東方生還記録   作:エゾ末

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次回3章最終回です。


19話 満了・節目

 

 妖怪の山では驚きの連続だ。

 事あるごとに騒動が起き、その度に沢山の建造物が破壊される。

 だが天狗達の高い建築技術と鬼の余りある運動能力により次の日には何もなかったように再建されてもいる。

 

 そんな騒動に何度か巻き込まれ、何度も命の危機に見回れたりしたが、なんとかまだ息をしております。

 

 文の友達作りと料理実習からもうすぐ五十年経つ。

 五十年とはつまり、おれと鬼との契約満了日も近付いてきているということだ。

 

 ここの連中とは随分と仲良くやったが、そろそろそんな一時も終わりにしなければならない。

 おれと翠にはそれぞれ目的がある。

 その目的を達成するために、踏み出さなければならない。

 

 

「今更だけど、なんで生斗って歳取ってないの?」

 

「そりゃあ、おれだからな」

 

「まあ、生斗だもんねぇ」

 

 

 と言いつつも、この五十年間何もしなかったわけではない。

 天狗の情報収集力を買い、おれは天魔に依頼して妖怪の山周辺の町村に妖怪発生状況や月に関する情報を手に入れていた。

 天魔も、おれが天狗社会の相談役として何度か世話を受けていたこともあり、快くその依頼を了承、滞る事なく情報を集めることができた。

 結局どちらも有力な情報を手にすることはできなかったが。

 

 

「おいおい、それで信じるなよな」

 

「じゃあなんで? 人間の寿命はとっくに過ぎてるはずでしょ。私は元々、それが分かってあんたと契約したんだ」

 

「一生鬼と共にいろって事か……黙ってて悪かったと思うよ。ただこの事を言ったら命の危険がとんでもないことになりそうで恐くてな」

 

 

 _____妖怪の山の連中と一緒にいるのも後数日程度か。

 別に期日が来ても、妖怪の山に留まることは出来るだろう。

 だが、そこを区切りをつけないと、いつまでも此処にいそうになる。

 月の皆に再会しなくても良いかもと思ってしまうおれがいる。一緒にいた期間は月の皆より倍は妖怪の山の連中の方が長いしな。

 だが、おれは約束しているんだ。必ず月に行くと。

 その約束を果たすため、おれは行かなければならない。

 

 

「おれが生きてるのは、おれ自身の能力によるものでな____」

 

「『生を増やす程度』の能力?」

 

「そう、神の恩恵でおれが不老なのは知ってたよな? 前に勇儀と話してたときに確か盗み聞きしてたし」

 

「あ、うん」

 

「それもこの能力の特典みたいなもんだよ。おれは複数の命を持つことができる」

 

 

 満期が近付いている。

 それを把握していた鬼達は連日期日を延ばせやら永住しろと詰め寄ってくる。

 そして今日は鬼の中でも大御所である萃香と勇儀がおれの家へと赴いていた。

 

 

「それなら何回でも生死を分けた勝負ができるじゃん!」

 

「そういうことになるからこれまで黙ってたんだよ」

 

 

 居間で三人、少し重たい雰囲気を漂わせている中に、先程まで黙っていた勇儀が口を開く。

 

 

「なんでだい? 一緒に酒を呑み交わしたり、一緒に馬鹿やって笑いあったのは、囚われの身だから仕方なく付き合っていたってことなの?」

 

「違うに決まってるだろ。その逆だ、おれだって住めるのならずっと此処に居たい」

 

「ならどうして?」

 

「……お前らは約束をして、それを自分の都合で破ってしまうことになった場合どう思う?」

 

「あり得ないね。約束を破ることは鬼としての意地が許さない」

 

 

 そうだろうな。鬼は嘘を嫌う。

 純粋過ぎて人の言葉を簡単に信じ込んでしまうような種族だ。

 約束を破るということはつまり、嘘をついたことと同義、それを鬼である勇儀達が看過する訳がない。

 そんなおれの質問の意図に察した二人は、少し諦めたような、複雑な顔となる。

 

 

「……何となくわかったよ。待たせている相手がいるんだね」

 

