______大和の国。
周辺地域の国々を支配下に置き、なおも侵略を進める軍事国家だ。
国の統一でもしたいのか、それともただの支配欲の強い神々が結託して遊んでいるだけの娯楽か。
そんなものはおれとしては関係ない。
その侵略の中で友人が傷つく事の方が重要だ。
「道義、ここって大和の国の中だよな」
「ああ、そうだ。もっとも、元はここも別の国であったのだが、神奈子様の素晴らしい軍配によりここも大和の支配下となっているのだがな」
辺りには田園が広がっており、所々に家が建っている程度である。
これでは諏訪子の国と何ら変わりない。
「そういえば神奈子様ってどこにいるんだ? やっぱり中心部とか?」
神と拝められているのであれば中心部にいても可笑しくないのだが、話を聞くところ神奈子は大和の国の尖兵だ。戦に先立ち、偵察・警戒を行うのが尖兵の役割であり、諏訪子の国を狙っているのであれば中心部にいない可能性がある。
そういうときのため、ていうかあとどれぐらい歩かされれば目的地に到着するのか聞きたい。
もう歩き疲れたし。地べたで寝ると全然疲れがとれないんだよなぁ。
「もう少し歩いた先だ。明朝には着くだろう」
「まだ歩くのかよ……」
「そう言うな。それでも大和の国でも端の方に居られるのだ。中心部なんぞへ行こうものならもう一月はかかるのだぞ」
ははは、酷い冗談だ。
1ヶ月って……なぁ? 馬鹿なんじゃないか。足パンパンなるだろそれ、足パンに。
ここの連中はそんなのを平気で歩いてのけたってのかよ。食料とかどうしてたんだろうな。
『1ヶ月ぐらいでへばるのは熊口さんと赤ん坊ぐらいです。まったく、出発初日のときにしても思いましたけど、熊口さんってほんとへたれで意気地無しですよね』
ここの連中が体力馬鹿なだけだろ、それ。
おれは脳筋じゃないからもっと効率的な移動の仕方を知ってるけどな。
『どんなです?』
空を飛ぶ。
『一般回答的に論外』
いいだろ、実際飛べるんだから。
「おい、生斗。話を聞いているのか」
「ん? ああすまん。翠が中で喚き散らしてたから聞こえなかったわ」
「そうか、女子というものは扱いづらい人種だからな。慎重にいなすのだぞ。さもなければ余計煩い」
「大丈夫、今は喚き散らして疲れたのか寝てるよ」
『わ、私は赤ん坊ですか!? 風評被害はやめてください!』
うるせぇ、お前の声無駄に頭に響くんだよ。普通に話してるだけで騒音になることを自覚しておくんだな。
『熊口さん、本気で呪ってもいいですか?』
「先の話を戻るが、今日は少し早いが休むことにしよう。明日は夜明け前に出発だ」
翠と話している最中に、今日はここで休むことが決定されていたようだ。
「ここの農民に一晩泊めてもらえるか話をつけてくる。生斗はこの辺りで休んでてくれ」
「わかった」
久しぶりの雨風が防げる所で寝られるのか。それは本当に助かる。
ここ最近ではずっと野宿だったからな。夜は寒いわ疲れはとれないわで散々な目に遭った。
そんな辛い過去を振り返りつつ、おれは道義を見送った。
ーーー
~翌朝~
太陽が顔を見せ、小鳥がさえずり始めた頃、おれと道義は神奈子のいる拠点へと来ていた。
「何者____これはこれは。道義様ではありませぬか。長旅ご苦労様です」
「長旅というほどではない。して、神奈子様は?」
「屋敷にてご瞑想されておいでです」
拠点となる村の出入口にいた門番と道義が話をつけたおかげで、すんなり中へと侵入することができた。
ここも諏訪子の国内に点在していた村とさほど変わりがない。
それでもその中に神が出向いているということは、ここは分屯地的な役割を担っているのかもしれないな。
「ここだけ大きいんだな」
「神の居わす場所だからな。それなりのものでなくてはなるまい」
門番が屋敷といってはいたが、ここだけは高床式の大きな建物であった。
ただ、他の高床式の建物と違うのは大きさ。3階建て程度にはある。
「神奈子様は瞑想中とのことだ。あの方が瞑想をしておられるときは如何なる理由があってもこの中へ入ってはならない」
先程門番と話していた事か。如何なる理由があっても、か。ということはここでおれは足止めを食らうってことになるのかよ。
「気が散るからか?」
「眠っているのがバレるからだ」
「へ?」
屋敷を前にして入れない。その理由が居眠りの邪魔になるからか……うん、叩き起こしたくなる衝動に駆られてきた。
「瞑想と言っていつも神奈子様は眠られる。このことは従者である我らの中では周知の事実であるのだが、何分神奈子様は体裁を重んじる御方でな。皆黙っておるのだ」
「へ、へぇ」
