月日が立つのは早いもので、約一年もの間失踪してしまっていました……
今回は少し短めのリハビリ回となっております。
これからまたちょくちょく執筆ペースを上げていこうと思います。
輝夜姫との密談から一週間は経とうとしている今日この頃。
いつの夜も顔を覗かせる月を眺めながら、おれは深い溜め息をつく……すまん、いつの夜は嘘だ。曇ってる日は普通に見えない。
いつになくやる気というものが起きない。
怪我は順調に回復の兆しを見せているというのに、精神面ではここの所泥水でも浴びたかのような不快感が支配する。
おじさんに怪我が完治するまでの休暇とその間の不便のない生活を頂いているため、普通ならばこれでもかと飽きられる程だらけるというのに、どうしてもそんな気にならない。
横になり、眼を瞑るとどうしても考え込んでしまう。
もう彼奴等とは会うことができない現実に。
「最近ずっとあの調子なのよね」
「熊口様……」
結局あの後、輝夜姫と話すことが出来ていない。
月の皆から拒絶されている事を知ったショックと、これまで忘れていた怪我の痛みのツケがどっと襲いかかり、気を失ってしまったからだ。
あの荷馬車の中には結界が施されていた。
恐らく、外部からの盗聴を防ぐ類のものだ。最初は紫の仕業だと思っていたが、拒絶したおれへの情報漏洩を隠す為の輝夜姫の配慮だったのだろう。
そこまで配慮をしなければならないというのに、何の準備もしていない庭とかでまた月関連の話を持ち掛けてみろ。刑期執行中の輝夜姫にこの上なく迷惑を被らせることになる。
本当は今すぐにでも問い詰めたい。
なんでおれが月の民から拒絶されているのかを。
「………………」
いや、なんとなく想像はできている。
考える時間は旅をする合間に腐るほどあった。もしかしたらで考えていた最悪の想定の一つが月の民からの拒絶。
おれは部外者で、兵規違反者。ツクヨミ様を殿に使い、大見栄切った癖に沢山の隊員を死に追いやった。結果はどうであれ、少しでも間違えれば大量の妖怪を月へ侵入を許してしまうところであった。
月へ帰れたとしても、ただで済むとは思ってない。
上層部はおれを咎人として何かしらの罰を、それこそ月から追放するかもしれないとも考えていた。
「上手く行かないよなぁ」
けれども、彼奴等の顔をまた一目でも見たい。
その一心で普段は面倒くさがりなおれが、何百年も旅を続けてこれたんだ。
最早顔は朧気で、皆の顔を正確に思い出すことは出来ない。
でもあの時の思い出は今でも鮮明に覚えている。
あと、永琳さんがナイスバディなのも、スリーサイズを寸分違わず言えるぐらいにははっきり覚えている。
「ああいうのって、熊口様はよくあるの?」
「んー、たまにね。でもまあ、誰だってあるでしょう。気分が落ち込む事なんて」
一度だけでもいい。
また皆の元気な姿を見たい。
たとえ、その皆から拒絶されよう……されよ……う。
「はああぁあ…………」
ずっとこれの繰り返し。
何度立ち直ろうとしても、拒絶されているという事実が頭を過り、覚悟をしかねてしまう。
ため息も今日だけでもう軽く十を超えている。
「なにため息なんか吐いてんのよ。らしくもない」
「……紫、と輝夜姫か。もう遅いぞ、夜更しは美容に大敵って知らないのか」
「それは此方の台詞。怪我人なんだから早く寝なさいよ」
「熊口様、身体をお休めにならないと怪我の治りが遅くなられますよ」
「いいんだよ。治りが遅まればその分だけサボれる」
「それを雇い主の前で言うんじゃないの。ほら、行った行った」
「わっ、押すなって」
寝るったって眠れないから夜風にあたってるってのに。寝床に戻ってもまた同じ事を繰り返す羽目になる。
「それとも何、一人じゃ眠れないなら昔みたいに私を抱きしめて寝る?」
「え"っ!!?」
「おい、それこそこっちの台詞だろ。怯えておれの寝床に入ってきたから宥める為に仕方なくやってたんだからな」
今はもう起きていないが、昔はよく発作的に昔の記憶が蘇って魘されていた紫を宥めていたもんだ。
「あれー、そうだったかしら?」
「く、熊口様! 今のは真ですか! よよよ邪な感情は持ち合わせていた訳ではないのですね!?」
「なな、なんだよ。急に詰め寄ってきて。生憎おれに女児愛好家の性癖は持ち合わせてないぞ」
「あの時は熱い夜だったわ」
「!!?!」
「さては紫お前、勘違いを起こすような言い回しをわざと言ってるな」
さしづめ輝夜姫の反応を面白がっているってところだろう。
熱い夜って物理的な意味だからね。今と同じような夏場だったから寝苦しかったのは今でもよく覚えている。
それで変な誤解をされたら困るのはおれらだってこと紫は理解しているのだろうか。
「無駄話はいいから、お前らは早く寝ろよ。おれももう少し夜風に当たったら寝るから」
「はあ……分かったわよ。でもこれ以上辛気臭い顔を私達に見せないでよね。此方まで気分悪くなるわ」
「熊口様も早くお休みになってくださいね」
「はいよ。気にかけてくれてありがとな」
相変わらず紫は口悪いが、一応二人共おれの事を心配してくれているようだ。
そんな二人を見送りつつ、おれは亭の手摺から腰を上げた。
気分は未だに沈んではいる。けれども、二人が話しかけてくれたことで幾分かはましになった。
そうふと軽くなった肩を掠めるように、気持ちの良い夜風が通り過ぎていく。
先程まではずっと生温かったというのに、どういう風の吹き回しなのだろうか。
「ちょっと飛んでくるか」
たまには何も考えずに飛んで気分転換するってのも良いかもしれないな。
いやぁ、久しぶりに飛ぶからやり方どうだったっけな。
確か身体の周りに放出した霊力を纏わせて……よし。久しぶりでも身体が覚えてくれていたみたいだ。これならすぐにでも飛び立つことができる。
「いざ、出発! _______あれ?」
その場で軽く浮けたこともあり、慢心したおれは勢いよく亭を飛び立とうとした。
が、おれはこの時忘れていた。
命を消費した力___霊力は己が死なない限り継続する事を。
幾ら消費しようと死にさえしなければ霊力は元の上限ではなく強化した状態までいずれは回復する。
まあ、つまりだ。
そのことを忘れていつもの要領で飛ぼうとしたら勢い余って飛び出し、慌ててしまったせいで制御を失って池に特攻してしまったわけです。
「……何やっているの」
「く、熊口様!?」
「……」
先程別れた二人が、ダイナミック着水により出た衝撃音に気になって戻ってきたようだ。
結構な勢いで顔から着水したため、かなりヒリヒリする。馬鹿でかいゴムで叩かれたかのようだ。
「でもまあ、ある意味頭は冷えたな」
たまには水に飛び込んで何も考えずぷかぷか浮くってのも良いかもしれない。空飛べない人にはおすすめするよ。
「早く! 早くこの縄にお捕まりになってください!」
「輝夜、こんなの放っておいてさっさと寝ましょ」
当作品の原作キャラの中で一番印象に残っている人(神)妖
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八意永琳
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綿月依姫
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綿月豊姫
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洩矢諏訪子
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八坂神奈子
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息吹萃香
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星熊勇儀
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茨木華扇
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射命丸文
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カワシロ?
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八雲紫
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魂魄妖忌
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蓬莱山輝夜
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藤原妹紅