「でも一体どんな奴なんだい。年数的に、普通の人間じゃないんでしょ?」

 

 

 そう萃香からの質問に、おれは人差し指で天井を指し、

 

 

「月の皆さ。酒の席で何度か言ったろ?」

 

「ま、まさか」

 

「ただの絵空事とばかり思ってたよ。でも、生斗の顔を見る限りじゃ本当みたいだね」

 

 

 これまでは信じられてなかったと。

 

 

「あいつらと約束してるんだよ、必ず行くって。此処にいつまでもいるとその約束を放棄してしまいそうになる。おれが満期を迎えてこの山に出るのも、節目を作らないといつまでもずるずる引き延ばしそうだからだ」

 

 

 さっきも同じようなことを言ったーー正確には思っていたが、大事なことだから改めて言おう。

 鬼である萃香達なら理解してくれる筈。

 

 

「……はあ。それじゃあ引き止めようとした私らが悪者みたいじゃないか」

 

「いや、その気持ちは正直嬉しかったよ。引き止めてくれるってことは、おれともっと一緒に居たいってことだろ?」

 

「それもそうだけどさ」

 

 

 自分で言っておいてむず痒くなる。

 だが、鬼達にとっておれは呑み仲間であるぐらいで、利益をもたらすようなことはしてこなかった。

 ということは純粋に、おれを『友人』として見てくれている証拠でもある。

 

 

「____仕方無いね、今回は引き下がるよ」

 

「その代わり、私らとも約束しな。たまにでいいから、この山に戻っておいで。いつでも歓迎するよ」

 

「願ってもない申し出だな。お言葉に甘えて、週一で帰るわ」

 

「言ったね! 鬼は嘘は嫌いだよ!」

 

「ごめん、冗談だ。でもほんとにたまには戻るよ。その時はまた皆でどんちゃん騒ぎしようぜ」

 

「ふふっ、二、三杯で潰れる奴がよく言うよ」

 

「それはお前らが呑む酒の度数が高いだけだから! ほんとならもうちょっと呑めるぞ、たぶん! そもそもお前ら毎回______」

 

 

 その後他愛のない話に華を咲かせつつ、酒盛りしてその日を過ごした。

 比較的穏便に鬼達に旅へ出ることの許可を得られたのではないだろうか。

 変にこじらせると勝負して鬼が勝ったら延長とかの流れにもなりかねないから内心ひやひやしていたのは秘密という事で。

 

 後は天狗サイドだな。

 別に天狗の組織に属しているわけではないから、鬼達よりは楽だろう。

 明日、天魔のところへ挨拶に行かないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「駄目じゃ。この山から出ることは許さん」

 

 

 鬼との契約満期であることと、おれに目的があってこの山から出ること、そして鬼からもその了承を得られた事を説明した後、数分おいて天魔から放たれたその発言に、おれは呆気にとられていた。

 

 

「熊口、御主は己の立場をまるで分かっておらん。

 熊口は今や天狗社会の相談役であり、文の上司であるのじゃぞ。これを見て他の天狗から見ても関係者ではないとは誰も首を縦にはふらぬじゃろう」

 

「う”っ」

 

「そして天狗の掟として、この山の脱走者にはそれ相応の報いを受けるというものがある。熊口が今出てしまえば、その掟に抵触させようと暗躍する輩が必ずや現れるじゃろうな」

 

 

 それは、確かにいるだろうな。

 天狗の全員が、おれを認めてくれている訳ではない。

 人間だから、態度がムカつくから、天魔と馴れ馴れしく話しているから。

 様々な理由から何名かの大天狗から嫌われているのは自覚している。

 おれが知らない中にもおれのことが嫌いな天狗はまだまだいるかもしれない。

 だが、天狗社会に変に首を突っ込んだのも事実ーー文の上司になったのは完全に天魔の独断だが。

 天魔が危惧する事態になることは避けられないのかもしれない。

 

 

「と、言うのは職務上の建前じゃ」

 

「ん?」

 

「本音はわしも萃香達と一緒じゃよ。友人として熊口には此処に居て欲しいが、約束を破らせるわけにはいかん」

 

 

