東方生還記録   作:エゾ末

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⑤話 犯人であり半人

 

 

「ここがお婆さんが言っていた集落か」

 

 

 竹から産まれた人間。

 その真意を確かめるべく、噂の根源である集落へと来ていた。

 とまあ、集落と評されているが、殆どが田圃で、民家なんて見える限りじゃニ、三件ぐらいだ。その中に保護者の家があるのだろうか。

 

 

「取り敢えず情報収集しましょ。良いところにあの家に人の気配があるし」

 

「そうだな。折角だし紫が尋ねてみたらどうだ」

 

「なんで私が……」

 

「これも経験だよ。生きてる上では誰かに頼るとき上手く話せないと何かと不便だろ? これから一人で旅していくのなら尚更だ」

 

 

 人間同士の交渉の時はいつもおれがしてきた。交渉術はその都度教えてきたが、実践はまだだ。今回はただ尋ねるだけだし、そんなに難しいことではないし丁度いいだろう。

 

 

「分かったわよ。私の交渉技術を見て顎外さないでよ」

 

「ははは、そんな事になったら紫を乗せて這って目的地まで連れてってやるよ」

 

「言ったわね。二言は許さないわよ」

 

 

 そう豪語すると、紫は妖術を使い髪の色を黒く変化させてゆく。

 紫曰く、目の錯覚を利用したトリックのようなもので、実際に黒く染まっている訳ではないのだそう。

 

 

「生斗は此処にいて。私一人で済ませてくるわ」

 

「妖術で操ったり脅すのは禁止だからな」

 

「分かってるわよ。正々堂々生斗の顎を外してやるわ」

 

「精々頑張りな、どうせ無理だろうけど」

 

 

 自慢じゃないが生まれてこの方顎を外したことがない。うん、ほんとに自慢じゃない。

 驚いたことでは勿論、戦闘や笑い過ぎ等のあらゆる要因で顎を外すリスクは常につきまとうが、本当に外したことはないんだよなぁ。

 

 やる気満々な紫には悪いが、こればかりは無駄な足掻きだ。

 

 もし外すとするならば、この周りの土地を全て渡すから紫を養子に欲しいとか素頓狂な事を言われない限りはまずありえないだろう。

 

 まっ、つまり不可能ってことだな! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「おっかぁ、あれなにー?」

 

「こら、見ては駄目よ。関わっても駄目!」

 

「ち、ちがうよ〜。お馬さんごっこしてるだけだよ!」

 

 

 田園を抜け、再び山中へと足を踏み入れている道すがら、親子に今の状況を目撃されてしまい、絶望に苛まれています。

 

 

「意外と良い気分ね」

 

 

 もしかしたら紫にドS特性を与えてしまったかもしれない。

 

 いやほんと、なんでこうもフラグを回収したがるのかな。

 まさか土地の占有権どころか紫を奉らせてくれとか言い出されるなんてな。流石の熊さんの口も限界突破して開きますわ。

 紫を奉って何するんだよ、新宗教でも始める気だったのか? 

 

 

「ほら、もうすぐよ。急ぐ急ぐ」

 

「こらっ、尻を叩くな!」

 

 

 一応竹人間の住処を聞き出すことに成功し、紫を奉らせるのは丁寧にお断りする事ができた。

 だから今こんな状況になっているわけなんですけどね。

 畜生! こうなったら目的地まで猛スピードでとばしてやる! 

 

 

「振り落とされるなよ紫!」

 

「ほんと、馬みたいね」

 

「ヒヒーン!」

 

 

 おれは今馬だ。

 そう、なりきるのだ。中国の拳法にあるように。

 さすれば馬の如き速さを手に入れる事ができる…………多分!! 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「ぶるるぅ」

 

「お疲れ様」

 

 

 竹林を抜けた山頂に、目的地である竹人間の住処があった。

 なんとか紫の尻から開放されたおれは服についた汚れをはたいていると_________

 

 

「どうやら、一足遅かったようね」

 

 

