしているとその子は体を強張らせてすくっと立ち上がった。

 

 女性にしては背が高く、モデルの様な体形をした子だった。

 

 視界の端に入った、華麗な脚線美はそれだけで俺の意識を上へ上へと誘っていく。

 

 男の性とも言うべきか。

 

 スタイルを見たら顔も見たくなってしまう。

 

 つまり、先に男の目がいくのはアレだということだ。

 

 アレは俺たちのオアシスであり、希望なんだ。

 

 …っと、変態的思考の吐露はここまでとしよう。

 

 俺が背後から近づいたということもあって、突然の声に驚いたのか彼女はどこか慌てた様子だった。

 

「あ…す、すいません。わざわざ拾って下さって」

 

 そこで俺は初めて彼女の顔があるはずの部分(・・・・・・・・・)を見て、固まった。

 

 端的に言えばそう___彼女には___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ____首が無かった




どうも、四月になって最初で最後の更新をした九条明日香です。

前回に更新したのが三月二十日なので約一か月半、更新をサボっていたということですね…(のんびりしすぎたーーーーー!!!!)

春は出会いの季節ですね。

皆様は何か素敵な出会いがありましたか?

私はクソめんどくさい人と出会いました。

早く別れの季節が来てほしいと思っている今日この頃です。

さて、第八話の一人一首ですが【亜人ちゃんは語りたい】の原作やアニメをご存じない方からすれば、最後の一文は少しばかりホラーな内容に思われたかもしれませんね。

ですが、この駄文は基本ギャグでグロさやホラー要素は無いのでご安心ください。

今回のお話はあの日学校であったことを思い出して「ウワー!!」ってなってる八幡の心情を描いてみました。

小町ちゃんも出せたので私的には満足です。

今回も読んでくれてありがとう。

感想待ってます。

それではまたの機会に





(ダンまちの新作はGWには出したい…)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。