 天魔も立場的に贔屓する訳にはいかないのは分かっている。

 その上で本音を漏らしてくれている辺り、本当は天狗達の都合で此処に縛らせたくはないのだろう。

 

 

「そうじゃ! そういえば最近宴会を開いておらんかったの。()()()()()()()にでも開くとするかの。あっ、この集会には熊口は来なくて良いぞ。熊口は酒が弱いからの!」

 

「……! そうだな。天狗達の呑むペースに合わせてたら、命が幾つあっても足りないしな」

 

 

 口から直接出ても良いなんて事は、天魔の役柄上口が裂けても言うことは出来ない。

 だからあえて宴会の話を持ち出してきたわけだ。

 

『宴会が催している間に出ろ』

 

 

 天魔はそうおれに言っているのだ。

 正直この発言だけではおれの安全は保証されてはいない。

 一度この山を出てしまえば天狗からしたらおれは裏切り者であり、粛清の対象となる。

 だが、今回は天魔の事を信じることにしよう。

 多少の追っ手に振り回される可能性はあるが、天魔が上手く立ち回ってくれる事に信じるしかない。そうでなければ、おれはいつまでもこの山に囚われの身となってしまう。

 不干渉の決まりはあるが、最悪鬼の力で何とかしてもらおう。

 一回出て永久追放は萃香や文達と会えなくなってしまうかや流石に辛いし。

 

 

「今度帰ったら良い土産話持ってくるよ」

 

「はて、何の話をしておるのかの?」

 

 

 おっと、この話は天魔の前でしてはいけなかったな。

 だが、口元が微かに笑っている辺り、楽しみにしていてくれるようだ。

 

 

 さて、鬼と天狗の了承は得られたようだーー正確には得られてはいないが。

 

 ____後は()()()だな。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「え~! 生斗あんた達来月この山から出ていくの!?」

 

「静かに! てか食べてる最中に大声出すな、粟がこっちにまで飛んできただろ!」

 

 

 最近では当然の権利のごとく我が家の食卓に顔を見せるカワシロが、粟を撒き散らしながら驚いた顔でおれと翠を交互に見る。

 

 

「それにこれは機密事項なんだからな。他の天狗にバレたら一大事になるんだぞ」

 

「すいません、こればっかりは行かないといけないんです」

 

「他の天狗にはって、私は良いんですか?」

 

 

 箸で和え物を挟んだまま質問をぶつけてくる文。

 文も最近おれに対して遠慮というものが無くなってきている。

 

 

「何言ってるんだ、天狗である前にお前はおれの友人だからな。黙って出るのは筋が通らないだろ。勿論、天魔にもこの話はしてるし、間接的にだが了承は得ている」

 

「……そうですか」

 

 

 そう呟くと、漸く和え物を口に運ぶ。

 

 

「月の件と、天魔様の旧友の件で、ですよね」

 

「____なんで分かった?」

 

「それ以外で生斗さんと翠さんが出る理由が見当たらなかったので。お二人が私達の事を本当は嫌っていたのなら話は別ですが」

 

「そんなことは絶対にないから安心してくれ」

 

 

 やけにあっさりとしてるな、文の奴。鬼達ですら信じてくれなかった月の件まで理解してくれていたとは。

 この中で一番説得が難しいのは文だとばかり思ってたんだけどな。てっきり天狗の掟とかを盾に脅してくると思ってたんだが……

 

 ____いや、これは違うな。

 

 

「たまには戻ってくる。だからそう不貞腐れるなって」

 

「不貞腐れてません」

 

「不貞腐れてますね」

 

「不貞腐れてるよね」

 

 

 やはり、他の人が見ても不貞腐れてるよな。目を合わせてくれないし、ちょっとだが眉間に皺が寄っている。

 

 

「文、ほんとに勝手ですまん。上司であるおれが抜ければ、文に負担を掛けてしまうだろう」

 

「……」

 

「だから、力不足になるかもしれないが、今のうちにやっておきたい仕事があればなんでもおれに言ってくれ。おれが出来る範疇であれば喜んで仕事するぞ」

 

「えっ、それじゃあ土下座の状態で私の足舐めてください」

 