 既に家に上がり込み、中を物色した紫がやはりといった感じで顎に手を当てていた。

 

 

「いないのか?」

 

「ええ、先程聞き出した老夫婦が言ってたのよ。最近この家に小綺麗な服装をした人間が出入りしていたとね。竹から産まれた子を拾ってから何故か羽振りも良くなっていたようだし……もしかしたら、都に移住する手筈をしていたのかも」

 

「そうか? 見た感じこの家も古いようだし、都に移住する金があるようには見えないが」

 

 

 竹人間を拾ってから羽振りが良くなった、ね。

 それに小綺麗な服を着た人間の出入り。紫の言う考察も的外れでは無いような気がする。

 

 

「それよりも、まだ出たばかりなのか、囲炉裏に少し温もりがあるわ。お昼を食べてから出発したのでしょうね」

 

 

 現場の状況を逸早く察知し、痕跡を元に行動を予測する。

 言うだけなら簡単なようだが、実際にやってみると意外に難しい。

 それをほんの短時間ーーおれが服をはたいている合間にし終えるのだから、紫は探偵にも向いてるだろう。

 

 

「まだ追いかけるか?」

 

「勿論。乗りかかった船よ。最後まで渡りきりましょう」

 

 

 やるなら最後までやるのは良い事だ。

 正味もう怠くなってきているが、おれから言い出したことだし、紫の言う通りやりきろうではないか。

 

 

「ほら、そうと決まったら」

 

「なんだよ」

 

「馬」

 

「もうやらねーよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________________________________________

 

 

 

 あれ、私______何をしていたのだろう。

 

 ここは…………どこ? 

 

 

「貴様は餌だ。我が復讐を成就させる為のな」

 

 

 父上は? 母上はどこ? 貴方は何者なの? 

 

 声に出そうにも、猿轡をされている為、低い唸り声しか発することができない。

 

 

「案ずるな。無為な殺生などせぬ。それでは奴と同じだ」

 

 

 だが、彼は私の心情を察してか、綻んだ髪を結び直しながらそう応える。

 

 ___________そんな彼の周りには、純白の白玉が漂っていた。

 

 

「直に日が暮れる。暫し休むのだ。何、悪いようにはせん」

 

 

 

 

 

 

 

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「なんかあの駕籠、不法投棄されてないか?」

 

「ついでに人間も不法投棄されているわね」

 

 

 竹人間の元住処から足跡を頼りに進んでいたが、山道から少し外れた傾斜に切り刻まれた駕籠と、周りには五、六人程の人間が倒れ伏していた。

 

 

「命に別状は……ないようだな。跡的にこれは刀での犯行だな」

 

 

 ご丁寧に皆峰打ちしてやがる。

 中には用心棒として雇われたであろう歴戦っぽい傭兵もいるというのに。

 複数人を相手に峰打ちで一撃。それ程までに実力差がある明らかな証拠だ。

 

 

「そ、そこの者!」

 

「おっ、意識がある人いたんだ」

 

 

 風貌は既に齢八十を越えている程老いているが、この中では一番タフなようだ。いや、老人だから手加減されたと考えるのが妥当か。

 

 

「頼みまする! 姫を、姫をどうかお救いください!」

 

 

 無い筋肉をフル稼働させ、這いずりながらなんとかおれの袖を掴むお爺さん。

 おれは彼に無理をさせまいと、仰向けにして楽な態勢を取らせる。

 

 

「誰にやられた。それにその駕籠、何処かの貴族でも攫われたのか」

 

「わしの、娘です!」

 

 

 娘ねぇ。そういえば竹から産まれたって子も確か女の子とか言ってたよな。

 それに追跡していた足跡もここで途切れている。

 見れば倒れているどの人間も身振りの良い格好しているし、これはどうやら___________

 

 

「……相当面倒なことになってるぞ、これ」

 

 

 当初は興味本位でちらっと見るだけだと思って始めた事なのに……タイミングが噛み合わなすぎやしないか。

 

 

「どうするの? これ以上は私の我儘を通すわけにはいかない。判断は生斗に任せるわ」

 

