ぼっちは語れない   作:苺ノ恵

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特になし

それではどうぞ


第十一話:一迅の風

 

 

 

 

 春の日差しがグラウンドの土を焼く。

 

 夏に比べれば幾分かマシなものの、太陽の光に浴び慣れていない人にとっては少し辛い、それくらいの日差し。

 

 そんな中、生徒たちはそれぞれの昼休みを過ごしていた。

 

 ある者はサッカーをして、ある者は読書をして、ある者は日光浴で昼寝をして、それぞれの青春を謳歌していた。

 

 ただ…____

 

 

 

 

「…なあ?」

 

「?」

 

 少年は問いかける。 

 

 高く打ち上げられたボールは綺麗な放物線を描いては再び打ち上げられる。

 

 単純な作業の中に織り込まれた問いに友人は疑問符を浮かべる。

 

 そのまま数回ラリーを続けると、少年はボールを地面へ落とし、尚も跳躍し続けようとするボールを慣れた手つきで押さえ込む。

 

 そして、ボールに腰を掛けた少年は深いため息をつくと、足元を見つめながらポツリと呟いた。 

 

「俺たち…何やってんだろうな?」

 

 少年の言葉に友人は間髪入れずに返答した。

 

「何って…バレーボールだろ?」

 

 少年は、これがその返答に対する答えだと言わんばかりに組み合わせた両手の甲に額を載せる。

 

 どうやら友人の返答が意にそぐわなかったらしい。

 

 友人は少年に近づくとつま先を使ってボールを小突き、少年の身体を間接的に揺さぶる。

 

「とりあえず佐竹、使わないならボール貸してくれ」

 

 友人は何気なく少年の意識をボールに挿げ替えようとする。

 

 友人は知っている。

 

 幼稚園の頃からの付き合い、云わば腐れ縁のような関係の友人にとって少年、佐竹とは___

 

 

 

「俺はなんで…野郎二人でバレーやってんだろうな…」

 

 

 

 ___非情に面倒くさい男なのだ。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

(でたよ…佐竹のウザいモード…仕方ない、さっさと話聞いて教室帰ろ)

 

「いや、僕を誘ってきたのは佐竹だろ?」

 

「お前は俺と一蓮托生の仲だ。寧ろここにいないのが普通なんて発想の方が可笑しい」

 

 ちょっとどころかかなりウザい。

 

 どうしよう。

 

 ボールじゃなくて、上の方にあるボール蹴ってもいいかな?

 

 僕は苛々を抑えて口を開く。

 

「…昨日カラオケ行って、『ちょっとトイレ行ってくるわー』って行ったきり帰って来なかった君がそれを言うのかい?」

 

 サムズアップした佐竹はこう答えた__

 

 

「ちゃんと帰ったさ____家にな

 

 

「土に還したろうか?」

 

 割と本気でそう思った。

 

 佐竹は白々しいまでの話題転換を敢行する。

 

「………その件はひとまず置いておこう」

 

「1050円な」

 

 佐竹は渋々ポケットから財布を取り出すとそれを友人、太田に投げ渡す。

 

 太田が中身を物色している中、佐竹は語り始めた。

 

「…どうしてここの女子は誘っても遊びに来ないんだ…」

 

(えーと…千円…千円…って、全部レシートじゃん…しかもコンビニばっかだし…成人用雑誌ってなんだよ…)

 

「中学の頃はさ?クラスの女子とも一緒に昼休みサッカーしたりしてさ、たまにぶつかったりして助け起こす時に手を繋げたりなんかして…色々と最高だったんだよ…。」

 

(小銭の方は…うわ…五百円玉はおろか百円玉すらない…。なのになんで五円玉はこんなに沢山あるんだ?)

 

「でも、ガキだった俺は羞恥心に負けて…あの絶景から目を逸らしちまってたんだ…あんな楽園…もう二度と拝めないかもしれないっつーのに…!!」

 

(どう考えても足りない。まあ、佐竹だし。こんなの毎度のことか…一々腹を立てていたらキリがない…)

 

「だから俺は決めたんだ。高校に入ったらぜってー目を逸らさねえって…!!自分の心には嘘をつかねえって…そう決めたんだよ…!!」

 

(ん?…なんか佐竹が珍しく真面目な良い話してる?…マズイ、全然聞いて無かった。)

 

「けど…現実はそんな甘くはねえよな…。色々やって吠えるだけ吠えて慣れないキャラ演じて…振り返ればこの様だ…、なあ、太田。俺どうしたらいいんだろうな?」

 