「お前には言ってない」

 

 

 ていうか翠、お前の足透けてるだろ。

 それにおれは仕事に関係する事で言ってるのであって、全ての事柄のなんでもとは言ってないからな。

 

 

「……それじゃあ、この後私の家まで来て下さい。申し訳ないんですが、翠さんは留守番してもらえると助かります。そこでとても大事な仕事の内容を説明しますので」

 

「お、おう。わかった」

 

 

 大分軽い気持ちで仕事すると言ってしまったが、ちょっと安請け合いしてしまったかもしれない。

 人には言えない任務、つまり極秘事項だから翠を置いてくるように指示しているのだろう。

 おれを通さず、天魔本人から請けている仕事が幾つもあるらしいしーーていうかおれのポストは完全にあってないようなものだけどな。

 

 

「あー、これは邪魔しない方が良いみたいだね。モブ河童は翠ちゃんの食事を食べ終わったら大人しく帰るとするよ」

 

「私もお皿洗いがあるので、丁度良かったです。たっぷりと労働の汗をかいてきてください」

 

 

 極秘と聞いてか、他の二人はそそくさと距離をとる。

 

 

「言っておくが、何ヵ月もかかるようなのは無理だぞ」

 

「大丈夫です_____一日あれば済みますから」

 

 

 一日で済む極秘任務、ね。

 謎は深まるばかりではあるが、何でもすると言った手前、無理難題でない限りは引き受けねばならない。

 

 そう頭の中で覚悟を決めつつ、食事を続けることにした。

 その時何故か翠が複雑そうな顔をしていたのには少し気になったが、どうせ自分の願いが即却下されたことに対して不服に思ってるだけだろうと決めつけておくことにする。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「生斗さん」

 

 

 薄暗い部屋の中、蝋燭の光により二人を朧気に照らす。

 何故態々文の家に呼ばれたのかはさておき、ほんとにこいつの家何にもないな。

 必要最低限の棚と机だけ、それ以外は押入にでも仕舞っているのかは知らないが見当たらない。

 別にそれが悪いとは言わないが、些か物足りなさを感じてしまうのはおれの感覚が可笑しいだけだろうか。

 

 

「何だよ、変に改まって」

 

 

 畳の上で正座し、胡座をかいているおれを見つめる文。

 ここまで畏まられると、此方まで気を使わなければという気になってしまう。

 さあ、来るなら来い。どんな仕事だろうと、おれの命が減るようなことがない限り尽くしてやろうじゃないか。

 

 

「これまで、本当にありがとうございました。熊口さんがいなければ、私は腐っていたと思います」

 

「へあっ?」

 

 

 どんな仕事が来るのかと身構えていると、文の口から予想外の発言が飛び出したため、思わず変な声が出てしまった。

 

 

「友人が出来たのも、料理が上達したのも、全て生斗さんのおかげです」

 

「待て待て待て、待て。ここに呼び出したのは仕事の事じゃないのか?」

 

 

 身体中がむず痒くなる文の感謝の言葉に照れを隠すように頭を掻く。

 

 

「はっきり言っておきます。生斗さんに恩はあれど、借りを作った覚えは全くありません。特別な任務も全て真っ赤な嘘です」

 

「お、おう。そうなのか」

 

 

 そんな面と言われましても、中々に反応に困るな。

 おそらく、文が自分の家に呼んだのも、他の人がいると恥ずかしいと思ってのことだろうーーおれだって感謝を面と向かって言うのは恥ずかしくてそう言えるようなものではない。

 ……それにしても、借りを作った覚えはないと来たか。

 でもなあ、天魔に与えられた仕事の殆どを文に任せていたのも事実、このまま何もしないというのは何か違う気がする。

 

 

「……でも、どうしても何かされたいのでしたら」

 

 

 そんなおれの心情を読み取ってか、文は間を置いて妥協案を掲示しようと口を開いた。

 そしてその妥協案は、

 

 

「私の頭を撫でてください」

 

 

 それはそれで恥ずかしく、要求を飲みづらい内容であった。

 そんな思わぬ要求に答えを決めあぐねているというのに、文はお構い無しにと頭襟を取り、頭を差し出してくる。

 

