生斗が目を覚ましてから数日。洩矢の国へ又もや神奈子の軍勢から使者が送られていた。
「長旅お疲れさま。こんなに早く返事が来るなんてね」
「はい。神奈子様より、速達で洩矢の神へ報せろとの事でしたので、軍一に速い私めが使者を務めて参りました」
その使者は、最初に来た道義とはまた違う者が来ていた。
速達、という単語に若干の疑問を感じつつ、諏訪子は書状を読み上げていく。
「ほう、やっぱり乗ってきたか」
そこには諏訪子との一騎討ちを了承したこと。その日時と場所の指定等が記されていた。
「(良くやった、二人とも!) そういえば、私の送った使者は何処にいるんだい?」
「それは、もう一つの書状に記されています」
そう言って懐よりもう一つの書状を取り出す使者。
何故態々翠と生斗の所在を? と諏訪子はさらなる疑問を抱きつつその書状を受け取った。
そしてどのような内容かと見始めると、次第に諏訪子の目に光がなくなっていった。
「二人とも、もう___この世にはいない、だと?」
そこには、二人がどのようにこの世から消え去ったか、細部にわたって記されていた。
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「ねえ、神奈子さんや。なんでおれと翠を返さないのさ。人質とかいっても無駄だと思うよ。なんたっておれは余所者だからな。翠も幽霊。人質のひの字も効力を発揮しないよ」
「神の瞑想中にこうも図々しく居座ってくるやつがいるなんて初めてだよ。あと、その質問は何れ判ると何度も言ってる筈だよ」
神奈子の瞑想中、おれは無駄に広い部屋を活用して、寝転び、暇なのでごろごろしながら話しかけていた。
「ため口で良いって言ってたじゃん。おれにそんなこと言ったらどこまでも無礼を働く自信がある」
「そうは言っても節度が……いや、あんたにはそんなものあってないようなものだろうね」
「そうそう、無礼で殺されかけたぐらいだからね。
もういっそのことやりたいことやろうと思って」
「開き直りが凄いよあんた」
やっぱりなんだか神の間というのは落ち着くもんだ。
煩いやつはいなく静かだし、神聖な感じがこう、穢れを払うみたいで。ついでにそれで翠を浄化して欲しい。
『このぐらいじゃ私はピンピンしてますよ』
ほんと、何れは本気で霊媒師を探さなければならないかもな。こいつの生命力? はゴキブリ以上にありそうだ。
「ま、取り敢えずさ。お礼を言っておこうと思ってな。
諏訪子からの提案、受け入れてくれてありがとう」
「ふ、此方からもありがたい提案だったからね。受けない方が可笑しいよ」
「それにまさか反対していた民衆を一気に賛同させるなんてな。民衆は皆『祟り神退治』と騒いでるらしいぞ」
「あんたらからすればあまり聞こえは良くないだろうね」
まあな、とだけ返しておれは木窓の方に目を向ける。
まるで諏訪子が悪者で、それを成敗するみたいでなんか嫌だった。
『不本意ですが同じ気持ちです。諏訪子様ははっきりいって祟り神であって祟り神ではないんです』
「やっぱり、なんだか複雑そうな顔をしてるね。判るよ、あんたらの思ってること」
「なんで判るんだ?」
「あんたと怨霊の態度さ。明らかに畏敬の念からくる信仰じゃない。特に怨霊の方は洩矢の神を家族を愛するような信仰心があるからね。洩矢の神は私らの思う祟り神とは違うんだろう」
神奈子の奴、ここまで判ってたのか。それほど判っていても、諏訪子を悪者にしないといけなかったのは、それほどの理由があってのことだろうな。特にそのことに関して文句は言うつもりはないけど。
それにしても翠の件といい、本当に油断ならない相手だ。話し合いになったら諏訪子ですら不利かもしれない。
「まあ、おれは友達としか思ってないけどな!」
「あんたはそんな感じだろうと思ってたよ」
おれじゃあ話し合いで情報をこれ以上引き出すことは無理そうだ。それならそれで、ここにいるのなら自分の立ち回りをしなければな。
「なあ、実は交渉成立ということでここで一杯やらないか? 良い酒を持ってきたんだ」
「お、良いのかい? 私は敵だってのに」
「大丈夫大丈夫、その敵の調理場からさっきささっと調達してきたからな。まあ神奈子が飲むならお供え物したってことでバレても大丈夫だろ?」
「はははは! それなら心配ないね! よしよし、久しぶりにパーっとやろうか」
くくく、これで神奈子を酔わせて情報を引き出すって作戦さ。
おれだって多少は飲めるんだ。神だろうが飲み比べじゃ負けないぞ!
その後、呆気なく酔い潰れたおれは、翌日二日酔いの状態で調理場の人からお怒りを受けました。
『よく五、六杯で酔い潰れるのに神に勝てると思いましたね。阿呆としか言いようがありません』
煩せぇ! 久しぶりに飲んだから要領忘れてただけだ!
生還記録の中で一番立っているキャラ
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熊口生斗
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ツクヨミ
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副総監
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翠
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天魔