(とりあえず、当たり障りのないこと言ってこの場は切り抜けよう…)

 

「別に…どうもしなくていいと思うよ?」

 

「どうもしなくてって…なんとかしねえと何も変わんねえだろ…」

 

「そうかもね。佐竹の思い描いた通りの結果にはならないかもしれない。でも、仮にその結果が得られたとしてその時の佐竹はこれで良かったって思えるのかな?」

 

「…は?」

 

「多分それは、佐竹が佐竹のまま掴んだ時に初めて意味を成す結果だと思う。だから、その何かを変えるために佐竹自身を変えるっていうのは、ちょっと違う気がする…僕はそう思う」

 

「………なるほどな」

 

「答えになった?」

 

「ああ、サンキュー太田。今度、五円玉チョコ奢ってやるよ」

 

「そのための五円玉か…」

 

「よし!!俺は俺のまま頑張る!!いいなあこれ、なんか燃えてきた!!」

 

「話も終わったし教室帰る?」

 

「何言ってんだ太田!!俺たちの夏はこれからだろ!!」

 

「まだ春だよ?」

 

「とりあえずバレーやろうぜ。方法を考えるにしても、やるなら上手くなってたほうが多少は見栄えもいいだろ?」

 

(何だか話すのも面倒になってきた…)

 

 太田はある程度距離を開けるとレシーブの構えをとった。

 

「…了解。付き合うよ」

 

「オーケー!!よし、いくぜ!!」

 

 佐竹がボールを左手に乗せ、サーブの姿勢をとったその時__

 

 

サタッケー!!!!

 

 

 一迅の風と共に金色の線がふわりと舞った。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 ゾンビを探そう!!

 

 そう言って、マッチ―と別れた私はゾンビの在籍するクラスに突撃した。

 

 でも、ゾンビの姿はそこにはなかった。

 

 くっ…!!

 

 勘のいいゾンビだ!!

 

 その後も、食堂や他の教室、体育館も調べたが一向に見つかる気配は無い。

 

「あ、ひかり!」

 

「マッチ―!そっちはどうだった?!」

 

 廊下を探っているとマッチ―と合流した。

 

 何か情報は無いか?

 

 そう尋ねると、マッチ―は力なく首を…もとい頭を振る。

 

「職員室にもいなかった…でも、担任の先生に聞いたら今日は欠席者はいないって言ってたから…」

 

「学校のどこかにいるってことだよね。でも、どこに…!!」

 

「あのね…ひかり…。私は大丈夫だから。大丈夫だから、もう止めにしよう?…それに比企谷くんは、きっと悪い人なんかじゃないよ」

 

「マッチ―…?」

 

 マッチーは呼吸を落ち着かせると、まるで弟のことを話すような感じで話始めた。

 

「まだ一回しか会ってないけど…私、なんとなくそう思うんだ。だって、車に轢かれそうな犬を助けるために怪我をするような人だよ?そんな人が悪い人なわけない」

 

「………………」

 

「だからさ、こういうのは止めにしよ?私たちまだ一年生だから、その内きっとまたばったり会うよ。だから…ね?」

 

「………………………」

 

「?…ひかり?」

 

 別に怒ってるわけじゃない。

 

 問い詰めて、何か罰を受けさせてやりたいとか、そういうのじゃない。

 

 私はただ_____

 

 

 

 

 

「__分かった。止めるね」

 

「うん」

 

「…じゃあ、先生のとこ行こっか?」

 

「ええ!!い、今から?高橋先生のところに!?」

 

「ん~?だれも高橋先生のとことは言ってないよー?」

 

「…もう!!」

 

「あはは、ごめんごめん!!マッチ―拗ねないで~」

 

「…ム~…」

 

「__じゃあ、マッチ―先に行っててね~」

 

「え?ひかりは?」

 

「お花摘みに行ってくる―!!」

 

「ちょっと、ひかり待っt___」

 

 私は曲がり角を折れてグラウンドの方へと駆ける。

 

 マッチ―は首を抱えたまま走ると落下時のことが怖くてあまりスピードを出せない。

 

 ちょっと酷い言い方だって思うけど、彼女がデュラハンで良かった。

 

 マッチ―の言う通り、私たちはこの高校に入学したての一年生だ。

 

 三年間全く会わない…なんてことは、あるはずがない。

 

 だから、会える時まで待てばよかった。

 

 偶然を待てばよかった。

 

 でも、私はそうしたくなかった。

 

 だって私は___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(私、まだヒッキーくんに…ちゃんと、ごめんなさいしてないから!!)