て、体裁を護るために、ねぇ。神奈子の従者の皆さんはなんとお優しいことで。そんな見栄に付き合ってあげるなんて。
「瞑想何て言わずにただ休むって言えばいいのにな」
「そうもいかんのだ。神といえば鎮座して瞑想してる姿が様になっていると言っておられてな」
「そこにも体裁ってか」
「神らしく形だけでもと威厳を見せようとしておられるのだ。そんなことをしなくても我らは神奈子様を畏敬の念を持って崇拝しているというのに」
形だけでも、か。確かに諏訪子は一見するとただの金髪幼女だしな。人間の形をしているのなら何かしら神らしい事をして下の者に威厳を見せたいのはわからないでもない。
『何言ってるんですか。諏訪子様は存在全てが神の威厳そのものなんです。熊口さんの目は腐敗しきっていて見極めることは出来ないでしょうがね』
はいはい、諏訪子信徒は静かにしましょうね。
「はあ、まさかそんなことで足止め食らうなんてな」
「すまん。代わりと言ってはなんだが、ここの食事でもご馳走しよう」
「食当りしそうで嫌なんだけど」
偏食家の1日の食事がどんなのかは少し気になるけど、それをおれの食生活まで持ち込んでくるのなら話は別だ。
特に下手物好きの奴はな。
「大丈夫だ。ここの調理担当の者が皆の配食用としているものだから私の趣向にあわせたものではない」
「お前今さらっと自分が下手物好きって認めたよな」
まあ飯が食えるのならありがたい。
この旅の間非常食の干肉とかしか食えなかったからな。 いい加減ちゃんとしたものを腹に入れたい。
ーーー
「道義くん。確か君は普通の料理がくるといったよね? ねぇなにこれ。粟にコオロギの足が沢山生えてるんだけど」
先程道義が言っていたこととは相反し、台の上には大量の下手物料理が並んでいる。
いや、まあ虫だって食べられないわけではないし? 実際食べたら意外といけるってこともあるかもしれない。
「これはどういうことだ」
「も、申し訳御座いません。先程戻られたと聞き及び、旅の労いに道義様の好物でもと思いまして……」
逆におれは早恵ちゃんのあの劇物と下手物料理を同一視していたのかもしれない。
見た目が悪いものは全て不味いと。
そう、見た目が悪いだけで味はもしかしたら良いのかもしれない。ここの住人だって進んで不味いものを食べようとする者はそうはいないだろう。
考えるな、感じろ。視覚ではない、味覚と嗅覚を研ぎ澄ませろ。
これは食えないものではない、これは食えないものではない。これは! 食えないものでは! ない!
『うわ~、不味そう』
うるせぇ! 折角食べれそうだったのに横槍入れるんじゃない!
「生斗、無理しなくても良いぞ。すぐに他のものを作らせる」
食べる決意をしようとしたそのとき、道義からの助け船が来る。
だが道義よ。それは泥船だ。乗ったが最後、水溶けて溺れるのは必然。
何故なら、この食堂らしき部屋には大和の国の奴らが沢山いる。
そんな中無事に飯を食わせてもらっているのもおれが洩矢の使者としてここへ来たからだ。そんなおれがこのご時世に食わず嫌いをするなんて洩矢の国の沽券に関わるかもしれない。
ここは嫌がる素振りを見せず、かもこれがなんと美味なるものであるかのように振る舞わなければ。
……いや、この料理を美味そうに食べたらそれこそ沽券に関わる問題になるかもしれないが。
「道義、おれは食べるぞ」
「生斗……!」
食べるしかないのだ。
おれの前に並ぶミミズっぽい生物の炒め物や、コオロギみたいな昆虫の盛り合わせ。どの動物かわからない黄色い臓器。
これまで口にしたことない料理がおれの前にある。見事なまでに下手物のオンパレードだ。ましだと思えるやつが一つもない。
「お、お主の口には合わぬかもしれないが、この蟋蟀の塩焼はどうか? カリっとした食感がくせになるやもしれん」
「お、おう」
確かに、まんまコオロギの形をしてはいるが、ほのかに焦げ後と塩の香りがする。
これなら、目を瞑っていればいけるかもしれない。
「あーあーあー、道義あんたまた趣味悪いもん食ってるね」
焼きコオロギをつまみ、目前にて奮闘していると後ろから麗しい女性の声が聞こえてくる。
「あんたらも客人きてんのになんでこんなもんだしてんだい。うちの評判が下がったらどうすんのさ」
「ひ、ひぃぃ!? 申し訳御座いません!!」
後ろから聞こえる料理人の怯えた声。
いったい誰なのかと後ろを向いたその先には___
「えっ、え~。重くないの? それ」
成人男性程の巨大な輪っかのしめ縄を背負った女性が、堂々と出入り口に佇んでいた。
生還記録の中で一番立っているキャラ
-
熊口生斗
-
ツクヨミ
-
副総監
-
翠
-
天魔