 

 紫ももう察しているらしい。

 おれらの探し人は絶賛攫われの身に置かれている。

 

 

「微かにだが霊気が残留している______」

 

 

 気質は妖気と似ているが、これは紛れもなく霊気だ。

 

 以前に同じような気質の怨霊と旅をしていたから分かる。

 

 

「黄昏時ね。現実の境が曖昧になるこの時間帯でこの霊気______人間や妖怪というよりも」

 

「幽霊の仕業かもしれないな」

 

 

 残留霊気を見るにそこまで遠くは行っていない。紫とおれでならすぐに見つけ出す事が出来る筈だ。

 

 

「やるのね」

 

「言ったのは紫だろ。乗りかかった船を途中で投げ出したくないって。それにこんな状態になってまで娘を心配する親御さんを放っておいたら夢枕に出てきそうだからな」

 

「ああ、ありがたや! ありがたや!」

 

 

 偽善と罵る輩もいるかもしれない。実際におれは自分に救えそうな者しか救わないし救えない。

 己の実力に見合わないものは見捨ててきた。

 

 それにおれは別に慈善活動で人助けをしてる訳ではないしな。

 

 

「んじゃ、取引しようか。もしお爺さんらの娘さんを取り返してきたら、都で美味い飯食わせてくれよ。鯛の煮付けなんかいいな。あっ、勿論この胡散臭い美女にもな」

 

「胡散臭いは余計よ」

 

 

 目線をお爺さんに合わせ、取引を待ち掛ける。

 それぐらいの見返りを求めなければ割に合わない。

 久々に海鮮料理でも食べたいものだ。

 

 

「その程度の事ならば幾らでも叶えます! だから早く姫を!」

 

「待てって。まずは皆の手当を……」

 

「そんなもの儂がしますから!」

 

 

 時を一刻も争うという感じに、切羽詰まってるなお爺さん。そりゃそうか、娘が攫われてるもんな。

 

 

「なら此処で安静にしてくれよ。おれらが戻る前に盗賊なんかに襲われないよう傭兵から起こして置いたほうが……」

 

「いいから早く!」

 

「はいはい、分かったよ」

 

 

 よし、それじゃあ行くか。さっさと竹人間を取り戻して鯛パーティだ。

 

 

「紫、一応だがお爺さん達を介護してやってくれ。このまま放置していくのは流石にまずいだろうからな」

 

「ええ、そうね。生斗は一人で大丈夫なの?」

 

「なーに、死ぬ事はないさ。危なくなったら速攻で帰ってくるから。それでも追ってきたらその時は数の暴力でゴリ押そうぜ」

 

「ふふっ、それが最善策なのは間違いないわね」

 

 

 ほんとは一気に二人掛かりで犯人をボコボコにした方が楽なんだけどな。

 でもまあ、依頼主が先に逝ってしまったら骨折り損になってしまうし仕方ないか。

 

 

「んじゃ、さっさと行って取り戻してくるわ」

 

「心配はいらないと思うけど、一応気をつけてね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 これは、慢心という言葉が適切過ぎて花丸満点をあげてしまう程の失態を犯してしまったようだ。

 

 

「中々良い太刀筋をしておる。だが、もう見切った」

 

 

 肩から腰にかけて袈裟懸けに一筋の真紅の液体が滲み出る。

 斬られたのは何百年振りだろうか。

 真剣で切り傷を与えられたのは確か、依姫と模擬戦をしたとき以来か。

 

 そしておれの眼前にいる人間____________いや、()()()()は間違いなく、あの時の依姫よりも強い。

 

当作品の原作キャラの中で一番印象に残っている人(神)妖

  • 八意永琳
  • 綿月依姫
  • 綿月豊姫
  • 洩矢諏訪子
  • 八坂神奈子
  • 息吹萃香
  • 星熊勇儀
  • 茨木華扇
  • 射命丸文
  • カワシロ?
  • 八雲紫
  • 魂魄妖忌
  • 蓬莱山輝夜
  • 藤原妹紅

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