 

「そ、そんなのでいいのか?」

 

「それだけで、私は報われますから」

 

「……分かった」

 

 

 恐る恐る、おれは文の頭へ手を伸ばしていき、そしてそっと髪を撫でた。

 蝋燭の灯火により艶やかに照らされた文の髪は、想像以上にしなやかで細く、とてもさらさらで何時までも触っていられるほど心地の好さであった。

 

 おれの髪とは大違い過ぎやしないか。普段どうやって髪を洗っているのか是非ともご教授願いたい。

 

 

「……」

 

「おぉ」

 

 

 何度も、何度も、おれは文の髪を撫でた。

 心地好いからというのもあるが、それだけであれば自重して三回ほどで止めにする。

 

 おれは、感謝しているのだ。

 五十年という年月はとても永い。この世界では平均寿命を軽く越えるレベルの永さである。

 そんな永い時を、おれの部下として立派に頑張ってきてくれたのだ。

 

 そんな有能な文に慣れきったおれは、羞恥心もあり、あまりこれまで言葉以外でこうやって褒めてやれなかった。

 だからこの時ぐらい、存分に褒めさせてほしい。

 

 

「うっ……」

 

「おいおい、やれって言ったのは文の方なんだから泣くなよ……」

 

 

 撫で過ぎたからだろうか、文は俯いたまま手の甲で眼を擦っていた。

 

 

「やはり、永遠でなくとも、別れというのは辛いものですね。これまで当たり前のように一緒にいた人が、いなくなってしまうんですから」

 

 

 別れを告げるものと、別れを告げられるもの。

 辛いのは圧倒的に後者だ。

 そんな辛い思いをさてでも、出なければいけない理由がある。

 それを理解しているからこそ、萃香や勇儀、文も止めるようなことはしてこないのだ。

 

 これはもう、約束守れなかったと諦めてノコノコと帰ったら、十中八九殴り殺されるだろうし、そもそも顔向けすらできないなーー端から諦める気は毛頭ないが。

 

 おれがこの世界に残ったのも、月の皆にもう一度会うためなのだから。

 

 

「もう……大丈夫ですよ」

 

「おう」

 

 

 文の頭部から手を退けると、文はゆっくりと頭を上げ、もう一度頭を下げ、礼を述べる。

 

 

「私の我が儘を聞いてくださり、ありがとうございました」

 

「いや、良いんだ。こういうのだったらこれからも遠慮なく言ってくれ。喜んで頭撫でてやる。いや撫でさせてください」

 

「何故敬語なんですか。それに一緒にいられるのももう数日程度しかないでしょう」

 

「そ、それもそうか」

 

 

 文の髪の感触が未だにおれの掌に残っている。

 あの感触は自分の髪では決して味わえない、ていうか触った手、微かに良い匂いがする。

 

 

「……私、頭臭かったですか?」

 

「癖になる匂いだ」

 

「!?」

 

 

 あっ、これセクハラ発言になりそうだな。

 いかんいかん、一旦掌の匂いを嗅ぐのは控えよう。

 

 

「それじゃあ、おれは帰るぞ。そろそろ家の手伝いしないと、翠の雷が落ちるからな」

 

「そ、そうですね。引き留めてしまってすいませんでした」

 

 

 これ以上ここに居ても文に迷惑だしな。何時もならもう床につく時間だし、蝋燭がもったいない。

 積もる話があるのなら、また明日でも遅くはないのだから。明日の昼頃にでも、ゆっくり話せば良い。

 

 

「それじゃ、また明日な」

 

「はい、お休みなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、折角勇気を出して()()招いたのに……」




~オマケ~

生斗宅

「くんくん」

「なんだよ翠、急に匂いなんて嗅いで。そんなにおれが恋しかったのか」

「そんなこと微塵もありませんが____うん、熊口さんは枯れてますね」

「はあ? 枯れてるって何がだよ」

「熊口さんの存在がです」


このあとめちゃくちゃ喧嘩した。

生還記録の中で一番立っているキャラ

  • 熊口生斗
  • ツクヨミ
  • 副総監
  • 天魔

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