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 リア充共の喧騒が鼓膜を揺さぶる。

 

 だがそれも、ある程度距離をとれば心地よい雑音になる。

 

 俺は今日も今日とてベストプレイスで昼餉の時間を過ごしている。

 

 ここはいい場所だ。

 

 誰にも会わず。

 

 誰とも話さず。

 

 何の気も使わなくて良い…そんな場所。

 

 このような素晴らしい場所を入学早々抑えた俺に祝福を__

 

 おい。

 

 なんか、違う気がするが…気のせいか?気のせいにしておこうそうしよう。

 

 うん、今日もパンが美味い!

 

 やはり昼飯は辛い系のパンとマッ缶に限る。

 

 教室にいると、さた…さたk…死に戻り擬きが騒いでて気が休まらないからな。

 

 空腹こそが最大の調味料というが、俺は静寂こそが最高のエッセンスだと思う。

 

 ………すまん、ちょっと何言ってるのか自分でも分からない…。

 

 ヒトリゴトだ。

 

 忘れてくれ。

 

 しかし、〇口マンガ先生は最高すぎる。

 

 小町の次くらいに可愛い。

 

 因みに俺が主人公だったら、間違いなく年下の先輩の告白にOKしちゃうぞ。

 

 だって、印税生活最高すぐるからな。

 

 …でも、俺の書いてた小説ってただの中二病全開の黒歴史でしかないからな…。

 

 転生の〇狼になんて逆立ちしても及ばない…つーか、出版できるレベルじゃねえ…。

 

 年下の先輩の言葉を借りれば、この小説の黒歴史レベルは『百点満点中、百万点くらいつまらなかったです』というほどか。

 

 うん、死にたい。

 

 アレをネットにアップしてた自分を殴り飛ばしてやりたい。

 

 俺はいつも通り、蘇ってきたトラウマを鎮めるためにマッ缶に手を伸ばし、一緒に腹の中に流し込もうとする。

 

 すると、悲劇が起きた。

 

 マッ缶が____倒れた___

 

 ちょっ…待てよ。

 

 カランカランと階段に茶色い花を咲かせながら、マッ缶はベストプレイスを駆け降りる。

 

 待ってくれよ…俺、まだお前に___

 

 そうして俺のマッ缶は静かに息を引き取った…。

 

 一口しか口つけてないんだぞ…?

 

 マジかよ…ついてねえ…。

 

 俺は残っていたパンを詰め込むと、縋るような思いでマッ缶の亡骸に駆け寄る。

 

 マッ缶の飲み口は土と埃にまみれていた。

 

 …捨てよう。

 

 この日は、自販機の補充の日で、マッ缶欲しさに業者の作業が終わるのを待っていたらいつもより昼飯を摂り始める時間が遅かった。

 

 ここから自販機まで結構距離があるのでなるべく買い直したくは無い。

 

 ただ、パンのせいで喉はカラカラだ。

 

 残り少ない時間、昼寝をするにしてもこれでは気持ちよく眠れない。

 

 そう考えたら、とるべき行動は一つだ。

 

「買ってくるか…」

 

 俺は自販機の方へ足を向けた。

 

 このところツイてない。

 

 マッスルゲイに襲われそうになるわ、顔面踏まれるわ、不審者みたいな目でみられるわ…。

 

「飲まなけりゃやってらんねえよ…」

 

 まるで社畜のような台詞だな。

 

 働きたくないなあ…。

 

 トボトボと歩く。

 

 そこで俺は気がついた。

 

 足音が聞こえる。

 

 廊下を上靴が擦る音が。

 

(音が軽い…女か?)

 

 ぼっち特有の索敵スキルを用いてこちらに近づいている人物を事前に割り出す。

 

 しかし、それは適わなかった。

 

 なぜなら____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、いた」

 

 

 

 金色のバンパイアはもう俺の目の前に迫っていたのだから…

 

 

 

 

 

 

 




どうも、感想でちょっと動揺することがあった九条明日香です。

今回の話は、私はなるべくなにも考えずにキャラたちが自由に走り回ってくれた感じの話になってます。

いつも以上に駄文ですが、ご容赦ください。

内容の薄さは文字数でカバーです!!

さて、第十一話では新しいキャラが登場していますね。

佐竹君と太田君。

…どうしよう、私もよく知りません…。

二人はこんな人だよ~…と、感想欄でお教え頂けたら幸いです。

今回も読んでくれてありがとう。

感想待ってます。

それではまたの機会に

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